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過疎対策事業債から地方財政の持続可能性を考える
石井吉春
1.問題の所在
地方自治体が標準的な行政水準を確保できるように、国は、地方財政計画を策定すると
ともに、地方交付税制度、さらには地方債制度を通じて、地方財源を移転・保障する仕組
みを形づくっている。その意味で、地方債は、地方交付税とともに、地方財政制度を維持
するための根幹的な役割を担ってきている。 地方財政法により、地方自治体の歳出は、地方債以外を財源としなければならないこと
が原則となっているが、同法第 5 条では、公営企業の経費、出資金及び貸付金、災害関連、
公共施設の建設などを起債対象として認めている。上記措置は、その便益が将来世代にも
及ぶことから、受益と負担のバランスを確保するために、地方債を活用するという考え方
によっていると言える。 しかし、こうした範疇を超えて、さらに過疎対策、臨時財政対策などの起債特例が認め
られている。これらの起債特例では、便益が必ずしも将来世代に及ばないことが前提とな
る上に、元利償還金の一部または全部を将来の基準財政需要額に算入し、交付税措置する
こととなっている。このため、財政錯覚を誘引するとともに、発行規模によっては、地方
交付税、ひいては地方財政の持続性を危うくする可能性も高いものと考えられている。 このうち、臨時財政対策債は、地方財政における財源不足を補うための起債措置であり、
その意味では実態的に赤字地方債と位置づけられる。2011 年度末の現在高は、市町村全体
で 14.7 兆円に達しており、都道府県分も合わせると 36.1 兆円もの金額になっている。臨
時財政対策債は、小泉改革において、地方財政の透明性を確保する観点から制度化された
もので、それ以前は、不足分を交付税等特別会計が借入をして、各自治体には地方交付税
として配分してきた。同借入の 2011 年度末の残高は、33.5 兆円に達しており、臨時財政対
策債と合わせれば、残高は 69.6 兆円となっている。臨時財政対策債の元利償還金が 100%
基準財政需要額に算入されることから、69.6 兆円を全て将来の交付税財源によって返済せ
ざるを得ないと考えられ、すでに地方財政制度の持続性を根幹から揺るがしかねない状況
となっている。 この点については、すでに問題を指摘する論考も多く出されているため、ここでは問題
点を指摘するにとどめる。本稿では、現在高の大きさなどから、これまで、あまり問題点
を指摘されてこなかった過疎対策事業債(以下過疎債という)を取り上げ、財政錯覚と言
える運用実態があるかどうかを中心に、分析を進めていくこととする。具体的には、制度
が長期間継続されるなかで、過疎債が、対象自治体にとって有利調達財源としてどのよう
に定着しているか、財政運営全体に悪影響を与えていないかどうかなどについて、情報公
開請求によって得た市町村の地方債発行状況などを用いて、順次検討を進めていく。 2.過疎対策の経緯と過疎債の位置づけ
現在の過疎対策の根拠法となる「過疎地域自立促進特別措置法」は、1970 年以降の 3 次
にわたる過疎立法を引き継ぎ、人口の著しい減少に伴って活力の低下などが顕在化してい
る地域に対して、総合的かつ計画的な対策を実施するために必要な特別措置を講ずること
により、これらの地域の自立促進を図ることなどを目的としている(同法第1条)。最初に
つくられた「過疎対策緊急措置法」は、いわゆる議員立法として制定され、10 年の時限立
法として対策を行うこととされていたが、その後も関係団体の存置に向けた活動などもあ
り、今日に至るまで、長期間にわたり継続されてきている。
過疎地域の要件は、一定の人口動向、財政力状況に該当すること 1が基本となるが(同法
第 2 条 1 項)、過疎地域を含む市町村合併を行った場合には、市域全体に同法が適用される
みなし過疎(第 33 条 1 項)、さらには、合併前の旧市町村区域が過疎地域とみなされるい
わゆる一部過疎(第 33 条 2 項)の規定も定められている。
対象となる公示市町村数の推移をみると、制度発足当初の 776 が、2010 年度においても
たまたま同数となっているが、この間市町村数は大幅に減少しており、足下では全体の 4
割を超える自治体が対象となっている。
主な施策としては、教育施設、児童福祉施設、消防施設などに対する国の負担または補
助割合の特例、過疎債の発行、都道府県による事業の代行制度などがある。足下では、過
疎債の対象にソフト事業が入ったことに加え、過疎地域等自立活性化推進交付金の創設な
ども行われており、様々な地域振興制度のなかでも突出して高いインセンティブを持つ制
度となっている。こうした点から、使い勝手がいい制度と位置づけられる一方で、制度に
依存しやすい構造を内包している制度とも言える
これらの施策のうち、過疎債は、対象市町村が過疎地域自立促進計画に基き行う事業に
対して、特別に発行が認められた地方債で、元利償還額の 70%が基準財政需要額に算入さ
れる。その対象は、産業振興施設等、厚生施設等、交通通信施設、教育文化施設に加え、
2010 年の法改正で、地域医療、集落維持などのソフト事業も加えられている。
発行については、各年度、総務大臣が各都道府県に同意等予定額を通知し、各都道府県
知事が市町村に同意(許可)を行い、発行する仕組みとなっている。
1 当初は、人口については、①1960 年~1995 年の人口減少率が 30%以上、②同期間の人口減少率が 25%
以上で高齢者比率(65 歳以上)24%以上、③同期間の人口減少率が 25%以上、若年者比率(15 歳以上 30
歳未満)15%以下、④同期間の人口減少率が 19%以上(ただし、①②③の場合、1970~1995 年の 25 年
間で 10%以上人口増加している団体を除く)、財政については、1996〜1998 年度の 3 年平均の財政力指数
が 0.42 以下で、公営競技収益が 13 億円以下であることとされたほか、2000 年国勢調査の確定人口を用い
て、期間を 5 年間繰り上げて要件とした。されに、その後の 2 度の法改正により、2005 年国勢調査人口、
2010 年国勢調査人口を考慮した要件も追加されている。
(図表1)これまでの過疎対策の経緯
法律名
過疎対策緊急措置法
期間
1970〜1979年度
過疎地域振興特別措置 過疎地域活性化特別措 過疎地域自立促進特別 過疎地域自立促進特別
法
置
措置法
措置法(延長法)
1980〜1989年度
背景
新規学卒者を中心とした
急激な都市への人口吸
収。
考え方
緊急の対策。生活環境に
おけるナショナル ミニマムの
確保。開発可能な地域に
産業基盤等を整備。人口
の過度の減少、地域社会
の崩壊、市町村財政の破
綻防止。
公示団体
数
当初776(最終1,093)
教育施設等に対する国
の負担または補助の割
主な措置
合の特例(3分の2)。過
と改正
疎債。基幹道路の都道府
県代行。医療の確保。
市町村道改良率9%→
22.7%、舗装率2.7%→
成果
30.6%。集会施整備
80%。1975年度における
人口減少は鈍化。
住民の就業機会や医療
の確保。若年層を中心と
した人口流出による高齢
化。
人口減少に起因した地域
社会の機能低下、生活水
準、生活機能の改善。総
合的かつ計画的な振興
施策による住民福祉の向
上、雇用の増大及び格差
の是正。
1990〜1999年度
2000〜2009年度
2010年度〜
新たな東京一極集中。高 人口の自然減、高齢化の
齢化、産業面、公共施設 進展、引き続く若年者の
整備面での遅れ等の「新 流出。農林水産業の著し
たな過疎問題」の発生。 い停滞、集落存続危機。
「振興」から「活性化」を
「活性化」から「自立促
図るへ。地域の個性を活
進」。全国的視野に立っ
かしてその主体性と創意
た過疎地域の新しい価
工夫を基軸とした地域づく
値、公益的機能。個性を
りを重視。ハードもみなら
発揮して自立できる地域
ず、ソフトも含む総合的な
社会。
地域の発展を重視。
1,119(1,157)
1,143(1,230)
雇用の場の不足。身近な
生活交通の確保。医師不
足。伝統文化の喪失。集
落の消滅。
過疎問題の解決を国民
全体に係る重要課題とと
らえた、切れ目のない対
策.。
1,171(1,210)
過疎債交付税措置の引
上げ(57%→70%)。地 代行制度拡充(下水
場産業振興施設、観光レ 道)。高齢者生活福祉セ
クリエーション施設の追 ンター等を追加。
加。
交通通信体系の整備の
比率が下がり、産業振
市町村道改良率39%、
興、高齢者等の保健福
舗装率55.7%。
祉、生活環境の整備比率
が増加。
776
過疎債にソフト事業を追
高齢者福祉向上、地域文
加。自然エネルギー利用
化振興施設の追加。
施設を追加。
市町村道改良率51.2%
舗装率68.6%。生活安定
と福祉向上。個性ある地
域形成(観光入込客数の
増加)。
(資料)総務省資料などをもとに作成。
市町村全体で、1980 年度以降の過疎債の発行額と現在高の推移をみたのが、図表 2 とな
る。その発行額は、1997 年度の 3,345 億円をピークに減少基調にあったが、対象事業の拡
大などもあり、2008 年度をボトムに再び増加基調にあり、2011 年度には 2,257 億円となっ
ている。地方債全体の発行額に占める比率をみると、1985 年度の 6.7%をピークに低下を
続け、1995 年度には 3.7%まで低下している。その後、1999 年度の 5.8%まで上昇したも
のの、再び低下し 2009 年度には 3.6%になっている。足下では再び上昇基調にあり、2011
年度には 4.7%に達している。
また、現在高は、1980 年度の 6,743 億円が、2002 年の 2 兆 4,260 億円まで増加を続け
てきたが、その後は減少基調にあり、2011 年度には 1 兆 6,902 億円になっている。地方債
全体の現在高に占める比率も、1986 年度のピークに緩やかに減少を続け、2011 年度には
3.1%まで低下している。
(図表 2)過疎債の発行額と現在高の推移(億円・%)
30,000
8.0
7.0
24,260
6.7
25,000
6.0
5.8
20,000
5.0
4.9
15,000
4.7 5.0
4.2
16,902
4.0
4.1
3.7
3.6
10,000
3.1
3.0
6,743
2.0
5,000
3,345
1,347
1,641
1,623
2,257
0
1.0
0.0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
当年度発行額a
当年度末現在高b
aの総額に占める比率
bの総額に占める比率
(資料)総務省「市町村決算状況調別表」をもとに作成。
3.過疎地域の現況
(1). 人口の推移
2011 年度末現在の過疎市町村を、法 2 条 1 項による過疎地域(以下過疎地域という)と、
法 33 条 1〜2 項による一部過疎及びみなし過疎地域(以下一部過疎地域等という)に区分
して、国勢調査のデータを用いて、人口動向をみていく。なお、市町村合併による影響を
排除するために、最新時点までの合併を考慮した市町村別に数字を統合し、集計している。
過疎地域の人口は、1980 年の 9,955 千人が 2010 年には 7,243 千人まで減少し、1980 年
から 2010 年までの減少率は△27.2%に達している。この間、一部過疎地域等が△1.2%の
減少にとどまり、非過疎地域は+8.6%の増加となっているのに対して、対照的な動きとな
っている。また、2010 年の過疎地域の高齢者比率も、33.5%に達しており、全国平均の 23.0%
を 10 ポイント以上も上回っている。
(図表 3)過疎地域の人口動向(千人・%)
市町村数
過疎
(2条
1項)
一部
過疎
ほか
非過
疎
計
15歳未満
15~64歳
65歳以上
計
15歳未満
15~64歳
65歳以上
計
15歳未満
15~64歳
65歳以上
計
15歳未満
15~64歳
65歳以上
計
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2,113
1,929
1,631
1,370
1,145
968
822
6,477
6,195
5,732
5,292
4,858
4,432
3,992
1,364
1,523
1,748
2,045
2,288
2,413
2,428
9,955
9,648
9,111
8,707
8,291
7,813
7,243
5,189
4,969
4,335
3,847
3,475
3,205
2,985
15,120
15,428
15,550
15,535
15,163
14,633
13,823
194
2,453
2,821
3,324
4,007
4,676
5,219
5,686
22,762
23,218
23,209
23,390
23,314
23,057
22,494
20,205
19,135
16,520
14,797
13,852
13,348
12,996
57,237
60,883
64,622
66,338
66,198
65,028
63,216
969
6,830
8,125
9,823
12,208
15,041
18,040
21,131
84,272
88,142
90,965
93,343
95,092
96,416
97,344
27,507
26,033
22,486
20,014
18,472
17,521
16,803
78,835
82,506
85,904
87,165
86,220
84,092
81,032
1,742
10,647
12,468
14,895
18,261
22,005
25,672
29,246
116,989 121,008 123,285 125,439 126,697 127,286 127,081
579
80〜10
増減率
-61.1
-38.4
78.0
-27.2
-42.5
-8.6
131.8
-1.2
-35.7
10.4
209.4
15.5
-38.9
2.8
174.7
8.6
(資料)総務省「国勢調査」をもとに作成。
次に、地域別、人口規模別に、公共施設の整備状況についてみていく。
過疎の定義から考えれば当然の動きとも言えるが、図表 3 にみるとおり、施設整備を進
めるなかで人口減少が進んだ結果、過疎地域、なかでも小規模自治体の人口 1 人当たりの
公共施設の整備水準は、きわめて高いものとなっている。因みに、人口 1 人当たり道路実
延長は、全国平均の 8.1m に対して、過疎地域平均は 27.5m に達している。なかでも、人
口 5 千人未満の階層では、56.3m と、全国平均の 7 倍近くの水準に達している。また、建
物についても、ほぼ同様の状況となっている。一方、下水道についてみると、過疎地域の
普及率は、相当程度低位にとどまっている。しかしながら、人口 1 人当たりの管路延長で
は、その他地域を上回っており、その意味では、相応に整備が進んだ状況とみることがで
きる。
これまで、過疎対策として、各種公共施設の整備を推進してきたが、今後の維持更新を
考えると、負担がきわめて重いことが予想され、施設の整備から施設のダウンサイジング
に政策方向を大きく変化させていく必要がある。
(図表 4)過疎地域における主な公共施設整備状況
市町村数 住基人口
過疎
(2条1
項)
一部
過疎
ほか
非過
疎
合計
1
2
3
4
5
6
7
計
1
2
3
4
5
6
7
計
1
2
3
4
5
6
7
計
1
2
3
4
5
6
7
計
面積
団体
204
150
166
42
15
2
千人
545
1,061
2,873
1,576
949
254
千㎢
40
43
52
19
10
0
579
7,260
164
3
24
33
690
38
1,491
56
3,984
49
8,301
15
8,027
194
22,518
30
105
94
726
257
4,832
165
6,433
202
14,082
141
22,354
80 48,350
969
96,882
234
650
247
1,811
456
8,396
245
9,500
273
19,016
192
30,909
95 56,377
1,742 126,660
0
8
14
31
32
11
95
2
6
24
18
24
20
20
113
42
49
84
51
64
52
30
373
人口密度
人/ha
136
248
551
813
988
7,828
道路
建物
下水道
同人口1
同人口1 現在排水
1人当た
延面積
普及率
人当たり
人当たり 人口
り管路延
千㎞
m
千㎡
㎡
千人
%
m
30,678
56.3
9,320
17.1
268
49.2
8.3
39,069
36.8
11,869
11.2
474
44.7
6.3
71,062
24.7
24,034
8.4
1,204
41.9
5.2
38,381
24.3
12,058
7.6
644
40.9
4.9
19,000
20.0
6,620
7.0
398
42.0
4.4
1,170
4.6
1,115
4.4
187
73.7
3.6
実延長
442 199,361
483
873
1,084
1,288
2,612
7,557
2,358
424
1,277
2,006
3,629
5,924
11,298
24,521
8,555
153
370
998
1,867
2,957
5,957
18,582
3,397
781
15,619
28,937
69,758
86,459
49,197
250,751
4,406
16,893
75,495
75,690
128,865
126,289
146,181
573,819
35,085
56,744
162,176
143,008
217,623
213,918
195,378
1,023,931
27.5
65,016
33.1
22.6
19.4
17.5
10.4
6.1
11.1
42.0
23.3
15.6
11.8
9.2
5.6
3.0
5.9
54.0
31.3
19.3
15.1
11.4
6.9
3.5
8.1
281
4,723
8,400
21,132
37,024
27,272
98,831
1,100
4,784
21,455
23,882
46,298
59,868
139,587
296,974
10,421
16,934
50,211
44,340
74,050
98,007
166,858
460,821
9.0
3,176
43.7
5.3
11.9
14
6.8
359
5.6
760
5.3
2,316
4.5
5,736
3.4
6,372
4.4
15,557
10.5
64
6.6
442
4.4
2,889
3.7
4,203
3.3
9,734
2.7
18,124
2.9
46,244
3.1
81,699
16.0
332
9.3
929
6.0
4,452
4.7
5,607
3.9
12,448
3.2
24,047
3.0
52,616
3.6 100,431
57.2
52.0
51.0
58.1
69.1
79.4
69.1
60.9
60.8
59.8
65.3
69.1
81.1
95.6
84.3
51.1
51.3
53.0
59.0
65.5
77.8
93.3
79.3
8.5
5.5
5.4
5.1
4.7
3.9
4.6
8.3
7.1
5.0
4.7
4.1
3.5
3.3
3.7
8.3
6.7
5.1
4.8
4.3
3.8
3.4
4.0
(資料)総務省「公共施設状況調」をもとに作成。
(注)人口規模については、1 が 5 千人未満、2 が 5 千人以上 10 千人未満、3 が 10 千人
以上 3 万人未満、4 が 3 万人以上 5 万人未満、5 が 5 万人以上 10 万人未満、6 が 10
万人以上 30 万人未満、7 が 30 万人以上で区分している。
4.過疎債と自治体財政
以下で、過疎債と当該自治体財政の関係性をみるために、過疎債の発行自治体数の変動
の影響を排除するために、1980 年度から 2011 年度までの 32 年間を通じて過疎債の発行を
継続してきた市町村を抽出し、分析を行っている。また、詳細な動きをみるために、過疎
地域については、人口規模別に区分してその動きをみていく。
(1).過疎債の発行状況
過疎地域 374 を人口規模別に 7 区分し、一部過疎地域等 145 とともに抽出して、過疎債
の発行状況をみたのが図表 5 となる。
2011 年度の発行額は、人口 5 千人未満の 1 区分が 179 億円、2 区分が 268 億円、3 区分
が 439 億円、4 が 296 億円、人口 5 万人以上 10 万人未満の区分 5 が 111 億円、一部過疎
地域等が 507 億円となっている。1 自治体当たりの発行額は、一部過疎ほか地域の 3.5 億円
に対して、過疎地域は、6 区分の 9.3 億円から 1 区分の 1.6 億円まで、規模に応じて差異が
生じている。
因みに、抽出した数字の過疎債発行総額に占める比率は、80%台で比較的安定して推移
してきたが、近年は、公示自治体数の増加に伴い、比率の低下が目立っている。
(図表 5)継続発行自治体の過疎債発行額(億円・%)
3,000
100.0
89.8
85.5
2,500 82.5
90.0
82.7
80.0
79.7
920
70.0
2,000
60.0
365
1,500
507 50.0
433
111
40.0
1,000
643
296
373
30.0
195
72
500
0
154
457
20.0
311
221
165
126
439
268 10.0
202
332
129
179
0.0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
1
2
3
4
5
一部過疎ほか
抽出分の全体に占める比率
(資料)総務省「市町村決算状況調別表」をもとに作成。
各自治体における、臨時財政対策債を除いた地方債発行総額に占める過疎債の比率の推
移をみたのが、図表6となる。これをみると、対象事業の拡大などもあり、各区分ともに、
その依存度がここ数年急速に高まっている。なかでも、小規模自治体でその傾向が顕著と
なっており、人口 5 千人未満の 1 区分では、2011 年度の過疎債の比率は、75.1%まで上昇
している。地方債全体の発行額が減少するなかでの動きとなってはいるが、ここまでの比
率上昇は、過疎地域の自立に必要不可欠な動きというより、有利調達となる過疎債への安
易な依存の強まりとみざるを得ないだろう。
(図表 6)過疎債発行額の発行総額に占める比率(%)
80.0
75.1
70.0
64.4
60.0
50.9
50.1
50.0
41.3
40.4
40.0
33.2
33.8
30.0
34.4
35.4
31.5
24.8
22.7
20.0
20.2
17.1
10.3
10.0
12.6
7.8
9.6
7.8
0.0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
1
2
3
4
5
一部過疎ほか
(資料)同上。
(2).過疎債の現在高の推移
発行額と同様の区分で、過疎債の年度末現在高の推移をみたのが、図表7となる。過疎
債全体に対する比率は、ほぼ一定水準を確保しており、全体の動き同様の推移となってい
る。2011 年度末で一部過疎地域等の 4,516 億円に対して、過疎地域の区分 1 が 1,583 億円、
区分 2 が 2,106 億円、区分 3 が 3,219 億円、区分 4 が 2,234 億円、区分 5 が 840 億円とな
っている。
(図表 7)継続発行自治体の過疎債発行額(億円・%)
25,000
90.0
82.5
84.6
80.0
20,000
70.0
6,822
60.0
15,000
50.0
4,516
40.0
840
2,803
10,000
2,234
4,380
3,219
5,000
3,143
30.0
20.0
2,106 10.0
2,261
1,383
0
0.0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
1
2
3
4
5
一部過疎ほか
抽出分の全体に占める比率
(資料)同上。
また、地方債全体の現在高に対する比率をみると、発行額同様に近年シェアの上昇が目
立っており、階層 1 では、2011 年度末で 48.3%に達している。発行額における過疎債シフ
トの影響が現在高のシェア上昇に直結している。
(図表 6)過疎債現在高の現在高総額に占める比率(%)
60.0
48.3
50.0
43.1
35.3
33.2
30.0
27.4
20.0
20.4
25.6
22.4
19.4
7.0
30.8
27.0
21.3
10.0
41.0
38.8
40.0
25.7
25.8
21.8
21.9
19.0
8.4
7.5
6.3
0.0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
1
2
3
4
5
一部過疎ほか
(資料)同上。
(3).過疎債による財政への影響
これまでの分析で、地方債全体の発行額が減少するなかで、発行額、現在高ともに、過
疎債の占める比率が、ここ数年、顕著に上昇していることが確認された。このことは、過
疎自治体において、自治体財政に占める過疎債の位置づけが、急速に増していることを意
味している。
こうした動きの背景には、過疎債の優位性に加えて、ソフト事業が対象事業に加わり、
ほとんどの分野で利用が可能になったことの影響が強く表れているものとみられる。以下
では、過疎自治体の財政事情を、2012 年度決算をもとに振り返って、過疎債が過疎自治体
の財政全体にどのような影響を与えているか、考えてみる。
図表 7 では、過疎地域、一部過疎地域等などに地域を区分し、さらに人口規模別に 7 区
分して、財政状況の差異をみている。過疎地域は、他の地域の同規模自治体を比較して、
人口 1 人当たり歳出水準が高いことが、はっきり見て取れる。また、歳出のなかでも、1 人
当たり投資的経費、公債費ともに、ほとんどの区分で、過疎地域の方が高いことも読み取
れよう。さらに、過疎債に誘引されて、1 人当たり地方債現在高も、他の地域と比較して、
際立って高いこと、その一方で、1 人当たり積立金の水準も、比較的高いことが分かる。
(図表 7)地域別の財政状況
過疎
(2条1
項)
一部
過疎
ほか
非過
疎
その
他供
計
1
2
3
4
5
6
7
計
1
2
3
4
5
6
7
計
1
2
3
4
5
6
7
計
1
2
3
4
5
6
7
計
実額(億円)
人口1人当たり金額(千円)
市町村 住基人口
歳出総
投資的
地方債
積立金
歳出総
投資的
地方債現 積立金現
(千人)
数
公債費
公債費
額
経費
現在高 現在高
額
経費
在高
在高
114
317
4,022
884
538
4,118
2,523
1,270
279
170
1,301
797
107
750
6,321
1,155
930
7,251
3,265
842
154
124
966
435
103
1,759 11,921
2,028
1,766 14,049
4,542
678
115
100
799
258
38
1,409
9,090
1,547
1,440 11,436
3,290
645
110
102
811
233
12
773
5,247
872
670
5,112
2,210
679
113
87
662
286
374
1
18
25
48
42
11
145
16
76
244
150
190
137
77
890
234
247
456
245
273
192
95
1,742
5,008 36,601
7
365
1,012
3,395
7,182
6,211
18,171
60
578
4,572
5,873
13,421
22,142
47,183
93,830
642
1,797
8,370
9,527
19,153
31,260
57,624
128,374
56
2,103
5,428
17,250
33,778
25,454
84,069
499
4,246
21,578
23,769
49,390
72,638
186,585
358,705
7,927
13,871
45,927
45,854
79,117
114,142
229,082
535,920
6,487
6
376
861
2,687
4,367
3,056
11,353
88
711
2,926
3,360
6,023
8,561
20,125
41,794
1,638
2,479
6,787
6,992
10,597
13,938
25,424
67,854
5,344 41,965 15,829
12
271
814
2,275
4,066
3,206
10,646
53
303
1,950
2,211
4,913
7,077
19,771
36,277
950
1,622
5,180
5,190
8,679
12,055
25,073
58,748
52
2,251
6,484
19,123
36,243
32,113
96,265
336
2,594
17,655
19,638
44,421
63,623
203,712
351,979
7,192
13,013
43,600
43,534
75,597
107,465
258,838
549,238
45
1,027
1,958
5,063
7,571
3,239
18,902
446
2,484
8,962
7,970
12,507
12,805
29,064
74,237
5,366
7,395
18,878
16,494
22,642
22,016
34,242
127,034
731
130
107
838
316
808
577
537
508
470
410
463
825
734
472
405
368
328
395
382
1,235
772
549
481
413
365
398
417
92
103
85
79
61
49
62
146
123
64
57
45
39
43
45
255
138
81
73
55
45
44
53
178
74
81
67
57
52
59
88
52
43
38
37
32
42
39
148
90
62
54
45
39
44
46
746
617
641
563
505
517
530
555
449
386
334
331
287
432
375
1,120
724
521
457
395
344
449
428
649
282
194
149
105
52
104
737
429
196
136
93
58
62
79
836
412
226
173
118
70
59
99
(資料)総務省「市町村決算状況調」をもとに作成。
こうした分析だけでは、即断できない面もあるが、継続的に過疎債を発行してきた自治
体において、昨今、地方債全体の発行額抑制が続くなかで、発行条件が有利な分だけ、過
疎債への依存度が高まっているほか、投資的経費への傾斜や、基金の造成などを通じて、
歳出増加圧力も強まっている状況が浮かび上がってくる。
本来、過疎自治体の自立を支援するはずの過疎債が、財政錯覚によって、財政の膨張を
助長すれば、かえって自立へ途は遠のくことになり、政策意図とは違う方向への誘導を促
したことになる。また、過疎地域の各区分ともに、基金の積み立て水準が際立って高いこ
とも、憂慮される動きと言える。なぜなら、現在の過疎債発行により将来の交付税に借金
の負担を転嫁して、現在の手元資金を厚くするということが行われていることになるから
である。こうした対応は、回り回って、当事者の将来の財政状況を悪化させるのは明らか
な上に、地方財政の持続性を揺るがせにする可能性も高いと言えよう。
5.おわりに
地方財政を支える地方交付税制度は、自治体間の財政調整にとどまらず、世界的にみて
も例をみない、自治体財政の財政保障を担う制度として位置づけられてきている。そして、
そのための資金調達機能を果たすために地方債制度が形づくられていると言える。さらに、
過疎債にみるように、地方債における元利償還金の交付税措置という恩典が、財政錯覚を
招き、地方債による赤字ファイナンスという側面をさらに強めている。
地方債全体の約 200 兆円に及ぶ現在高のうち、少なくとも 100 兆円を超える金額が、臨
時財政対策債や過疎債同様に、元利償還金の基準財政需要額への参入、すなわち、将来の
交付税措置が約束されていると言われている。このことは、地方債の返済責任をあいまい
化していくことにつながり、ますます財政錯覚を強める流れになっていると考えられる。
地方財政の持続性確保の重要なステップとして、地方債と地方交付税の関係性を抜本的
に改めることが急務になっている。