「日本語探求」の活動で育む 思考力と自律性 東洋大学 三宅和子 はじめに -現状の把握ー 大学のユニバーサル化 ↓ (大学院が専門家育成) ↓ 学部レベル=人間教育 (社会のなかで自分の力を十分に発揮し、自 己実現が社会貢献につながる人間を育てる) 大学での人間教育 アカデミック・リテラシー教育を通して行なわれる ・問題発見・解決能力 ・自律学習能力 ・批判的思考能力 ・自己表現能力 ・他者との協力・学習能力 大学でのアカデミック・リテラシー教育 に必要な3要素 1.個々の教員の活動 =individual effort & practice 2.スキルズ教育と専門科目の協働・協力活動 =collaboration, cooperation 3.大学教育全体のなかでの位置づけ =official recognition in the entire university 1.個々の教員の活動 individual effort & practice 実践は積み上げられつつある (多様な状況下での多様な取り組み) →集約が必要 2.スキルズ教育と専門教育の 協働・協力活動 collaboration, cooperation 初年次教育・表現法科目の専門家 + 専門課程の教員 →実践例はいまだ多くはない 例.大島(2005) 3.大学教育全体のなかでの位置づけ official recognition in the entire university 現状 初年次教育、導入教育などの重要性の認識 vs. 大学全体での認識の不足 専門教育を含む全学的な取組みの必要性 <1~2年次中心のアカデミック・リテラシー教育 東洋大学の例 2005年> 全学レベル ★綜合Ⅰ~Ⅳ 4キャンパス遠隔授業 社会に生きる知恵 現代社会と「共生」を考える 文学部レベル ☆学習支援講座(選択) ☆学習支援講座(選択) 日本語表現 IT活用学習 日本文学文化学科レベル ☆学習支援講座(選択) 教員試験のための古典 ★基礎演習(1年必修) 『演習・卒論の手引き』作成 (★は三宅担当 2004年度まで「現代日本語表現」も担当) アカデミック・リテラシー教育の今後に向けて 初年次教育、導入教育から全学的な教育へ ↓ ・専門教員による教育実践の必要性 ・専門教員の教育実践力育成の必要性 ・専門教育とスキルズ教育の共同、融合 専門教育における アカデミック・リテラシー教育の実践例 「日本語探求」の活動ではぐくむ思考力と自律性 <携帯メールの研究を通して> 演習での携帯メールの研究(2003~) 学生たちの交わす携帯メールをデータとして集め分析 <テーマ例> 方言の役割、男女差、絵文字の役割、謝罪行動、 スピーチレベル・シフト、トピック展開 など *新しいメディアを通して、従来からの言語研究のテーマが 新鮮な感覚で追求できる <専門の学習目的> 身近なことばから、日本語の特徴、ことばが人間 関係に果たす役割、ことばと社会の関係に気づき、 興味をもったことがらを探求する データ例.【勧誘】(親しい女友達同士) 女1 08:10 おはぁ もしくみこたちが無理でもお昼一緒 に食べない ?? 女2 08:12 そぉね 昨日の続きをゆっくり聞こうぢゃないの 女1 08:14 ありがとぅ 今メールがきてさぁ…マジ泣きたくなって きたぁ 1限とかやる気なくなるよぉ 女1 08:17 末期だゎ思い詰めすぎちゃダメょ後でね~ ” 活動の種類 47名のゼミ生(3~4年生)をどう動かし、学びを起こさせるか <グループ作業> データ収集 テーマ探し 分析法検討 分析 中間発表(レジュメ・口頭発表) 発表へのコメント ・レジュメについて ・発表の仕方について ・内容について ・その他 <個人作業> 中間発表後の分析 レポート提出 発表の反省 報告書 クラスの活動として大事にしていること ・ 学生にとって意味のある活動であること • 自分自身の疑問や興味を大事にすること • グループを作り、互いに協力・学ぶこと • 責任感と自負心をもつこと • クラスの外でも活動すること 演習の掲示板での学生の発言 1 無題 投稿者:ま 投稿日:2005/05/24(Tue) 18:51 今週の土曜までにまた案を練り直さなければという で、とても焦りを感じています。不安もいっぱいです。 しかし、これはきっと全て終わったあとにものすごい 達成感だと思います。 それを思って頑張ります!!! 演習の掲示板での学生の発言 2 無題 投稿者:白 投稿日:2005/05/25(Wed) 00:17 そうですね、確かにこのゼミは達成感が大きそうで す。データ整理が終わってから研究の開始が楽しみ ですね♪ 充実した結果にするためにも、みなさんがんばり ましょうー 演習の掲示板での学生の発言 3 初投稿♪投稿者:さや 投稿日:2005/06/03(Fri23:43) 初めて書き込みします 私は今年から仲間入りしたのですが、今までい たゼミとは違い、ゼミ生が授業以外で交流できる 場所があるって素敵ですよね 学生は、やる気がないわけではない やる気の出る活動を求めている ↓ モティベーションを持続させるテーマ設定と 活動の場を提供する必要がある ↓ 自覚と責任感 学びの喜び ・・・このことは学校教育全般への認識と関わる 教育の新旧パラダイム比較 古いパラダイム • • 知識観 学生観 • • 授業の目的 人間関係 • 学習環境 • 授業の前提 専門家はみな教えることができ る 教員から学生に転移するもの 受身的な器(教員の知識で満 たされる) 学生を分類・選別すること 学生間、教員と学生の間で非人 間的な関係 競争的、・個別的な学習 D.W.ジョンソン(2001)より 新しいパラダイム 教員と学生がともに構築するもの 自分の知識を積極的に構成・発見 ・生成する主体 学生の能力と才能を開発すること 学生間、教員と学生の間で人間的 なかかわりあい クラスでは協同学習、教員間では 協同チーム 教えることは複雑で相当な訓練を 要する ・・・別のいい方をすれば 今の教育に求められているのは • 学校知 ではなく 市民的リテラシー • 脱文脈的・記号操作的・認知主義的な 教育ではなく 参加型・文脈的・包括的な教育 (=人間的・市民的成熟の土台を形成する) 岩川直樹(2005)より 参考文献 岩川直樹(2005)「誤読/誤用されるPISA報告」『世界』 5 月号 岩波書店 ジョンソン・D.W. ほか(2001)『学生参加型の大学授業-協 働学習への実践ガイド』関田一彦監訳 玉川大学出版部 三宅和子(2004)「携帯メールをテーマとした研究と教育-演 習クラスで試みたことー」『日本語学報告 2』三宅和子 研究室 東洋大学 大島弥生(2005)「大学初年次の言語表現科目における協 働の可能性―チーム・ティーチングとピア・レスポンスを 取り入れたコースの試みー」『大学教育学会誌』 27‐1
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