行動障害心理学05 第7回 通常学級に在籍するADHD児 に対する選択機会を中心とした支 援 金山好美:2004から 対人援助学演習2005/6/20 1 ADHDの特性行動を周囲が受容れる環境設定 とは? • 周囲にあわせる適応的な行動を形成していく よりも、ADHD児が自身で参加するタイミングを選 択させる環境設定が有効的である(金山2002)。 対人援助学演習2005/6/20 2 • 文部科学省(2003)「従来の特殊教育の対象 の障害だけでなく、軽度発達障害のある児童 にたいしても、一人一人の教育的ニーズを把握 し、適必要な支援を行う。」 学校教育の中で「集団活動をどのように行わせ るか?」でななく「集団活動を行うためにどの ような支援が必要か?」を行うには? • 神戸市教育委員会「通常の学級にいるLD等 への特別支援事業」に参加し、対象児の実 際・学級環境・対象児の行動を受容する環境 設定は可能か・・・を検証した。 対人援助学演習2005/6/20 3 研究1行動的アセスメントと薬物療法について 【目的】 通常学級に所属する軽度発達障害児 の実態・経過を行動観察し、問題行 動の機能分析を行う。又、学校の支 援体制や学級での対応のあり方を 検証する。 対人援助学演習2005/6/20 4 方法…①対象 対象学級 • 1学期の授業から、複 数の生徒に【教室内を 立ち歩く】【教室から抜 け出す】等の問題行 動が見られた。TTや 教員間のサポート体 制も行ったが、2学期 からは神戸市教育委 員会に申請し、教員 補助(実験者)の導入 を行った。 対象児 A児(男 7歳) • 入学直後から多動な行動が 見られ、教室から逸脱してい た。 • 上半身裸になったり、水道水 を体にかけたりしていた。 • 自主的に勉強はしようとしな いが、学年の課題相応の学 力はあった。 • 参観日の様子を見た保護者 が、H先生に相談し、医療機 関に診察に行く。「ADHD傾 向の疑い」との診断を受け、 10月より薬物療法を開始。 対人援助学演習2005/6/20 5 方法②行動的なアセスメント 記録方法 対象児の逸脱行動か ら考えられること • 各時間の開始から5 • 学校生活1日の見通 分以内に教室にい るか? し(イメージ)をもてな いのでは?。 • 各授業に15分参加 • 時間帯によって逸脱 して「いる/いない」 するのでは? か? • 教科に影響によって • 対象児の様子につ 逸脱するのでは? いて、時間割別にエ ピソードを箇条書きに 6 対人援助学演習2005/6/20 する。 16 9月 日 18 9月 日 19 9月 日 25 9月 日 26 9月 日 30 10 日 月 2 10 日 月 3 10 日 月 10 7日 月 1 1 0 0日 月 1 1 0 4日 月 1 1 0 6日 月 2 1 0 1日 月 2 1 0 3日 月 2 1 0 4日 月 2 1 0 8日 月 3 1 0 0日 月 3 1 1 1日 月 1 1 1 0日 月 1 1 1 1日 月 1 1 1 3日 月 1 1 1 4日 月 1 1 1 8日 月 2 1 1 0日 月 27 12 日 月 2日 9月 結果…図1授業開始時の教室在室率 薬投与期① 対人援助学演習2005/6/20 薬投与期② 100 授 業 80 開 始 時 60 の 参 加 40 率 ( % 20 ) 0 7 結果…表1授業参加・図2教科別授業参加 表1 時間帯による授業参加 薬 投 与 薬 投 与 9月16日 9月18日 9月19日 9月25日 9月26日 9月30日 10月2日 10月3日 10月7日 10月10日 10月14日 10月16日 10月21日 10月23日 10月24日 10月28日 10月30日 10月31日 11月10日 11月11日 11月13日 11月14日 11月18日 11月20日 11月27日 12月2日 朝の会 1時間目 2時間目 3時間目 4時間目 国語 体育 算数 国語 図書 国語 算数 生活 生活 体育 算数 国語 図書 国語 算数 生活 体育 国語 算数 国語 国語 体育 算数 国語 図書 国語 算数 国語 生活 国語 音楽 算数 自習 体育 算数 国語 国語 音楽 算数 生活 国語 体育 算数 国語 見学 見学 音楽 音楽 音楽 体育 算数 国語 音楽 学級会 算数 国語 国語 音楽 国語 算数 音楽 体育 算数 国語 音楽 算数 図書 体育 音楽 国語 算数 国語 算数 国語 体育 国語 国語 生活 生活 生活 図書 国語 算数 生活 生活 国語 算数 国語 国語 体育 生活 生活 図書 生活 自習 国語 図書 生活 生活 国語 国語 国語 体育 算数 給食 5時間目 終りの会 100 道徳 80 音楽 学級会 参 加 60 率 ( % 40 ) 体育 20 学級会 0 生活 国語 図書 算数 体育 音楽 図工 生活 給食 図2 教科別授業参加率 は、授業に15分以上参加 対人援助学演習2005/6/20 8 結果…図3教室参加率と行動観察 薬投与期① 薬投与期② 100 教 80 室 参 60 加 率 40 ( % 20 ) 2 3 2 月 6 9 2/ 13 2/ 2 1/ 30 月 1/ 26 1 13 15 16 20 25 26 30 2/ 9 9 2/ 10 11 16 18 19 2/ 6 9 1/ 25 12 月 1/ 20 1/ 16 1/ 15 1/ 9 5 1/ 13 4 12 /1 8 12 /1 9 12 /2 11 /2 0 11 /2 7 11 /1 4 11 /1 8 2 11 月 10 14 16 21 23 24 28 30 31 10 11 13 14 18 20 27 2/ 3 7 12 /9 12 /1 1 12 /1 6 3 12 /5 10 月 2 11 /1 1 11 /1 3 10 /3 1 11 /1 0 10 /2 8 10 /3 0 10 /2 3 10 /2 4 10 /1 6 10 /2 1 10 /7 10 /1 0 10 /1 4 10 /3 10 /2 9/ 30 月 16 18 19 25 26 30 12 /4 9 9/ 26 9/ 25 9/ 19 9/ 18 9/ 16 0 10 13 一方的に話す 爪を噛む ス 着 ト席 レ ス と教 思 室 わ 内 れ る 行 逸 動 脱 時 小物で遊ぶ 刃物で遊ぶ ボーとしている 体調の訴え 黒板に落書 裸になる 教室内立ち歩く ケ ンカ ・ハ ゚ニ ッ ク 校内(1階) 運動場 / 保健室 なかよしル ーム 校長室 校外に出る 友達に関っていく 適 応 的 な 行 動 集団(学級)活動 見 音 音 体 音 係 給 覗 覗 給 給 給 植 話 掃 給 覗 覗 給 行 行 行 行 覗 覗 覗 覗 体 体 H先生の話を聞く 先生の約束・関り 先生の手伝い 先生に要求 給食を食べる 学習に取り組む 図3 教室参加率と 行動観察結果( 2 0 0 3 ) 対人援助学演習2005/6/20 は、エピソード記録に記された対象児の行動 9 考察 • 教室からの逸脱は、教科による影響が大き いと考えられた。 参加率が高 い 算数 図書 パターン化している 参加率が低 い 国語 生活 体 イメージの組み立て 育 が必要 ⇒行動だけではなく、学習活動にも支援が必要。 • 薬物(リタリン)投与により、在席率を100%となり、学 習理解の増加・成績の上昇が見られた。しかし、[ス トレスと思われる行動]も増加。 10 対人援助学演習2005/6/20 • ADHDや軽度発達障害の行動特性・学習特 性の特徴の機能分析することは、学級環境 の中では難しい。 ⇒行動随伴性から考えて、教師は《反応》はの みに注目し、《先行条件》《後続条件》が何で あるか注目しにくい。 ⇒教員補助が、対象児の機能分析をし、学級 活動と対象児との間に生じる問題について分 析する役割を担うことは、学級環境を状況に あわせて変化させていく手掛かりとなる。 対人援助学演習2005/6/20 11 研究2 逸脱行動に対しての選択機会の 導入の効果 目的 学校教育の中で、通常学級に所属す るADHD児の教室からの逸脱行動 に対して、その行動を「受容」する教 室環境を設定し、対象児が自発的 に教室にいる滞在時間・行動の変 化について検証を行った。 対人援助学演習2005/6/20 12 方法…①対象児とその経過 • 対象児は、A児(8歳 男児)。※研究1に同じ • 担任はH先生。※1年生と同じ • 薬物療法で、在席率・集団活動の参加は可 能になっていたが、2年生10月より教室から の逸脱行動が頻繁になっていった。クラスメイトと の諍いにより、「校外に出て行く」や「自傷行 為」も」見られるようになった。薬物療法は継 続しており、就職前には服用していた。 対人援助学演習2005/6/20 13 方法…②手続き 【標的行動】 対象児が、教師の強制ではなく、自発的に教室 滞在時間の増加率を高めること。 【介入の手続き】 ベースライン •通常の学校生活を 行動観察。 介入期① •「いってきます」カート の導入。 •タイマーを所持させる •ストップウォッチで教室滞 在時間を計時させる 対人援助学演習2005/6/20 介入期② •介入期①と同じ。 •手遊び遊具の導入。 14 結果…図4教室滞在率と行動観察結果 レクチャー ベースライン期 100 介入期① 介入期② 教 80 室 滞 60 在 率 40 ( % ) 20 9 2 12 /1 3 5 12 /9 12 /1 0 4 12 /8 1 11 月 1 12 /7 12 /1 11 /3 0 11 /2 9 11 /2 6 11 /2 5 11 /2 4 11 /1 9 12 /6 28 29 12 /2 10 月 11 /1 8 11 /1 6 11 /1 5 11 /1 2 11 /1 1 11 /9 11 /1 0 11 /5 11 /4 11 /1 10 /2 9 10 /2 8 0 8 10 13 12 月 10 11 12 15 16 18 19 24 25 26 29 30 6 7 9 一方的に話す 爪を噛む ス 着 ト席 レ ス と教 思 室 わ 内 れ る 行 逸 動 脱 時 小物で遊ぶ パ ル ル ル ル ル ル パ パ パ 電 刃物で遊ぶ ボーとしている 体調の訴え 黒板に落書 裸になる 教室内立ち歩く ケ ン カ ・ハ ゚ニ ッ ク 校内(1 階) 運動場 保健室 なかよしル ーム 校長室 校外に出る 友達と関わる 適 応 的 な 行 動 集団(学級)活動 音 音 音 体 朝 ゲ 挨 掃 H先生の話を聞く 先生の約束・関り 先生の手伝い 先生に要求 給食を食べる 保 保 保 保 学習に取り組む 図5 教室滞在率と 行動観察結果(20 0 4 ) 対人援助学演習2005/6/20 15 考察 • 対象児の逸脱行動に対して、「教室にいなければい けない」から「教室に出て行く」を可能にした受容的 な教室環境を設定した。 ⇒対象児にとって、「逃避」行動から「要求」行動になっ た。 ⇒担任も、逸脱行動を認めることで、安心して授業を 進めることはできた。 • 「いってきますカード」の活用は、対象児の要求言語 の機能を果たすことができた。 ⇒対象児が葛藤し、内省を表出することがしにくかっ た部分を、「いってきますカード」で行きたい場所を示 16 対人援助学演習2005/6/20 すことは、他者に伝える方法の弁別刺激となった。
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