Document

規範、国際機関そして
グローバル・ガヴァナンス
―国際行政の編―
ⓒ太田 宏
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
国際行政
社会生産基盤産業:運輸と通信
–
–
国際海運、国際航空、電気通信、そして国際
郵便サービスの分野でのグローバル管理体制
四つの社会的生産基盤産業の国際的展開に関
係する規範及び規則の形成:
(1)法律上の権利;(2)損害の管理;(3)
技術的な相互連結;そして(4)価格と市場占
有率。
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
(1) 国際海運
国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条
約:採択=1982年、効力発生1994年)
– 船舶の公海の自由航行と領海の無害通航権に関する
規範と規則
– 国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)
IMOの目的
• 国際貿易における海運関連の技術的事項の国際協力、海上
の安全、航行の能率、船舶による海上汚染防止
• 世界の自由通商の確保
– IMOの主な活動と管轄事項:
• 「海上のおける人命の安全のための国際条約」
• 1973年の「船舶の汚染の防止のための国際条約(1978年の
議定書によって修正)
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
(2) 国際航空
国際民間航空条約(1944年採択、1947年発効)→1947年に
国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization:
ICAO)の設立。
– ICAOの役割は、
(a)世界を通じて国際民間航空の安全かつ整然たる発展を確
保すること、(b)平和目的のために航空機の設計および運
行の技術を奨励すること、(c)国際民間航空のための航空
路、空港および航空保安施設の発達を奨励すること、(d) 安
全な、正確な、能率的な、且つ、経済的な航空運送に対する
世界の諸国民の要求に応ずること、など→国際航空の原則お
よび発展+国際航空輸送計画や発達の助長。
国 際 航 空 運 送 協 会 ( International Air Transport Association:
IATA)
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
(3) 国際電気通信
国際通信連合(International Telecommunication Union:
ITU)(ITUの前身 は1865年設立の「万国電信連合
(International Telegraph Union)。」
– ITU 加盟国は周波数域や宇宙空間の利用に関する
規則を作成。
– ITUの任務の領域は、
• 技術的領域
• 開発領域
• 政策領域
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
ITUは、2003年現在、189の加盟国と650以上の連合員(科学
工業会社,公的私的オパレーター,放送局,地域・国際機
関)で構成。ITUの1998-1999年度予算は2,270万ドル。
ITUの国際標準の設定と各国の通信関連の企業の利害調整
– より具体的なITU の業務:
•
•
•
•
グローバルネットワークつくり
新しい技術のグローバル電気通信網への統合
無線周波数スペクトル帯と対地静止衛星軌道の割り当て規制
政策助言,技術援助,プロジェクト管理,訓練計画の提供や開
発途上国の電気通信設備や電気通信網を拡大・改善
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
(4) 国際郵便
万国郵便連合(Universal Postal Union: UPU)で
1874年に設立された。189カ国(1999年現在)
– UPU目的:普遍的な郵便サービスを促進
– UPUは郵便の相互交換のために単一の郵便地域を
形成
– UPU:書留や航空便、伝染病および放射性の物質
のように特別の注意を要する郵便物のための規則
の確立
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
四つ分野におけるグローバル・ガヴァナンス
の現代的変容
価格と市場占有率に関する協力関係の弱体
化。
国際的な規制緩和の要求
通信サービスや情報発信方式における技術
的な変化→商業的機会増大→国家と企業が
伝統的な市場の支配を解放。
ネオ・リベラリルの考え方の影響とグロー
バルなレジーム(管理体制)の変容。
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
(5)国境を越える危険
国境を越える病気の伝搬に関する国際的なガ
ヴァナンスの進展=国連の専門機関と非営利団
体(NGO)の協力関係
– 国際な健康問題に関する規制:
• 例:特定の伝染病に関する規制:コレラ、ペスト、黄熱病、
天然痘、チフス、回帰熱の発生の国際的報告と政府と国際的
な運送業者(船舶や航空)の病気のコントロール義務
世界保健機構(World Health Organization)(1948年設立)
• 保健の分野で世界的な指針を与える.
• 加盟国政府と協力してその国の保健計画の立案,管理,評価
を強化する.
• 適切な保健技術,情報,基準を開発・普及
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス
国際的な保健レジームにおける過去十年の変化:
(1) 新たなあるいは再発する疾病の発生→国際保健規制で
該当する疾病の範囲の拡大とより迅速な情報の伝達の必要
性を示唆。
(2) 緊急かつ新種の疾病の発生に対して迅速に対応できる
医療研究機関等の誕生。例:アメリカ疾病コントロールセ
ンター(U.S.Center for Disease Control)
(3) Promed =民間の医師らの報告によるインターネット上
の病気コントロール情報ウェブサイト
+WHO Rumor Diseases Outbreak News
(4) 世銀も公衆衛生戦略開発の最先端的役割を担う。
主要参考文献
国際連合広報局『国際連合の基礎知識』(財)世界の動き社、
1999年。
城山英明「国際行政」土山・渡辺編『グローバル・ガヴァナン
ス』(東京大学出版会、2001年)、146-167頁。
横田洋三編著『国際機構論 補訂版』国際書院、2000年。
Zacher, Mark W. “Uniting Nations: Global Regimes and the United
Nations System,” in Raimo Vayrynen ed., Globalization and Global
Governance. Lanham, MD: Rowman & Littlefield, 1999, pp.47-66.
URL:
–
–
–
–
–
–
LOS: http://www.un.org/Depts/los/index.htm
ICAO: http://www.icao.int/
ITU: http://www.itu.int/
UPU: http://www.upu.int/
ProMed (Program for Monitoring Emerging Diseases) http://www.fas.org/promed/
WHO’s Disease Outbreak News: http://www.who.int/csr/don/en/
規範、国際機関そして
グローバル・ガヴァナンス
―安全保障の編 その1―軍縮―
ⓒ太田 宏
軍縮の現状とGGの課題:
核軍縮を中心に
国際機関と軍縮
– 国連と軍縮
– ジュネーブ軍縮委員会・軍縮会議
核兵器削減の現状と課題
核不拡散体制
国際機関と軍縮
国連と軍縮
– 国連は軍縮より集団安全保障を優先
→国連は総会の最初の決議にもとづいて、1946年に
原子力委員会を設置
– 安保理は1947年に通常軍備委員会を設置し、軍備及
び兵力の早期の全面的規制と縮小を議論。
⇒国連軍縮委員会(DC)( 1952年)
– 1978年(非同盟諸国のイニシアティブ)→国連軍縮特
別総会の開催。
• 第2回( 1982年)及び第3回( 88年)の軍縮特別総会
– 国連総会における軍縮に関する決議
国際機関と軍縮-2
ジュネーブ軍縮委員会・軍縮会議
– 10カ国軍縮委員が設置(1960年)
⇒18カ国軍縮委員会(ENDC)が1962年より活動を開始→
核実験禁止や核不拡散の交渉
⇒軍縮委員会会議(CCD)と変更し( 1969年) 、1975年
には31カ国に。1960年代~70年代の交渉→核不拡散
条約、海底核兵器禁止条約、生物兵器禁止条約
⇒1978年の国連軍縮総会開催時、40カ国体制→軍縮委
員会(CD)
⇒1984年に軍縮会議(CD)(至現在)
– 唯一の多数国間軍縮交渉機関
– 化学兵器禁止条約を作成し( 1993年)、94年から96年に包括
的核実験禁止条約の交渉を行った。
核兵器削減の現状と課題-1
1945年8月6日、広島に投下されたウラン型原爆は約
15キロトン⇒死者は7万8000人、負傷者8万4000人
(当時の広島の人口は約30万人)
8月9日の長崎中心部に投下されたプルトニウム型原爆
は約20キロトン⇒死者は2万7000人、負傷者4万1000
人(当時の長崎の人口=約8万7000人)
行方不明者や長期的な放射線の影響による多数の犠牲
者
現在の核兵器の威力はメガトン(キロトンの1000倍)級
現在、世界には約16,000の核兵器が未だに配備されて
いる。
核兵器削減の現状と課題-2
冷戦時の米・ソ二国間削減交渉
– 1960年代末以降の戦略兵器削減交渉(Strategic Arms
Limitation Talks: SALT)
• SALT Iの成果=1972年の対弾道ミサイル(ABM) 条約とSALT I暫
定協定
– ABM条約と相互確証破壊(MAD)理論
– SALT I 暫定協定(戦略攻撃兵器の制限に関する一定の措置に関す
る暫定協定):大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル
(SLBM)の現状での凍結。
• SALT II 交渉を通じて1979年には戦略兵器制限条約を締結し、大
陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略
爆撃機に上限を設定(未発効)。
核兵器削減の現状と課題-3
(冷戦時の米・ソ二国間削減交渉-2)
– 1980年代: 戦略兵器削減交渉(Strategic Arms
Reduction Talks: START)と中距離核戦力(INF)
に関する交渉
• 1981年のレーガン政権誕生:ソ連を「悪の帝国」と呼び、
米ソ関係険悪化→1983年11月米国が欧州に新たな中
距離ミサイル配備⇒核兵器削減交渉中断
• 1985年のゴルバチョフ登場以来二国間の核軍縮進展
→1987年中距離核戦略(INF)条約締結
– 目的:ソ連のSS20や米国のパーシングII ミサイルなど
の、中距離ミサイルや準中距離ミサイル廃棄、ミサイ
ル発射基、支援構造物や支援装置の廃棄
– 同条約の完全履行→条約発効後から3年間ですべて
のミサイルシステムを廃棄。
核兵器削減の現状と課題-4
冷戦後の米・ロ二国間削減交渉
– 1989年12月、マルタ首脳会議で米ソの首脳に
よる冷戦の終結宣言
START I :
1991年7月、START I 条約締結。米ソの
核兵器の実質的な削減開始。
– 1991年12月25日ソ連邦崩壊
– 1992年5月、START I 条約のリスボン議定書(94
年12月発効)に、米国、ロシア、ウクライナ、カザフスタン、
ベラルーシが調印→ウクライナ、カザフスタン、ベラルー
シは非核兵器国として核不拡散条約への加入に合意。
核兵器削減の現状と課題-4-(2)
START II:
– 1992年6月、ブッシュ大統領(父)とエリツィン大統領、START II
条約の枠組み合意→1993年両国はSTARTII (戦略攻撃兵器の
一層の削減および制限に関する)条約に署名。
←米国は1996年にSTARTII 条約を批准(1997年の関連した議定
書は未批准)
⇔ロシアは全体を2000年に批准したが、関連文書の米国の批准
をSTARTII 条約の発効条件とした。
現ブッシュ(第43代大統領)政権は、 START
プロセスを放棄し、新たな戦略攻撃力削減
(SORT)条約の枠組みを追求
∴STARTII条約は未発効
核兵器削減の現状と課題-5
G.W.ブッシュ政権は、2001年12月13日にABM
条約からの脱退を表明し、同条約は2002年6月
13日に失効。
戦略的攻撃力の削減(Strategic Offensive
Reductions: SORT) 条約
– 2002年5月24日に,米ロ間で締結した条約
• 両国の戦略核弾頭の配備数を2012年までに1700~2200
発まで削減することを定める。
• 核弾頭及びその運搬手段(ICBM、SLBM及びそれらのMIRV
弾頭,戦略爆撃機等)の廃棄義務は無く,構成も両国各々が
決定する。削減対象とした核弾頭の保管も可能。
表-1:STARTI、 IIおよびSORT条約の規定内容比較
START I
START II
SORT
1,600
規定なし
規定なし
6,000
(みなし数)
3,000~
3,500
1,700~
2,200
4,900
規定なし
規定なし
規定なし
0
規定なし
重ICBM弾頭数
1,540
0
規定なし
移動式ICBM弾頭数
1,100
規定なし
規定なし
規定なし
1,700 ~
1,750
規定なし
核弾頭搭載長射程SLCM
880
規定なし
規定なし
バックファイアー
500
規定なし
規定なし
条約名
戦略兵器運搬手段の配備総数
核弾頭・爆弾の配備総数
弾道ミサイル弾頭数
MIRV化ICBM弾頭数
SLBM弾頭数
黒沢満編著『新版 軍縮問題入門』東信堂、2005年、36頁(筆者による文言等若干の修正あり)。
各兵器削減に関する今後の課題
SORT条約に関する課題
– 実戦配備の戦略核弾頭数の上限(1700~
2200)の更なる削減
– 戦略兵器運搬手段から撤去される核弾頭の
取り扱いやICBM、SLBM、重爆撃機などの戦略
兵器運搬手段に関する規定
非戦略核兵器の規制及び削減
表-2: 米国とロシアの核戦力
(2006年1月現在)
米国
ロシア
運搬手段
配備核弾頭
運搬手段
配備核弾頭
72
1,955
78
872
ICBM
500
1,050
512
1,808
SLBM
336
2,016
192
672
908
5,021
782
3,352
戦略爆撃機
小計
500
非戦略核弾頭
合計
a
908
5,521a
2,330b
782
5,682c
この他、非戦略核戦略(射程距離2500km)のミサイル320発と予備の核弾頭が215個、非配備の備蓄核弾頭
が4,220個以上で全体では約10,000の備蓄核弾頭がある。
b この中には戦略的防衛核弾頭600個が含まれている。
c ロシアには総計16,000個の核弾頭が備蓄されているが、そのうち約10,100個が廃棄処分待ち。
出典:Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI), SIPRI Yearbook 2006: Armaments,
Disarmament and International Security (Oxford: Oxford University Press, 2006):639-653.
表-3: 英国、フランス、中国の核戦力
(2006年1月現在)
英国
フランス
運搬手段 核弾頭
運搬手段 核弾頭
84
航空機
60
地上ミサ
イル
SLBM
48
185
48
288
合計
48
185
132
348
中国
運搬手段 核弾頭
20a
~40
79b
79
12
12
Attack(Qian-5, Others) の配備数不明なため算定していない。
b DF-31, DF-31Aの配備数不明なため、算定していない。
C 非戦略核兵器は配備数不明なため、算定していない。
出典:SIPRI, SIPRI Yearbook 2006: 653-9.
a
~130c
核兵器の不拡散体制
核兵器不拡散条約(NPT): 1968年採択、1970年発効
– 核不拡散条約は核不拡散義務の一部を検証するため、
IAEAの保障措置を受けることを非核兵器国に義務付けて
いる(第3条)。
• 国際原子力機関(IAEA)の保障措置:原子力の平和利用が核兵
器の製造に転用されないようにするための保障措置。
• 1997年のIAEAの追加議定書[「包括的保障措置協定の追加議定
書モデル」(INFCIRC/540)]
原子力協力グループ(NSG)のガイドライン
– 1970年代からNSGがガイドラインを作成して管理を実施。
– 冷戦後は汎用品を管理の対象としている。
協力的脅威削減(CTR):
NPTの基本構造
核兵器国と非核兵器国の区分
核兵器国と非核兵器国の定義(第9条第3項)
核兵器国と非核兵器国の義務:
– 核兵器国の義務(第一条)、
– 非核兵器国の義務:
• 核兵器その他の核爆発装置をいかなる者からも受領しないこと
である(第二条)。
• 非核兵器国は核兵器その他の核爆発装置を製造しないことを約
束している(第二条)。
• IAEA(国際原子力機関)の保障措置を受ける義務(第3条)。 .
原子力の平和利用(第4条)
核軍縮交渉義務と非核兵器国の安全保証
– 核兵器国は核軍縮の誠実な交渉の義務を負う(第6条)。
– 非核兵器国に対する消極的安全保証
再検討会議(Review Conference):
核不拡散条約の無期限延長と核軍縮
核不拡散条約の再検討・延長会議(1995年4~5月)
– 無期限延長が投票なしで決定
不拡散と核軍縮の原則と目標
• NPT条約運用のために再検討会議(or 運用検討会議)(第8条第3
項)を5年ごとに開催
– 核不拡散と核軍縮の原則と目標に関する文書:普遍性、核不拡散、核
軍縮、非核兵器地帯、安全保証、保障措置、原子力の平和利用
– 核軍縮に関する具体的措置
• 軍縮会議(CD)における包括的核実験禁止条約(CTBT)の交渉を
1996年内に完成すること;
• 兵器用核分裂性物質の生産禁止に関する条約(カットオフ条約)の
交渉を即時に開始し、早期に締結すること;
• 核兵器の廃絶という究極的目標を持ち、核兵器を世界的に削減す
るために組織的で漸進的な努力を追及すること。
再検討会議-2
2000年の再検討会議
最終文書
– 第1条と第2条:条約違反や普遍性の問題の検討
– 第3条に関しては包括的保障措置および追加議定書の重要性の
強調
– 第4条に関しては不拡散と平和利用の関係を検討
– 第6条に関しては核軍縮の具体的措置を勧告
– 第7条に関して非核国の安全保証と地域の問題を検討し、
– 再検討プロセスの改善を勧告
*新アジェンダ連合(NAC)が中心的な役割を果たす。
構成国は、ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュー
ジーランド、南アフリカ、スウェーデンの7カ国。
再検討会議-3
2000年の検討会議(つづき)
核軍縮に関する13項目
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
CTBTの早期発効を達成するための署名と批准の重要性と緊急性
CTBT発効までの核実験モラトリアム
カットオフ条約を5年以内に締結するための軍縮会議での交渉の必要性
核軍縮を取り扱う任務をもつ補助機関の軍縮会議での設置の必要性
核軍縮への不可逆性原則の適用
核兵器の全廃を達成するという核兵器国による明確な約束
STARTII条約の早期発効と完全履行、できるだけ早期のSTARTIII条約の締
結、ABM条約の維持・強化
8. 米ロ・IAEA間の三者イニシアティブの完成と実施
9. すべての核兵器国による核軍縮へと導く措置
10. 余剰核分裂性物質をIAEA検証の下に置くための取り決め
11. 軍縮努力の究極的目標としての全面完全軍縮
12. 核軍縮の進展に関する定期報告
13. 核軍縮の検証能力の一層の開発
NPTの実効性
NPT条約の実効性と違反問題
イラク:1971年以来核不拡散条約の締約国
– IAEAの保障措置を定期的に受け、IAEAはイラク
に関しては問題なしと報告。
– 1991年の湾岸戦争の終結採択の国連安全保障
理事会決議687は、イラクの生物・化学兵器の廃
棄と核兵器の取得防止を規定し、そのために国
連イラク特別委員会(UNSCOM)を設置。
– 2003年イラク戦争の後、米国は大量破壊兵器の
捜査を行うが、核兵器開発は1991年以来行なわ
れていないことが判明。
NPTの実効性-2
リビア:
– 米英との秘密交渉の末、2003年12月に核兵器開発計画をすべて
放棄すること、IAEA追加議定書に署名することに合意
イランの核疑惑
– 2003年10月に英仏独による民生用核技術の提供と引き換えに、
イランは濃縮の停止と追加議定書への署名に合意。
– その後、ウランの濃縮の再開→平和利用だと主張するイランと、
核兵器開発であるとする米国の立場が対立したまま。
– 2006年7月:安保理がイランのウラン濃縮関連活動の全面停止を
求める決議採択。
9月:イランのアフマドネジャド大統領がアナン国連事務総
長との会談でウラン濃縮活動の停止を拒否。
NPTの実効性と違反問題-3
北朝鮮(DPRK)
1985年にNPTに加入。IAEAとの保障措置協定は締結せず。
冷戦の終結後、米国が韓国に配備した核兵器を撤去→北朝
鮮1992年に保障措置協定を締結。
– 北朝鮮の報告に基づいて、IAEAが特定査察を実施し、報告と大きな
違いを発見。+米国の偵察衛星からの情報
→IAEA事務局長は1993年2月に北朝鮮に対して特別査察を要請
⇔北朝鮮は拒否するとともに、3月12日にはNPTからの脱退を通告。→
米朝高官協議により、北朝鮮の脱退一時停止
1994年10月21日の米朝は以下の枠組み合意に署名:
① 両国は、北朝鮮の黒鉛減速型原子炉を軽水炉施設に転換することに協力す
る;
② 両国は、政治的経済的関係の完全な正常化に向けて動く;
③ 両国は、非核の朝鮮半島における平和と安全のために協力する;
④ 両国は、国際不拡散体制の強化のために協力する。
NPT条約の実効性と違反問題-4
北朝鮮(DPRK)-2
2002年10月に米国は北朝鮮がウラン濃縮計画を維持していると発表し、
米朝関係が悪化。
– 北朝鮮は停止中の再処理を再開し、2003年にはNPTからの脱退を再び表明。
→米国と北朝鮮のほかに日本、韓国、中国、ロシアを含めた六者協議が2003年1
月(1回)、2004年(2回)に開催される。が、核問題は解決せず。
– 2004年2月パキスタンのカーン博士が中心の「核の闇市場」発覚
2005年2月には北朝鮮は「核兵器を製造した」と表明。
– 9月の第4回六カ国協議(六者協議)で、北朝鮮がすべての核兵器と核計画を
放棄する代わりに他国が北朝鮮への軽水炉提供を議論することに合意した
「共同声明」を採択。
2006年
– 7月5日北朝鮮が長距離弾道ミサイル「テポドン2」と短中距離ミサイル「スカッ
ド」と「ノドン」計7発を発射
– 10月9日北朝鮮は「核実験に成功」と発表
– 10月14日国連安全保障理事会が北朝鮮制裁決議採択
2007年
– 2月8日六カ国協議再開
– 10月3日六カ国協議の共同文書:北朝鮮による寧辺(ニョンビョン)の核施設の
無力化や全核計画の申告という核放棄の「二段階」の措置を明記
NPTの普遍性と今後の課題
NPTの普遍性
冷戦の終結に伴い、米ソの支配体制に反対していた中国
(92年3月)フランス(同年8月)がNPTに加盟。
1993年、南アフリカが過去に核保有をしていたことを告白し
てNPTに加盟
南米で核開発競争を行なっていたブラジルとアルゼンチン
がその計画を放棄し、IAEAの包括的保障措置を受諾
戦略核兵器を保有していたウクライナ、カザフスタン、ベラ
ルーシが1994年までに非核兵器国として核不拡散条約に加
入し、そこに存在する核兵器をすべてロシアに移送した。
リビアは、2003年12月に核兵器開発計画をすべて放棄する
こと、IAEA追加議定書に署名することに合意
NPTの普遍性と今後の課題-2
今後の課題
インド、イスラエル、パキスタンの未加盟問題
包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准
兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の
制定
2005年の再検討会議の失敗の教訓を生かすこと。
イランの核疑惑
北朝鮮の核問題
日本の核武装論と世界の核軍縮問題