第4章 無線工学の基礎 4.1 電波伝搬およびアンテナ 4.2 衛星通信および移動通信 4.2 衛星通信および移動通信 4.2.1 4.2.2 4.2.3 衛星通信 衛星通信関連機器 移動通信 4.2.1 衛星通信 (1)衛星通信とは ① 衛星通信を利用し,全世界にまたがる広帯域で長距離の伝 送路を経済的に実現する。 ② 公転周期が地球の自転周期と同じ静止衛星が主に利用さ れる。 ③ 地上設備から衛星に対して大電力の電波を送信し,衛星で は微弱電波を受信して増幅して地上設備に対して送信する。 地上設備では,衛星からの微弱電波を受信して増幅する。 衛星通信に必要な要件 ① アンテナ追尾 安定した通信を確保するために, 衛星の位置変動があったらアンテナを追尾させる。 ② 衛星搭載アンテナの姿勢制御 アンテナが常に一定方向を向くように衛星の姿勢制御を行う。 ③ 大きな伝播損失の補償 地球局アンテナはで大きな伝播損失を補償するため 大型アンテナを設置する必要がある。 一般には,カセグレンアンテナが使用されている。 ④ 通信衛星における低雑音高利得の増幅器(トランスポンダ) 受信した微弱な信号を増幅するために低雑音高利得の増幅器が必要。 通信衛星として 用いられることが多い静止衛星は 地球自転周期と同じ公転速度であるため 地上からは静止しているようにみえる。 低軌道衛星(LEO) 中軌道衛星(MEO) 静止衛星 超楕円軌道(HEO) : : : : 500 km~数千km 数千km~約20,000 km 約36,000 km 遠地点 約 40,000 km 近地点 約 1,000 km 人工衛星の高度 長楕円軌道衛星 低軌道衛星 約1,000km 静止衛星 (2)静止衛星の配置 極地方を除く全地球をカバーするには, 3個の衛星が必要である。 衛星 約17° 約162° 赤道 衛星 重複地域 衛星 不可視地域 衛星上には,衛星中継器(トランスポンダ)を設置する (3)通信方法の違い ① タイムシフト型(最も古いタイプ) 衛星側で受信したメッセージを他の地域の上空で送出する。 米国が最初に打ち上げた通信衛星スコアの方式。 ② 受動型通信衛星 単なる反射帯として機能する通信衛星。エコー1号が最初。 ③ 能動型通信衛星 トラスポンダ(中継器)を搭載し,地球からの電波を受信・増幅し, 地上に送り出す方式。1962年7月打ち上げのテルスターが最初。 現在の通信衛星の主流である。 (4)通信の形態 中継器で増幅 (地球局からの発信後約120m秒後) アップリンク(up link) 地球局から衛星方向へ 受信 (トランスポン ダ) 発信 地球局と衛星間の距離 : 36,000[km] 電波の速 3105 [km/s] 度: 遅延時間: ダウンリンク(down link) 衛星から地球局へ (アップリンクの時間+ダウンリンクの時 間) 36,000 2 0.24 [s] 240 [ms] 3 10 5 発信側 地球局 (衛星からの発信後約 120 ミリ秒後) 地球 受信側 地球局 (5)アップリンクとダウンリンクの周波数 衛星通信では,アップリンクとダウンリンクの周波数を同じにすると, 地上からの微弱な電波と衛星自身が送信した電波の区別が付かなくなり, 衛星自体が送信した電波をそのまま受信して増幅してしまう。 アップリンクとダウンリンクの周波数を分ける。 たとえば アップリンク 6 GHz,ダウンリンク 4 GHz これを「6/4 GHz帯」と呼ぶ。 (6)代表的な周波数 ① 6/4 GHz帯(Cバンド) ② 14/12 GHz帯(Kuバンド) ③ 30/20 GHz帯(Ka バンド) [注意点] ① 4 GHz,6 GHz,11 GHz帯は地上無線方式として使われてい るので,地上無線との干渉を考慮する必要がある。 ② 30/20 GHz帯は降雨減衰量が大きくなるが, 使える周波数範囲が広いため,伝送容量を大きくとれる。 (7)衛星通信に用いられる多元接続 ① 周波数分割多元接続(FDMA : Frequency Division Multiple Access) 周波数を分割して各地球局に割り当てる。 ② 時分割多元接続(TDMA : Time Division Multiple Access) 時間を分割して各地球局に割り当てる。 ③ 符号分割多元接続(CDMA : Code Division Multiple Access) 符号を分割して各地球局に割り当てる。 ④ 空間分割多元接続(SDMA : Space Division Multiple Access) 各地球局を地域に分割してアンテナに割り当てる。 4.2.2 衛星通信関連機器 (1)衛星通信装置の機能 地球局 (送信側) 通信衛星 (中 伝 送 装 置 多 元 接 続 送大 信電 力 追尾 電波 継 ) 受 増 送 信 幅 信 電波 地球局 (送信 側 低 ) 受雑 信音 追尾 多 元 接 続 エ コ ー 制 御 伝 送 装 置 (2)各局に必要な装置 以下に分けて説明する。 A.送信側地球局 B.通信衛星 C.受信側地球局 D.地球局および通信衛星に必要な装置 A.送信側地球局 ①多元接続装置 複数地球局で1台の衛星中継器を共用するため。 ②変調装置 伝送装置からの信号で中間周波数の搬送波に変調をかける。 ③周波数変換装置 中間周波数の搬送波を無線周波数に変換する。 ④電力増幅器 大電力送信信号を作り出す。 ⑤アンテナ装置 通信衛星に対して正確に電波を送信する。 B.通信衛星 ① アンテナ装置 地球局からの微弱電波を受信し,逆に地球局へ電波を送信する。 ② 搭載中継器 微弱電波を増幅して中継する。トラスポンダとも呼ぶ。 [備考] 通信衛星の増幅器としては,一般にFET増幅器,クライストロン, 進行波管(TWT:Traveling Wave Tube)増幅器が使用される。 クライストロンは 6 GHz帯で帯域幅は 40~70 MHzと狭い。 TWTは高価で複雑であるが,帯域幅は 500 MHzと広帯域であり, 通信衛星では一般的である。 TWTを使う場合,いくつもの搬送波を増幅可能であるが, 振幅・位相の非直線性による相互変調ひずみに留意する必要がある。 なお,受信したマイクロ波を中間周波数に変換して増幅した後, 再びマイクロ波に変換して送信する方式をヘテロダイン中継方式と呼ぶ。 ① アンテナ装置 通信衛星からの微弱電波を受信する。 C.受信側地球局 ② 低雑音増幅装置 受信電波を増幅する。 ③ 周波数変換装置 無線周波数を中間周波数に変換する。 ④ 復調装置 中間周波数から元の信号に復調する。 ⑤ 多元接続装置 複数の地球局で1台の衛星中継器を共用するため。 ⑥ エコー制御装置 伝送遅延時間を伴って生じるエコーを抑える。 D.地球局および通信衛星 ① 監視制御装置 各装置の監視・現可動装置と予備との切替等を 遠隔かつ集中的に行う。 特にエコー制御について ○ 通常の国内回線では,エコーが対話者に戻ってくるのは, 0.01 秒程度であるため特に問題とならない。 ○ 衛星通信では,自分の声が通信衛星を通じて約 0.5 秒後に 返ってくるので通信妨害となる。 ○ エコー制御には, ・エコーサプレッサ (返ってきた信号を損失挿入回路で弱める方法) ・エコーキャンセラ (受信した信号から自分が送信した信号を差し引く方法) がある。 4.2.3 移動通信 (1)移動無線装置の機能分類 移動無線装置の機能 移動側端末装置 送信 変 調 増 幅 送 信 電波 無線機能 受信 受 信 補 償 増 幅 復 調 交 情 報 イ ン タ ー フ ェ ー ス 干渉抑圧 受信 復 調 干渉抑圧 電波 増 幅 補 償 受 信 干渉抑圧 接続制御 送信 送 信 換 接 増 幅 変 調 干渉抑圧 続 交 換 機 端 末 機 器 情 報 (2)移動無線装置の構成 ・送受信機能 ・接続制御機能 ・インターフェース機能 電波 移 動 局 装 置 電波 ・送受信機能 ・接続制御機能 無 線 基 地 局 装 置 交移 換動 局無 装線 置用 ・交換接続機能 交 換 機 電波 無線回線制御局装置 移動無線装置 ・制御接続機能 端 末 機 器 (3)携帯電話の構成 制御部 無線周波数選択, 信号処理方法判定 信号処理部 音声のディジタル化, 圧縮,時間圧縮・伸長 ベースバンド伝送 無線処理部 変調,復調, 電波の発信・受信 (4)ゾーン構成 (1)大ゾーン方式 ・米国における初期のアナログ自動車電話での方式。 ・ひとつの基地局で広大なエリアのサービスを提供できる。 (2)小ゾーン方式(数100 m~数 km) ・同じ周波数を繰返し使えるので,周波数の有効利用を図ることができる。 ・ひとつのゾーンが狭いので,基地局を多く設置する必要がある。 ・移動局が他のゾーンに移っても通信を継続させるチャネル切替が必要。 現在は小ゾーン方式のほうが主流 ① ② ③ ④ 移動局の移行検出 移行先ゾーンの決定 ゾーンの空きチャネル 移動局のチャネル切替 基地局A チャネル切替の手順 ③ 電波の空き状態を問い合わせ 空きがあればハンドオーバを要求 ① 周辺基地局の電波の強さを モニタリングすることで 移動局の移行を検出 基地局B ④ チャネル切替 ② 移行先ゾーン の決定 移動局 移動 ゾーンA 移動局 ゾーンB [用語]ハンドオーバ:移動局がセルから離れそうになると 隣接した基地局がサービスを継続すること cdmaOneのレイク受信 強度 直進波A 反射波B 反射波B 時間 強度 レイク受信機能 直進波A 基地局 cdmaOne ではレイク受信機能により 複数の信号の遅延を修正する機能があるため, スムーズにハンドオーバが行われる。 これをソフトハンドオーバという。 時間 (5)マルチチャネルアクセス ①周波数の有効利用する方法のひとつ。 ②一つの電波を多くの人が共同で使用し,かつ通信したいときに通信を行う。 ① どの移動局も多数の周波数電波を送受信しておく。 ② 通信を行おうとするときに,移動局と無線基地局で自動的に選ぶようにする。 すなわち,ひとつの電波を多くの人が時間を分けて交互に利用する。 (6)携帯電話システムの構成 無線ゾーン 無線ゾーン 基地局 基地局 基地局 基地局 基地局 基地局 光ファイバ 他社携帯電話網 加入者系 移動通信制御局 ホーム ロケーション レジスタ 加入者系 移動通信制御局 共通線信号網 関門中継系 移動通信制御局 関門 ロケーション レジスタ ホームロケーションレジスタ ホームロケーションレジスタ ●加入者のデータを保管しているデータベース ●位置登録エリアごとに携帯電話の所在を管理している。 [呼び出し] ① 携帯電話に電話がかけられると, 位置登録エリアの複数の基地局から一斉呼出し信号が発信される。 [位置登録] ② 携帯電話は電源が入れられると, 最後に登録した位置登録エリアと異なる位置にいることが分かると, システムに対して自動的に位置登録を行う。 ③ 電源が入った状態で位置登録エリアをまたぐと, 携帯電話はシステムに対して自動的に位置登録を行う。 ④ 位置登録情報は,共通信号線網を介して交換される。 関門ロケーションレジスタ 関門ロケーションレジスタ ●外来携帯電話(ビジター)の所在を管理しているデータベース [ローミング:同じ電話番号のまま他システムのサービスを受けること] ① ある事業者Aと携帯電話Cが, 別の事業者Bのサービスエリアに入ってくると, 携帯電話は,自分がいる位置を事業者Aに連絡するよう 事業者Bのシステムに依頼する。 ② 事業者Bのシステムは,事業者Aのシステムに対して, ビジター情報を知らせるとともに関門ロケーションレジスタに登録する。 ③ ビジターが事業者Bのサービスエリアに入っている間, 関門ロケーションレジスタがホームロケーションレジスタとして振舞う。 ④ 他の網からビジターに電話がかかってきて, ビジターに関する問合わせがあると 関門ロケーションレジスタの内容が返される。
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