第1章 問われている教師の指導力

第1章 日本の学校制度の概要(2)
前回ポイント(補足)
•
※学校令(1886(明治19)年)
– 帝国大学令
• 「帝国大学ハ国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授シ及其
蘊奥ヲ攻究スルヲ以テ目的トス」
• 東京に一つ
• 入学資格:高等中学校卒業
• 最高の教育機関(分科大学、今の学部、法科、医科、工科、
文科、理科、後に農科)、学術研究機関(大学院)
– 師範学校令
• 一つの高等師範学校(尋常師範学校の教員養成)と各府
県に一つの尋常師範学校(公立小学校の教員養成)
– 中学校令
• 男子に対する中等普通教育の実施
• 尋常中学校=府県立各1校(ほぼ50)、修業年限5年
• 高等中学校(東京、大阪、仙台、金沢、熊本+山口、鹿児
島)
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第1章 日本の学校制度の概要
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
– 小学校令
• 尋常小学校(4年)と高等小学校(4年)
• 「学齢児童をして普通教育を受けさせる義務」(父母後見人の尋
常小学校4年の就学義務化)
• 尋常小学校:修身、読書、作文、習字、算術、体操(図画、いず
れか一つ可)
• 高等小学校:修身、読書、作文、習字、算術、地理、歴史、理科、
図画、唱歌(なくてもよい)、体操、裁縫(女児)、(英語、農業、手
工、商業のいずれか可)
初代文部大臣森有礼が主導
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第1章 日本の学校制度の概要
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
• ※中等教育
– 尋常中学校:「尋常中学校は要するに之を卒業して直ち
に実業に就く者を養成するを以て目的とす」、 「社会ノ上
流ニ至ラズトモ下流ニ立ツモノ」ではない
– 高等中学校は「社会上流ノ仲間ニ入ルベキモノ」、「社会
多数ノ思想ヲ左右スルニ足ルベキモノ」を養成する所(森
有礼)
1891年:中学校令改正
・中学校設置制限緩和、郡市町村立中学校
・高等女学校を制度化
・その他、実業補習学校、徒弟学校など実業教育制度の整
備
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
• 高等学校令(1894(明治27)年)
高等中学校→高等学校(第1~第8)(尋常中学校→中学
校)
専門学科の教授(4年)または帝国大学予科教育(3年)
明治30年代後半以降大学予科に特化、地方における専門
教育は帝国大学・専門学校の増設で対応
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
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※高等教育の整備
①日本で最初の大学
1877年(明治10年)、東京開成学校と東京医学校が合併して東京大学
↓
②日本唯一の大学「帝国大学」(帝国大学令(1886(明治19)年) )
・帝国大学令には女子の入学を禁じているわけではなかったが、入学資
格が高等学校卒業生に限られていたため、実質的に女子に入学する道
はなかった。
↓
③ 1897年(明治30年)京都帝国大学設置、帝国大学→東京帝国大学
↓
④専門学校令1903(明治36年)
「高等の学術技芸を教授する学校は専門学校とす」
 帝国大学以外のすべての高等教育機関がこれに基づくこととなった。
修業年限3年以上、中学校または高等女学校卒業程度
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
• ↓
• ⑤大学令1918(大正7)年=帝国大学以外の大学が認められる
• 東京商科大学(一橋大学)、県立愛知医科大、慶應義塾大学、早
稲田大学、同志社大学、日本大学、中央大学、法政大学、明治
大学、国学院大学(1920年)
• 龍谷大学、専修大学、立教大学、立命館大学、関西大学、東洋
協会大学(拓殖大学)(1922年)
• ↓
• ⑥帝国大学増設
• 東北帝国大学(1907年) 、 九州帝国大学(1911年) 、 北海道帝国大学
(1918年)、 京城帝国大学(1924年) 、 台北帝国大学(1928年)
大阪帝国大学(1931年) 、 名古屋帝国大学(1939年)
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
– ※1913 (大正2)年東北帝国大学理科大学開学にあたって、女子の
入学が初めて認められた。東北帝国大学では入学資格を高等師範
卒業生や中等教員免許資格合格者などに広げ、女子入学の禁止条
項がないことから女子にも入学を許可することになった。
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
 ※戦前の教育目的論─国家主義的教育目的論
 ①森有礼の教育観:「国体教養主義」(井上毅)
「教育は結局国家の繁栄のためになすものであるとする」
「諸学校を維持するも畢竟国家の為なり」
「生徒其人の為にするに非ずして国家の為にすることを始
終記憶せざるべからず」 (明治22年演説)
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
• ②教育勅語(1890(明治23)年)
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1.日本は天照大神以来、その子孫である天皇が統治してきた国家である
2.国民は臣民として、忠と孝の道 にのっとって、心をひとつにしてきたが、このこ
とこそ、日本の美徳であり、教育の根本精神もここにある
•
3.臣民は、父母に孝行し、兄弟仲良くし、夫婦は協力しあい、友人は互いに信じ
合い、慎み深く行動し、皆に博愛の手を広げ、学問を学び手に職を付け、知能を
啓発し徳と才能を磨き上げ、世のため人のため進んで尽くし、いつも憲法を重ん
じ法律に従いなさい
•
4.しかし、もし非常事態となったなら(いったん緩急あれば)、天皇のために尽くし
なさい。そうすることによって皇国の繁栄は保たれる
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第1章 日本の学校制度の概要
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
 ③「義務教育」の意味
明治憲法下の「教育」→納税、徴兵と並ぶ臣民の国家に対
する3大義務
「(義務教育における)義務は、国家が自己の目的のため
に保護者に負はしむる公法上の義務にして、保護者に於
て児童に対して負ふ私法上の義務にあらず。」「就学の義
務が父兄の子弟に対する義務なりや、將又、国家に対す
るものなりや」「もちろん後者によるべきもの」( 『教育大辞
典』(明治41年)
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第1章 日本の学校制度の概要
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第1章 日本の学校制度の概要(2)
※戦前日本の学校制度の特徴
– ・国家主義的目的論に基づく教育制度の整備
– ・国家にとって必要な人材とは、戦前においてはどのような人
間であったか?(国体護持と富国強兵)
– ・男女別、男子優位
– ・高校や大学への進学を制度上保障されていたのは中学校の
み(エリート養成と一般大衆教育の分離)
– ・複雑な教育体系=複線型
– ・多くの国民は実業系教育、少数のみが普通教育を受けること
を保障されていた
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第1章 日本の学校制度の概要
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• (1)戦後教育改革の特徴
• ①権利としての教育の承認
– 日本国憲法26条
• 1.すべて国民は、法律の定めるところにより、その能
力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
• 2.すべて国民は、法律の定めるところにより、その保
護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教
育は、これを無償とする。
• ②義務教育の意味の転換=国民の教育をうける権利への対応
• ③教育委員会制度の導入(住民自治の原則、教育の地方分権)
• ④新制中学、新制高等学校発足:単線型教育制度、男女平等(
学校教育法)
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
•
※世界人権宣言第26条(1948.12.10,第3回国連総会 )
•
1 すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初
等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教
育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に
利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、
すべての者にひとしく開放されていなければならない。
•
2 教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強
化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的若し
くは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、
平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならな
い。
•
3 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
•
※「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約、89.11.20第44回国連総
会採択、94.4日本批准)
•
第28条 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この
権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、
– 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする
– 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨
励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、か
つ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育
の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置を
とる。
– すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教
育を利用する機会が与えられるものとする。
– すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能
であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。
– 定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• (2)教育が権利であることの意味
• ①「権利」とは何か
– 課題:「権利」とは何か、子どもにもわかるように
、説明しなさい
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• 1.最も一般的な使い方
– 「ある事柄に関して、自由に行動したり、処理したりする自由
(資格)が認められている(与えられている)こと」
– ・自分の自由意志に従って、物事を処理できる
権利と自由 =権利が認められるということは、自分の自由な
意思にもとづいて行動できる、すなわち「自由」が認めら
れるということ
• 2.「権利」を成立させている条件
– ・その必要性が、社会的に認められている事柄(個人的、恣意
的主張とは異なる。ある個人が勝手に主張している事柄ではな
い)
• <権利>・<義務>関係=権利を認めた側には、それを保障する
(守る)義務がある
• 権利を有する側が、相手に対してそれを守る(保障する)
ことを求めることができる
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• ②教育を受ける権利が認められているということの意味
– 教育の必要性が社会的に承認されている=国家・社会がそれを
認めている
– それを認めている国家や社会の側に、それを保障する義務が生
じる
– 義務教育=国家や社会(親)が、国民(子ども)に対して義務
付けられた教育
– 教育を受ける側が、誰かに命令されたり、要求されたり、義務
付けられているわけではない
– 国民は、国家・社会(子どもから見れば直接的には保護者)に
対して、自分にとって必要な教育を要求することができる、保
護者は子どもの権利を子どもに代わって国家、社会に要求する
権利がある
– 国民は、自分にとって必要な教育についての「自由」を持って
いる
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• ③なぜ、教育は権利なのか─教育を受ける権利が基本的
人権の一つとして承認されている理由
• 1.基本的人権
– 諸権利の中で、人間が、人間であることのみを条件
に、全ての人間が生来的にもっているとされている
権利を基本的人権という
– 基本的人権とは、人間が人間として存在する上で、
欠かすことのできないものとして、認められた諸権
利のこと
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• 2.基本的人権の拡大
• ・個人の尊厳の尊重=「個人として尊重される」
• ・「生存権」=健康で文化的な最低限度の生活を営む
ための条件を国家に要求する権利
• ・「生命、自由及び幸福追求の権利」
• ・内面的・精神の自由(信教、思想・良心、学問
• ・内面の表現の自由(表現、集会・結社)、通信の秘
密
• ・経済活動の自由
• ・財産の保障
• ・教育を受ける権利
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• 3.生存の権利、幸福追求の権利(日本国憲法13条)の
系としての教育の権利
• ①成長・発達の権利
– ・基本的人権の最も基本的なものの一つ、生存の権
利、幸福追求の権利
– ・人間らしく生きていくためには、人間的諸能力を
獲得していかなければならない
– ・子どもには、人間らしく成長・発達する必要性が
ある。(成長・発達の権利)
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• ②「学習」の権利
– ・人間の成長・発達の過程(人間が、人間的諸力を
獲得していく過程)は、自然的、自動的に引き起こ
されるものではない
– ・人間は、人類の文化遺産の中から、さまざまなこ
とがらを選択的に学びとっていく、「学習」をとお
して発達する
– ※「子どもの発達において主要な過程は、歴史的に
人類によって蓄積された文化遺産の習得の過程であ
って、人間以外の動物では存在しない過程といえよ
う。」(岩波・小辞典『教育』)
– 成長・発達の権利を保障するためには、学習の権利
を認めなければならない
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第1章日本の学校制度の概要(3)
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第1章 日本の学校制度の概要(3)
• ③教育の権利
• ・人間の発達と学習の必要は、それを実現するのにふさわしい
条件のもとでのふさわしい学習の指導(すなわち教育)の要請
を内に含んでいる。
• ・教育は、発達と学習の可能性を有効に実現するための条件と
、その組織的な手段である。こうして、人間的発達とそれを実
現する学習の場の具体的保障として、「教育への権利」が承認
されることになる。
• ・人間にとっての教育の必要性=発達とそれを実現する学習の
必要性と、その具体的場の保障の必要性の承認
• ※「教育を受ける権利は、『個人が自分の自由に行使できる可
能性に応じて正常に発達する権利であり、社会にとってはこれ
らの可能性を有効かつ有用に実現する義務』である」(ピアジ
ェ)
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