ペンシルバニア大学 バトラー後藤裕子 今日のポイント 外国人児童生徒教育は、 学校だけに抱えさせてはいけない 家庭やコミュニティーとどう連携するか 外国人児童生徒担当の教員(ESL教員、JSL教員、国際 教室担当教員など)だけに抱えさせてはいけない 担任、専科教員その他の教員ととう連携するか 教員養成の問題 外国人児童生徒だけを対象した支援にとどめてはいけな い 日本人児童生徒もどのようにとり込むか 同時に、外国人児童生徒にとって大切な特別支援にも注意 アメリカにおける 外国人児童生徒教育の背景 言語マイノリティー 言語マイノリティー 家庭内で英語以外の言語を話す人たち 17.9% (4700万人) 2000 年 継承言語として英語以外の言語も話している人 (Heritage Language speakers)も含む 英語以外の言語を家庭で話している 児童・生徒(5-17歳)の英語を話す力 該当数(人) 0 2,000,000 4,000,000 6,000,000 8,000,000 10,000,000 12,000,000 1990 大変うまく話せる まあまあ あまり 2000 全く話せない Crawford (2002)をもとに作成 英語学習者 LEP (Limited English Proficient) 生徒、FEP (Students with Fully English Proficient)生徒 英語学習者 (English Language Learners (ELL), English Learners (EL) アメリカの英語学習児童生徒 就学している幼稚園から高校3年までの児童生徒 総数47,665,487人のうち、約10%が英語学習者 1990年から10年の間の伸び率は、全体では 12%。一方、英語学習者の伸びは105% アメリカ全土の英語学習者の3分の1は、カリ フォルニアに在住。カリフォルニアでは、小学 生の47%が英語学習者 79%がスペイン語 話者 2000 年では、英語学習者の44%が、幼稚園から 3年生までの間の年少の児童 半数以上の英語学習者はアメリカ生まれ 渡米3年以内は この内の42% 渡米3年以内は この内の52% Source: UC Census Bureau, 2000 英語話者の家庭状況(貧困率%) 0 10 20 30 40 50 60 70 移民の子ども全体 LEP(英語学習者) FEP(英語履修者) 非移民の子ども全体 ヒスパニック系以外の黒人 ヒスパニック系以外の白人 幼稚園から5年生 6年生から12年生 Capps, et al. (2005, p. 24-25) をもとに作成 保護者の学歴(高卒以下、中卒以下の割合) 0 10 20 30 40 50 移民の保護者全体 高卒以下 移民の保護者全体 中卒以下 LEP生徒の保護者 高卒以下 LEP生徒の保護者 中卒以下 FEP生徒の保護者 高卒以下 FEP生徒の保護者 中卒以下 非移民の保護者全体 高卒以下 非移民の保護者全体 中卒以下 幼稚園から5年生 6年生から12年生 Capps, et al. (2005, p. 26) をもとに作成 60 幼稚園入園時の認知スキルテストの結果 上位50% 以上の子どもの割合(%) 60 50 40 英語母語者 英語学習者 30 20 10 0 言語 数的処理 一般知識 1998年のECLSをもとに作成 学力テストの得点差 (カリフォルニアSAT9のケース) 3つのグループの4年間にわたる英語読解の成績 750 700 650 英語母語話者 英語履修者・英語学習者 グループ3 600 グループ2 550 グループ1 500 2 3 4 5 5 6 7 8 8 9 10 11 Gándara et al. (2003, p. 5) を参考に作成 ヒスパニック系の高校卒業以前の中退率 40 35 25 全体平均 ヒスパニック系以外白人 ヒスパニック系以外黒人 ヒスパニック 20 15 10 5 0 19 72 19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 退学率(%) 30 Child Trend Data Bank (2006) をもとに作成 中退する確率と社会資本 0.5 中退する確率 0.4 非移民白人 非移民黒人 メキシコ系2世 メキシコ系在米6年以上 メキシコ系在米6年以下 0.3 0.2 0.1 0 社会資本低 社会資本高 社会経済状況低 社会資本低 社会資本高 社会経済状況高 White & Kaufman (1997)をもとに作成 1. 外国人児童生徒教育は、 学校だけに抱えさせてはいけな い 家庭やコミュニティーとの連携 フィラデルフィア市の コミュニティー・ミーティングで 言語アクセスと特別サービスに関する要望 学校での暴力、不登校、文化的な配慮に欠く教育現 場に対する要望 言語・学習支援への要望 学校へ入るまでの支援 どのプログラムに入るのか(プレースメント) 学校で必要な言語能力のとらえ方 ESL資格を持った教員の不足 幼稚園入学以前のプログラム プレスクールの就学率が英語学習者の間では低い ヘッドスタート 低所得者を対象 子供の年齢が8歳以下 プログラムを通じて、子供だけでなく、保護者にも育 児教育、言語教育、識字教育 学年途中編入者、ブランクのある者、 義務教育年齢を超えてしまっている若者たち ニューカマー 背景 プログラム 高校生の20%、中学生の12%が2年ほどのブランク 下の学年に入れる方法は、アメリカではあまり効果的でな い 正規のESLやバイリンガル教育プログラムへ入ってい くための橋渡しの役目を果たす 公教育の一貫、都市部を中心に設置 最長18か月在籍できる、任意参加 ニュカマー プログラム(続き) 3つのタイプ 学校の敷地内に設置されているもの 学校外に設置されているもの 独立した学校の形で設置されているもの 80%のプログラムでIPTやLASといった英語習熟度 テストを使って、進捗状況を把握 半数のプログラムでは母語の読み書き能力を測定、 数学力を測定しているところも。 ESLまたはバイリンガルの資格をもった教員が配置 高校卒業資格試験や職業訓練をしているプログラム も 2. 外国人児童生徒担当の教員(ESL教員、 JSL教員、国際教室担当教員など)だけに 抱えさせてはいけない 担任、専科教員その他の教員ととう連携する か 教員養成の問題 資格の取得に必要なもの 州によって異なる。資格取得にもいろいろなステ ップがある。政策も変わる。 ESL バイリンガル教師の資格 バイリンガル資格 ESL資格 資格制度は なし 14% 資格義務化 46% 資格はとれ るが、義務 化していな い 40% 資格制度は なし 45% 資格義務化 32% 資格はとれ るが、義務 化していな い 23% 50州にコロンビア特別区とプエルトリコを含む52地域に基づく(2006時点) ニューヨーク州のケース ESL資格(取得にはさまざまな方法がある) 学士 州の定めた教員養成プログラム(ESOL) Liberal Arts & Science Test (LAST) 州の教員試験 (ATS-W):教授技術のテスト 教科試験(ESOL) カリフォルニア州のケース ELD SDAIE CLAD yes yes BCLAD yes yes Primary language instruction yes ELD: Instruction for English Language Development SADIE: Specifically designed academic instruction delivered in English Primary language instruction: instruction for primary language development and content instruction delivered in the primary language CLAD: Cross-cultural Language, and Academic Development BCLAD: Bilingual Cross-cultural Language, and Academic Development ペンシルバニア州ケース ESLスペシャリスト (最低180時間) 45時間(第二言語習得、言語学) 90時間(ESLメソッド、学習言語・リテラシーの発達 ) 45時間(教室・学校での文化多様性) ペンシルバニア州のケース(続) 2011年までに、教員養成プログラムは最低3単位(90時間)分を、英 語学習者への指導を行うための養成についやさなくてはならない。 内容 Foundation 言語 (言語システム、複数の言語・リテラシー習得、学習言 語と社会言語の区別) 文化(英語学習者の社会文化的背景、コミュニケーション・ス タイル、文化価値、指導・教材・アセスメントのバイアス、教 員自身の異文化コミュニケーション技術、文化言語的に多様な 教育現場の参観) Application スタンダードに基づいた指導ができる (実証研究に基づき、教 科内容を英語学習者にも理解できるような指導戦略をとる) アセスメント(州のスタンダードに基づいた、形式的・集約的 な評価を行い、その結果を指導に反映する) 専門性(英語学習者への指導に関する法的な知識、専門用語、 研修でめざすこと 実践の変化 意識の変化 児童、生徒の学習結果の変化 (Guskey, 1986, cited in August & Shanahan, 2008) スタンダードにそったCAN DOチェックリスト (ペンシルバニア州のケース) Pennsylvania’s Language Proficiency Standards for English Language Learnersに沿ったもの 5 レベル(Entering, Beginning, Developing, Expanding, Bridging) 4 スキル(Listening, Reading, Speaking, Writing) 6 分野 (一般、国語、算数・数学、理科・科学、 社会) 学年グループ別 CAN DOチェックリスト (ペンシルバニア州のケース) 4-5年生、算数 Level 1 Level 2 Level 3 Level 4 Level 5 Standard Listening M5 B1.3 M5 B2.1 Reading M5 C.1 Speaking M5 A.2 Writing M5 A.2 M5 D.2 Level 6 reading Reading (level 5): 学年相当の教科書を読み、図表を用いて表現されている幾何学 的な概念を理解する 3. 外国人児童生徒だけを対象した支援に とどめてはいけない 日本人児童生徒もどのようにとり込むか 同時に、外国人児童生徒にとって大切な特別 支援にも注意 政策的なメリット 指導上のメリット 読みに関してわかっていること スピードは違っても、ほぼ同じ発達の経路をたど る 英語学習者の母語での読みの指導は、英語で読む 力も伸ばす 英語母語話者にとって有効な読みの指導は、おお むね英語学習者にとっても、有効である ただし、英語で指導を行う際は、英語学習者には 、特別なサポートが必要である Goldenberg (forthcoming) 英語話者にも英語学習者にも 英語の読解を行う上で重要な指導要素 要素 ただし、 音素の認識、音と綴りとの関 アルファベットを使わない日本 係、音読の流暢さ ワーキングメモリー 語彙 語彙認識力、音読の正確さ 明確な指導が必要 綴り 読解ストラテジー 語のケースは? 語彙のプロセシングはL1 とL2 の表記法によって違うようだ L2学習者は語彙面では大きなハ ンディ L1によっては綴りに影響も L2学習者への読解ストラテジー の指導効果は、L2習得度や年齢 によって違う 効果を上げるには 学校全体で指導に当たる 集中的な少人数のグループ指導 語彙力の不足が大きなネック 英語を母語とする生徒と英語学習者との間に 違いが見られなかったアセスメント 英語を母語とする生徒と英語学習者との間 に違いが見られたアセスメント 1.5 1.5 1 0.5 0 NE+ NE- L2+ L2- -0.5 -1 Average Z-scores Average Z-scores 1 0.5 0 NE+ NE- L2+ L2- -0.5 -1.5 Group -1 Group BPST spell_total Raven oral.read_accuracy PPVT oral.read_fluency Academic.oral voc_metacognition voc_inference Butler & Hakuta (2006) 口語学習言語 4年生、理科(磁石と光) 教師との1対1のアセスメント 日常会話はマスターした英語学習者、非言語的IQは 統制 分析対象 意味:解釈、テクニカルタームの理解、使用 形式:統語の複雑さ、正確さ らだけ) (NEとL2 の違いはこち 英語読解力高 英語読解力低 英語母語者 NE+ NE- 英語学習者 L2+ (FEP) L2- (LEP) Butler & Hakuta (in press) 口語学習言語 Butler & Hakuta (in press) 一般的に効果的なもの(もともとは母語話者むけ) 表やグラフなど視覚的に内容をまとめる 重要な情報を、文章だけでなく、絵やチャートなど視覚 的なものでも提示してあげる 難しい語彙や言い回しをとりだし、説明を加える。 テキストの内容を要約したり、言い換えたりしながら、 内容理解を促進させる 読む練習をする機会、時間をより多く与えてあげる 語彙や言い回しを変えるなどして、説明で使う言語をわ かりやすくしてあげる 子供がすでに持っている知識や経験と新しい知識をつな げる手助けをしてあげる。などなど Goldenberg (forthcoming) L2学習者への特別配慮が必要なもの 読むスピードが遅い メタ戦略を十分に使えない 自らの読解過程をモニタリングする力が弱い テキストの構造に慣れない 意味面に対し、フォーム面の弱さ 語彙力の不足 効果的な母語によるサポート 母語とL2の相違点を説明してあげる 概念を母語で説明、補足してあげる 予習と復習に母語を使う メタ戦略に母語を使う(reciprocal teachingで母語を 使う) (生徒のL1によっては)Cognateの知識を意識的に使 えるような指導を行う 補足 母語話者と同じ指導で効果を得るには、最低限の口 語力は必要 口語力のサポートは、カテゴリー化、論理化、定義 化など高次の認知、学習に関するものに力を入れる 個人差が大きい→個々の子供のニーズに敏感になる ことが大切 まとめ 外国人児童生徒教育は、 学校だけに抱えさせてはいけない 家庭やコミュニティーとどう連携するか 外国人児童生徒担当の教員(ESL教員、JSL教員、国際 教室担当教員など)だけに抱えさせてはいけない 担任、専科教員その他の教員ととう連携するか 教員養成の問題 外国人児童生徒だけを対象した支援にとどめてはいけな い 日本人児童生徒もどのようにとり込むか、補習の必要性 同時に、外国人児童生徒にとって大切な特別支援にも注意
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