1 m 望遠鏡を用いた SiO メーザー源の分類 宮原 豪 2004 年 3 月 24 日 概要 ミラ型変光星に代表される長周期脈動変光星の変光において膨張収縮と変光 (光度の時間変化) の 位相関係についてはまだ明確には解明されていない。今後の研究でこれらの星の変光と脈動の関 係について調べて行きたい。しかし、星自身の脈動を直接に観測することは難しい。一方、これ らの天体は盛んに質量放出を行っており、その中心星の周りには星周ガスが存在し、そこからは SiO, H2 O, OH などのメーザー放射が観測される。その中でも SiO メーザーは星の光球表面のす ぐ近く (2 ∼ 4R∗ ) から放射されている (Gonidakis et al. 2002) とされ、これを VERA 望遠鏡を 用いて VLBI 観測することで星周辺のメーザー発生領域の運動を観測でき、この結果より星自体の 変光と質量放出の時間変化の関係を調べることが可能になる。 そこで VERA で VLBI 観測が可能であると思われる明るい SiO メーザー源を抽出して鹿児島 大学の 1m 光赤外線望遠鏡で赤外線観測を開始した。また今回抽出された天体には以前から 1m 望 遠鏡で可視光でのモニター観測がなされていた天体も多く、今回は可視光と赤外線での観測結果、 および赤外天文衛星 (IRAS) のデータを用いて、これらの天体の分類を行った。 また、これを通して、1m 望遠鏡、と VERA の観測結果とを合わせて、長周期変光星での周期光 度関係を求めていくという研究目的に貢献できる。 目次 1 Introduction 1.1 2 Asymptotic Giant Branch . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.1.1 恒星の進化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.1.2 熱パルス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.1.3 脈動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 1.1.4 質量放出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2 Observation and Data Reduction 2.1 5 観測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.1.1 可視光観測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.1.2 赤外線観測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.1.3 IRAS での観測データ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.2 観測天体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.3 データ解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.3.1 一次処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.3.2 測光 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 2.3.3 相対測光 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 2.3.4 絶対測光 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 測光結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 2.4 3 Resuluts and Discussion 3.1 3.2 3.3 13 2色図を用いた分類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.1.1 IRAS 2 色図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.1.2 近赤外線での2色図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 3.1.3 近赤外線と IRAS データ (中間赤外線) での2色図 . . . . . . . . . . . . . . 14 SED による分類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 3.2.1 SED の作成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 3.2.2 黒体放射によるフィッティング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 可視光モニター観測からの結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 4 Summary 23 5 Acknowledgment 26 1 1 Introduction 1.1 Asymptotic Giant Branch 漸近巨星分岐 (Asymptotic Giant Branch:AGB) は太陽の 0.8 倍から 8 倍ほどの中小質量星が 進化末期にたどり着く HR 図上で右上方に位置する星のことである。AGB の段階にある恒星は低 温度の巨星であり、縮退した炭素と酸素の中心核をもっていて、その周りを薄いヘリウム層、水素 を主体とする巨大な外層が覆っている。AGB 天体の特徴として、その多くが脈動変光星であるこ と、質量放出を行っていることが挙げられる。また AGB 星は可視、赤外のみでなく、質量放出に より放出される星周物質の放射する電波でも観測がなされている。 1.1.1 恒星の進化 星の進化はその質量によって異なるが AGB に進化するのは中小質量星に限られるのでそれのみ を記述する。星はその一生の大部分を中心部分で水素を燃焼して輝く主系列星として過ごす。その 結果星の中心部分では燃焼後に残るヘリウムが溜ってくる。そして中心の水素が使いつくされると 水素の燃焼箇所はヘリウムの周りの薄い球殻部分に移動して主系列段階が終了する。核燃料のなく なった核は収縮を始め、圧力のバランスをとるため外層は急激に膨張する。結果として星は高密度 のヘリウム核と低密度で半径の大きな外層部からなる二層構造となる。このとき、HR 図 (図 1) 上 では主系列を離れ赤色巨星分枝 (Red Ginat Branch:RGB) に向けて急速に進化していく。 主系列から RGB に進化する時点で、星の中心部で生成された元素の一部が恒星表面に運ばれ (dredge up)、恒星表面の化学組成を著しく変化させる。この過程は first dredge up と呼ばれる。 太陽と同程度の質量の星では、中心のヘリウム核が縮退し、核はその縮退圧で支えられている。 球殻中の水素の燃焼にともなって中心核のヘリウムの質量は増大し、星はそれとともに半径、光度 が増し、HR 図 (図 1) 上を上へ進化していく。中心のヘリウムの質量が太陽質量の半分程になる と縮退したヘリウムの温度が1億度に達し、ヘリウムの燃焼が始まる。縮退した物質中でのヘリウ ム核反応は加速度的に増大し、核反応の暴走が起こる (ヘリウムフラッシュ)。これにより星は急 激にその内部構造を変化させ、中心でヘリウムが燃焼し、球殻中でも水素が燃焼を進行する星とな る。その結果、HR 図 (図 1) では半径の大きい RGB からより半径の小さい水平分枝 (Horizontal Branch:HB) と呼ばれる位置へジャンプする。この段階の星は表面温度が数千度から1万度程度 である。 中心でヘリウムを燃焼しつくした星はヘリウム燃焼後の灰である炭素、酸素でできた中心核とそ れを取り囲むヘリウムの球殻、さらにその外側を取り囲む水素を主成分とする外層からなる構造の 星になる。この段階の星は炭素、酸素の中心核の周り球殻中でヘリウムの燃焼、さらにその周りで 水素の燃焼を行っている。この段階で星は HR 図 (図 1) 上で2度目の赤色巨星すなわち漸近巨星 分枝 (AGB) を上へあがっていく。 2 図 1: 球状星団 M5 の HR 図 太陽の 8 倍程度の中質量星ではヘリウム核は縮退せず、核の質量が全質量の約1割を超えるとそ れまでほぼ等温だった中心核は収縮を始め、その温度勾配で重力平衡になろうとする。このとき、 球殻を境にして外層部が膨張し、RGB へと進化する。そして、中心部温度が 2 × 108 K を超える とヘリウムの燃焼が始まる。ヘリウム燃焼が始まると対流層が発生する。水素燃焼によりヘリウム 核の質量は増加するが、一方でヘリウムは燃焼により、炭素や酸素に変化するため、ヘリウムの質 量比は減少し、中心温度が上昇する。ヘリウムの核が燃焼しつくされると、炭素と酸素の核が形成 され、その球殻中でヘリウムが燃焼し、さらにその外側の球殻で水素が燃焼する。このとき炭素、 酸素の核は高温のため縮退している。 これまで述べてきたように、一般に炭素と酸素でできた中心核では電子が縮退し、その周りを 薄いヘリウムの球殻、さらにその外側を水素を主体とした巨大な外層で囲まれた低温度の巨星を AGB と呼んでいる。典型的な AGB 天体は太陽の数千倍から数万倍の明るさで輝き、有効温度は 2000∼3500 K 、直径は太陽の数百倍に達する。 一部の質量の大きな星では AGB に進化する過程でも内部物質が星表面に運ばれることがある。 これを second dredge up と呼ぶが全ての AGB で起こっているわけではない。 1.1.2 熱パルス AGB に進化して間もない星は中心核のまわりの薄いヘリウム層で核反応を行い、主なエネル ギー源とする。しかし、ある程度進化すると、水素に富んだ巨大な外層の底に水素が核反応を起 3 こす薄い層状の領域が形成され普段はこの領域での水素燃焼が主なエネルギー源となる。この水 素燃焼で生じたヘリウムは内側にあるヘリウム層に蓄積されていく。そしてヘリウム層の質量が ある一定の値を超えると突発的に激しいヘリウム層での核反応が起こりる。この現象は熱パルス (thermal pulse) とよばれ、進化した AGB 天体にみられる独特の現象である。熱パルスが収まる と再び水素燃焼の落ち着いた状態に戻り、その後は熱パルスと水素燃焼の時期を交互に繰り返す。 熱パルスのピーク直後にヘリウムの球殻中の燃焼で生成された物質の一部が外層の対流により恒 星表面にまで運ばれる (third dredge up)。これにより表面大気の組成が大きく変化する。炭素が 増加し、s-process と呼ばれる中性子を多く含んだ元素が現れるようになる。特にこの過程により 表面大気の炭素が酸素の存在量を上回るようになったとき、典型的な AGB 天体のひとつ炭素星が 形成されると考えられる。 1.1.3 脈動 AGB 天体の特徴として、その多くが長周期の脈動変光星であることが挙げられる。脈動変光星 とは星自身が膨張と収縮を繰り返すことにより変光する星のことである。星の変光の周期とその絶 対光度には経験的な関係が求められており、その星までの距離測定にも使われている。しかし、そ の物理的な解釈も不十分な点が多く、脈動モードも完全には決定されていない。 そもそも脈動とはどのようなものか。恒星は内部が高温高圧のガス球で自分自身の作る重力と内 部の圧力のつりあいによりある一定の大きさに保たれている。仮にこのような星がなんらかの原因 でほんのわずかだけ圧縮されたとすると、星は収縮しているため星自身の重力が強くなっている。 一方、同時に星の内部の圧力も強くなっているため、さらに収縮しようとする重力とそれを跳ね返 そうとする圧力が働く。この場合には通常圧力がまさり、星は元の大きさに戻ろうとして膨張を始 める。しかし膨張には勢いがついていて、元の星の半径を通り過ぎてしまう。すると今度は圧力が 下がり過ぎて重力がまさり、星は収縮に向かう。このように星は膨張と収縮を繰り返し、平衡常態 である元の半径の周りを振動する。しかし、これだけではこの振動はやがて減衰してしまう。いま のところ、星の内部で起こる対流がこの振動を起こし、減衰を防ぐエネルギー源であると考えられ ているが、まだ理論的理解は進んでいない。 1.1.4 質量放出 質量放出 (mass loss) 現象も AGB 天体に普遍的に見られる特徴である。進化した AGB 天体が その外層大気を毎秒 10km 程度の速度で放出する現象である。 AGB の質量放出の特徴として、一般に温度の低い (T ≤ 104 K) 冷たい恒星風であること、膨張 速度が小さいことが挙げられる。AGB 天体は半径が大きく、重力ポテンシャルの井戸が浅いため このような低温で膨張速度の小さな質量放出を可能にしている。 また、質量放出により星の周りに分布したガスは OH, H2 O, SiO などの強い分子線の電波源に なっていて、さらにこうしたガスが冷やされてできた星を取り巻く球殻状のダスト (星周ダスト 4 シェル) からは中間赤外線での熱放射も観測される。この中間赤外線に関しては 1983 年に赤外天 文星 (InfraRed Astronomical Satellite:IRAS) が打ち上げられ、全天サーベイが行われている。 一般に AGB 星は質量放出の状況を変化させながら進化していく。最初は比較的静かな質量放出 を続け、HR 図 (図 1) 上を右上に上がるほど、質量放出率を増大する。そして進化の末期には極め て激しい質量放出を短期間に行う。末期の激しい質量放出を行っている間は、質量放出による多量 のダストにより可視光は遮られ、赤外線星として観測される。そして最終的には水素からなる星の 外層はすべて失われ、惑星状星雲を経て、星の中心部が白色矮星となりその一生を終えていく。 質量放出のメカニズムであるが、脈動に伴う衝撃波、あるいはダストにかかる輻射圧による加速 といった説がある。最近の観測では質量放出は連続的に行われるのではなく、休止期間を挟んで何 度も繰り返されるものであることが示されるようになってきていて、繰り返し起こる不連続な質量 放出と AGB 天体特有の熱パルスとの関連も示唆されている。 2 Observation and Data Reduction 2.1 観測 観測は鹿児島大学農学部入来牧場にある口径 102cm、有効口径 100cm のリッチークレチアン望 遠鏡に可視光 CCD カメラ、赤外線カメラを取り付けて行った。 赤外線での観測は 2003 年 12 月 3 日、4 日に行った。また、可視光での観測は 2002 年 4 月に開 始され、現在も継続中である。 2.1.1 可視光観測 可視光カメラはビットラン社製の BT214E を用いた。ピクセル数は 1024 × 1024 で、鹿児島大 学の 1m 望遠鏡に取り付けた場合、視野 7.’04 × 7.’04 となる。観測には I, R, V の 3band のフィ ルターを用い、適度な S/N となるように数秒から 3 分の露出でおこなった。 CCD カメラでの観測では各素子間での感度差、フィルターの厚み等光学系による周辺減光があ るため、単に天体を撮影しただけの画像は天体からの情報を正しく反映していない。そこで以下の 画像を取得して天体の画像の補正を行った。 object frame : 観測天体の画像 dark frame : シャッターを閉じた状態で撮影した画像 (暗電流とバイアスを補正する。) flat frame : 薄明時の空を撮影した画像 (CCD チップの各素子による感度差、フィルターの厚み のムラを補正する。) 5 2.1.2 赤外線観測 赤外線カメラは Infrared Laboratories 社製の物を用いた。ピクセル数は 512 × 512 で、鹿児 島大学の 1m 望遠鏡に取り付けた場合、視野 5.’5 × 5.’5 となる。赤外の観測では、J, H, K の 3band のフィルターで観測した。赤外線の観測ではカメラのサチュレーションレベルが低いため 長い積分時間がとれないが、今回の観測天体は特に赤外線で明るいため 1 秒の短い積分時間で十 分な S/N を得ることができた。しかし、この観測方法では後に記述する比較星が同一フレーム内 にとれないため、等級が既に与えられている標準星を目的天体とは別に観測し、大気補正等を行っ た。標準星の場合は短い積分時間では十分な S/N が確保できないため、短い積分時間の画像を複 数枚撮影してそれを足し合わせることで適度な S/N を得た。 また赤外線カメラの観測でも可視光観測同様、観測天体の情報を正しく反映していない。原因と しては、各素子間での感度差、フィルターの厚み等の光学系による減光に加えて、大気自体が赤外 線で輝いているためである。赤外の観測では以下の画像を取得し、それを用いて補正を行った。 object frame : 観測天体の画像 dark frame : シャッターを閉じた状態で撮影した画像 (暗電流とバイアスを補正する。) 2.1.3 IRAS での観測データ また、今回は 1983 年に打ち上げられ、中間赤外線で全天のサーベイ観測を行った赤外天文衛星 (InfraRed Astronomical Satellite:IRAS) の PSC(Point Source Catalog) データを用いている。 IRAS は 12, 25, 60, 100 μ m の波長で観測を行っている。この波長域は質量放出で放出されたガ スが冷えてできた球殻状のダスト (星周ダストシェル) から放出される中間赤外線の波長域である。 2.2 観測天体 今回観測天体として VERA で VLBI 観測が可能となるように野辺山 45m 電波望遠鏡の観測カ タログから強度 30Jy 以上の SiO メーザー源を 59 天体抽出した ( 表1)。 IRAS name GCVS name R.A Dec epoch IRAS00007+5524 Y Cas 00 00 46.70 +55 24 08.0 1950 IRAS01037+1219 WX Psc 01 03 48.10 +12 19 51.0 1950 IRAS02143+4404 W And 02 14 22.90 +44 04 27.1 1950 IRAS02168−0312 o Cet 02 16 49.05 −03 12 13.4 1950 IRAS02316+6455 V656 Cas 02 31 41.90 +64 55 53.0 1950 IRAS03507+1115 IK Tau 03 50 43.74 +11 15 31.9 1950 IRAS04387−3819 R Cae 04 38 45.90 −38 19 51.1 1950 6 IRAS name GCVS name R.A Dec epoch IRAS04404−7427 SY Men 04 40 26.90 −74 27 27.0 1950 IRAS04566+5606 TX Cam 04 56 40.60 +56 06 28.0 1950 IRAS05027−2158 T Lep 05 02 43.18 −21 58 18.4 1950 IRAS05073+5248 NV Aur 05 07 19.68 +52 48 53.9 1950 IRAS05151+6312 BW Cam 05 15 07.80 +63 12 49.0 1950 IRAS05367+3736 RU Aur 05 36 42.67 +37 36 37.2 1950 IRAS05388+3200 U Aur 05 38 53.70 +32 00 59.0 1950 IRAS05411+6957 BX Cam 05 41 07.60 +69 57 15.0 1950 IRAS05528+2010 U Ori 05 52 50.94 +20 10 06.2 1950 IRAS06297+4045 no−name 06 29 45.03 +40 45 08.2 1950 IRAS06349−0121 SY Mon 06 34 59.17 −01 21 04.3 1950 IRAS06363+5954 U Lyn 06 36 19.21 +59 54 49.6 1950 IRAS06500+0829 GX Mon 06 50 03.60 +08 29 04.0 1950 IRAS07209−2540 VY Cma 07 20 54.71 −25 40 12.5 1950 IRAS07304−2032 Z Pup 07 30 27.47 −20 32 59.2 1950 IRAS07308+3037 OZ Gem 07 30 49.60 +30 37 08.0 1950 IRAS08138+1152 R Cnc 08 13 48.47 +11 52 52.5 1950 IRAS09235−2347 LP Hya 09 23 35.70 −23 47 37.0 1950 IRAS09425+3444 R Lmi 09 42 34.74 +34 44 34.1 1950 IRAS09429−2148 IW Hya 09 42 56.55 −21 47 54.4 1950 IRAS09448+1139 R Leo 09 44 52.23 +11 39 42.0 1950 IRAS13269−2301 R Hya 13 26 58.49 −23 01 24.5 1950 IRAS13462−2807 W Hya 13 46 12.18 −28 07 06.6 1950 IRAS15193+3132 S Crb 15 19 21.57 +31 32 46.0 1950 IRAS15214−2244 RS Lib 15 21 24.19 −22 44 04.4 1950 IRAS16029−3041 no−name 16 02 59.70 −30 41 30.0 1950 IRAS16081+2511 RU Her 16 08 08.47 +25 12 00.3 1950 IRAS16235+1900 U Her 16 23 34.74 +19 00 18.2 1950 IRAS16534−3030 RR Sco 16 53 26.24 −30 30 07.4 1950 IRAS17080−3215 AH Sco 17 08 02.03 −32 15 52.1 1950 IRAS17119+0859 V2108 Oph 17 11 55.60 +08 59 23.0 1950 IRAS17501−2656 V4201 Sgr 17 50 11.20 −26 56 01.0 1950 IRAS18050−2213 VX Sgr 18 05 02.96 −22 13 55.1 1950 IRAS18348−0526 V437 Sct 18 34 52.47 −05 26 37.1 1950 IRAS18349+1023 V1111 Oph 18 34 57.90 +10 22 55.7 1950 7 IRAS name GCVS name R.A Dec epoch IRAS18387−0423 no−name 18 38 46.20 −04 23 30.0 1950 IRAS18413+1354 V837 Her 18 41 18.90 +13 54 18.0 1950 IRAS18560+0638 V1366 Aql 18 56 03.88 +06 38 49.8 1950 IRAS19039+0809 R Aql 19 03 57.68 +08 09 10.2 1950 IRAS19486+3247 χ Cyg 19 48 38.53 +32 47 11.3 1950 IRAS19536+3237 V468 Cyg 19 53 41.90 +32 37 33.0 1950 IRAS19550−0201 RR Aql 19 55 00.37 −02 01 16.0 1950 IRAS20077−0625 V1300 Aql 20 07 47.40 −06 25 11.0 1950 IRAS20529+3013 UX Cyg 20 53 00.00 +30 13 23.0 1950 IRAS21088+6817 T Cep 21 08 52.74 +68 17 13.0 1950 IRAS21426+1228 TU Peg 21 42 39.20 +12 28 05.0 1950 IRAS21456+6422 RT Cep 21 45 36.00 +64 22 10.0 1950 IRAS23041+1016 R Peg 23 04 08.25 +10 16 22.6 1950 IRAS23412−1533 R Aqr 23 41 14.18 −15 33 42.0 1950 IRAS23425+4338 EY And 23 42 34.00 +43 38 30.0 1950 IRAS23496+6131 V657 Cas 23 49 36.10 +61 31 32.0 1950 IRAS23558+5106 R Cas 23 55 51.69 +51 06 36.9 1950 表 1: 観測天体 今回はこのうち、観測日 2003 年 12 月 3 日、4 日に観測可能であった 38 天体を観測した。 2.3 データ解析 解析にはアメリカの国立光学天文台 (National Optical Astronomy Observatories:NOAO) の IRAF(Image Reduction and Analysis Factory) を用いた。 2.3.1 一次処理 可視光観測データに対する一次処理には目的天体の画像 object frame とは別に取得された dark frame と flat frame を用いる。dark frame は観測終了時に 5 枚から 10 枚ずつ取得されていて、 これらの画像を平均したものをその日の dark frame とした。また、flat frame は薄明時に各観測 バンドにおいて 5 枚から 10 枚取得されていて、これらの各画像から dark frame を引き、中間値 を用いて足し合わせたものを規格化してその日の flat frame とした。 object frame から上で作成した dark frame を引いたものをさらに flat frame で割り、画像の 8 図 2: dark frame を引いた複数の object frame 補正を行った。 赤外線観測データに対する一次処理では可視光と同様の方法で dark frame を作成した。flat の 補正について、近赤外線では大気による放射があり、その大気からの放射は位置によってムラがあ る。その補正を同時に行う必要があるので、object frame を図 2 に示すように位置をずらして数 枚取得し、これらから dark frame をひいたものを中間値を用いて足し合わせることで、あたかも 観測領域の大気放射のみを観測したとみなせる画像が得られる (図 3)。これを観測領域における sky flat とする。 できた sky flat を用いて元の dark frame を引いた object frame を割り、補正を行う。こうし てできた複数枚の object frame を天体の位置を合わせた後に足し合わせることで、積分時間を増 9 図 3: sky flat やした効果が得られ、よりよい S/N を達成できる (図 4)。 図 4: 天体位置を合わせた後に重ね合わせた object frame 多くの画像が重ねられた領域の S/N がよくなっているのがわかる 10 2.3.2 測光 測光には apperture photometry という手法を用いた。これは目的の天体からある半径の円内 の総カウント値を天体の flux 、その円の周りのドーナツ状の領域の総カウント値を sky の flux と して等級を計算する方法である。 2.3.3 相対測光 可視光モニター観測での等級の時間変化は相対測光を用いて求めた。これは観測対象の星 (目的 星) と同一フレーム内に写っている他の星 (比較星) とを比較することによって変光を求める手法で ある。利点として、ひとつの画像が空のごく狭い領域であるため大気の影響や観測機器の影響が目 的星と比較星の間で等しいと仮定でき、無視することができることである。一方、十分に明るく短 い積分時間しかかけられない、すなわち比較星が得られないものに関しては適用できない。この手 法の具体的な内容としては、目的星と複数個の比較星の全ての等級を求める。ここで誤差が大きい ものや比較星が変光しているものは取り除く。目的星の等級と全比較星の等級の平均値との差を相 対等級とする。この相対等級の変動が目的星の変光となる。 2.3.4 絶対測光 今回の観測天体は赤外線で特に明るく、赤外線の観測では積分時間が短いため同一フレーム内に 比較星を得るとができなかった。このため前述の相対測光は用いることができない。また、今回の 研究では星の赤外線でのカラー等を知る必要があった。そこで赤外線でのデータには絶対測光の手 法を用いた。絶対測光とは、目的星と比較星との等級の差を求める相対測光とは異なり、目的星の 等級そのものを求めるものである。 例えば、異なる望遠鏡で観測したデータは、異なる受信機や全く同一ではないフィルターを用い て、場所によって異なる大気状態のもとで観測されているのでそれぞれをそのまま持ち寄っても比 較することができない。そこで観測する波長域が共通となるようにある基準となる測光システムを 設けて、各望遠鏡での観測結果を大気吸収の補正の後にこの測光システムに変換する必要がある。 今回は CIT システムを用いた (Elias et al. 1982)。ここで、K band は Kband 等級に変換した。 手順としてはまず等級が既知である標準星の観測から、その日の大気吸収を求めその吸収分を目 的星の観測データから差し引いて大気吸収を補正した。次に標準星の鹿児島大学 1m 望遠鏡での観 測カラー (異なる観測バンドでの等級の差) と標準星の持つもともとのカラーを比較し、カラー変 換係数を求めて目的星の観測カラーを標準システムでの観測カラーに変換した。 11 2.4 測光結果 以下に今回観測した天体について絶対測光によって求められた近赤外線の各バンドでの実視等級 と IRAS の観測での各波長域での flux、1m 望遠鏡での観測日を示す。 IRASname Jband Hband Kband F12 F25 F60 F100 date 00007+5524 2.103 1.135 0.616 97.6 46.92 7.44 2.3 12/3 01037+1219 5.640 3.020 1.153 1155 967.6 215.2 72.08 12/3 02143+4404 1.272 0.551 0.117 167.4 72.14 13.45 5.61 12/3 02168−0312 −1.755 −2.361 −2.776 4881 2261 300.8 88.44 12/3 02316+6455 3.362 1.947 1.045 481.2 314 45.84 13.43 12/3 03507+1115 0.258 −0.838 −1.561 4634 2377 332.1 102.8 12/3 04387−3819 1.315 0.364 0.008 158.1 67.32 9.47 3.22 12/3 04566+5606 −0.196 0.040 −0.580 1640 634.7 134.3 38.56 12/3 05027−2158 0.706 −0.055 −0.424 157.2 82.1 11.76 5.35 12/3 05073+5248 8.472 5.863 3.514 226.9 274.2 72.39 23.01 12/3 05151+6312 4.590 3.174 2.217 328 172.4 25.58 8.43 12/3 05367+3736 1.803 0.978 0.478 154 80.98 11.62 5.04 12/3 05388+3200 1.265 0.516 0.069 115.5 54.83 11.31 3.98 12/3 05411+6957 4.079 2.457 1.253 801.4 407.5 52.24 15.68 12/3 06297+4045 6.657 4.868 3.536 103 94.44 20.73 5.76 12/3 06349−0121 1.704 0.903 0.423 148.1 71.22 12.57 5.87 12/3 06363+5954 1.858 1.045 0.653 110.4 47.02 6.39 2.55 12/3 06500+0829 2.232 1.015 0.259 601.3 359.7 105.7 40.43 12/3 07209−2540 2.530 1.358 0.111 9919 6651 1453 331.4 12/3 07304−2032 1.734 0.912 0.534 123 61.54 10.79 6.35 12/3 07308+3037 6.009 4.337 2.946 225.9 121.9 13.93 2.73 12/3 08138+1152 −0.023 −0.726 −1.076 292.5 108.7 18.25 5.37 12/3 09425+3444 0.150 −0.598 −1.041 425.9 175.7 25.96 7.9 12/3 09429−2148 3.602 2.145 1.101 605 495.7 71.53 20.14 12/3 18349+1023 2.143 0.953 −0.017 719.7 318.5 65.87 22.7 12/4 18413+1354 3.822 2.479 1.568 225.1 152.3 21.65 6.94 12/4 18560+0638 9.737 6.226 3.427 273.5 331.8 100.9 28.22 12/4 19039+0809 −0.180 −1.029 −1.503 401.7 244.6 139.7 83.06 12/4 19486+3247 −0.469 −1.561 −2.222 1688 459 80.67 17.72 12/4 19536+3237 3.078 1.971 1.379 100.6 62.76 11.5 43.86 12/4 12 IRASname Jband Hband Kband F12 F25 F60 F100 date 19550−0201 1.081 0.219 −0.346 332.2 150.9 27.47 10.13 12/4 20077−0625 4.752 2.529 0.906 1255 1061 215.5 63.65 12/4 20529+3013 2.465 1.461 0.999 171.6 101.4 43.94 19.98 12/3 21088+6817 −1.236 −2.068 −2.436 752.9 266.6 41.61 15.32 12/3 21456+6422 2.272 1.213 0.690 175.3 108.1 16.54 7.15 12/3 23425+4338 2.824 2.026 1.508 72.4 54.18 9.16 3.14 12/3 23496+6131 3.039 1.590 0.697 369 254.7 45.26 11.73 12/3 23558+5106 −0.458 −1.273 −1.792 1341 554.6 102.8 38.85 12/3 表 2: 観測天体の近赤外線での観測等級と IRAS での観測フラックス 3 Resuluts and Discussion 3.1 2色図を用いた分類 まず、観測天体の定性的な性質を知るため、いくつかの2色図を作成し、考察を行う。 3.1.1 IRAS 2 色図 今回の観測天体の IRAS 2色図 (van der Veen and H.J.Habing.1988) 上での分布を図 5 に示し た。この 2 色図は横軸に [12] − [25] = 2.5log(F25 /F12 ) 縦軸に [25] − [60] = 2.5log(F60 /F25 ) と定義される中間赤外線でのカラーを取ったものである。ここで、F12 , F25 , F60 はそれぞれ 12,25,60 μm でのフラックスを示す。IRAS は星周ダストシェルが放射する中間赤外線を観測し ていて、ダストシェルの発達段階が2色図上の分布領域の違いとして表されている。図中の曲線は ダストシェルの発達段階の系列を示している。 この IRAS 2色図をみると、今回の観測天体は多くの領域 (I, II, IIIa, IIIb, VIb, VII 領域) に 分布していて、様々なダストの発達段階の天体、すなわち様々な mass loss rate の天体が含まれて いることを示している。表3に IRAS 2色図で各領域に分類される天体の特徴を示す。 region 天体の特徴 I 星周ダストシェルを持たない変光の見られない Oxygen-rich star 13 region 天体の特徴 II 若い O-rich の星周ダストシェルを持つ変光星 IIIa 発達した O-rich の星周ダストシェルを持つ変光星 IIIb 厚い O-rich の星周ダストシェルを持つ変光星 IV 非常に厚い O-rich の星周ダストシェルを持つ変光星 V 惑星状星雲、または非常に冷たい星周ダストシェルを持つ変光の見られない星 VIa 中心星から遠くに比較的冷たい星周ダストシェルを持つ変光の見られない星 VIb 中心星の近くに比較的高温のダストシェル、遠くに比較的低温のダストシェルを持つ変光星 VII 発達した C-rich の星周ダストシェルを持つ変光星 VIII 系外の銀河や暗い星雲など、AGB 星ではないその他の天体 表 3: IRAS 2色図の各領域における天体の特徴 3.1.2 近赤外線での2色図 今回の鹿児島大学 1m 光・赤外線望遠鏡での観測により求められた近赤外線での2色図を図 6 に 示す。プロット点の違いは IRAS 2色図での分布領域の違いを示している。この2色図は横軸に Hband と Kband の等級の差を、縦軸に Jband と Hband の等級の差を取ったもので右上にい くほど赤い色を示す。この図から赤い色の天体は IRAS の分類で IIIa, IIIb 領域 (発達した厚いダ ストシェルを持つとされる) に分布するものが多い。つまりこれらの天体には質量放出の結果生成 されたダストシェルの影響で星の色が赤化されたものが多いと言える。また赤化が比較的小さな天 体に関して、IRAS 2色図のでは様々な領域に分布するものが多いことがわかる。 3.1.3 近赤外線と IRAS データ (中間赤外線) での2色図 IRAS の観測で得られたカラー [12]-[25] , [25]-[60] と 1m 望遠鏡での観測で得られた近赤外線カ ラー J − H, H − K の 4 つのカラーを用いて、2色図を作成した。これらにより、星周ダストシェ ルと星の赤化との関連をより詳しく見ていく。まず、[12]-[25] カラーを横軸にとり、 J − H, H − K カラーをそれぞれ縦軸に取った2色図 (図 7) をみてみる。IRAS 2色図中の曲線はダストシェルの 発達段階、すなわち、mass loss rate の系列を示しているとされるので、図 7 から mass loss rate が増加するに伴い星周ダストシェルが厚くなり、赤化が大きくなっていくことがみてとれる。 次に、[25]-[60] カラーを横軸にとり、近赤外線でのカラーを縦軸にとった2色図 (図 8) を見てみ ると、mass loss rate の増加に伴う赤化の増大とともに、[25]-[60] カラーが大きくなっても赤化が 大きくならない系列が存在することがわかる。そして、この系列に属する 2 天体 (19039+0809 , 14 図 5: IRAS 2色図 図 6: 近赤外線での2色図 実線で囲まれた領域にはミラ型変光星が分布するとされている。 15 図 7: [12]-[25] カラーを横軸にとり、近赤外線のカラーを縦軸にとった2色図 16 図 8: [25]-[60] カラーを横軸にとり、近赤外線のカラーを縦軸にとった2色図 17 20529+3013) がともに、IRAS 2色図上では VIb 領域に分布する天体であることに注目したい。 IRAS 2色図でこの領域における 60 μm のフラックスの超過は比較的温度の低い星周ダスト シェルの影響であると考えられる。これは過去に mass loss が中断され、内側に物質が供給されな くなったままでダストシェルが膨張したため、中心星からダストシェルまでの距離が大きくなりダ ストシェルの温度が下がったものである。 このような天体のダストシェルは新たなダスト供給のない膨張により密度が小さくなっているた め、赤化量もさほど大きくならないものと考えられる。 3.2 SED による分類 3.2.1 SED の作成 次に天体を分類していくためにスペクトルエネルギー分布 (Spectral Energy Distribution: SED) を作成した。これは各観測波長における強度分布を示したものである。今回は 1m 望遠鏡で 観測された近赤外線の各バンド J(1.25 μm), H(1.65 μm),K(2.2 μm) と IRAS により観測され た 12 μm,25 μm,60 μm,100 μm におけるフラックスを用いた SED を作成した。この際 IRAS の観測で得られたフラックス (Jy)、1m 望遠鏡の観測で得られた等級のそれぞれの単位を放射エネ ルギーの単位 (W m−2 s−1 ) に合わせる必要があった。IRAS のフラックス (Jy) は λ × Fλ (W m−2 s−1 ) = λ × fν (Jy) × 2.998 × 10−12 λ2 を用いて単位変換した。ここで λ は観測波長、Fλ は単位波長当りのフラックス、fν は単位周波 数当りのフラックスである。また、1m 望遠鏡での観測等級は各バンドにおける等級からの放射エ ネルギーの単位への変換係数をもちいて、以下のように変換した。 λ × Fλ (W m−2 s−1 ) = λ × 10−mag/2.5 × X ここで mag は各バンドにおける等級、X は各バンドでの変換係数であり、Jband では 3.15×10−9 、 Hband では 1.14 × 10−9 、Kband では 3.96 × 1010 である。 3.2.2 黒体放射によるフィッティング 次にその天体の状態を知るため、作成された SED に対し黒体放射を用いてフィッティングを 行った。今回の観測天体は質量放出により星周ダストシェルをもつものである。そこで中心星から の放射をダストシェルが一度吸収して、中間赤外線の形で再放射していると仮定し、中心星とダス トシェルの二つの放射を重ね合わせた形の黒体放射でフィッティングを行った。この結果、SED の形状から今回の観測天体を以下の 3 種類に分類した。 1. ダストシェルによる吸収、再放射の大きいもの 16 天体 2. ダストシェルによる吸収、再放射が見られるもの 13 天体 18 3. ダストシェルによる吸収、再放射がほとんど見られないもの 6 天体 これにより赤化の大きい天体ほどダストによる影響が大きい傾向にあることが示された。フィッ ティングの結果として、中心星、ダストシェルの温度はそれぞれおよそ 1000∼2000K,200∼300K が得られた。なお、中心星の温度はダストシェルにより、吸収を受けているため実際より低く見積 もられている。 これらの分類の他に、19039+0809 , 20529+3013 の2天体に関して、中間赤外線の波長域フィッ ティングがうまくいかなかった。これらの2天体は図 8 では [25]-[60] カラーが大きくなっても赤 化が大きくならない系列に属し、IRAS2 色図上では VIb 領域に分布しているものであり、質量放 出の中断の前後にできたダストシェルが2層構造をなしていることが考えられる。そこで、星自身 からの放射、2層のダストシェルからの放射の3つの黒体放射を重ね合わせたものでフッティング を行ったところ、成功し、2層構造のダストシェルを示唆するものとなった。この2つの天体の持 つ中心星から比較的離れた2層目のダストシェルの温度は 58K , 66K という値が得られた。 以上の分類ごとの SED を 図 9∼図 12 に示す。 最後に、04566+5606 では Jband での測光エラーが大きく、明らかに異常な SED となってし まっている。 3.3 可視光モニター観測からの結果 今回抽出された天体の中には、昨年度から鹿児島大学 1m 光赤外線望遠鏡でモニター観測がなさ れていた天体も多い。天体の変光の周期、振幅やパターンがわかれば 2 色図や SED と比較すること でダストの発達状態との関係を調べることが可能となる。そこで今回、モニター観測のデータから 変光周期等を求めようとした。しかし、昨年始めに赤外線カメラが 1m 望遠鏡に導入されてからし ばらくの間、可視光での観測点がないこと、星の変光周期を求めるには観測期間が短いことなどが要 因で脈動周期を求めることができたのは、00007 + 5524, 02316 + 6455, 05367 + 3736, 20529 + 3013 の4天体に限られた。このため可視光でのモニター観測と今回の結果とを統計的に比較し、考察す ることはできなかった。これらの天体のうち、00007 + 5524, 02316 + 6455, 05367 + 3736 は IRAS 2色図で IIIa 領域に属する天体で変光周期はそれぞれ 222.18 day, 508.30 day, 452.68 day であっ た。また、20529 + 3013 は IRAS 2色図上で VIb 領域に属し、変光周期は 619.95 day で IIIa 領 域に属する天体よりも変光周期が長いという結果となった。これは mass loss rate がより大きい と考えられる IIIa 領域の天体で変光周期が短くなっていることを示しているように見えるが、や はり周期を決定できた天体数が少ないため、詳細は議論できない。 簡単な正弦関数でのフッティングにより、変光周期を決定することができた天体の一部を示す (図 13)。可視光でのモニター観測は今後観測を密に行い変光周期、振幅を求めていく。 19 20 図 9: ダストシェルによる吸収、再放射の大きい天体 21 22 図 10: ダストによる吸収、再放射がみられる天体 4 Summary 今回の結果より、SiO メーザー源には様々な進化の段階にある天体があることがわかる。これ らの分類ごとに変光または SiO メーザースポットの脈動パターンがどのように異なってくるかと いう点は非常に興味深い。今後は 1m 望遠鏡による可視光、赤外線でのモニター観測だけでなく、 電波でのモニター観測が必要である。またこれらの長周期の脈動変光星のモニター観測は長い時間 を要するので計画的に観測を進めていく必要がある。 また、今回の反省としては SiO メーザの強度により観測天体を抽出したため統計的に天体を分 類するには天体数が少なかったことが挙げられる。今後は VERA グループと連携を密に取りなが 23 図 11: ダストによる吸収、再放射がほとんどみられない天体 図 12: ダストシェルの2層構造を示唆する天体 24 図 13: 1m 望遠鏡での可視光モニター観測で得られた光度曲線 25 ら最終的には SiO メーザー強度の弱い天体も変光と脈動の関係が求められるようにしていきたい と考える。 5 Acknowledgment 今回の研究を行うにあたり、御指導を行ってくださった面高俊宏教授、今井裕助手に感謝いたし ます。また、藤井高宏氏には観測から解析、その他さまざまなアドバイスをいただき大変感謝して おります。面高研究室のみなさんには観測、研究のみでなく、さまざまな部分で支えていただきま した。今回の研究が多くの方々のご支援によって行うことができたことを心より感謝いたします。 ありがとうございました。 参考文献 [1] 国立天文台編「理科年表 平成 15 年」丸善株式会社 [2] 尾崎 洋二「宇宙科学入門」東京大学出版会 [3] 長谷川 渉「1m 光・赤外線望遠鏡による AGB 天体の測光観測」修士論文 2003 年 [4] 宇田 純郎「標準星の観測による色変換係数の決定」卒業論文 2003 年 [5] 橋本 修「AGB 天体の進化と質量放出」天文月報 1996 年 9 月 [6] 斉尾 英行「星の進化」培風館 [7] 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