歯科受診患者の喫煙状況および喫煙状況別の傷病構成の検討 ○小島美樹1, 埴岡 隆2, 尾崎哲則3, 青山 旬4 1大阪大学大学院歯学研究科予防歯科学教室 2福岡歯科大学口腔保健学講座 3日本大学歯学部医療人間科学教室 4栃木県立衛生大学校歯科技術学部 背景および目的 歯科禁煙指導・支援の普及は、わが国の禁煙試行 者や禁煙成功者を増加させるかもしれない。 喫煙継続者は、禁煙者や非喫煙者に比べて歯科医 療費が高いとされる。 本研究では、歯科受診患者の喫煙状況、禁煙準備 状況および傷病状況を調査することにより、歯科に おける禁煙指導・支援の需要と医療需要への喫煙の 影響について検討することを目的とした。 対象および方法 対象者 •日本歯科医師会会員名簿より無作為抽出 •1022歯科診療所とその受診患者 •歯科医師および患者対象の調査依頼 患者調査 •協力歯科診療所数:799施設(78%) •調査日:2008年2月の施設ごとに指定した1日 •患者調査票の回収状況:753施設、患者14383人(回収率74%) 分析データ •喫煙状況、禁煙意志の実態:719施設、患者11370人 •傷病構成:715施設、11275人 歯科診療所受診患者調査 日本歯科医師会会員 調査依頼歯科診療所数 歯科診療所数 753施設 1,022施設 患者数 14,383人 調査協力 喫煙状況 性年齢不明 1172人 20歳未満 196人 受診患者1人で 20歳未満 1施設 調査日に協力歯科診療所を受診した 20歳以上の患者数 13,015人 初再診調査漏れ 33施設 (小児歯科2施設) 初再診不明 1624人 禁煙準備状況不明 21人 (傷病名不明 95人) (傷病名調査漏れ) (4施設) 分析対象 歯科診療所数 719施設 (715施設) 患者数 11,370人 (11,275人) 患者調査の傷病名 主傷病 分類 1.齲蝕症(C) C 2.歯髄炎(Pul),歯髄の壊疽、変性(Pu壊疽) Pul 3.歯根膜炎(Per) Per 4.歯槽(根)膿漏(AA),歯根嚢胞(WZ) AA,WZ 5.歯肉炎(G,単G,増G,潰G,壊G,肥G) G 6.慢性歯周炎(P1,P2) P1,2 7.慢性歯周炎(P3) P3 8.智歯周囲炎(Perico),歯肉膿瘍(GA),その他の歯周疾患 Perico,GA 10.じょく瘡性潰瘍(Dul),口内炎等 Dul 12.歯の補てつ MT 9.その他の歯及び支持組織の障害,11.その他の顎及び口腔の疾患,13.歯科矯正 ,14.検査・健康診断(査)及びその他の保健サービス,15.外因による損傷 その他 現在喫煙者の割合 ─国民健康栄養調査との比較─ 年齢 20-29歳 男性 歯科患者 一般a) 50.8 47.5 P値b) 0.222 女性 歯科患者 一般a) 25.1 16.7 P値b) <0.001 30-39歳 57.1 55.6 0.490 21.4 17.2 0.001 40-49歳 53.7 49.1 0.024 19.2 17.9 0.322 50-59歳 49.5 42.3 <0.001 14.0 9.3 <0.001 60-69歳 34.8 32.8 0.136 8.5 7.3 0.087 70歳以上 20.2 18.6 0.162 4.0 3.7 0.667 全体 40.4 39.4 0.147 13.7 11.0 <0.001 a)平成19年国民健康栄養調査 b)Z検定 禁煙ステージの分布(性・年齢別) 男 女 男 女 a)χ2検定 20-39歳 40-59歳 60歳以上 20-39歳 40-59歳 60歳以上 禁煙ステージ 前熟考期 熟考期 準備期 28.9 64.2 6.9 19.0 71.1 9.9 29.6 29.3 27.9 18.0 19.1 20.8 64.8 65.3 62.5 71.1 73.4 66.5 5.6 5.5 9.6 10.9 7.5 12.7 P値a) <0.001 0.022 0.289 喫煙状況別の傷病分類構成割合(20-30代) 男性 100 20 │ 29 歳 女性 C (%) 100 (%) 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 現喫煙 元喫煙 非喫煙 Pul Per AA,WZ 現喫煙 元喫煙 非喫煙 G P1,2 100 30 │ 39 歳 (%) (%) 100 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 現喫煙 元喫煙 非喫煙 P3 Perico,GA Dul 現喫煙 元喫煙 非喫煙 Per 現喫煙19% > 非喫煙12% (P=0.005) MT 現喫煙 9% > 非喫煙 5% (P=0.012) MT その他 喫煙状況別の傷病分類構成割合(40-50代) 男性 100 40 │ 49 歳 女性 (%) 100 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 現喫煙 元喫煙 非喫煙 P3 現喫煙 7% > 非喫煙 3% (P=0.076) MT 現喫煙14% > 非喫煙 6% (P=0.008) 100 100 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 現喫煙 元喫煙 非喫煙 Pul Per AA,WZ 現喫煙 元喫煙 非喫煙 Perico,GA 現喫煙 4% > 非喫煙 1% (P=0.012) (%) 50 │ 59 歳 C (%) (%) G P1,2 P3 Perico,GA Dul MT 現喫煙 元喫煙 非喫煙 その他 喫煙状況別の傷病分類構成割合(60代以上) 男性 100 60 │ 69 歳 女性 (%) 100 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 現喫煙 元喫煙 非喫煙 C (%) Pul Per AA,WZ 現喫煙 元喫煙 非喫煙 P3 現喫煙16% > 非喫煙10% (P=0.021) MT 現喫煙29% > 非喫煙20% (P=0.003) (%) 70 歳 以 上 P1,2 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 現喫煙 P3 (%) 100 100 元喫煙 非喫煙 G Perico,GA Dul MT 現喫煙 元喫煙 非喫煙 その他 考察および結論 歯科には、一般の喫煙率とほぼ同じ割合の喫煙者が受 診していることがわかった。特に、若い世代の女性喫煙 者への禁煙指導の有効な機会となることが示唆された。 壮年期以降の喫煙者の歯周病の重症化と補綴治療の繰 り返しは、歯科の超過医療費の増加とQOL低下につなが ると推測される。 歯科喫煙患者への禁煙指導により早期の歯の喪失を防 止することは、QOLの維持と超過医療費の減少に貢献す ると考えられる。 (本研究は、厚生労働科学研究補助金、循環器疾患等生活習慣病対 策総合研究事業「各種禁煙対策の経済影響に関する研究(研究代表 者:高橋裕子)」の助成を受けた。)
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