2002年7月16日 陽子の中のSeaクォーク 柴田研究室 02M01221 [内容] 1.Seaクォークとは 2.β崩壊とクォーク 3.Seaクォークのフレーバー対称性 4.SeaクォークとGottfried Sum 5.まとめ 渡辺 崇 1.Seaクォークとは 2種類のクォーク 陽子内にはバレンスクォークとSeaクォーク が存在する。 バレンスクォーク: 核子の量子数を決定しているクォーク。 核子の中に3個存在している。 u d u u 陽子 d d 中性子 u:アップクォーク d:ダウンクォーク 1/15 Seaクォーク: 核子内のグルーオンから対生成するクォーク。 核子の運動量やスピンの一部を担っている。 - qs gluon qs - qs、qs : Seaクォーク 2/15 2.β崩壊とクォーク β崩壊には例えば次のようなものがある。 22 22 + β 崩壊: 11Na → 10Ne+e++νe 60 60 - - - β 崩壊: 27Co → 28Ni+e +νe 22 11 Naの崩壊図 60 27 Coの崩壊図 3/15 これを核子レベルで示すと次の式で表わされる。 β+崩壊: p → n+e++νe β-崩壊: n → p+e-+νe- さらにクォークレベルで示すと次のようになる。 β+崩壊: u → d+e++νe β-崩壊: d → u+e-+νe- 一般的なβ崩壊というのは、核子内の バレンスクォークがこの反応を起こす場合である。 4/15 Seaクォークのβ崩壊 - たとえばグルーオンからSeaクォークd、dが 対生成して、そのうちのdがβ-崩壊したとすると、 - - - - d+d →d+ u+e +νe (1) グルーオンから対生成したSeaクォークは対消滅 して再びグルーオンに戻ろうとするが、上のような β崩壊が起こると対消滅できない。 では、ここからどういう反応が起こるのか? 5/15 ①π中間子の生成 - dとuからπ+が生成されるとすると、 - - + - d+d →π +e +νe だが、質量0のグルーオンから質量140MeV/c2 のπ+が生成されるというのはエネルギー保存則 と矛盾する。 よって、この反応は起こらないと考えられる。 6/15 ②β崩壊した別のSeaクォークとの対消滅 - (1)式とは別に、グルーオンからSeaクォークu、uが 対生成して、そのうちのuがβ+崩壊したとすると、 - - u+u →u+d+e++νe (2) - - (1)式で生成したd、uが(2)式で生成したd、uと 対消滅するとすれば、結局2つのグルーオンから 生成したSeaクォークが2つのグルーオンに戻る ことになる。 よって、Seaクォークのβ崩壊は核子の外に影響を 及ぼさないと考えられる。 7/15 3.Seaクォークのフレーバー対称性 陽子内のSeaクォーク分布usp、dspについて考える。 陽子と中性子でSeaクォーク分布は同じだと 考えられているので、 usp=usn、dsp=dsn 陽子と中性子はuとdを交換すると、それぞれ 中性子と陽子に変換される(Isospin対称性)ので、 usp=dsn、dsp=usn 8/15 ここでuとdの質量はそれぞれ u: 2~8 MeV/c2 d: 5~15 MeV/c2 であり両者には差がある。しかしこれは陽子の質量 (938 MeV/c2)や中性子の質量(940 MeV/c2)に 比べて無視できるほど小さいので、 isospin対称性を仮定する事ができる。 したがって usp=dsp 陽子内のSeaクォークはフレーバー対称 になっているといえる。 9/15 4.SeaクォークとGottfried Sum Gottfried Sumについて Gottfried Sum とは次の式で表わされる量である。 F2 = F2(x , Q2) : 構造関数 x : Bjorkenのスケーリング変数 核子の運動量のうち、クォークが どれだけの割合を担っているか Q2 : 4次元運動量移行 衝突の際に移行される4次元運動量 10/15 陽子と中性子の構造関数は次のように表せる。 ここでisospin対称性から また、 11/15 ゆえに、Gottfried Sumは次のように書き直す ことが出来る。 (3) ここで、 12/15 これはバレンスクォークについて、陽子内には dが1個、uが2個、中性子内にはuが1個、dが2個 存在することを表している。 よって、(3)式の右辺の第1項は1/3になる。 さらに、Seaクォークがフレーバー対称なら (3)式の右辺の第2項は0になる。 したがって、理論的には 1 SG = ー 3 となるはずである。 13/15 Gottfried Sumの理論値と実験値の不一致 理論値: SG=1/3 実験値: SG=0.235±0.026 (1994年にNMCによって測定された) Seaクォークにフレーバー非対称性がある ことが不一致の原因であると考えられた。 そこで、このフレーバー非対称性を測定する ことになった。 14/15 5.まとめ ・陽子の中にはバレンスクォークの他に、グルーオン から対生成したSeaクォークが存在している。 ・Seaクォークのβ崩壊は、核子の外には影響を 及ぼさないと考えられる。 ・Seaクォークは当初、フレーバー対称だと考えられて いたが、Gottfried Sumの理論値と実験値を比較 した結果、フレーバー非対称であると考えられる ようになった。 15/15 以下3枚は口頭発表用 2002年7月16日 陽子の中のSeaクォーク 柴田研究室 02M01221 [内容] 1.Seaクォークとは 2.β崩壊とクォーク 3.Seaクォークのフレーバー対称性 4.SeaクォークとGottfried Sum 5.まとめ 渡辺 崇 •バレンスクォーク u d u u 陽子 •Seaクォーク d d u:アップクォーク d:ダウンクォーク 中性子 - 中性子 qs gluon qs •Seaクォークがβ崩壊を起こす場合に どのような反応が起こるのか? グルーオンから対生成したSeaクォークは対消滅 して再びグルーオンに戻ろうとするが、β崩壊を 起こすと対消滅できない。 •Seaクォークはフレーバー対称なのか フレーバー非対称なのか? Seaクォークは当初、フレーバー対称だと考え られていた。しかしその後、フレーバー非対称 だと言われるようになった。 以下は質問回答用 フレーバー非対称性を調べる HERMES実験(1998年) H2、D2、3Heターゲットに陽電子ビームを衝突させ、 その半包括的深非弾性散乱で生成したπ±の数 を測定し、そこから陽子内のSeaクォークの - -u - )を求めた。 フレーバー非対称性(d s s 装置 加速器 : HERA storage ring 検出装置 : HERMES spectrometer 深非弾性散乱(deep-inelastic scattering) 電子 陽子 (運動量:P) クォーク (運動量:xP) 仮想光子γ * (4次元運動量移行:Q2) クォーク (ハドロンとして放出される) 電子と陽子との非弾性散乱のうち、Q2が大きい 場合を特に深非弾性散乱という。 半包括的(semi-inclusive)とはどういうことか 衝突反応の測定方法には次の3つがある。 ・包括的(inclusive): 散乱された電子のみを測定し、反応で生成した 他の粒子は測定しない ・半包括的(semi-inclusive): 散乱された電子と、反応で生成された粒子のうち 特定のものだけを測定する ・排他的(exclusive): 反応で生成した全ての粒子を測定する HERA storage ring ドイツのDESY研究所にある電子-陽子衝突型 加速器。 HERMES 直径: 2.1 km 図:HERA storage ring 周長: 約6 km 電子、陽電子ビームのエネルギー: 27.5 GeV 陽子ビームのエネルギー: 820 GeV HERMES spectrometer 上 MAGNET e+ 下 H2、D2 、3Heターゲット v Cerenkov Detector N2 70%、C4F10 30% π±の検出効率: 95% ( 実験結果からの考察 測定領域 : 0.02 < x < 0.3 、 1 < Q2 < 10 GeV グラフより次のことがわかった。 - - ・フレーバー非対称性(ds-us)がxに依存している - - ・陽子内のSeaクォークはuよりもdの方が 多く存在している 実験結果より、 また、グラフから外挿すると x > 0.02 の領域の寄与は約0.050 x > 0.3 の領域の寄与は約0.006 であるので、 これはGottfried Sumの理論値と実験値との差を よく説明している。
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