中東諸国における グローバリゼーションと

中東諸国における
グローバリゼーションと
政治体制の頑健性
浜中 新吾 (山形大学)
「現代中東における国家運営のメカニズムの
実証研究と地域間比較」研究会 2007年11月3日
はじめに
経済グローバル化の波を受けている中東
諸国の政府が、政治体制の基本的性格を
維持しているメカニズムはいかなるものな
のだろうか?
パズル
南米やアジア諸国では経済自由化の圧力が
政治の民主化を伴わざるをえなかったが、中
東では同様の現象が見られなかった。
1.中東諸国とグローバリゼーション
1.1 中東のグローバル化の程度
30年間の貿易開放度の平均は76.1%
南米は53.3%、アジアは61.9%
石油輸出分を差し引くと、中東は50.0%に
輸出面のみを検討
2000年時点で280億米ドル
東欧5カ国の1/5、南米4カ国の1/8
海外直接投資で比較するともっと小さくなる
1.中東諸国とグローバリゼーション
1.2 レンティア経済の影響ーオランダ病
金融面での影響
外貨流入⇒貿易相手より高いインフレ率⇒実質為
替レートを増加⇒輸出を抑える
実質面での影響
貿易財と非貿易財の価格弾力性の違い⇒貿易財
の相対価格が下落⇒貿易財の産出量は減少し、
非貿易財の産出量は増加する
1.中東諸国とグローバリゼーション
1.2 レンティア経済の影響ーオランダ病
従属変数
消費者物価
GDPデフレータ
サービス部門
輸出部門
Coef.
0.277
1.081
0.086
-0.272
S.E.
0.105
0.810
0.025
0.030
t
2.640
1.330
3.450
-9.100
P>t
0.009
0.183
0.001
0.000
非貿易財の価格上昇仮説
回帰分析の係数:消費者物価>GDPデフレータ
産業構造変容仮説
回帰分析の係数:サービス部門>輸出部門
2. Acemoglu=Robinsonモデル
2.1 閉鎖経済と開放経済のモデル
ARモデルの基本はrichとpoorのバトル
資本と土地はrichに、労働はpoorに帰属
独裁制はrichによる支配(課税額をrichが決定)
民主制だと最適課税額をpoorが決定する
• 中位投票者定理に従う
グローバル化=開放経済
• ヘクシャー・オリーンモデルの世界
2. Acemoglu=Robinsonモデル
2.2 民主化移行の経済モデル
民主化移行の可否は支配者であるrichが
判断する
革命の蓋然性が高いときの選択肢は
• 抑圧して体制を維持する
• 民主化移行する
この際の価値関数を比較し、有利な方を選択
開放経済モデルの場合も同じ議論ができる
2. Acemoglu=Robinsonモデル
2.3 レンティア経済とシミュレーション
0.6
0.5
グラフはそれぞれ
Closed:(11)式
Open:(14)式
Rent:(17)式
0.4
Closed
κ 0.3
Open
Rent
0.2
0.1
0
0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6 0.65 0.7 0.75 0.8
Inequality
2. Acemoglu=Robinsonモデル
2.3 レンティア経済とシミュレーション
シミュレーションのまとめ
κの無差別曲線は右下がり
社会の格差が大きくなるほど、革命の蓋然性は
高まる
経済を開放するとκの無差別曲線は下にシフトす
る(グローバル化の体制移行に関する効果)
レンティア経済の場合は開放経済モデルほど下
にはシフトしない(体制護持に向かいやすい)
3. 計量分析
3.1 データと分析方法
仮説
経済グローバル化は民主化を促進する。ただし、
中東諸国の事例を考察する場合、レンティア経済
の影響を控除しなければならない
従属変数:政治参加の競争性
サンプル:136カ国、1970-1999年間
グローバル化の指標
貿易開放度(石油輸出分を控除)、資本流入、
ポートフォリオ投資、海外直接投資
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co
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Tu a
ni
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Su
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a
Ba n
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Al
M
or
oc
政治参加の競争性(平均)
Political Competiton (means of 1970-2000)
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
Li
by
a
Su
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Le ri a
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Al
ge
r
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ni
sia
貿易開放度(平均・石油輸出控除)
Trade without fuel export (% of GDP, mean of 1970-99)
140
120
100
80
60
40
20
0
グローバル化:貿易開放度
Trade (% GDP) in the Middle East
90
80
70
60
Egypt
Turkey
Iran
50
40
30
20
10
0
1968
1973
1978
1983
1988
1993
1998
グローバル化:資本流入
Capital Inflow (% GDP)
18
16
14
12
Egypt
Turkey
Iran
10
8
6
4
2
0
1974
1977
1980
1983
1986
1989
1992
1995
1998
グローバル化:海外直接投資
Foreign Direct Investment
8
7
6
5
Egypt
Turkey
Iran
4
3
2
1
0
1970
-1
1973
1976
1979
1982
1985
1988
1991
1994
1997
3. 計量分析
3.2 分析結果と解釈
ARモデルの前提を満たすため「ジニ係数」
が有意でなければならない
モデル1(貿易開放度)
貿易開放度が1%上昇すると、政治的自由が
「抑圧状態」および「党派的競争」へと抑制さ
れる確率が合わせて0.127%減少し、「競争状
態」へと自由化される確率が0.102%上昇する
3. 計量分析
3.2 分析結果と解釈
モデル3(ポートフォリオ投資)
ポートフォリオ投資が1%増えると、「抑圧状
態」に陥る確率が3%、「抑制状態」に陥る確率
が1.6%減少する
モデル4(海外直接投資)
海外直接投資が1%増えると、「党派的競争」
以下に陥る確率が1.5%減少し、「競争状態」
へと到る確率が0.89%上昇する。
3. 計量分析
3.2 分析結果と解釈
モデル5(統合モデル)
経済グローバル化が進めば、政治的に抑圧さ
れた状況が緩和されて、自由化に向かう傾向
がある
資本流入について
ISバランス論からいえば、資本流入(資本収
支黒字)=貿易赤字
輸出指向型経済に転換して民主化した事例と
整合的
4.考察
4.1 まとめと結論
中東地域の経済グローバル化は、同程度
の人口と経済水準を持つ地域と比べると
低い
レンティア経済はオランダ病のリスクを抱
えており、エタティズム経済の構造調整が
不十分であることと併せて、グローバリゼ
ーションへの対応を遅らせている
4.考察
4.1 まとめと結論
ARモデルに従えば、経済グローバル化は
政治体制の民主化を刺激する
中東経済のレンティア性がグローバル化
の効果を抑制している
石油輸出がいくら伸びても、グローバリゼ
ーションの民主化効果には寄与しない
4.考察
4.1 まとめと結論
二つの可能性を指摘
経済自由化が所得配分のゆがみを促し、その
結果として民主化圧力が高まるかもしれない
経済自由化が石油レントへの依存を低下させ、
抑圧コストの無差別曲線を下方にシフトさせる
ことでも、民主化圧力を高めるかもしれない
4.考察
4.2 議論
経路依存性を重視する研究は、対象を拡
大して一般化すると、説明に失敗する
しかし「最小勝利者連合」を権威主義体制
存続の鍵と捉えており、この視点はARモデ
ルには欠けている
国際政治面へのモデルの展開が課題