スライド 1

原子力をめぐる
マスメディア報道について
科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
2008.11.15
東京大学グローバルCOE
「世界を先導する原子力教育研究イニシアチブ」
佐田 務
1
今日の話題
Episode
マス・コミュニケーションに関する分析枠組
・先行研究 ・アクター間の相互作用
マスメディア報道に関する調査報告
・朝日新聞社説 ・教科書記述 ・世論調査
まとめ
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
Episode
すれ違う論争
認知的不協和の低減(L.Festinger)
私達母親は、子どものすこやかな成長を何より、何より願
います。その生命を脅すものを赦すことができません。原
発は必要だというどのような理屈をもってこら
れても、この生物的恐怖感の方が正しいと信
じています。(甘蔗珠恵子氏 『まだ、まにあうのなら』 よ
り)・・・この本を原発容認サイドは、どう受けとめているので
しょうか。
「女性セブン」昭和63年5月26日
われわれは(はじめに事態を)見てから定義
しないで、定義してから見る。リップマン 『世論』
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
マス・コミュニケーションの分析枠組
・誰が、何を、どうやって、誰に伝えるか。
その結果はどうか。
・アクター間の相互作用
・メディアに対する幻想、誤解
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
ラスウェルのコミュニケーション・モデル
who
what
送り手 メッセージ
新聞
送り手
研究
トラブル
channel
whom
effect
媒体
受け手
影響・効果
ニュース紙面
読者
反応・無視
対象分析・内容分析
受け手研究・
受容過程研究
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
送り手研究 マス・メディアの分類
新聞
対象エリア・・・全国紙、ブロック紙、県紙、コミュニティ・ペーパー
ジャンル・・・夕刊紙、スポーツ紙、通信、専門紙
雑誌
発行周期別・・・週刊誌、月刊誌、季刊誌
内容別・・・総合誌、女性誌、経済誌、スポーツ誌、専門誌
放送
地上波、BS、CS、ラジオ
インターネット
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
マス・メディアが扱う対象による差異
台風で100軒の家が被害
<堤防が手抜き工事で、雨により50軒の家が被害
自然現象<人間の過失
100人が、肺炎で死亡 <未知の病気で5人が死亡
なじみがある<なじみがない
平均で毎日1人、年間で365人が交通事故で死亡
<化学プラントで年1回、50人が死傷
小規模頻発<大規模だが稀
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
対象分析
リスク認知と評価に関する質的要因 Covello ほか
要因
高い関心
低い関心
災害の規模・頻度
周知度
理解度
個人の制御可能性
次世代への影響
リスクと便益
原 因
大規模だが稀
なじみがない
しにくい
不能
ある
不公平な分布
人間の行為や過失
小規模だが頻発
なじみがある
しやすい
可能
ない
公平な分布
自然現象
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
内容分析
トピック分析
新潟中越沖地震、JCO事故、データ改ざんなど特定の
テーマを対象に、報道量や内容を分析
経年変化分析
報道の時系列的な変化を分析
原子力関連で事故や事件が起きると、報道量は
増加。結果として原子力では、マイナスの
側面がより伝えられやすい。
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
受容過程の研究(1)
弾丸理論(皮下注射モデル)
近代社会は伝統的な集団を解体→個人を原子化
→マスメディアが伝える内容が強力に作用
限定効果モデル
選択的受容・・・人々は自らの見解に一致したコミュニケー
ションに選択的に接触し、共鳴しない内容に接した場合、彼ら
は既存の見解に一致するようにその意味をしばしば歪める。
J.クラッパー「マス・コミュニケーションの効果」
準拠集団・・・・・受け手は準拠集団の規範の影響
コミュニケーションの2段階の流れ
・・・・・オピニオン・リーダーによる情報修正
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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受容過程の研究(2)
複合影響説
・議題設定機能・・・マスメディアは、関心を焦点化
・沈黙の螺旋・・・ 多数派が少数派をしだいに圧倒
・利用の満足の研究 ・・・気晴らし、人間関係、環境監視
・カルチュラル・スタディーズ・・・受け手は独自に解読
・培養効果、知識ギャップモデル、依存モデル
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
受容過程の研究(3)
メディアの影響は部分的
マス・メディアが伝える内容は受け手に対し、全体的
状況の中で作用する影響のうちの一つ。
送り手 -属性、回路
受け手-属性、先有傾向、能動性、準拠集団、文化規範
社会状況、内容の重要度
世論への影響・・・論説や解説より、報道的内容(事実)
の方が、世論を変更させる点では影響力がある。
ベレルソン「コミュニケーションと世論」
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
アクター間の相互作用(1)
住宅地域で高層マンションを建設する際のトラブル
国・地方自治体
調停・行政指導・立法
民間の
住宅開発会社
被害者の人たち
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
アクター間の相互作用(2)
原子力の場合はー
裁判所
国・電力会社
マス・メディア
立地点で
反対する人たち
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
メディアの役割に対する幻想
・メディアは公正・公平な報道が原則。しかしー
・紙面や放映時間は限られている。そのために
○伝えられるもの・・・事件、事故など特異なできごと
×伝えられないもの
・JALは今日も事故を起こさず、安全に運航している。
航空需要に対する充足、社会的責任の遂行
・財務省の役人は今日もきちんと、仕事をしている。
官僚機能の正機能、国民生活への奉仕
・原子力発電所は今日も、安全に運転している。
エネルギー供給面での貢献
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
「マスコミ報道と原子力世論に関する
データベース構築と拡充」委員会
原子力学会がJNESから受託した「原子力安全に係るマスコミ報
道に関する調査」をこの委員会のもとで実施した。以下、「報道調
査」と記したシートは、その内容を抜粋したものである。
原子力世論に関する調査
マスコミ報道に関する調査
・朝日新聞の社説の調査(約4万本中、350本)
・中学校社会科教科書の記述の調査(約200冊)
・内閣府(旧総理府)による世論調査の結果の変遷
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
朝日新聞の社説
・昭和21年~昭和48年 原子力に対しては、
完全に推進基調。
報道調査
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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朝日新聞の社説 昭和32年
日本の原子力を築くために
2月 原子力構想を早く統一せよ
2月 原子炉等規制の二つのねらい
3月 動力炉輸入に不明確さを残すな
7月 動力炉輸入の考え方を調整せよ
8月 原子力委の権威を回復せよ
8月 動力炉受入れの中心論点は何か
8月 “原子の火”ともる日を迎えて
10月 地震と原子炉
12月 発電炉開発の根本は何か
12月 日英原子力交渉に望む
全566本
1月
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
報道調査
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朝日新聞の社説 昭和32年8月27日
「 “原子の火”ともる日を迎えて」
日本にはじめて“原子の火”がともる
日が来た・・・ この日をもたらすため、
日夜人知れぬ苦労を重ねて来た多く
の関係者の努力が、ここに報いられ
たのである。
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
中学社会科教科書の原子力関連記述 昭和
29年
「歴史は原子力以前の時代と、原子
力時代との二つにわかれ、原子力以
前の時代は、すべて、広い意味で人
類の未開の時代にいれられることに
なるであろう」
日本書籍「中学生の社会」
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
総理府世論調査 昭和43年
「原子力平和利用に関する世論調査」
Q「原子力の平和利用を進めることについて」
賛成・・58%、反対・・3%
一概に言えない・・14%、不明・・7%、無関心・・18%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
報道調査
21
昭和43年
賛成
反対
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
現状維持ほか
朝日新聞の社説
・昭和49年~昭和60年 原子力船「むつ」
事故、TMI事故以降、政府の姿勢への批判
が混じるようになる。
報道調査
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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朝日新聞の社説 昭和50年
2月
3月
5月
6月
9月
11月
11月
11月
12月
全776本
米国の発電炉停止からの教訓
原子力行政の見直しに望む
「むつ」の教訓をどう生かすか
原子力国際協力と核不拡散 条約
原子力発電推進の前提条件
原子力行政改革の方向
先進国の発電炉輸出への懸念
核燃料再処理をどう進めるか
原子力行政改革の骨組み
報道調査
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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中学社会科教科書の原子力関連記述 昭和
53年
「(原子力発電には)放射能による危険
性や、排出される温水が付近の漁業に影
響をあたえる心配などがあり、安全の確保
をうったえる地域の人々の声も強い」
中教出版「中学生の社会科 日本と世界
の国々」
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
総理府世論調査 昭和43-59年
0%
20%
40%
60%
80%
100%
41年 東海発電所が運開
昭和43年
昭和44年
48年 石油ショック
49年 「むつ」放射線漏れ
昭和50年
52年 動燃再処理工場運開
54年 TMI事故
昭和55年
昭和56年
昭和59年
賛成
反対
現状維持ほか
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
報道調査
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1970年(昭和45年)ごろに何が起きたか
40年 東海原子力発電所が初送電、3C時代の到来
42年 公害基本法成立、羽田闘争、ヒッピー族登場
43年 米エンタープライズ入港デモ、学園紛争激化
44年
45年
46年
47年
49年
初の心臓移植、水俣病認定、カネミ油中毒事件
「むつ」進水、アポロ月面着陸、 全共闘結成
美浜原発が万博会場に送電
東京で初の光化学スモッグ
環境庁発足、4大公害裁判、カップ麺発売
社会党が反原発に転換、初の環境白書
ローマクラブ『成長の限界』、列島改造ブーム
第1次石油危機、「むつ」事故、田中内閣退陣
高度成長時代の終焉
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
朝日新聞の社説
・昭和61年~現在 チェルノブイリ事故以降、
原子力のマイナス面や政府への批判が増加。
その後も事故や事件が続くことで、その傾向
は維持。
報道調査
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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朝日新聞の社説 昭和32年
平成19年
<昭和32年>
<平成19年>
日本の原子力を築くために
原子力構想を早く統一せよ
原子炉等規制の二つのねらい
動力炉輸入に不明確さを残すな
動力炉輸入の考え方を調整せよ
原子力委の権威を回復せよ
動力炉受入れの中心論点は何か
“原子の火”ともる日を迎えて
地震と原子炉
発電炉開発の根本は何か
日英原子力交渉に望む
原発データ ウソが隠す事故の兆候
原発臨界事故 この隠蔽は悪質だ
原子力白書 温暖化で舞い上がる時か
原発の不正 発想転換しミスを語れ
中越沖地震 原発の耐震力が心配だ
原発と地震 「想定外」では済まない
原発の火事 119番頼みではダメだ
原発の損傷 調査に時間を惜しむな
原発の耐震 この試算では安心できぬ
浜岡原発判決 これで安心できるのか
50年後
報道調査
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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中学社会科教科書の原子力関連記述
昭和27年
平成18年
「原子の破壊力そのものは決して戦争用のためのもので
はなく、りっぱに人類の幸福のために利用されうるもので
ある。その大きなエネルギーが動力源や熱源として用いら
れれば、人類にとってどれほど大きな恩恵となることかは
はかりしれない」
東京書籍「中学3年下」 昭和27
年
54年後
「原子力発電では、温室効果ガスを排出することなく、効率
よく安定した電力が得られますが、安全性の向上や放射
性廃棄物の最終処分場をどうするかといった課題がありま
す」
東京書籍「新編新しい社会 地理」 平成18年
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
内閣府世論調査 昭和43年 平成17年
0%
20%
40%
60%
80%
100%
41年 東海発電所が運開
昭和43年
48年 石油ショック
49年 「むつ」放射線漏れ
昭和44年
昭和50年
54年 TMI事故
昭和55年
昭和56年
昭和59年
61年
63年
64年
H3年
7年
11年
19年
昭和62年
平成2年
平成11年
平成17年
賛成
反対
チェルノブイリ事故
反原発ブーム
福島再循環ポンプ事故
美浜事故、5年もんじゅ事故
アスファルト火災事故
JCO事故
新潟中越沖地震
現状維持ほか
報道調査
平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
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まとめ(1)
・原子力に対する態度や世論は、
世の中の流れとともに、重層的に形成。
科学技術の象徴として把握されることも。
・マスコミが批判的な主張を行っても、
人々の態度や世論にそれほど影響しない。
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平成20年度 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座
まとめ(2)
・世論に影響を与えるのは
1.安定した運転実績/事故やトラブル
(社会的事実)
2.推進主体への信頼性
(能力と公正・正直)
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