A Wage Curve for Japan: Further Evidence from Panel Data 2010年9月6日 関西労働研究会 夏合宿研究会報告論文 Tomoko Kishi Nanzan University Faridul Islam Utah Valley University Wage curves • Wage curves とは、地域別賃金を縦軸、地域別の失業率を 横軸にとった平面上にプロットされる、右下がりの曲線であ る。 地域別賃金 0 地域別失業率 先行研究(1) • Blanchflower and Oswald(1994) The Wage Curve, Massachusetts: MIT Press. • その後、B-Oを含む多くの研究者によって推定が 行われた。 • 日本を対象とする先行研究は、 • Montgomery(1994), Kano(2004) , Poot & Doi (2006) などである。 日本を対象とする先行研究 • Montgomery, E. (1994) “Patterns in Regional Labour Market Adjustment: The United States vs. Japan,”in Blank, R. (ed.) Social Protection Versus Economic Flexibility: Is There a Trade-Off? Chicago: University of Chicago Press, 95–117. • Kano, S. (2003) “Japanese Wage Curve: A Pseudo Panel Study”, IPPS Discussion Paper 1032, Institute of Policy and Planning Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, Ibaraki, Japan. • Poot, J. and Doi, M. (2005) “National and Regional Wage Curves in Japan 1981–2001”, Review of Urban and Regional Development Studies 17 (3), 248–270. 先行研究 (2) • 先行研究では多くの場合、以下のような理論モデルで 推定が行われている。 ln(Wrt ) t Dr ln(U rt ) Z rt rt • • • • • • Wrt: 賃金 μt: 時間の効果 Dr : 地域の固定効果 Urt: 地域別失業率 Zrt: その他の説明変数ベクトル εrt: 誤差項 添字のr は地域、t は年次を表している。 先行研究 (3) • 先進国を対象とした分析では、賃金の失業率 の弾 性値βは -0.1 の近傍と推計されている。 • 日本に関する推定値 0.15 ˆ 0.1 • Montgomery (1994) • Kano(2004) では、 ˆ 0.18 • Poot & Doi (2006) ˆ 0.046 for 1981 1990 ˆ 0.053 for 1991 2001 本研究の目的 • Poot & Doi によると、バブル経済崩壊後、 Wage curves は急勾配になったという。 • 彼らの分析対象期間は、2001年までである。それで は、2001年以降、Wage curves の弾性値はどのよう に変化したであろうか? • 失業率が低ければ賃金は高い、という関係は今日で も観測されるのであろうか? データ • 1983-2009年 都道府県データ(Obs.= 27 x 47 ) • 賃金 : 『賃金センサス』の都道府県データによる。 • 以下のように、労働時間で除した値を用いている。 (きまって支給する現金給与額)x12+(年間賞与その他特別給与額) {(所定内実労働時間数)+(超過実労働時間数)}x12 消費者物価指数で実質化している。 • 失業率 : 『労働力調査』の長期時系列データ (1983 年以前の『労働力調査』失業率は都道府県別になって いない)。 推定 (1) log wit i 1 log u it 2 D91 _ 01 log u it 3 D02 _ 09 log u it 4 log LCit 5 logWAit 6 logWS it 7 log FSit 8T it w: 都道府県別実質賃金 : 都道府県別固定効果 D91 _ 01 : 1991 2001年ダミー u : 都道府県別失業率 D02 _ 09: 2002- 2009年ダミー LC : 都道府県別消費者物 価指数(県庁所在地) WA : 40 - 59歳労働者比率 WS : 雇用者数(従業員 数10人以上の事業所) FS : 大企業( 1,000人以上)雇用者比率 T: トレンド項 推定結果(1) • 1)1990年以前の実質賃金の失業率弾性値(本研究で は γ)は、約-0.1で、諸外国のそれとあまり違いがない。 また、先行研究とも矛盾しない。 • 2)1991-2001年のγは1990年以前のそれとは有意に異 なる。そして、実質賃金と失業率との間に、正の相関関 係が見出される。 • 実質賃金の失業率弾性値は、男性、女性、総数の順に 固定効果モデルで 0.032, 0.086, 0.074 GMMによると、 -0.005, 0.009, -0.026 推定結果(2) • 3) 2002-2009年のγも1990年以前のそれとは有意に 異なる。 • 2002-2009年には、実質賃金と失業率との関係が男 性ではほとんど無相関で、女性では弱い正の相関。 • 実質賃金の失業率弾性値は、固定効果モデルによると、 男性、女性、総数で -0.005, 0.038, 0.001 GMMによると、 -0.012, 0.003, -0.099 操作変数法でも、あまり結果に違いはない。 今後の課題 • 日本の労働市場は、失業率が低下しても実質賃金が上 がりにくい構造になってきた可能性がある。 • 都市部での非正規労働者の増大? • 労働組合の組織率の低下? • いくつかの仮説が考えられる。今後は、それらの変化と Wage curvesの形状変化との関係を明らかにしていきた い。
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