健常労働者集団における喫煙とCKD発症の関連性 ー6 年

健常労働者集団における喫煙と
CKD発症の関連性
―6年間の縦断的観察
登坂由香、石崎昌夫、山田裕一(金沢医科大学衛生学)
田畑正司(石川県予防医学協会)
宮尾克(名古屋大学院情報科学)
CKD (Chronic Kidney Disease): 腎障害(蛋白尿など)もしく
はGFR低下が3か月以上持続する状態
背景
1. 1990年代から喫煙が糖尿病腎症や糸球体腎炎を
悪化させることが知られ、2000年以降には、腎
疾患をもたない健常人での蛋白尿出現や腎機能
悪化にも喫煙が関与することが報告されてきた。
2. 一方、人工透析や移植を必要とする末期腎障害
患者が世界中で急増している。その予備軍とさ
れるCKD患者が日本には1300万人以上いると推
計されている。
3. CKDを職域における健康問題として重視し、そ
の予防対策を強化するために、喫煙のCKD発症
リスクを明らかにする必要がある。
目的
1. 従前の疫学研究では必ずしも一致した結果が得
られていない、健常者集団での喫煙によるCKD
発症リスクを、長期間、大規模集団での観察に
よって明らかにする。
2. 喫煙によるCKD発症リスクへの禁煙の効果を明
らかにする。
3. 喫煙者のGFRについて経年変化を観察し、職域
集団でしばしば認められている喫煙者での高い
GFRの意義を明らかにする。
対象および方法
1. 2003年と2009年に、職場定期健康診断で血清クレ
アチニンを検査した男性4,367人と女性3,327人。
2. 蛋白尿は試験紙法で判定。GFRは日本腎臓学会の提
唱した推算式 (eGFR) による。
3. 2003年に腎疾患既往、糖尿病、Ⅲ度高血圧および
CKD症状(蛋白尿陽性もしくはeGFRが
60mL/min/1.73m2未満)を示した者を除く男性4,121
人、女性2,877人について、2009年の蛋白尿出現81
人(男60、女21)あるいはeGFR低下799人(男443、
女356)への関連要因をロジスティック回帰分析に
より検討した。
4. 6年間のeGFR変化量への関連要因を一般化線形モデ
ルにより検討した。
喫煙区分とCKD(StageI~III)出現
Stage I
Stage II
Stage III
喫煙区分 ♂性 1,806
No. 0 (0.0)
No. (%) 14 (0.8) No. (%)
非喫煙
231 (12.8)
No. (%)♀
2,570
0 (0.0)
10 (0.4)
321 (12.5)
♂
禁煙
(12.8)
喫煙
(8.2)
合計
(10.7)
♀
459
1
78
1,856
0
♀ ♂ 229
4,121
1
♂
(0.2)
(0.0)
4 (0.2)
(0.4)
5 (0.1)
4
0
(0.9)
59
(0.0)
26 (1.4)
8 (10.2)
153
2 44(1.0)(1.1)
27443(11.8)
♀ 2,570
1 (<0.1)
12 (0.4)
356 (12.4)
[喫煙区分] 非喫煙:2003、2009とも非喫煙、喫煙:2009喫煙、禁
煙:2003喫煙、2009非喫煙.
[CKDのStage]Ⅰ:腎障害があるが、GFR 90mL/min/1.73m2以上.Ⅱ:腎
障害があり、GFR 60~89.9 mL/min/1.73m2.Ⅲ:GFR 30~59.9
mL/min/1.73m2.
蛋白尿、低GFR出現への関連要
因蛋白尿
低GFR
要因
性(男/女)
p 0.866
OR(0.57~1.98)
(95%CI)
1.06
p
0.859
OR (95%CI)
1.02 (0.84~1.24)
年齢(才)
1.02 (0.99~1.05) 0.134
1.08 (1.07~1.09)
<0.001
BMI(4区分)
1.82 (1.27~2.59) 0.001
1.37 (1.19~1.57)
<0.001
血圧(5区分)
1.33 (1.10~1.62)
0.004
0.97 (0.90~1.04)
0.347
IGR
2.35 (1.19~4.65) 0.014
0.84 (0.59~1.18)
0.312
hChol
1.46 (0.90~2.36) 0.130
1.06 (0.90~1.27) 0.480
lHDLc
1.33 (0.64~2.79) 0.449
0.92 (0.65~1.29) 0.625
hTG
1.20 (0.68~2.13) 0.533
1.44 (1.14~1.80)
0.002
喫煙(対非喫煙)
0.002
0.006
6年間のeGFRの変化
2003
2009
△2003-2009
性
喫煙区分
N
M (SD)
M
(SD)
♂
非喫煙
1,806 81.7 (12.7)
71.2 (10.4)
10.4 (9.3)
M
(SD)
禁煙
459 83.9 (12.5) # 71.6 (10.1)
12.3 (9.2)#
喫煙
1,856 84.6 (13.1) # 74.2 (11.1) #
10.4 (9.2)$
♀
非喫煙
禁煙
喫煙
2,554 84.0 (14.6)
73.0 (12.1)
78
87.9 (14.7)# 75.9 (13.4)
229
85.1 (13.6)
73.4 (11.6)
10.9 (11.6)
12.0 (11.3)
11.6 (10.8)
eGFR:mL/min/1.73m2
#:非喫煙者に対する有意差(p<0.05).$:禁煙者に対する有意差
(p<0.05).
蛋白尿出現とeGFR変化量の関係
蛋白尿非出現
白尿出現
性
喫煙区分
♂
非喫煙
M
(1.21) (SE)
♀
禁煙
喫煙
非喫煙
禁煙
喫煙
N
M
(SE)
1,788 10.45 (0.22)
454
1,819
2,554
78
224
12,27
10.32
10.95
11.61
11.24
(0.43)
(0.22)
(0.23)
(1.31)
(13.6)
蛋
18
N
13.86
5 15.68 (1.26)
37 13.73 (1.20)
16 13.61 (2.51)
―
5 13.90 (2.58)
eGFR:mL/min/1.73m2
男女ともeGFRへの喫煙区分と蛋白尿出現の交互作用は有意でない.
男性でのeGFR変化量に有意に関連する因子:喫煙区分、蛋白尿出
現、年齢、飲酒レベル.女性でのeGFR変化量に有意に関連する因
子:BMIレベル、IGR.
結論
1. 中年の健常者を主体とする労働者集団において、
喫煙者での蛋白尿出現リスクは非喫煙者の約2倍
であり、禁煙によりそれを低下できることが明ら
かとなった。
2. 一方、GFR低下への喫煙の影響は明らかにならな
かった。
3. 蛋白尿出現者でのGFR低下は非出現者に比して大
きいので、蛋白尿出現リスクの高い喫煙者のGFR
が将来より大きく低下する可能性はあろう。
4. 本研究においては、推算式によるGFR値の妥当性
の限界、6年間の観察期間が短すぎる可能性など
も考えられ、さらなる研究が必要である。