PowerPoint プレゼンテーション

田名内科クリニック健康講話
2006.4.25.(火) 19:00~
身近な人の自殺を防ぐために
-うつ病の理解と対応-
城間クリニック
自殺の現状 1
わが国では自殺が深刻な社会問題になっています
自殺死亡者は3万人を突破し、40~50歳代の働き盛りが約4割を占めています
(人)
35000
《わが国の年間自殺総数の推移》
30000
全体
25000
男
20000
15000
10000
女
5000
0
1950
1960
1970
1980
1990
2000 (年)
自殺未遂者は少なく見積もって既遂者の10倍存在すると推定される。
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
自殺の現状 2
世界中では約100万人が自殺で命を失い、深刻な問題です
わが国の自殺率は、人口10万人あたり約24と高い自殺率を示しています
《各国との自殺率の比較(対人口10万人)》
リトアニア
ロシア
エストニア
ラトビア
ハンガリー
フィンランド
スイス
フランス
オーストリア
デンマーク
ドイツ
スウェーデン
ノルウェー
オランダ
イタリア
スペイン
イギリス
ギリシャ
アメリカ
日本
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
わが国では中高年男性に自殺者が多い
村山賢一,染谷俊幸:臨床精神薬理 (2004) 7: 1119-1125
•性・年齢(5歳階級)別にみた死因順位(男性) -平成15年-
•年齢階級
•第1位
•第2位
•第3位
•死因
•割合(%)
•死因
•割合(%)
•死因
•割合(%)
•15~19
•不慮の事故
•43.5
•自殺
•21.5
•悪性新生物
•8.6
•20~24
•自殺
•36.4
•不慮の事故
•31.5
•悪性新生物
•7.5
•25~29
•自殺
•41.6
•不慮の事故
•23.8
•心疾患
•8.3
•30~34
•自殺
•38.9
•不慮の事故
•18.0
•心疾患
•11.0
•35~39
•自殺
•32.8
•悪性新生物
•13.4
•心疾患
•12.9
•40~44
•自殺
•27.1
•悪性新生物
•19.1
•心疾患
•13.2
•45~49
•悪性新生物
•27.0
•自殺
•19.7
•心疾患
•13.7
•50~54
•悪性新生物
•34.3
•心疾患
•14.1
•自殺
•13.8
•55~59
•悪性新生物
•40.7
•心疾患
•13.6
•自殺
•10.1
•性・年齢(5歳階級)別にみた死因順位(女性) -平成15年-
•第1位
•第2位
•第3位
•年齢階級
•死因
•割合(%)
•死因
•割合(%)
•死因
•割合(%)
•10~14
•悪性新生物
•24.6
•不慮の事故
•20.0
•自殺
•11.2
•15~19
•自殺
•28.1
•不慮の事故
•25.6
•悪性新生物
•12.6
•20~24
•自殺
•38.0
•不慮の事故
•19.6
•悪性新生物
•12.8
•25~29
•自殺
•38.9
•悪性新生物
•17.0
•不慮の事故
•12.0
•30~34
•自殺
•30.2
•悪性新生物
•28.2
•不慮の事故
•8.8
•35~39
•悪性新生物
•38.1
•自殺
•21.5
•心疾患
•7.4
•40~44
•悪性新生物
•47.9
•自殺
•13.3
•心疾患
•7.8
•45~49
•悪性新生物
•52.8
•自殺
•9.2
•脳血管疾患
•9.0
沖縄県における自殺者数の年次推移
沖縄県と全国の男女別自殺率の年次推移
(人口10万対)
沖縄県の年齢(5歳階級)別自殺者数 -平成15年-
60
人
総数350人
総人口134万人
52 52
41
40
3900人に1人
33
28 28
23
20
19
15
16 15
10
1
10
15
7
3
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
4 3
90
歳
都道府県別
自殺者数
(対人口10万人)
• 都道府県
名
• 順位
• 十万人当た
り自殺によ • 死亡数
る死者数
(人)
(人)
• 秋 田
県
• 1
• 44.60
• 519
• 青 森
県
• 2
• 39.44
• 575
• 岩 手
県
• 3
• 37.81
• 528
• 新 潟
県
• 4
• 34.02
• 833
• 富 山
県
• 5
• 32.10
• 356
• 沖 縄
県
• 24
• 26.08
• 350
• 東 京
都
• 38
• 22.73
• 2,741
自殺危険因子
自殺の危険がどの程度迫っているかをスクリーニングすることが必要です
《自殺の危険因子》
自殺未遂歴
自殺未遂は最も重要な危険因子
自殺未遂の状況、方法、意図、周囲からの反応などを検討
精神疾患の既往
気分障害(うつ病)、統合失調症(精神分裂病)、
パーソナリティ障害、アルコール依存症、薬物乱用
サポートの不足
未婚、離婚、配偶者との死別、職場での孤立
性別
自殺既遂者:男>女 自殺未遂者:女>男
年齢
年齢が高くなるとともに自殺率も上昇
喪失体験
経済的損失、地位の失墜、病気や怪我、業績不振、予想外の失敗
他者の死の影響
精神的に重要なつながりのあった人が突然不幸な形で死亡
事故傾性
事故を防ぐのに必要な措置を不注意にも取らない。
慢性疾患にたいする予防や医学的な助言を無視する。
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
自殺の危険因子
様々な身体疾患に罹患した患者の自殺率が高いとされています
非専門医であっても、うつ病の対する正しい知識を持つ必要があります
《身体疾患と自殺の危機》
診
断
癌
頭頚部
その他の部位
HIV陽性、AIDS
SLE
脊髄損傷
ハンチントン病
多発性硬化症
消化性潰瘍
一般人口との比較(倍)
11.4
1.8
6.6
4.3
3.8
2.9
2.4
2.1
参考:
●うつ病の生涯有病率
男性5~12% 女性10~25%
●時点有病率
男性2~3% 女性5~9%
●重症の身体疾患の患者に
うつ病が合併する率
20~25%
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
自殺既遂者の大多数は、精神疾患の既往の診断に該当しました
自殺予防のために、うつ病を早期発見と適切な治療が重要です
WHO 2000年
《自殺と精神疾患(15,629例)》
診断なし 2.0%
他の第1軸診断 5.5%
適応障害 2.3%
不安障害・身体表現性障害
4.8%
他の精神障害
4.1%
気分障害
30.2%
器質性精神障害
6.3%
パーソナリティ障害
13.0%
統合失調症
14.1%
物質関連障害
(アルコール依存症を含む)
17.6%
自殺した人の大多数は、気分障害、統合失調症などの精神疾患の既往の診断に該当
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
自殺予防は医療従事者全体・国民全体の問題
自殺の危険の高い人は、しばしば身体症状を訴えて他科を受診しています
自殺した人の半数以上は、自殺の1ヵ月以内に何らかの身体症状を訴えて精神
科以外の医療機関を受診している。
わが国の過労自殺に関する民事訴訟
・大多数の例でうつ病、約半数は何らかの身体的な問題を訴えている。
・内科をはじめとする様々な科を受診していた。
・精神科を受診していた人は約1割に過ぎなかった。
自殺予防には、うつ病をはじめとする精神疾患を正しく理解し、
一般診療科や精神科への継続的な受診と
適切な治療が重要です
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
うつ病について
日本におけるうつ病の有病率
地域住民におけるうつ病の頻度(DSM-Ⅳ診断基準による「大うつ病」)
生涯有病率
10
12ヵ月期間有病率
8.8
8
8.3
8.0
7.2
6
6.5
5.6
4
2
4.2
3.7
2.7
2.2
2.2
1.5
0
全体
3.9
3.6
1.1
女性
男性
性別
20~34歳
35~44歳
0.7
45~54歳
55~64歳
65歳以上
年齢
調査方法:岡山市、長崎市および鹿児島県の2市町の20歳以上の住民1664人を対象に面接調査を実施
川上憲人他:心の健康問題と対策基盤の実態に関する研究、平成14年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業総括研究報告書
一般診療科におけるうつ病の割合
一般診療科を受診する患者さんの約10人に1人がうつ病でした。
【精神障害に関する国際共同研究】
一般診療科における精神障害患者の医療状況
(ICD-10診断による)
何らかのICD診断
うつ病
パニック障害
広場恐怖
神経衰弱
心気症
全般性不安障害
アルコール依存
身体化障害
全参加国
(n=5,447/25,916)
21.1%
10.5 %
1.1%
1.5%
5.5%
0.8%
7.9%
2.7%
2.8%
長 崎
(n=336/1,555)
14.8%
3.0%
0.2%
0.0%
3.4%
0.4%
5.0%
6.2%
0.1%
中根允文:精神神経学雑誌 97(7):471, 1995
うつ症状を呈する患者の初診診療科
うつ症状を呈する患者さんは身体症状を訴え、内科に受診します。
整形外科2.8%
耳鼻科3.8%
心療内科3.8%
その他1%
精神科5.6%
脳外科8.4%
内科64.7%
婦人科9.5%
対象:
心療内科のプライマリ・ケアにおける初診
患者330例のうつ病実態調査。 self-rating
depression scale(SDS)45以上を示した患
者161例の初診診療科
三木 治:心身医学 42(9): 586, 2002
うつ病の身体症状
症状
睡眠障害
出現率(%)
82~100
疲労・倦怠感
54~92
食欲不振
53~94
頭痛・頭重感
48~89
性欲減退
61~78
便秘・下痢
42~76
体重減少
58~74
川上富美郎:Clin Neurosci 15(9):1020, 1997より改変
うつ病にみられる症状
患者さんは、自分の症状をうまく伝えられません。
は患者さん自ら訴えた%
うつ病の主要な症状
26%
睡眠障害
身
体
症
状
94%
58%
疲労感・倦怠感
89%
22%
首・肩のコリ
84%
23%
頭重・頭痛
精
神
症
状
は医師が聞き出した%
意欲・興味の減退
4%
仕事能力の低下
3%
抑うつ気分
3%
不安・取り越し苦労
3%
0
66%
91%
85%
70%
58%
20
40
60
80
100 %
プライマリケアのためのうつ病診断Q&A, 北原出版: 1997
うつ病の症状
うつ病の身体状態
①睡眠障害
入眠障害
熟眠障害
早朝覚醒
②食欲減退
味覚異常
③性欲減退
ED(勃起不全)
不感症
月経異常
④その他
易疲労感
脱力感
無力感
疼痛
便秘
心悸亢進
うつ病の精神状態
①気分・感情の異常
気分の抑うつ
②思考の異常
考えがまとまらない
集中できない
判断力・決断力が鈍る
絶望感・劣等感
③意欲・行動の異常
行動量の低下
表情・身振りの減少
生気に乏しい
④その他
不安・焦燥感
監修:昭和大学医学部精神医学教室教授 上島 国利
うつ病を合併しやすい身体疾患
内分泌疾患
下垂体機能障害、甲状腺機能障害、副甲状腺機能低下症、
副腎皮質機能障害、機能低下症
代謝性疾患
糖尿病、慢性腎不全(透析患者)、電解質異常
神経疾患
脳血管障害、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮側索硬化症
心 疾 患
本態性高血圧、虚血性心疾患、うっ血性心不全
消化器疾患
消化性潰瘍、NUD※、膵臓疾患、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、肝疾患
腫瘍性疾患
膵癌、肺癌、乳癌、慢性リンパ性白血病
感 染 症
インフルエンザ、結核、肺炎
膠 原 病
全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ
産婦人科
産後(産後うつ病)、月経前困難症、更年期障害
そ の 他
外科手術後、悪性貧血、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性疼痛、頭痛
※NUD:Non-ulcer dyspepsia
青木孝之ほか:Current Therapy 13(6):75, 1995より改変
身体疾患患者のうつ病有病率
身体疾患
がん
慢性疲労症候群
慢性疼痛
冠動脈疾患
クッシング症候群
痴呆
糖尿病
てんかん
血液透析
HIV感染
ハンチントン舞踏病
甲状腺機能亢進症
多発性硬化症
パーキンソン病
脳卒中
有病率(%)
20~38
17~46
21~32
16~19
67
11~40
24
55
6.5
30
41
31
6~57
28~51
27
Wise MG, et al.:American Psychiatric Prex, Washington, DC, 2002
身体疾患に及ぼすうつ病の影響
治療意欲を低下します。
病態を悪化させます。
遷延化させます。
再発率が高くなります。
どのような場合に、抑うつ状態を疑う必要があるか?
自発的なうつ状態に関する訴えがなくても、次のような場合はうつ状態を疑う必
要があります。
1)多彩な症状の訴えがある場合
2)とらえどころのない曖昧な症状がある場合
3)身体所見や検査結果に比べて、患者さんの訴えが強い場合
4)すでにいろいろな検査をしても異常がなく、しかも症状が長く持続
している場合
5)「この症状さえとれたら、元気でやれそうな気がする」と訴える場合
6)調子が悪くても、「休むことはできない」という場合
日本医師会[編集]:自殺予防マニュアルー一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応ー、明石書店、2004
うつ病の発病状況因
ある素因や特徴ある病前性格を持つ人に発病状況因があるとき、
うつ病を生じることが多いと言われています。
身体的な
ダメージに対する不安
失うことのむなしさ
子供の結婚(独立)
更年期、失業、退職など
病気やけがなど
うつ病
別れることの悲しみ
家族や友人の死
または離別、失恋など
環境の変化に対する
プレッシャー
結婚、出産、転校、就職、
受験、転勤、昇進など
監修:昭和大学医学部精神医学教室教授 上島 国利
うつ病になりやすい病前性格
※
① 几帳面、完璧主義、真正直
② がんばり屋で自分の中に閉じこもる人
①
減点主義になりすぎないように伝える
②
辛いときは周りの人に相談するように伝える
※①は性格だけでなく、環境との相性も大事
ストレスを減らすように勧める
監修:慶応大学保健管理センター教授 大野 裕
うつ病の早期発見と早期介入のための
スクリーニング①
二項目質問紙法
二項目両方に該当する場合には、うつ病の90%をスクリーニングできます
(1)抑うつ気分
質問例
『気持ちが沈み込んだり、憂うつになったりすることがありますか』
『悲しくなったり、落ち込んだりすることがありますか』
(2)興味や喜びの喪失
質問例
『仕事や趣味など、普段楽しみにしていることに興味を感じらなく
なっていますか』
『今まで好きだったことを、今でも同じように楽しくできていますか』
二項目の一つに該当するならば、さらに下位の七項目の質問に移ります
鈴木 竜世他:精神医学 45(7):699, 2003
うつ病の早期発見と早期介入のための
スクリーニング②
二項目につづく七項目
(3)食欲の減退または増加
(4)睡眠障害(不眠または睡眠過多)
(5)精神運動の障害(強い焦燥感・運動の制止)
(6)疲れやすさ・気力の減退
(7)強い罪責感
(8)思考力や集中力の低下
(9)自殺への思い
簡単なうつ病のスクリーニング方法①
日本版SDS1)質問項目
1. 気分が沈んで憂うつだ
2. 朝がたはいちばん
気分がよい
3. 泣いたり、泣きたくなる
4. 夜よく眠れない
5. 食欲は、ふつうだ
6. まだ性欲がある
(独身者の場合)異性に対する関心がある
7. やせてきたことに気がつく
8. 便秘している
9. ふだんよりも動悸がする
10. 何となく疲れる
11. 気持ちはいつもさっぱりしている
12. いつもとかわりなく仕事をやれる
13. 落ち着かず、じっとして
いられない
14. 将来に希望がある
15. いつもよりいらいらする
16. たやすく決断できる
17. 役に立つ、働ける人間だと思う
18. 生活はかなり充実している
19. 自分が死んだほうがほかの者は楽
に暮らせると思う
20. 日頃していることに満足している
注)患者さんの状態を把握するための目安とするものであり、確定診断に用いるものではありません。
1):ツング自己評価うつ病尺度Zunq Self-Rating Depression Scale(SDS)
W.W.K.Zung著 構成:福田一彦、小林重雄:日本版SDS.自己評価式抑うつ性尺度使用手引き.京都.三京房、1983
うつ病を見落とさないための重要な知識:うつ病の鑑別診断
うつ病には様々な特徴があります
《うつ病の鑑別診断に重要なポイント》
身体症状
脳の器質的な障害が疑われる場合
症状の日内変動
アルコール依存が疑われる場合
行動の変化:
月経前や更年期の症状
性格の障害との鑑別
重症のうつ病の場合
精神病症状(妄想や幻覚など):
慢性化している場合
統合失調症との鑑別
躁症状が出現した場合
不安障害との合併
一般疾患との合併
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
患者さんへの説明
十分な休養が必要です。
病気であることを理解しましょう。
治る病気であり、社会復帰もできることを理解しましょう。
自殺など、自己破壊的な行為を行ってはいけません。
うつ病がよくなるまでは、大きな決断をすることは
避けましょう。
家族の方への指導
うつの治療にはご家族の温かいバックアップが必要です。
家族が患者さんをバックアップするための6つのポイント
1. あまり態度を変えずに、今までどおり自然に接しましょう。
2. 安易な励ましは逆効果になるときもあります。
温かく見守りましょう。
3. 考えや決断を求めることはやめましょう。
4. 外出や運動を無理に勧めず、ゆっくり休ませてあげましょう。
5. 重要な決定は先のばしにさせましょう。
6. 家事などの日常生活上の負担を減らしてあげましょう。
うつ病と不安障害の併存
外傷後
ストレス障害
(PTSD)
パニック障害
(PD)
強迫性障害
(OCD)
うつ病
社会
不安障害
(SAD)
特定の
恐怖症
全般性
不安障害
(GAD)
監修:昭和大学医学部精神医学教室教授 上島 国利
うつ病の治療について
うつ病の治療
現在のうつ病治療は休養・環境調整と薬物療法、精神療法の3つが中心です。
休養、環境調整
薬物療法
SSRI/SNRI、三/四環系抗うつ薬
精神療法
認知療法
対人関係療法
支持的精神療法
薬物治療を行うときに大切なこと
1.軽くとも治療の対象になる不調であって、決して単なる「気のゆ
るみ」や「怠け」でないことを、本人のみならず関係者に告げる。
2.できるだけ早い時期に心理的休息をとるようすすめる。
3.予想される治癒の時点を告げる。
4.治療中、自己破壊的な行動をしないことを約束してもらう。
5.回復過程には一進一退のあることを繰り返し予告し、一喜一憂
しないように告げる。
6.人生にかかわる大決断は治療終了後まで延期するようアドバイ
スする。
7.服薬の重要性を説き、服薬で生じるかもしれない副作用をあら
かじめ告げる。
笠原 嘉:治療学 31(6):723, 1997
うつ病の治療経過
うつ病は「よくなったり、悪くなったり」を繰り返しながら、徐々に回復する、三寒四温的な起伏のある病気です。
回復度
治療期間
【監修】上島国利【編】NHK出版:NHKきょうの健康 Qブック⑭、憂うつ、興味・意欲の減退、不眠、うつ病、NHK出版、2001
うつ病の症状が消失していく順序
おっくう感
ゆううつ感
不安・いらいら
笠原 嘉:精神神経学雑誌 100(12):1074,1998
抗うつ薬による治療上の注意点
安定した症状を維持し、再燃・再発を防ぐために維持療法、持続療法が必
要である
6~12週
3~6ヵ月
1~2年
正常
治療期間
急性期治療
持続療法
維持療法
投薬の終了は2~4週間以上かけて漸減を行う
急激な投与中止により、めまい、知覚障害、睡眠障害、激越、不安、嘔気、発汗などが現れることがあります。
うつ病の治療
うつ状態では重大な決断をしないようにさせる必要があります
《うつ病治療の原則》
精神療法で重要なこと
重大な決断は先延ばしにするように指導することが原則。
⇒うつ病の要因と思われる事項を取り除けば、うつ病が治ると考えて
実行する場合がある。
例:うつ病治療のために・・・仕事の負荷が強いために仕事を辞めてしまう
経済的な不安がでてくる
うつ状態が悪化し、悪循環に陥る
自殺念慮を訴える人への注意
・うつ病の最も恐ろしい結末⇒自殺
率直に自殺念慮について尋ね、治療中は自殺しないことを約束させて、
治療を継続させるようにする。
・自殺企図の起こりやすい時期:
うつ状態が多少改善した時期での睡眠薬の服用後や飲酒後など
意識の低下した状態で実行されることが多い。
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
認知療法 1
うつ状態になると悲観的、否定的な考え方が支配的になります
『認知』とは、ものの考え方とか受け取り方
うつ状態
健康時
それぞれの経験や知識などを
総動員して、主観的な判断で
物事を見る様々な状況に応じて
瞬時に判断して適応的に行動する。
悲観的、否定的な考え方が支配的、考え
方に柔軟性がなくなる。
悪いほうばかりに考える.
わずかな解決法や見方にとらわれる。
『認知療法』
否定的認知の三徴(自己、世界観、将来に対する考え方の偏り)を
指摘し、是正する。
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
認知療法 2
認知の歪みのパターンは次の7項目に分類されています。
《認知療法》
(1)うつ病患者の認知
1)極端な一般化
証拠が少ないにも関わらず、独断的に判断する状態(思い込み)
2) 二分割的思考
曖昧な状態に耐えられず、
白か黒かいう極端な考え方でないと気がすまない状態
3)選択的抽出
自分の限られた判断だけで、結論を急ぐ状態
4)拡大視・縮小視
自分の関心の強いことだけに目がいき、反対に自分の考え方や
予測にあわないことに対してはことさら小さくみる。
5)極端な一般化
ごくわずかな事実をとりあげて、結論を決め付けてしまう。
6)自己関連付け
自分の責任を過度に感じて、「自分のせい」と考え込む。
7)情緒的理由付け 自分の感情で誤った判断をしてしまう。
(取り越し苦労)
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
認知療法 3
否定的な考えを指摘し修正するのが認知療法です
現実に目を向け、具体的に問題を考えていく態度を身につけるよう指導します
(2)認知の歪みをどのように修正するか
認知療法の実際
『患者の否定的な考え方』について自問自答するように指導
「そう考える根拠はどこにあるのか」・・・根拠をさがす
「だから、どうなるんだ」 ・・・・・・・・・・・・結果について考える
「別の考え方はないだろうか」・・・・・・・・代わりの考えを探す
自分の心の中をよぎる考え方に注意を払う。
自動思考の流れに、認知の歪みを修正するヒントがある。
気持ちが動揺している時、同時に何かを感じ、考えること。
うつ病の人の不適応的な思考の流れに対し、
反論するように指導しながら、否定的な考えを修正していく。
自殺予防マニュアル 「一般医療機関におけるうつ状態・うつ病の早期発見とその対応」より
専門医に紹介するタイミング
診断に迷った場合
脳の器質的な障害が疑われる場合
第一選択の抗うつ薬で効果が認められない場合
重症のうつ病の場合
自殺の危険性がある場合
アルコール依存が疑われる場合
入院が必要だと考えられる場合
慢性化している場合
躁症状が出現した場合
大野 裕:内科の限界とコンサルテーション、medicina 39:2136,2002
うつ病の症状の理解と対応
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うつ気分
考えがまわらない
マイナス思考
何もやる気がおきない
イライラする、落ち着かない
眠れない、身体がだるい
食欲がない、身体の不調
日内変動(午前中に調子が悪い)
• 好ましくない対応
– 励まし、気休め
– 非難(甘え、わがまま、弱い)
– 無理な気分転換
• 好ましい対応
– 十分な休養
– 気持ちをくみ、非難・叱責しな
い
– 決断の保留
– 温かく見守る
自殺念慮への対応
• 自殺念慮が強いうつ病・うつ状態
– 鑑別 パーソナリティ障害、アルコール依存症、
統合失調症
• 自殺念慮について質問することの意味
– 自殺念慮について質問して、本人の気持ちを
理解すること、その上で、自殺をしないことを約
束することが自殺の防止になります。
自殺念慮が疑われるときの対話①
• 毎日が辛いですか?
• 辛くて、もうどうなってもいいと思うことがありますか?
• こんなに辛いと、どこか遠くに行きたいとか、
自分が消えてしまいたいと思うことはないですか?
• ふと、死んだほうが楽かなと思うことはないですか?
• 死んだほうが楽かなと思うぐらい辛いのですね
• 具体的な方法を考えたことがありますか?
• 実行しようとしたことがありますか?
• どうやって、がまんしているのですか?
自殺念慮が疑われるときの対話②
• よくお話してくれました。ありがとうございます。
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これまで、とても辛かったでしょう。
こんなに辛いのは、からだも心も、ひどく疲れているからだと
思います。
体調が良いときには、そういうことはまず考えないでしょう。
疲れすぎて、考えがマイナスに傾いているためだと思います。
ぐっすり眠るための薬や気持ちを落ち着かせる薬を飲んで、
少しゆっくり休まれたらどうですか?
一度、専門の先生に相談してみてはどうですか?
絶対に死なないでください。約束してもらえますか?
必ず、○日にいらしてください。お待ちしています。
死にたいと打ち明けられたとき
誰でもよいからと打ち明けたのではない。この人なら、気持ちを理解してくれると思って。
• 好ましくない対応
– 話をそらす、叱責、非難、
励まし
– 世間体を考えろと言う
– 社会的価値観を押し付け
る
– 「死ぬ気があれば何でもで
きる」
– 「家族のことも考えなさい」
– 「命を粗末にしてはダメだ」
• 好ましい対応
– 本人の気持ちを真剣に聴く
– 批判したり、否定したりしない
– 死にたいぐらい辛い気持ちを
理解する
– 話してくれたことへの礼をする
– 「死んでほしくない」、
「いなくならないでほしい」
と言葉で伝える
– 死なない約束をする
うつ病は治療によって治る病気です。ぜひ、
多くの方に理解してもらい、うつ病による自殺
が1人でも防げるようにご協力ください。
ご清聴ありがとうございました