スライド 1

日本言語学会第136回大会公開講演
内省実験から見える文法
上山あゆみ(九州大学)
http://www.gges.org/ueyama/
予稿集 p.26
はじめに
 言語の研究の様々な目的
↓
何をデータとするか
「そのデータで本当にその研究目的に迫って
いけるのか?」
2
予稿集 p.26
生成文法の目的
 言語能力の解明
=「言語たるもの、どのような姿がありうるか/あり
えないか」
=「言語としての可能性の極限」
言語
日本語
言語でない
日本語でない
3
予稿集 p.26
問題
 言語能力の解明を目指した研究において
文の容認性の感覚
をデータとすることは正当化されるのか?
4
予稿集 p.27 (1)
言語能力のモデル
 Computational System
Numeration
Merge
Move
Agree
PF 表示
(「音」関連)
LF 表示
(「意味」関連)
5
予稿集 p.27 (1)
「文法性」
 文法的な文 = Computational Systemから
生成可能な文
 非文法的な文 = Computational System
から生成不可能な文
6
予稿集 p.27 (2)
もし、文法性が観察できたら。。。
1.文法的な文と非文法的な文の分布を観察する。
2.文法的な文を生成し、非文法的な文を生成しな
いように、Computational Systemの仮説をたて
る。
3.その仮説からどのような予測が導き出されるかを
考える。
4.その予測を検証する。
5.その検証の結果に基づいて、さらに研究を進め
る。
7
予稿集 p.27 (2) の下
しかし、現実は。。。
 実際に観察可能なのは、文法性ではなく、容
認可能性しかない。
↓
 容認可能性の感覚が生じるという行為の中に
直接Computational Systemが組み込まれた
モデルを考えるしかない
8
予稿集 p.28 (3)
γという解釈で文αが容認可能かどうか考える
判断される提示文(α)
Parser
Computational System
Information Extractor
9
予稿集 p.28 (3) (4)
提示文α と 指定された解釈γ
判断される提示文(α)
P
α:トヨタが あそこの下請けを 訴えた
C
γ:「トヨタ」と「あそこ」が同じものを指示
する
Ⅰ
10
予稿集 p.28 (3) (5)
Parser
α
α:トヨタが あそこの下請けを 訴えた
Parser (P)
C
 「トヨタが」は「訴えた」の項である。
 「あそこの」は「下請けを」に係る。
Ⅰ
 「下請けを」が主要部である句は「訴
えた」の項である。
→ numeration の形成へ
11
予稿集 p.28 (3) (6) (7)
Computational System
α
numeration:
P
{トヨタ1が, あそこ1の, 下請け2を, 訴えた}
LF, PF
Computational System (C)
トヨタ1が
Ⅰ
NP2
あそこ1の
訴えた
下請け2を
12
予稿集 p.28 (3) (8)
SR (semantic representation)
α
P
C
α:トヨタが あそこの下請けを 訴えた
訴えた(x2)(x1)
x1:トヨタ
x1:あそこ
x2:下請け(x1)
Information Extractor (Ⅰ)
13
予稿集 p.28 (9)
容認性の度合いに影響する要因
 γという解釈のもとでのαという提示文の容認
性の度合い
 そもそも、γの指定を満たすようなSRが出力され
たかどうか
 γの指定を満たすようなSRが出力されたとしても、
それがどの程度難しかったか
 γの指定を満たすようなSRが出力されたとしても、
それがどの程度不自然か
14
予稿集 p.29 (10) (11)
容認可能性の度合いβ
α
P
[G] = 出力がある(1)か無い(0)か
[P] = Parsingの困難度
[Ⅰ] = SRの不自然度
βは、0≦β≦1の値だとする。
C
 [G] = 0 ならば、β = 0
Ⅰ
 [G] = 1 ならば、
β = [G] — [P] — [Ⅰ]
15
予稿集 p.29 (12)
[G]が 0 になる場合 → β=0
 parsingが失敗して、numerationを作れな
かった場合
 (parsingは成功したが)LF/PF の派生の途
中で破綻した場合
 (parsingも成功し、LF/PFも派生したが)SR
の派生で失敗した場合
 (parsingも成功し、LF/PFも派生し、SRも派
生したが)そのSRがγの指定を満たしていな
い場合
16
予稿集 p.29 (13)
文法性と容認性の対応関係
 文法的な文の場合には、0≦β≦1
 非文法的な文の場合には、β=0
↓
 理論の検証をする場合にも、この対応関係に
のっとって行なうことになる。
17
予稿集 p.33 section 3.3を少し先取り
検証結果パターンA
 Case A
β
文法的な文1
文法的な文2
文法的な文3
1
1
1
β
非文法的な文1
非文法的な文2
非文法的な文3
…
0
0
0
…
→ まったく予測通り
→ 問題なし
18
予稿集 p.33 section 3.3を少し先取り
検証結果パターンB
 Case B
β
文法的な文1
文法的な文2
文法的な文3
0.6
0.5
0.7
β
非文法的な文1
非文法的な文2
非文法的な文3
…
0.5
0.7
0.6
…
→ まったく差がない
→ この理論に対する経験的裏づけはない
19
予稿集 p.33 section 3.3を少し先取り
検証結果パターンC
 Case C
β
文法的な文1
文法的な文2
文法的な文3
…
0.5
0.3
0.4
β
非文法的な文1
非文法的な文2
非文法的な文3
0
0
0
…
→ 左右の差そのものは必ずしも大きくない
20
予稿集 p.33 section 3.3を少し先取り
検証結果パターンD
 Case D
β
文法的な文1
文法的な文2
文法的な文3
…
0.8
0.7
0.6
β
非文法的な文1
非文法的な文2
非文法的な文3
0.3
0.4
0.2
…
→ 左右の差だけならば、Cと同じ
→ しかし、非文が 0 になっていない
↑致命的
21
予稿集 p.33 section 3.3を少し先取り
検証結果パターンC
 Case C
β
文法的な文1
文法的な文2
文法的な文3
0.5
0.3
0.4
β
非文法的な文1
非文法的な文2
非文法的な文3
…
0
0
0
…
→ 非文がちゃんと 0 になっている
↑合格 !
22
予稿集 p.30 section 3 から再開
HypothesisーClaimー
SchemaーExample
 今、検証したいと思っている仮説と、実際に容
認性を調べる文とは、どのような関係になって
いるべきか、その手順をざっと説明しておく。
23
予稿集 p.30 (17)
Hypothesis
 束縛条件A
 Anaphor X is licensed only if there is some
other element Y which satisfies all of the
following conditions.
i)
Y c-commands X.
ii)
X and Y are co-arguments.
iii)
X and Y share the φ-features (such as
gender, number, person)
24
予稿集 p.30 (18)
Claim1
 Claim1:
[ ... Y ... X ... ], where X is an anaphor, is
acceptable only if
i) Y c-commands X,
ii) X and Y are co-arguments, and
iii) X and Y share the φ-features (such
as gender, number, person)
25
予稿集 p.31 (21)
Claim2
 Claim2:
[ ... Y ... X ... ], where X is an anaphor, is
unacceptable if
i) Y does not c-command X.
ii) X and Y are co-arguments.
iii) X and Y share the φ-features (such
as gender, number, person)
26
予稿集 p.31 (22)
Claim3
 Claim3:
[ ... Y ... X ... ], where X is an anaphor, is
unacceptable if
i) Y c-commands X.
ii) X and Y are not co-arguments.
iii) X and Y share the φ-features (such
as gender, number, person)
27
予稿集 p.31 (23)
Claim3
 Claim4:
[ ... Y ... X ... ], where X is an anaphor, is
unacceptable if
i) Y c-commands X.
ii) X and Y are co-arguments.
iii) X and Y do not share the φfeatures (such as gender, number,
person)
28
予稿集 pp.30-31, (18)(21)(22)(23)
okClaim
と *Claim
 okClaim1: anaphor が許される場合
 *Claim2: (c-command していないので)
anaphor が許されない場合
 *Claim3: (co-argument でないので)
anaphor が許されない場合
 *Claim4: (φ-featureが同じでないので)
anaphor が許されない場合
29
予稿集 p.31 (19)
Lexiconに関わる仮説
 Lexiconに関わる仮説:
 A reflexive pronoun in English is an anaphor.
30
予稿集 p.31 (20)(24)
okSchema1-1 /*Schema2-1
 okSchema1-1:
[NP1 V NP2], where NP2 is a reflexive
pronoun, and NP1 and NP2 share the φfeatures, can be acceptable.
 *Schema2-1 :
[NP2 V NP1], where NP2 is a reflexive
pronoun, and NP1 and NP2 share the φfeatures, is unacceptable.
31
予稿集 p.31 (25)(26)
* Schema3-1 /*Schema4-1
 *Schema3-1 :
[NP1 V [that NP V NP2]], where NP2 is
a reflexive pronoun, and NP1 and NP2
share the φ-features, is unacceptable.
 *Schema4-1 :
[NP1 V NP2], where NP2 is a reflexive
pronoun, and NP1 and NP2 do not share
the f-features, is unacceptable.
32
予稿集 p.31 注6
minimal pair の重要性
 対応する*SchemaとokSchemaは、可能な範
囲で同じ構文にする。
=統語解析の方法がなるべく同じになるように
工夫する。
... 言語能力の仮説の検証作業が、統語解析の
特定の仮説によって影響を受けることがない
ようにするために。。。
33
予稿集 p.32 (27)
ClaimとSchemaの対応関係
 1つ1つの*/okClaim に対して、Schemaは何
種類もあげていくことができる。
ok
Claim1
okSchema
1-1
okSchema
1-2
okSchema
1-3
…
*Claim2 *Schema2-1 *Schema2-2
*Schema2-3
…
*Claim3 *Schema3-1 *Schema3-2
*Schema3-3
…
*Claim4 *Schema4-1 *Schema4-2
*Schema4-3
…
34
予稿集 p.32 (28)(29)(30)(31)
Example
 okExample1-1-1: John loves himself.
 *Example2-1-1: Himself loves John.
 *Example3-1-1: John thinks that Mary loves
himself.
 *Example4-1-1: John loves herself.
35
minimal pair の重要性
 対応する*ExampleとokExampleは、可能な範
囲で同じ語彙を用いる。
=Lexiconにおける制限がなるべく同じになるよ
うに工夫する。
... 言語能力の仮説の検証作業が、Lexiconの
指定の違いによって影響を受けることがない
ようにするために。。。
36
予稿集 p.32 (32)
検証可能な予測
ok
Claim1
okSchema
1-1
okSchema
1-2
okSchema
1-3
*Claim2 *Schema2-1 *Schema2-2 *Schema2-3
*Claim3 *Schema3-1 *Schema3-2 *Schema3-3
*Claim4 *Schema4-1 *Schema4-2 *Schema4-3
37
予稿集 p.32 (33)
容認性の感覚の代表値 RV
Ex1-1-1
Speaker 1
RV(Ex1-1-1, Speaker 1)
Speaker 2
RV(Ex1-1-1, Speaker 2)
...
Speaker y
...
RV(Ex1-1-1, Speaker y)
RV(Ex1-1-1)
38
予稿集 p.32 (33)
Schema の RV
Speaker 1
Speaker 2
...
Speaker y
Ex1-1-1
...
Ex1-1-z
Schema1-1
RV(Ex1-1-1,
Speaker 1)
RV(Ex1-1-1,
Speaker 2)
...
RV(Ex1-1-z,
Speaker 1)
RV(Ex1-1-z,
Speaker 2)
RV(Schema1-1,
Speaker 1)
...
...
...
RV(Ex1-1-1,
Speaker y)
...
RV(Ex1-1-z,
Speaker y)
RV(Schema1-1,
Speaker y)
RV(Ex1-1-1)
...
RV(Ex1-1-z)
RV(Schema1-1)
...
RV(Schema1-1,
Speaker 2)
39
理論の検証
RV
okClaim
1
okSchema
0
1-1
*Claim2
*Schema2-1
*Claim3
*Schema3-1
1
RV
okSchema
0
1-2
*Schema2-2
RV
okSchema
0 …
1-3
0.9 *Schema
0.7 …
2-3
0.5 *Schema
0.6 *Schema
0.4 …
3-2
3-3
40
予稿集 p.34 (39)
「自分自身」=oneself ?
(容認可能性の印は、しばしば文献中で述べら
れることのあるもの)
a. ジョンが 自分自身を 責めた
b. *自分自身が ジョンを責めた。
c. *ジョン1は [メアリが 自分自身1を責め
た]と 思っている。
41
予稿集 p.34 (40)
英語 vs. 日本語
 Lexiconに関わる仮説:
A reflexive pronoun in English is an anaphor.
 Lexiconに関わる仮説:
日本語の「自分自身」はanaphorである。
42
予稿集 p.34 (41)
*Example の RV

*Exampleであるにもかかわらず容認可能
性が低くない例:
a. ジョン1は [メアリが 自分自身1に
惚れている]と 思い込んでいた。
b. ジョン1は [メアリが 自分自身1を
裏切る]とは 思っていなかった。
c. ジョン1は [メアリが 自分自身1を
推薦した]とばかり 思っていた。
43
予稿集 p.33 (38)
検証結果パターンD
 Case D
β
文法的な文1
文法的な文2
文法的な文3
0.8
0.7
0.6
β
非文法的な文1
非文法的な文2
非文法的な文3
…
0.3
0.4
0.2
…
非文が 0 になっていない
↑致命的
44
ここで、予稿集 p.29 に戻る
実施上の問題
 どういう人の容認性の感覚が理論構築の
データとしてふさわしいか
45
予稿集 p.29 section 2.3
文法性と容認性


a.
b.
文法的な文の場合には、0≦β≦1
非文法的な文の場合には、β=0
非文法的な文を容認可能と感じてしまう場合
もあるものなのではないのか?
↓
それは、実は、提示文αではなく、α’を生成して
しまっている場合である。
46
予稿集 p.29 (14)
判断者の要件1
 提示文αと自分が生成した文との違いに気が
つける人でなければならない。
たとえば、
a.
ジョンがメアリを誘った。
b.
ジョンをメアリが誘った。
47
予稿集 p.29 (15)(16)
 a. ジョンが批判したのは、アメリカの金融政
策をだった。
b. ジョンが批判したのは、アメリカの金融政
策だった。
 a. かなりの数の大学が、そこの医学部の改
革を考えているらしい。
b. かなりの数の大学が、その医学部の改革
を考えているらしい。
48
予稿集 p.30
文法性と容認性
 容認性の感覚
 [G] = 0 ならば、β = 0
 [G] = 1 ならば、β
= [G] — [P] — [Ⅰ]
どちらの場合もβが 0 になってしまって、差が
出ない可能性がある。
↓
[P] や [ I ] の値が大きくなりやすい人ほど、そ
のような事態が起こりやすい。
49
予稿集 p.30
判断者の要件2
 できるだけ、解析が複雑な文でもすぐに慣れ
ることのできる人、もしくは、不自然な状況を
述べたSRでも想像力をたくましくして不自然さ
が緩和されるような状況設定を自ら工夫でき
る人が望ましい
50
予稿集 p.30
実施上の問題 (まとめ)
 どういう人の容認性の感覚が理論構築の
データとしてふさわしいか?
↓
要件1を必須とし、なるべく要件2も備えた人を
集めていく。
追究の対象が「言語としての可能性の限界」で
あるからこそ、このような選別が必要となる。
51
予稿集 p.34 section 4
結語:言語研究の着実な進歩のために
 生成文法の説明対象=言語能力
=言語としての可能性の極限
 その追究のデータとして容認性が使えるか?
 Yes.
 a.
 b.
文法的な文の場合には、0≦β≦1
非文法的な文の場合には、β=0
 この対立を保証するために、データの取り方
やinformantの選別に気をつける必要がある。
52
日本言語学会第136回大会公開講演
内省実験から見える文法
上山あゆみ(九州大学)
http://www.gges.org/ueyama/
予稿集 p.
(perceived) phonetic strings
Lexicon
word recognition
frequent
patterns
(formal)
features
Parser
numeration
formation
numeration
Computational
PF
Phonology
System
(generated)p
honetic
stringgs
LF
Information
Extractor
Concepts
Inference
SR
Working
Memory
input/output
influence
algorithm
database
Information
Database
reference
54