7章 不確実性の処理 期待値、感度分析、情報の価値 09/05/28 1 7.1 期待値分析 (expected value) 7.2 感度分析 (sensitivity analysis) 7.3 情報と準オプション価値 (value of information) 09/05/28 2 7.1 期待値分析 n=(独立な)事象の数 C =事象iにおける費用 i B=事象iにおける便益 i NB B C:事象 iにおける純便益 i i i NB ( NB1 , NB2 ,, NBn ) p =事象iの発生する確率 i E[ NB] p NB p NB p NB:期待純便益 1 09/05/28 1 2 2 n n 3 小惑星衝突に対する地球防衛プロジェクト 防災基盤型社会資本整備 表7.1 偶発事象 確率 大規模 (直 中規模(直径 径 1km 以上 の)小惑星と 20m 以上 1km 未満の)小惑 衝突 星と衝突 0.001 行動 0.004 中規模(直径 20m) 以 上 の 小 惑星と衝突し ない 0.995 便益 0.001×25000+0.004×5000-60 費用 期待純便益 前進基地 25000 5000 0 60 -15 近地球基地 20000 4000 0 20 16 0 0 0 0 0 防衛なし (注意) 大規模小惑星と衝突するときは中規模小惑星と衝突しない。 09/05/28 4 予防接種事業分析のための意思決定ツリー □=意思決定分岐(node) ○ =「(自然による)無作為選択(random selection)の分岐」 =「機会ノード(chance node)」 V =予防接種事業 Vaccination Program NV =予防接種事業なし 予防接種をすると 2 年間にわたりその効果が続くとする。 インフルエンザは、ある年に流行すると、次の年は免疫が残るので流行 しない。 09/05/28 5 意思決定ツリー <2年目> <1年目> V 1 0 NV 09/05/28 2 6 上側の大枝:予防接種事業 C a =直接的な行政費(administration cost) C s =有害な副作用の費用(costs of adverse side effects) Pt =第 t 年にインフルエンザが流行(epidemic)する確率 1 Pt =第 t 年にインフルエンザが流行しない確率 C e|v =予防接種しているときにインフルエンザが流行したときの費用 インフルエンザが流行しなかったときの費用=ゼロ 09/05/28 7 <2年目> 意思決定ツリー <1年目> P1 Ce/v 免疫が残る 2年間にわ たる効果 1-P1 NV P2 Ce/v 1-P2 0 V Ca+Cs 1 0 0 NV 09/05/28 2 8 下側の大枝:予防接種事業なし Ce|nv =予防接種していないときにインフルエンザが流行したときの費用 09/05/28 9 <2年目> 意思決定ツリー <1年目> P1 P2 Ce/v Ce/v 1-P2 0 1-P1 V 1-P2 1 Ca+Cs 0 0 V 0 P2 Ce/v Ca+Cs NV 1-P1 2 0 1-P2 0 NV P1 P2 Ce/nv 09/05/28 免疫が残る Ce/nv 10 意思決定ツリーの解の求め方 将来から現在に向かって(後ろ向きに)解いて行く 「分岐2」における意思決定: P2 Ce|nv =予防接種事業を開始しなかったときの期待費用 Ca Cs P2 Ce|v =予防接種事業を開始したときの期待費用(全体) 流行確率 仮定: Ca Cs P2 (Ce|nv Ce|v ) 検討すべきケースを絞るための仮定 この仮定の下では「分岐2」おける最適な意思決定 =「予防接種事業なし NV 」 流行の有無にかかわらず 生じる予防接種の費用 09/05/28 流行したときの予防接種 による費用軽減の便益 11 <2年目> 意思決定ツリー <1年目> P1 P2 Ce/v P2Ce/v 1-P2 0 1-P1 V Ca+Cs P2Ce/v /(1+d) 1-P2 1 0 0 V Ca+Cs +P2Ce/v Ca+Cs P2Ce/nv /(1+d) NV Ce/v 1-P1 0 P2 Ce/v 2 0 1-P2 0 NV P2Ce/nv P1 P2 Ce/nv 09/05/28 Ce/nv 仮定 : Ca+Cs >P2(Ce/nv - Ce/v) 12 「分岐0」における意思決定: E[Cv ] =予防接種事業を開始したときに生ずる期待費用の現在価値 E[C nv ] =予防接種事業を開始しないときに生ずる期待費用の現在価値 d =割引率 とすれば、 E[Cv ] Ca Cs P1Ce|v (1 P1 )P2Ce|v /(1 d ) E[Cnv ] P1Ce|nv (1 P1 )P2Ce|nv /(1 d ) である。 E[C nv ] - E[Cv ] =予防接種事業における期待純便益の現在価値 09/05/28 13 <2年目> 意思決定ツリー <1年目> P1 P2 Ce/v P2Ce/v E[Cv] 1-P2 0 1-P1 V Ca+Cs P2Ce/v /(1+d) 1-P2 1 0 0 V Ca+Cs +P2Ce/v Ca+Cs P2Ce/nv /(1+d) NV 1-P1 0 P2 Ce/v 2 0 E[Cnv] 1-P2 0 NV P2Ce/nv P1 P2 Ce/nv 09/05/28 Ce/v Ce/nv 仮定 : Ca+Cs >P2(Ce/nv - Ce/v) 14 7.2 感度分析 感度分析の3つの方法: ① 部分的感度分析 partial sensitivity analysis ② 最悪・最善ケース分析 worst- and best-case analysis ③ モンテカルロ感度分析 Monte Carlo sensitivity analysis 09/05/28 15 ① 部分的感度分析 感度分析を綿密に行うためには、重要度の高い想定に 関する部分的な限界効果を考察する必要がある。 しかしながら、 ここには「鶏が先か卵が先か」という問題が存在する。 つまり、 重要度の高い想定を見分けること自体、感度分析を行 う前にはできない場合が多い。 なぜなら、 想定の重要度は、想定の範囲や想定の変化に対する 純便益の限界的な反応に左右されるからである。 09/05/28 16 ② 最悪・最善ケース分析 情報が異なる選択に導く潜在的な可能性が大 ⇒ 意思決定における情報の価値は大 最悪ケースの純便益がプラス ⇒ 最悪ケースの情報的価値が大 最善ケースの純便益がマイナス ⇒ 最善ケースの情報的価値が大 最悪ケースの分析は次のようなバイアスに対するチェックになる。 • • 認識上の限界(cognitive limitations) 楽観的予測を生み出す官僚主義的誘因 (bureaucratic incentives) 純便益がパラメーターの非線形関数 ⇒ 注意が必要 09/05/28 17 ③ モンテカルロ感度分析 <モンテカルロ分析の3段階> 1. 重要度の高いパラメーターについての確率分布を指定 2. 各パラメーターの確率分布から無作為抽出を行って得た パラメーターの値の組を用いて、純便益の実現値を計算 3. 2段階の作業を何回も繰り返して、純便益の実現値を大 量に作り出す。それらの実現値の平均値が純便益の期 待値の推定値になる。また、ヒストグラムを作成すること で純便益の分布の特徴を捉える。 09/05/28 18 7.3 情報と準オプション価値 科学者が次のような探査装置の開発を提案したとする。 その装置は 1. 「大型小惑星と地球が必ず衝突する」ということを 0.001の確率で教えてくれる。 2. 「大型小惑星と地球は絶対衝突しない」ということ を0.999の確率で教えてくれる。 というものである。 このような「情報の価値」は次のようにしても求められる。 09/05/28 19 表7.2 ゲーム1 =「大型小惑星と地球が必ず衝突する」という探査 結果がもたらされた場合のゲーム ゲーム2 =「大型小惑星と地球が絶対衝突しない」という探 査結果がもたらされた場合のゲーム 09/05/28 20 表 7.2 ゲーム1 費 便益 ゲーム2 期待純便益 便益 期待純便益 用 偶 大規模小惑星 中規模小惑星 中規模以上と 発 と衝突 と衝突 衝突なし 0.004/0.999 0.995/0.999 事 象 確率 1 60 前進基地 25000 24940 5000 0 -39.98 20 近地球基地 20000 19980 4000 0 -3.98 0 0 0 0 0 0 09/05/28 防衛なし 21 表7.2における期待純便益 =0.001×24940+0.999×0=24.94 情報の価値 =「表7.2における期待純便益」 -「表7.1における期待純便益」 =24.94-16 =8.94 である。 したがって、探査装置が8.94(兆ドル)以下であれば、 この装置に投資する価値があることになる。 09/05/28 22 準オプション価値 意思決定に関係するより良い情報が将来入手可能で あれば、意思決定を遅らせるほうが賢明かもしれない。 準オプション価値 =取り消し不可能な意思決定を遅らせることによって得 られる情報の期待価値 適切な意思決定問題の定式化 ⇒ 準オプション価値の計算 ⇒ 正確な期待純便益の計算 09/05/28 23 開発に関連した準オプション価値 「開発」のタイミングは第 1 期と第 2 期の 2 回ある。 FD =全体の開発(Full Development) LD =限定的な開発(Limited Development) ND =開発せず(No Development) また、開発は不可逆的であり「ND→LD→FD」と いう方向しか移行できない。 09/05/28 24 第1期 第2期 FD LD ND 09/05/28 25 事象「低価値(Low Value)」 =将来世代が自然保護区域の保存に現世代と同じ価値をおく。 事象「高価値(High Value)」 =将来世代が自然保護区域の保存に現世代より高い価値をおく。 p =事象「低価値」の発生確率 1 p =事象「高価値」の発生確率 09/05/28 26 第1期 第2期 FDを選択すると第2期 ← 不可逆性 に選択の余地はない。 p 1-p FD p LD 1-p ND p 1-p 09/05/28 27 各期の純便益を「開発せず(ND)」を基準に測る。 「低価値」の下で、 B F =「 ND → FD 」で生じる純便益 BL =「 ND → LD 」で生じる純便益 B F - BL =「 LD → FD 」で生じる純便益 「高価値」の下で、 C F =「 ND → FD 」で生じる純便益 C L =「 ND → LD 」で生じる純便益 (C F C L ) =「 LD → FD 」で生じる純便益 仮定: BF BL 0 C L C F 09/05/28 28 第1期 第2期 BF - BL BF FD p -CF LD 1-p FD p 0 BL FD LD 0 1-p ND -(CF - CL) -CL LD FD LD p 0 ND 1-p 0 FD LD BF>BL>0>-CL>-CF BF BL 0 -CF -CL ND 09/05/28 0 29 外生的学習(exogenous learning)のケース • 1期経過後に、どちらの事象が発生したかを確実に知るこ とができるとする。 E[ FD] pBF (1 p)CF E[ LD] p[ BL ( BF BL ) /(1 d )] (1 p)CL E[ ND] pBF /(1 d ) p( BF BL ) /(1 d ) =LDを選択することで得られる準オプション価値 QOV =NDを選択することで得られる準オプション価値 pBF /(1 d ) 09/05/28 30 7.1 期待値分析 (expected value) 7.2 感度分析 (sensitivity analysis) 7.3 情報と準オプション価値 (value of information) 09/05/28 31
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