学部3年実習

A:赤色巨星構造の解明をめぐって
2008年10月 06日
単位名
大学院:恒星物理学特論II
教官名
中田 好一
授業の内容は下のHPに掲載される。
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
成績は出席とレポートの双方により決めます。
授業タイトル
A: 赤色巨星をめぐって
B: 赤色巨星構造の追究
2008年10月 6日
2008年10月20日
C: ハヤシライン
2008年10月27日
D: スペクトル
2008年11月10日
E: 等級
2008年11月 17日
F: ダスト
2008年12月 1日
G: ダストシェル
2008年12月15日
H: 変光
2008年12月22日
I: 銀河系の赤色巨星
2008年 1月19日
J: 系外銀河のの赤色巨星
2008年 1月26日
A.1.HR図上の赤色巨星
中小質量星(M<8Mo)の進化経路
4
PN
Post-AGB
AGB
(H,He二重殻燃焼)
Log L/Lo
RC
He核燃焼
2
Heフラッシュ
RGB
(H殻燃焼)
SG
He核重力収縮
MS
0
H核燃焼
4
log T
3.5
進化経路と等時線は元来異なる意味を有する。
0年
6Mo
与えられた質量の
星の進化経路
log (L/Lo)
3
100Ro
4Mo
2
1
共通年齢の星集団の
HR図。
= Isochron (等時線)
赤色巨星(Red Giant)
=RGB + AGB
赤
色
巨
星
108年
2Mo
109年
10Ro
1Mo
1010年
0
-1
4.5
1Ro
4.0
3.5
log T
赤色巨星の等時線を進化経路で代用してよいわけ
しかし実際には進化が速いので
赤色巨星の進化が遅かったら
1.6
1.4
1.2
1.06Mo
1.03Mo
1.0Mo
L
L
7Gyr
Te
5
6
等時線と進化経路は全く異なる
Te
10Gyr
等時線と進化経路はよく重なる。
両者は線として重なるだけでなく、線上の分布密度も互いに代用できる。
つまり、等時線上の恒星密度から対応する質量の星の進化速度を導くこ
とができる。またその逆も可能である。その理由については各自考えて
みよ。
では実際はどうかというと、主系列を離れてから赤色巨星を終えるまで案
外長いことがわかる。RGB期とAGB期の長さの比が1.6Mo付近で逆転
するのも面白い。
赤色巨星各ステージへの到達時間と恒星質量の関係(Z=0.019)
3
(5)
2.5
(2)
M/Mo
2
(1) ターンオフ
(2) RGB Base
(3) RGB先端
(4) AGB Base
(5) AGB先端
(1)
1.5
1
0.5
8.7
9
9.3
log t(yr)
9.6
9.9
参考のため、時間をリニアスケールにした絵をつける。
M=2-1.2Moでは主系列を離れてから、赤色巨星に入るまでの期間
が長い。また、M=1.6-3(?)、t=1-2Gyrではレッドクランプの時代
が長いことがわかる。
赤色巨星の各ステージ
3
(5)
2.5
(1)
M/Mo
2
(1) ターンオフ
(2) RGB Base
(3) RGB先端
(4) AGB Base
(5) AGB先端
(2)
1.5
(1)
1
0.5
0
2
4
6
t(Gyr)
8
10
A.2.赤色巨星の出現をめぐって:
(1)Schonberg・Chandrasekhar Limit
背景
1938 Weizscker, 1939 Bethe HHe核反応が星のエネルギー源
1939 Gamow
一様な組成でHが燃え尽きるまで星が進化する。
M.Schonberg, S.Chandrasekhar 1942, Astrophysical Journal 96, 161-172
“ On the evolution of the main-sequence stars”
(1) 核反応が中心部で起こると対流核+外層 (Henrich/Chandrasekhar 1941)
(2) He中心核が形成され、水素殻燃焼開始。
(3) He等温核+H外層の2重組成の構造は?
4 r 3  d ln M r
GM r 
d ln P
U

, V

,
Mr
d ln r
rP
d ln r
d ln P
1
 1
d ln 
N
境界条件は、中心で (U ,V )  (3,0)
(U ,V )  (0, )
表面で 等温核の解と外層の解とは、境界で次
の条件で結ばれなければならない。
Ui
i

Ue
e
,
Vi
i

外層
V
境界
等温核
Ve
e
ここで、μ=電子も含めた平均分子量
0
U
3
主系列終了後の等温核(i)+外層(e)の構造を計算した。μi/μe=2
A
状態方程式は
kT
P
H
その結果、
A点で等温核に外層をフィットするこ
とができなくなる。
M core
M
等温核の大きさがA点に達すると
等温核の存在が不可能となり、核
の収縮による重力エネルギー解放
が始まる。
Rcore
R
境界の温度が上がり水素殻燃焼が
始まると、再び等温核が出現するは
ずだが、既にA点を超えているので
平衡な解は存在しない。
この論文では、速度分布がマクスウェル型の理想気体の場合に等温核の大きさに上
限(Schonberg-Chandrasekar Limit)があることが、等温核と輻射外層との間
でフィットができなくなることから発見された。
(2)等温自己重力系のエントロピーの極大問題
ShonbergとChandrasekharは、星の等温核の質量には上限があることを、外層
と核とのフィッティングが不可能になることから発見した。
20年後の1962年にV.A..Antonov は、質量mの質点の集団、総質量M、が
半径Rの球壁内に閉じ込められている状況を考察した。
彼が提出した問題: 「系の総エネルギーE,総質量M、半径Rを与えたとき、
系はエントロピー極大の状態にたどりつけるか?」
V.A..Antonov (Vestnik Leningradskogo Universiteta,7,135)
“Solution of the problem of stability of stellar system Emden‘s
law and the spherical distribution of velocities“
質点の位置速度分布関数を f(r、v)とし、系のエントロピーSを
S=-∬f(r,v)・ln f(r,v) drdv
で定義する。
(1) 密度ν(r)=∫f(r,v) dv と 運動エネルギー K=m∬ f(r,v)(v2/2)drdv
が一定な系の中でエントロピーSが停留値になる最大にする f(r,v) は、
ラグランジュの未定係数、 λ(r)とμを使い、
δ(S+∫λ(r)ν(r)dr+μK)=0
から求められる。
∬[-ln f(r,v) -1+λ (r)+μ(mv2/2)] δf(r,v) drdv =0
-ln f(r,v) -1+λ (r)+μ(mv2/2)=0
f (r , v)  e
mv 2
 ( r ) 1

2

 r 
2 D  2
3
e
v 2
2D
μまたはDが位置 r に依らな
いことに注意
(2) このときの系の物理諸量は以下のようである。
3
3

S   r  ln 2D   ln r  dr エントロピー
2
2

3D
K  m
 r dr 運
動エネルギー
2
 r 
U  m
 r dr 位置エネルギー
2
E  K  U 全エネルギー
M  m  r dr (3)
全質量
上の系が力学平衡にある条件はボルツマン方程式で与えられる。
f  f
v 

0
r r v
ここに(1)の
f (r , v) 
 r 
2 D  2
3
e
v 2
2D
を代入すると、
 r 
r  v
 r   r  r 
v
 r 
  0 
0
r
r D
r
D r
 r   ce

 r 
D
なので、結局
f (r , v) 
c
2 D 2
3
e

  r  v 2
2D
より、
となる。
しかし、自己重力系では、Φ と ν はポアッソン方程式で結ばれている:
1 d  2 dr  
r
  4 G m r 
2
r dr 
dr 
1 d  2 d ln r  
r
  4 G m r  / D
2
r dr 
dr 
こうして求めた解ν(r)を使うと、球壁に囲まれた球対称な等温自
己重力系は、(1)ν(r=0)≡νo、(2)D、(3)R(球壁半径) の3つ
のパラメターでを指定されることが分かる。
(4)
無次元化
ところで、上で求めた球対称な等温自己重力系のポアソン方程式は次のような
変換で無次元化されることが知られている。
 2

D

r   r0
   0
 r0  4 G m  0  中心数密度
0




1 d  2 d ln 
d








BC
:


0
,

0
at


0
2



 d 
d 
d


半径 R=ξe・r0 とおくと、系のエネルギーE、質量Mなどは


3

    e 
3
3 e
M  4 m 0 r0   2  d , E  MD e e
 
0
   2  d 2 
 0

したがって、系を指定する新しいパラメターの組として、
(1)r0、(2)ν0、(3)ξe
または
(1)M、(2)E、(3) ξe
が可能であることが判る。
(5) 等温平衡球のまわりのエントロピーSの変化
 2

f r , v   2D   r e
32
 v

 2D 
3
3

S   f ln fdrdv  r  ln 2D   ln r  dr を用いてSの変分は
2
2

 S   S1   S 2
  3  D    3
3
 
    ln 2D   ln r  dr
2
 
 2 D   2
 S1    
3 
1
3
 
  
 D   ln 2D   ln r  dr
2
2
 
2 D
3
1
 3 
2
2




 S 2   

D




D



dr
2
2D
D

(1次の変分)
(2次の変分)
ここで、系に M=一定、E=一定、R=一定 という拘束条件をかけると、
ν、D は自由に変わることができなくなる。 この場合、ラグランジュの未定係数
α、β を用いると、Sが上の拘束条件の下で停留値になるのは
(δS+ α δM+ β E)1=0 とあらわされる。
 S     M     E 1
 3  3
 
  
   m  r  D dr
 
 2 D 2
 3
1
3
 
   ln 2D   ln r     m    m  D    m   r  dr
2
2
 
 2
0
であるから、
3
r 
ln 2D  1  ln r     m 
0
2
D
1
D
 m
 m 1
 r   2D  2 e
3
 r 
D
 Ce

 r 
D
であればよい。つまり等温平衡解ν(r)に対し、Sは停留値をとる。
Sが極大かどうかは、δS2<0かどうかで決まる。
全質量M=一定、全エネルギーE=一定 という条件下で2次変分 δS2 はどうなる
だろう?
δS1で見たように、δD、δν、 δΦは互いに独立でなく、 δD、δν、はポテンシャルΦの変
分δΦで表現される。そこで、
r 2 d 
T
という関数T(r)を考える。 δνに対するポアソン方程式
4 mG d r
1 dT
1 d  2 d  から、



である。
 r

4 mG  2
2
r dr
r dr 
dr 
δν(r=0)が有限であるため、T(r0)∝r3なので、
T(0)=0
R
R dT
2
dr  T ( R)  T (0)  0
M=一定の条件から、 M   r  dr  
0
0 dr
従って T(R)=0
つまり、T(r)は、 境界条件 T(0)=T(R)=0 を有する。、
一方、δE=0から、
3
r 
 r 
3

 E  m   D   r   D   r  
 r  
 r dr
2
2
2
2

3

 m   D   r    r  r dr  0
2

2m   r  r dr
したがって、  D  
3
M
  dr  0,  dr    dr  0
結局、δS2はTを用いて下のように表わされる。
2
 R d 
4   T
dr 
2
0
R
1  dT  4 mG T 2 
dr 

S 2  2   2

dr




R
0
2
D r 2 
 r  r   dr 
3D  r 2 r dr
0
δSを無次元量ξ, r=ξ・r0、 ν(r)=η(ξ)・ν0 で表わすと分りやすい。すると、
  e d 
4   T
d 
2
2

0

d
1  dT  T
e
2


  2 d    e
r0  0S 2  2   2
0
      d   
3  2  d
2
0
  e d 
4   T
d 
0

e  d 

d

1 dT
T

  2 d   
 2  T   2
e
0
3  2  d
 d      d   
2
0
数値計算を行うと、ξeが34以下では常にδS2 <0 となり系はエントロピー極大
であるが、 ξe>34、つまりη(ξe)<1/709、の時にはδS2 >0となり得ること
が分かった。
結論:与えられた総質量M,総エネルギーEの下では、無次元半径ξ<34の時
には等温球のエントロピーSが極大で系は安定である。が、 ξ>34になると、
等温状態のエントロピーは極大でなくなり、系は不安定になる。
Antonovの得た「壁に囲まれた自己重力系は半径が大きいと等温状態がエ
ントロピー極大に対応しない」という結果は1968年にLynden-Bell により
熱重力カタストロフィーというセンセーショナルな題名で紹介された。
D. Lynden-Bell, R.Wood 1968, Mon.Not.R.astr.Soc.138.495-525
“ The Gravo-Thermal Catastrophe in Isothermal Spheres and the Onset of
Red-Giant Structure for Stellar Systems “
Antonovがエントロピーの変分δSを直接扱ったのに対して、リンデンベルは
「静的平衡状態の線形系列」 という概念で壁に囲まれた等温自己重力系の
平衡系列を調べた。
(1) 一般に静的平衡状態は系の状態を表す一般化座標 q1、q2、... と
系を規定する外部パラメター μ とのセットで表現される。
安定な平衡状態は与えられた外部パラメターμ=一定の条件下で
ポテンシャルU=U(μ ;q1、q2、.. )が局所的に極小となることに等しい。
(2) (μ、q1、q2、.. )空間に等ポテンシャル面 U(μ ;q1、q2、.. )=Uo
を考える。
等ポテンシャル面U=Uo が平面μ= μ0 と触れる(交差でなく)所が
ポテンシャルが停留値を取る点(μ0 、q10 、q20、.. )である。
図による説明
μ= μo 面でUの等高線
+はUが極値Uoをとる平衡点
q2
μ= μo 面とU=Uo面の接点+は左図
でUの極値+と一致する。
μ
U大
+
+
μ= μo
q2
q1
q1
U= Uo
上の図から分かるように、Uが増加する方向に対してU=一定曲面が出っぱる時
に、μ=一定平面上でUが極小値をとり安定な平衡点となる。
さらに、この接点でU=一定面が出っ張るという性質が変わらない間、パラメター
μが変化していくと、安定な平衡状態の系列が続く。
平衡系列のこのような性質、つまりμ=一定平面とU=一定曲面との接点でのU
面の窪み方、が終了するのは、この系列が他の平衡系列と出会うときか、又はこ
の系列の進む方向が逆向きになるときである。
(3)
ここでは、 U=ーS、 μ= M,E,R、 q=f(r、v) と考える。
簡単のため、パラメターμとしてー(E・R/GM2)、一般化座標 f(r、v)
の代表として中心と壁際の密度比 v1=log(ρE./ρC)を取って
図示すると、
点線はエントロピー
S=一定の線 を表す。
下ほど高エントロピー
で、
簡単に言うと高温で重
力が無視できる状態。
点線の向きが水平になり
μ= -(E・R/GM2)一定
の線に接する点が平衡点
である。
実線は平衡点を結んだ平
衡系列を表す。左下から
A点までは安定な平衡系
列である。
(4)
A点で平衡系列の向きが反転する。(3)で述べたように、安定な平衡系列
はA点で終了する。
アントノフの議論と対応させると、A点まではδS1=0, δS2<0 であり、その先
では平衡点の周りにδS2>0 となる点が存在するということである。
(5) ここまでは壁の性質を断熱壁としていた。しかし、壁が等温壁の場合はエント
ロピーSではなく、ヘルムホルツ自由エネルギー F=E-TSが極小という条
件が安定平衡解を与える。対応するグラフでは、
パラメターとして
μ=GMβ/Rが取られ
ている。前のアントノフ
の表記ではβ=1/D
実線が最初のピークに
達するのはv1=-3.5
である。この点で系の比
熱は正から負に転じる。
なぜなら、


dE
 dE 

Cv  

k

 1
 dT  R
d 

 dE 




  k 2  dE   k 2  dv1  R
 d 

 d 

R



R
 dv1  R
前ページのピークでCvは無限大、その先ではCvは負の無限大となる。
Cvが負の系が等温壁に接していた場合には、熱的な揺らぎが増幅されて不安
定になるのは当然である。この状況は水素燃焼殻(温度がほぼ一定)に囲まれ
たヘリウム核の不安定性を示していて、Shonberg-Chandrasekhar Limit
を表していると考えられる。
このように、恒星の中心核と外層とのフィッティングがうまくいかないことから等
温核の大きさに上限が設定された(Shonberg-Chandrasekhar Limit)の
であるが、実は背後に自己重力系のエントロピー極大という問題が潜んでいた
のである。