農産物貿易論

食品安全・品質
特論 I
食品の安全
食中毒による患者数各国比較
患者数
アメリカ
フランス
イギリス
豪州
日本
7,600万人
75万
172万
540万
2万4,302
入院者数
32万5,000
11万3,000
2万1,997
1万8,000
NA
死亡者数
5,000
400
687
120
4
資料 アメリカ: Food related Illness in the United States, CDC
フランス: Morbidite et mortalite dues aux maladies infectieuses d’origine
alimentaire en France, Institut de Velle Sanitaire
イギリス: Adakらによる05年調査(イングランド及びウエールズ)
オーストラリア: Food born Illness in Australia, Oz FoodNet
日本:
食中毒統計、厚生労働省
食品安全
食品危害
人間が作ったリスク
18世紀以前は食品は本来安全なもの
ただ、腐敗による危険はあった
食品安全法(19世紀初頭から制定)に対する違反
Adulteration(混ぜ物)、 Misbranding(誤表示)
消費者からみた食品のリスクの特徴
・代替食品があるので、少しでもリスクがあれば避ける
・自分の体内に入るものだけに、相性、アイデンティティ
、素性を知らないと不安になる(マリオン・ネスレ)
(安心の重要性)
各国の食品衛生制度の根本的改正
BSEの発生を契機に消費者の不安と食品安全行政への不信
2000年前後に食品安全政策の抜本的改正
EU
BSEの発生 1986年
BSEと変異型クロイツヘルトヤコブ病と関係を英国政府認める。1996年
2001年EUの食品衛生に関する基本事項の規則。
日本
BSEの発生 2001年9月(EUの警告を無視していた)
2003年 食品安全基本法
食品衛生法等関連法律の改正
牛肉の全頭検査 牛肉トレーサビリティ法成立
アメリカ
1990年代中ごろから食品安全対策強化
2001年9月のテロ攻撃を契機として2002年バイオテロリズム法が成立
2003年12月BSEの発生、21世紀初頭食中毒の多発
2010食品安全近代化法
食品安全政策の見直しによる安全政策の基本
■ リスク分析手法の導入
(安全措置は、リスク評価による科学的根拠に基づか
なければならない)
リスク評価 Risk Assessment
リスク管理 Risk Management
リスクミュニケーション Risk Communication
■ リスク評価機関とリスク管理機関の分離(日本、EU)
食品安全委員会 欧州食品安全庁
■ 農場から食卓までの全過程での安全管理
From Farm to Table
生産・流通過程の管理の重要性(最終製品のチェックだけでは
不十分)
■
リスク分析手法の問題点
科学的根拠が不明確な場合どうするか。
(科学的根拠は変化する。科学者によって異なる場合もある。)
保護の程度はどう決めるのか。
・
信頼性の問題点(安心の思想)
消費者は安心なものでないと買わない。
安心とは何か
・安全措置をとる場合科学的証拠のほか消費者の懸念、食習慣、
食文化等のその他の要素を考慮できるか。
(いわゆるLegitimate factorsをどうするか。)
・食品安全にとって真に必要なのか。
安心とは何か。どの程度まで確保すべきか。
予防原則(Precautionary Principle)
リスク評価によって食品安全危害が予想される場合、科学的拠に不確実性があっても
臨時的に予防措置がとれることを原則とする。
 しかし、この原則を認めると貿易障害になるとの恐れがある
国際的な議論
最初は、環境問題でこの原則が形成されてきた。
1992年 国連環境開発会議(リオデジャネイロ)
1992年 欧州連合に関するマーストリヒト条約
2000年 バイオセイフティに関するカルタヘナ条約
E U
2002年の食品安全に関する基本事項規則で規定
 しかし、牛ホルモンに関するWTO係争でアメリカに敗訴
GMO認可中断についてWTO係争で敗訴
日 本
アメリカ
予防原則を認めているかどうか法律上不明確
、予防原則は認められない。科学的根拠のない予防措置はごく
例外的 にしか認められない。
トレーサビリティ
■ 定義
生産から流通の全ての段階において取引の記録を残し、問題が発生した場にその
因がどこで発生したかを追跡できるようにすること。
■ 導入の経緯
フランスでは1935年のAOC法(統制原産地呼称法)で不正表示を防止するため導
された。
有機農産物等品質証明制度にも何らかのトレーサビリティが導入された。
■ 狂牛病対策
1997年フランスで牛肉のトレーサビリティが導入
2000年EUで牛肉のトレーサビリティの導入
■ 全品目への適用
2002年EU食品安全法で全飼料及び食品について義務付け
2003年日本で牛肉に関するトレーサビリティ法成立
その他食品については民間で自主的に実施されるべきものとされた。
■ アメリカの考え方
食品安全にとって必要でないとしている。
しかし、バイオテロリズム法によって2005年からトレーサビリティを全品目に義務付
けた。
各国の食品安全制度の特徴
E U
広範な食品安全措置による高度の食品安全の達成
・予防原則の導入
・食品安全措置をとる場合、リスク評価以外に社会的、文化的、歴史的要素を考慮できる
(消費者の信頼が必要)。
・トレーサビリティ等リスク分析手法に基づかない措置も食品安全の基本的事項として導入
日 本
食品安全措置と安心の措置の分離
・食品安全措置はリスク評価に基づかなければならない。
・予防原則については不明確
・食品安全措置をとる場合、リスク評価以外に社会的、文化的、歴史的要素を考慮できる。
・トレーサビリティ等リスク分析によらないものは法律上の義務としない。
アメリカ
リスク評価に基づく科学的根拠がない食品安全措置はとってはならない。
・予防原則は認めない。
・食品安全措置をとる場合社会的、文化的、歴史的要素を考慮してはならない。
・トレーサビリティ等の措置は食品安全にとって必要ない。
(出来上がった最終製品のチェックで食品安全は確保できる)
日本及びEUの食品安全の特徴
従来の手法のみでは消費者の信頼をえられる食品安全は達成できない。
従来の手法  市場に出される直前の最終製品の安全性のチェック
生産・流通過程やその方法を問わない。
どのように生産されたか、どこで生産されたかを知らないと消費者は安心できない。
生産や流通過程を管理し、確認する新たな食品安全手法が必要になってきた。
トレーサビリティ、適正農業規範、GMO表示(どのような手法で生産されたかの表示)
原産地表示制度、特定JAS、ヨーロッパの品質証明制度、HACCPなど
EUは、この新しい手法を食品安全措置として多くのものを法律上の義務としている。
日本では多くは民間で自主的に行われるべきものとの位置づけとなっている。
これらが食品安全措置と区別されて安心のための措置となっている。
厚生労働省管轄か農水省管轄かで区分されたのか。
アメリカはこのようなリスク分析手法に基づかない措置は食品安全上基本的には必要
いとしている。
食品安全措置
・リスク分析手法
・添加物規制 Food additives
・予防原則
・残留農薬規制 Pesticide residue
・トレーサビリティ
・有害物質規制 Contaminants
・表示規制 Labelling
・HACCP承認
・輸入食品検査 Import inspection
・GMO規制
・BSE対策
・検査・回収 Inspection, Recall
農薬規制
農薬の登録と残留基準の設定
農薬が有効であるか等を審査し許可をする。それと同時に人体に
影響のない程度の食品への残留基準を定める。
残留基準限度(Maximum residue limit)を超えた食品の流通は禁止される。
日本の制度
食品安全制度の改変が行われる以前は、登録された農薬の全てについて残留基
準が定められていなかった。残留基準が定められていない農薬についての食品
の流通は自由であった。(ネガティブリスト制)
2003年の食品衛生法改正によって残留基準が定められていない農薬が残留し
ている食品の流通が禁止されることになった。(ポジティブリスト制)
世界的に認められている農薬のほとんどについて残留基準を定めないと貿易障
害になることになる。
2006年までに約800の農薬について暫定的残留基準を作成した。
EUの制度
1991年以来1000以上の農薬についてリスク評価が行われ、EU
としての統一ポジティブリストの作成作業が行われてきた。
・加盟国は統一ポジティブリストに登録された農薬しか許可できない。
・類似の気候条件の国で許可されれば、その国においても
自動的に許可となる。
2008年9月1日から 残留基準について新規則が施行された。
EUとしての統一的な残留基準を設定
MRL設定農薬約1,100, 対象農産物 315, 加工品にも適用
2004年の食品安全パッケージ規則
・農業者は農薬散布の記録をつけなければならない。また、
・農薬散布前に近隣に知らせなければならない。
アメリカの制度
連邦での農薬登録後その州で販売するにはその州の登録を受け
なければならない。
1996年の食品品質保護法によって大幅に改正された。
残留許容水準は
危害と便益の比較の基準 から人の健康に対するリスク評価
に変更
発がん性物質の加工食品におけるゼロ基準(デラニー条項)
を廃止
総合暴露量(散布時、飲料水、芝生などからの量を含める)を
考慮する。
子供には10倍の安全率をみる。
1996年以前に設定した残留許容水準は2006年までに見直す。
日本の食品添加物規制
Legal status of food additives
categories of food additives
・Designated food additives, 325 as of 2005
指定添加物
・Existing food additives, 489
既存添加物
・Natural Flavoring
天然香料
・Food additives of usual food and Beverages
flour for filtration, juice for coloring
日本の食品添加物規制
Labelling standards for food additives
Declaration of substance name
Declaration by using category name
antioxidant, antimolding, preservatives
Natural flavoring
Substance generally provided as safe
Exemption for labelling
Processing aid
加工助剤
carry over
Food additives for dietary supplements
食品等の輸入届出件数及び輸入量の推移
19975~2000年
厚生労働省資料
検査(inspection)割合
検査割合は、1989年の18.1%をピークに年々減少し、2004
年では10.5%に減少している。
検査制度の変遷
海外からの要請による検査の迅速化と簡素化
1982年 外国の公的機関の検査結果の受け入れ
1982年 継続輸入制度
1985年 計画輸入制度
検査の効率化
1995年 命令検査とモニタリング検査の導入
輸入禁止措置の強化
2003年 包括的輸入禁止制度
2003年 特殊な方法により摂取する食品の暫定的流通禁止
2006年 農薬残留のポジティブリスト制
日本の体制
日本
・ 水際検査への過度の依存
・ 膨大な輸入届出件数の輸入を輸入検査ではチェックできない。
EUの体制
EU
◆ EUと同等あるいはそれ以上の衛生制度があることと基本法に明記
◆ HACCPが適用されたものでなければ輸入しない。
◆ 輸出できる国をEUに登録する。
◆ 畜産物と水産物についてはEUに登録された施設出なければ輸出できない。
◆ 必要に応じて海外施設を検査する。
◆ 問題のある輸出国との積極的な協議と支援
アメリカ
◆アメリカの体制
輸出する施設はFDAに登録しなければならない。
◆ アメリカでHACCPが強制適用になっている品目については輸出国において
もHACCPが適用されていなければならない。
◆ 食肉については農務省が適宜輸出施設を検査する。
◆ 問題のある国との積極的な協議
・ 食品安全近代化法による抜本的な輸入食品安全対策の強化
アメリカの食品安全近代化法 2010年
Food safety modernization act
輸入食品の安全対策の強化
・海外輸出施設の危害分析と予防措置の実施
・海外供給業者確認計画
輸入業者が確認する。計画に参加しないと輸入できない
・輸入食品の安全証明
食品危害の恐れがある品目
・海外施設の検査の強化
6年後には10,000の海外施設が検査対象
・任意事業者輸入計画
この迅速輸入検査に参加できる輸出施設はアメリカから認定されなければならない
・FDAの海外事務所の設置
HACCP
宇宙飛行士の食事開発の中で生まれた安全確保の手法
★ NASA ピルスベリ
危害の原因を分析し、それを防止するための重要管理点を特定し、この管理点
を重点管理することによって、製造される食品の安全性を確保する手法。
Hazard Analysis and Critical Control Point
1980年代の0-157やサルモネラ菌中毒の発生などで注目された。
アメリカ
1995年以来、水産物、食肉、果実・野菜ジュースについて法律上の義務
日本
1995年の食品衛生法の改正で事業者からの申請に基づき、厚生労働省が承認
する(任意の制度)。
対象: 乳、乳製品、食肉製品、容器包装加圧加熱殺菌食品、清涼飲料水
EU
1993年、食品安全に関する理事会指令によってHACCPの原則の適用を全業
種に義務付けた。2004年の包括安全規則によっても義務が確認されている。
狂牛病
EUでの経緯 80万~100万頭感染
86年 イギリスで初めて確認。
88年 反すう動物への肉骨粉の使用が禁止。余った肉骨粉は
1995年まで輸出された。
89年 感染の危険のある脳、脊髄などの特定の臓器の食用の
禁止措置導入
90年 特定臓器を動物の飼料に使用することの禁止
95年 脊髄など特定部位が含まれる恐れのある機械回収肉の
利用の禁止
96年 イギリス政府はBSEと人のvCJD(新変異型クロイツフェ
ルトヤコブ病)との関連性を公式に認めた。
00年 トレーサビリティ法の実施
日本での経過
90年
90年
96年
擬似患畜を含め33
汚染国からの生きた牛の輸入停止、肉骨粉の加熱処理の義務づけ等の導入
30ヶ月齢を超える牛のと畜場での検査
WHOの勧告に基づき肉骨粉の使用禁止について行政指導を行ったが、法的
禁止措置はとらなかった。
00年
EU日本が汚染されている可能性を警告、
01年
EUでの評価中止要請、アクティブサーベイランスの実施、狂牛病の確認
(千葉県)
01年
BSE対策の実施と畜場における牛の全頭BSE検査、特定危険部位(SRM)
の除去
肉骨粉の反芻動物への給餌の禁止
03から04年 牛肉トレーサビリティ法の実施
03年
12月アメリカでのBSE確認 アメリカからの輸入停止
04年
食品安全委員会に全頭検査の緩和について諮問
05年
同委員会20ヶ月齢以下の牛については検査をしなくてもBSEリスクは同等で
あるとの結論をだす
05年12月 アメリカからの牛肉輸入再開
06年1月 特定危険部位の背骨が混入、輸入禁止
06年7月 輸入再開
狂牛病からの教訓
科学的根拠が不明確かあるいは明らかになるまで時間がかかること
検査は全頭か20ヶ月齢以上か30ヶ月齢以上か、全く必要ないのか
感染源と経路が特定できない。
科学的根拠による措置と消費者が納得する措置とには乖離がある。また国に
よって異なること。リスク評価以外に社会的、文化的歴史的要素が関係する問
題
日本では依然として多くの県で全頭検査を実施している。
アメリカは検査の科学的根拠はないとしている。
リスクコミュニケーションは容易でないこと
政府がいくら安全だと説明しても消費者は納得せず、意見の違いがかえって
大きくなること
貿易摩擦も容易には解決できないこと
科学的根拠に乖離があること。消費者を納得させる措置が国によって異なる
こと
GMO
GMO開発技術の特徴
◆ 開発に経費がかかるため、アメリカ、ヨーロッパの大手企業
のみで開発が行われている。緑の革命とは異なる。
◆ 先進国の大農場の生産性を向上する技術に集中している。
理由は開発費をカバーしなければならない。
◆ 開発された技術が除草剤耐性、害虫又はウイルス抵抗性な
どに集中している。
GMO栽培の特徴
現在のところGMO作物を栽培している国が限定されている。
かつ、アメリカが圧倒的シェアを有している。
遺伝子組み換え作物の栽培状況 (2006年)
国
栽培面積
栽培作物
百万ha
アメリカ
54.6
大豆、トウモロコシ、綿花、菜種、パパイヤ
スクウオッシュ、アルファルファ
アルゼンチン 18.0
大豆、トウモロコシ、綿花
ブラジル
大豆、綿花
11.5
菜種、トウモロコシ、大豆
インド
6.1
3.8
中国
3.5
綿花
パラグワイ
2.0
1.4
大豆
カナダ
南アフリカ
綿花
トウモロコシ、綿花、大豆
遺伝子組み換え作物栽培面積の推移
単位:万ha
1996
2000
2005
2008
総面積
大豆
50 2,580
5,440 6,580 9,500
トウモロ
コシ
綿花
30
1,030
2,120 3,730 15,700
80
530
980
1,550 3,400
菜種
10
280
460
590 3,000
甜菜
0
0
0
30
10
10
10
20
その他
日本の表示制度
■ 表示義務対象農産物
大豆、トウモロコシ、じゃがいも、ナタネ、綿実、アルファルファ、ビート
■ 表示義務対象加工産品
これら7品目の加工品でGMO物質が検出される可能性のあるものが義務表示の対象品目に
なる。
大
豆
豆腐、凍豆腐、おから、ゆば、納豆、豆乳、みそ、大豆煮豆、きな粉、
大豆炒り豆 など
トウモロコシ
コーンスナック菓子、コーンスターチ、ポップコーン、冷凍トウモロコシ、
トウモロコシ缶詰など
バレイショ
ポテトスナック菓子など
アルファルファ 加工品
ビート
加工品
なお、義務表示が必要なのは、以上の加工品中の重量が上位3番以内で、総重量の5%以上の
原材料についてであり、これら以外のわずかに含まれる原材料は表示義務を免除されている。
■ 表示義務免除産品
GMOが除去され、あるいは分解している醤油、大豆油、コーン油、コーンフレークなど
★ 例外が多く、表示されていないもので、実質的にGMOが消費されている。輸入農産物に依存
している以上やむを得ないのか。
EUの表示
全品目について表示する必要がある。
さらに0.9%以上GMOが含まれていれば全品目、全過程でト
レーサビリティ義務
★ 厳格すぎるきらいがあり、実質的にGMOの流通を禁止する効
果を持っているのではないか。
アメリカの表示義務
生産過程を問わないというアメリカの基本原則に則り、また、
GMO食品は実質的に従来のものと変わらないという理由で、
表示する必要はないとしている。
★ 消費者の選択の権利を奪っているのではないか
表示すれば売れないので、バイテク技術と産業を推進するた
め表示を義務付けていないのではないかとの批判がある。
SPS協定
1994年ウルグアイラウンドの一環として合意された。
基本原則
科学の原則に基づかなければならない。
差別があってはならない。
偽装であってはならない。
そのため、
リスク評価: 国際的に認められた方法でのリスク評価に基づかなければ
ならない(第5条1項)。
必要性の原則: 必要以上に貿易制限的であってはならない(第5条4項、
6項)。他の代替措置がないか。
均衡の原則と同じか。
整合性の原則: 同じような事項でとられている他の措置と不整合で
あってはならない(第5条5項)。
予防措置:
措置を設定するとき、科学的根拠が不十分である場合は、
国際機関あるいは他の加盟国からの情報によって、暫定的
に定めることができる。
食品安全
食品安全に関する措置はGATTの自由貿易原則の例外である。
偽装であってはならない。
差別的であってはならない。
国家の権限
食品の安全性
リスク分析法
食品の信頼性
(安心)
トレーサビリティ
表示と透明性
(GM表示、原産国表示など)
生産管理と認証
(GAPなど)
科学の原則の貫徹
SPS協定
(TBT協定)
科学の原則
均衡の原則
国際調和
加盟国は自国の措置を国際的な規格、基準又は勧告に基づくものに
しな ければならない。
 コーデックス委員会、国際獣疫事務局、国際植物防疫条約等に
よる規格
ただし、加盟国は、科学的な根拠がある場合は、国際的な規格、基準等
より厳しい措置を導入することができる。
(2)紛争処理
WTOに強い権限を付与(94年から)、WTOの司法化
ネガティブコンセンサス方式: パネル及び上級委員会の報告
すべての国が反対しなければ報告が採択される(当事国も参加できる)。
パネルの委員 3人、上級委員会の委員 7人
審理の期間 パネル:原則6ヶ月、最大9ヶ月、
上級委員会:原則60日、最大90日
(3)最近の傾向
あまり厳しく適用すると(経済原則の重視)かえって紛争を悪化する恐れ
あり。
結論を守らない国が出る。紛争処理の意味がなくなる。
最近、適用基準を緩和する上級委員会報告(ホルモン牛肉事件)
紛争処理手続きの改正の意見
アメリカの敗訴が多い。EUと日本改正に反対
WTO体制下での国際調和の限界
■ 科学的根拠が不明確である場合は、措置が違反となる。
■ 措置の内容が社会的、文化的な要素を考慮したも
のである場合は違反となる。
★ 以上から輸出国にとって有利な協定といわざるを得ない。
★ 厳格に適用すると国際紛争をかえって増幅するおそれがある。
食品の品質
食品の品質政策
食品の品質についての定義は存在しない
国や社会によっても、時代によっても異なる
ある社会において一定の共通の概念はあるものの主観的
従来は、品質は市場によって決まるものであり、行政が介入すべき
ものでないとされた。
行政が介入するのは食品安全と栄養改善のみ
近年は、消費者が求める品質は多彩で政策も変化
Qualite negative からQualite positive へ
最近の消費者の知る権利の尊重
誰が作ったのか、どのように作られたのか、産地はなども重視
フランスにおける食品の品質の定義
食品の品質は社会的に形成されるもので主観的なもの
安全、栄養的価値、新鮮さ、おいしさ、環境等社会的価値などに関係する
・一般的品質
general quality
安全や栄養水準など
・特別の品質
Specific quality
他の食品と区別される特別の品質(差別化された品質)
有機食品、原産地呼称、ラベルルージュなど
・社会的品質
Social quality
環境、生物多様性、持続可能農業、動物福祉、景観、労働条
件などに配慮した食品
GAP,Fair trade,Carbon foot print
消費者の食品の品質に対する関心の変化
Negative qualityからPositive quality へ
Negative quality
食料が十分でない時代は、安全面や栄養面で問題がないことが重視
された
Positive quality
食料が十分供給され、豊かになると食品への選択の幅が広くなり、
食品に対してより積極的な価値を求めるようになる。
有機食品、環境保護に配慮した食品、文化・伝統あるいは地域に
関連した食品、動物福祉に配慮した食品、
Carbon foot print、food milegeも
Positive quality は、最終製品のチェックでは分からず、生産
過程の管理によって達成される。
日本の食品品質政策
粗悪品の排除
JAS食品規格(戦中の政府調達物資の規格)1950
食品の品質証明
特定JAS1993~、有機農産物規格2000
消費者の保護(適切な情報の提供) 1969(JAS法改正)~
品質表示基準(JAS法)
原産地表示1996~
GMO表示
食品流通における原材料表示義務
品質規格の国際調和と貿易の促進
Codex食品規格と一般原則の受け入れ、
食品の表示
基本: 真実であること、誤認を招かないこと、他を誹謗しないこと、誇張しす
ぎないこと
JAS法
原産地(国)表示
賞味期限、消費期限等
生鮮及び加工食品
加工食品
Best before date, Use by date
原材料表示
GMO表示
加工食品
生鮮及び加工食品
食品衛生法
アレルギー表示
添加物表示
加工食品
加工食品
健康増進法
栄養表示(強調表示) 任意 加工食品
健康表示(強調表示) 任意 加工食品
原産国(地)義務表示
Labelling of country of origin
目的: 消費者の選択に資する情報の提供
背後には特定の国からの輸入制限の目的も
カナダ、メキシコは アメリカに対しWTO提訴
経過:
日本が制度を発展させ現在世界標準になりつ
つある
日本 1996
韓国 1994
アメリカ 2004
オーストラリア 2006
EU 2013 ?
問題点: 貿易を制限する効果がある。
加工食品の原料の原産国表示をどこまで義務化するか
原産国の決め方に違いや異論がある。
事業者にとってコスト増となる
健康表示 Health labelling, health claim
基本原則
食品には健康との関連を表示してはならない
例外
一定の基準に従ったものあるいは認可を受けたものは健康との関連を
表示できる。
日本: 特定保健用食品(認可制)
栄養機能食品 (基準に従ったもの)
「健康食品」、「補助食品」、「サプルメント」などの法的定義はない
制度設計が難しく消費者に誤解を招かないようにする規制が大きな課題
日本の健康表示 2001年導入
Medicinal Food with health claims Ordinary
drugs
food
医薬品
食品
FOSHU 特定保健用食品
(Food for specified health use)
Pre-market approval
Nutrition functional food
栄養機能食品
Obligation of respecting
the established standard
Including various
health foods
特定保健用食品
からだの生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血圧、
血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整える
のに役立つなどの特定の保健の用途に資する旨を表示するもの
2005年の改正
Qualified FOSHU
Standardized FOSHU
栄養機能食品
栄養素(ビタミン・ミネラル)の補給のために利用される食品で、栄養素の機能を表示するもの
Minerals:
Vitamin:
Zink, Calcium, Iron, Copper, Magnesium
Niacin, Pantothenic acid, Biotin, Vitamin A, Vitamin B1, Vitamin B2, Vitamin B6
, Vitamin B12, Vitamin C, Vitamin D, Vitamin E, Folic acid
特別用途食品
病者用、乳児用、妊産婦用などの特別の用途に適する旨の表示をする食品
品質証明産品
産品の差別化の一種、事業者が内容を消費者に提案する。それ
を第3者が証明する。追加的費用は産品の価格に転嫁されている。
ヨーロッパ
地理的表示 (保護原産地呼称、保護地理的表示)
伝統的特性証明
有機食品(農業)
フランス
以上に加え、ラベルルージュ(農業ラベル)、山岳地域産品、
日本
有機食品、JAS規格のうち特定JAS (熟成ハムなど)
地理的表示制度は導入していない
アメリカ
有機食品、地理的表示(商標法で対応、品質証明機能がない)
地理的表示 Geographical Indication
思想: 農産物の特質は、産地に由来するという思想を知的所有権
化したもの
グルイエール、コンテ、ゴルゴンゾーラ、ロックフォール、
ロマネ・コンティ、シャンベルタン、シャンパーニュ、シャブリ
定義: ある産品に関し、その確立した品質、社会的評価、その他の
特性が当該産品の地理的原産地に主として帰せられる場合
において当該産品が加盟国の領域内の地域若しくは地方
を原産地とするものであることを特定する表示を言う。
(WTO TRIPS協定による定義 1994)
目的: ① 食品の多様性に維持と品質の向上、②国際競争力の強化
③付加価値の向上による農業所得の増大、③ 地域経済の
維持と発展
地理的表示続き
1919年フランス原産地呼称
1935年フランスAOC法
1992年EC地理的表示保護
規則
アメリカ、オーストラリア等はAOC
等は貿易障害になるとして国際保
護に反対
(加盟国の制度の統一化と対外窓
口の一本化)
1994年TRIPS協定(知的収
有権の貿易関連の側面に関
する協定)
(130カ国以上が認める知的所有
権となる)
2008年80カ国以上が地理的
表示制度導入
EUは農業補助金の削減を補う制
度として国際的認知についてUR
で努力
アメリカはURの農業合意を得るた
めEUに妥協
地理的表示続き
TRIPS協定による保護義務
対立点
・チーズ等については、
「アメリカ産ロックフォール」などは消費者
を誤認させないので許される
・ワインと蒸留酒については、
消費者を誤認させないとしても、「ブル
ドー風」なども禁止される
・一般名称になっている産品は保護され
ない (誰でも使える)。
TRIPS協定で認められる各国の法制度
・独自の法制度で保護
(EU、中国、韓国、アセアン諸国等)
・商標法で商標として保護
(アメリカ、豪州、ニュージーランド等)
EU等はチーズ等についてもワイ
ン並の高い保護の適用を主張
二国間合意でほぼ解決
一般名称の理解の違い
パルメザン、シャンペーンなど
EUは独自の制度を推奨
アメリカ等は商標を主張
両制度では地理的表示の内容に
大きな違いがあるので、国際登録
(国際的認知)が現在、不可能
地理的表示続き
地理的表示をめぐる国際的対立は、基本的には食品についての概念
の違いを反映している
EU諸国: 食品の品質は地域に基づいており、多様であるべきで、画
一的なものであってはならない。
アメリカ等: 地域性を排除し、大量生産で、世界中どこでも同じ味を
実現し、合理的な価格で食品を供給する。
マクドナルド、ケンタッキー、コカ・コーラなど
現在の対立の状況
EU: FTAなどのバイの協定でEUの主張を実現する努力
例、EU・韓国自由貿易協定、日・EU自由貿易協定
アメリカ等: TPPなどでEUの動きをけん制(EUの主張のブロック)
日本: 日・EU自由貿易協定の事前協議を前にして、地理的表示の法
制化を検討
食品の社会的品質
定義:消費者や社会が重要と思う社会的な価値を食品の品質に反
映させるもの
二つ理念
・事業者の責任(社会的責任)として実現し、付加価値を求めるも
のではないという考え方・・必要な追加費用は価格に反映させる
・消費者に評価される価値の提案(差別化)によって産品の付加
価値を高めるという考え方・・必要な追加費用以上に高価格を実現する
可能性
普及の特徴
現在までのところ民間主導で行われており、政府あるいは法制度
がどこまで介入すべきか模索中, 一部財政資金で支援(EU)
食品の社会的品質の制度
対象となる社会的価値
環境保護、自然資源保護、持続可能農業、生物多様性、動物
福祉、景観維持、労働者福祉(児童労働の防止)など
制度
・有機農業 organic farming
・総合農業・合理農業 Integrated agriculture, agriculture raisonee
・グローバルGAP Global GAP
・GAP Good agricultural practices
・フェアートレード Fair trade
・カーボンフットプリント
・British Retailer Consortium Global Standard
・International Food Standard、IFS
・Safe Quality Food:SQF
・各種ISO (22000シリーズ)
Global GAP
経緯
・西ヨーロッパ大手小売業連合による青果物等に関する基準認証制度
・97年からEurep GAP,07年にGlobal GAP
・ 約40大手小売業参加
Tesco, Marks Spencers, Eroski, Metro, Migros, Sainsbury など
内容
・食品安全、環境保全、動物福祉、労働者福祉などに関する生産基準を定め、サプ
ライヤーに参加(適用)要請(適用しないと購入しない)
・第3者認証を行う
・ロゴマークは消費者への販売時点では貼付しない
(産品の差別化というよりは、事業者の義務との捉え方か)
普及度
・イギリス、オランダの大手小売業の販売する青果物のほとんどがGAP適用になっ
ている
・輸出開発途上国もGAPを採用する国が多くなっている。
Global GAP 続き
問題点
・追加コストの負担は、力の弱い農業者に押しつけられるので
はないか。
・輸出開発途上国にとっては貿易障害になるとして問題提起
がなされている。
WTO、SPS委員会及びCodexでの議論
・アメリカでは独禁法違反ではないかとの議論