第1章 日本の学校制度の概要 1 (5)すべての国民を対象とする全国的な学校制度(公教育制度) の成立 ①学制( 1872(明治5)年7月) 1)趣旨:「被仰出書(おおせいだされしょ)」(「学制序文」「学 事奨励に関する被仰出書)」) 1.人間が才能、技能を発達させ、幸福な生活を送ることができるの は、学問以外には求められない 2.そのためには全人民が学校に通うことが必要 3.これからの学問は「実学」を中心とする 4.就学に身分、性の区分はない 5.学問は国や汎のためにあるのではなく、個々人のためにある 6.したがってその費用は各人が負担する 第1章 日本の学校制度の概要 2015/9/30 第1章 日本の学校制度の概要 2 2)学制の概要 1.全国を8の大学区(翌年7)に分け8大学校、1大 学区を32中学区にわけ256中学校、1中学区を210小 学区にわけ53760小学校を置くことを定めた。(フラ ンスの学制にならった) 2.小学校:8年制(下等小学校4年、上等小学校 4年) 3.東京、愛知、大阪、広島、長崎、新潟、青森( 当初は石川も)に本部 第1章 日本の学校制度の概要 2015/9/30 第1章 日本の学校制度の概要(2) 3 ②教育令(1879(明治12年)、翌明治13年改正教育 令) ・学区制を廃止、町村を単位として小学校設置 ・学齢は6歳から14歳、その間に最低14カ月は普通 教育をうけること、父母後見人には、学齢児童を就学 させる責任がある ・公立学校の学期は8年(地域によってはこれを短縮 できるが、最低4年)3年以上8年以下、授業時間は 4ヶ月以上 ・文部省が地方の教育を統括する ・第3条小学校ハ普通ノ教育ヲ児童二授クル所ニシテ 其学科ヲ修身読書習字算術地理歴史等ノ初歩トス、土 地ノ情況ニ随ヒテ罫画唱歌体操等ヲ加へ又物理生理博 物等ノ大意ヲ加フ殊ニ女子ノ為ニハ裁縫等ノ科ヲ設ク 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 ヘシ 第1章 日本の学校制度の概要(2) 4 ③学校令(1886(明治19)年) 教育令を廃止し、 帝国大学令、 師範学校令、 中学校令、 小学校令を公布 初代文部大臣森有礼が主導 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 第2章 日本の学校制度の概要(2) 5 ④義務教育制度の成立 1.就学義務規定 第1次小学校令(1886年、明治19年)3条:「学齢児童をして普通教育 を受けさせる義務」(父母後見人の就学義務化)→「義務教育」の文 言登場 2.修学年限 改正教育令(1880年、明治13年)・小学校初等科3年、 第1次小学校令(1886年、明治19年)尋常小学校4年、 第2次小学校令(1890年、明治23年)3乃至4年、 第3次小学校令(1900年明治33年)4年、 第5次小学校令(1907年、明治40年)尋常小学校6年 3.学校設置義務規定 第2次小学校令(1890年、明治23年)3条:市町村にその設置義務 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 第2章 日本の学校制度の概要(2) 6 4.就学率の推移 81%(1900)、91%(1902)、95%(190 5)、98%(1909) 5.教育目的 第一条 小学校ハ児童身体ノ発達ニ留意シテ道徳教 育及国民教育ノ基礎並其生活ニ必須ナル普通ノ知識 技能ヲ授クルヲ以テ本旨トス(小学校令) 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 第2章 日本の学校制度の概要(2) 7 ⑤尋常小学校の教科(1881年) 修身、読書、作文、習字、算術、体操 ・国民学校の教科(1941年) 国民科(修身、国語、国史、地理) 理数科(算数、理科) 体錬科(体操、武道) 芸能科(音楽、習字、図画、工作、裁縫、家事) - 裁縫は国 尋常科・高等科の女子、家事は国民学校高等科の女子のみ 実業科(農業、工業、商業、水産)- 国民学校高等科のみ 外国語その他必要なる科目 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 8 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 (6)中等教育の整備 ①中学校令(男子に対する中等普通教育の実施) ・尋常中学校=府県立各1校(ほぼ50)、修業年限5年 ・高等中学校(東京、大阪、仙台、金沢、熊本+山口、 鹿児島) 本科:帝国大学に進学する者のための予備教育を 目的(修業年限2年(10月入学、7月卒業)、予科2 年・予科補充科3年(尋常中学相当) 専門科:分科、学部とも呼ばれた。医学・法学・工学 などの分野で、地方の地域社会が必要とした上級 専門家・上級実務指導者を養成する目的【修業年 限医学部4年、法、工は3年):地方における「最高 学府」を展望 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 9 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 ・尋常中学校・高等中学校の性格 ・「尋常中学校を卒業し、尚進んで高等中学校若 しくは他の専門学校に就くものあるべけれども、 尋常中学校は要するに之を卒業して直ちに実業 に就く者を養成するを以て目的とす」、 「社会 ノ上流ニ至ラズトモ下流ニ立ツモノ」ではない (森有礼) ・高等中学校は「社会上流ノ仲間ニ入ルベキモ ノ」、「社会多数ノ思想ヲ左右スルニ足ルベキ モノ」を養成する所(森有礼) 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 10 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 ②1891年:中学校令改正 ・中学校設置制限緩和、郡市町村立中学校が認め られる ・高等女学校を制度化、尋常中学校の一種と位置 付けられ、女子中等教育機関として法制上の明文化が 行われた ・その他、実業補習学校、徒弟学校など実業教育制度 の整備 ③高等学校令(1894(明治27)年) ・高等中学校→高等学校(第1~第8)(尋常中学 校→中学校) ・専門学科の教授(4年)、帝国大学予科教育(3 年) 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 ・明治30年代後半以降大学予科に特化、地方にお 第1章 日本の学校制度の概要(2) 11 (7)高等教育の整備 ①帝国大学 1.1877年(明治10年)、東京開成学校と東京医学校が合併して 東京大学となり、日本で初めての近代的な大学が設立された 2.帝国大学令(1886(明治19)年):日本唯一の大学「帝国 大学(東京大学改称)」 帝国大学令1条 「帝国大学ハ国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授シ及其蘊奥ヲ 攻究スルヲ以テ目的トス」 4.1897(明治30)年京都帝国大学 設立(これに伴い「帝国大学」は東京帝国大学に改称)、以後 諸帝国大学設立 ※帝国大学令には女子の入学を禁じているわけではなかったが、入 学資格が高等学校卒業生に限られていたため、実質的に女子に入学 する道はなかった。 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 12 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 ②帝国大学増設の経緯 ・ 東北帝国大学(1907年) ・ 九州帝国大学(1911年) ・ 北海道帝国大学(1918年) ・ 京城帝国大学(1924年) ・ 台北帝国大学(1928年) ・ 大阪帝国大学(1931年) ・ 名古屋帝国大学(1939年) ※1913 (大正2)年東北帝国大学理科大学開学にあたって、女 子の入学が初めて認められた。東北帝国大学では入学資格を高 等師範卒業生や中等教員免許資格合格者などに広げ、女子入学 の禁止条項がないことから女子にも入学を許可することになっ た。 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 第1章 日本の学校制度の概要(2) 13 ③高等教育機関の整備 1.専門学校令1903(明治36) 「高等の学術技芸を教授する学校は専門学校とす」 帝国大学以外のすべての高等教育機関がこれに基づくことと なった。修業年限3年以上、中学校または高等女学校卒業程度 2.大学令1918(大正7)年=帝国大学以外の大学が「大学」とし て認められる 1920年 東京商科大学(現在の一橋大学)、県立愛知医科大学(1931年 名古屋医科大学として国へ移管)、慶應義塾大学、早稲田大学、 同志社大学、日本大学、中央大学、法政大学、明治大学、國學 院大學 1922年 龍谷大学、専修大学、立教大学、立命館大学、関西大学、東洋 協会大学(現在の拓殖大学) 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 14 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 15 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 (8)戦前の教育目的論─国家主義的教育目的 論 ①森有礼の教育観:「国体教養主義」(井上毅) 「教育は結局国家の繁栄のためになすものであるとす る」 「諸学校を維持するも畢竟国家の為なり」 「生徒其人の為にするに非ずして国家の為にすること を始終記憶せざるべからず」 (明治22年演説) 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 16 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 ②「義務教育」の意味 明治憲法下の「教育」→納税、徴兵と並ぶ臣民の3大 義務 教育は、「権利」ではなく、社会成員の「義務」とし てとらえられていた。 「(義務教育における)義務は、国家が自己の目的 のために保護者に負はしむる公法上の義務にして、保 護者に於て児童に対して負ふ私法上の義務にあら ず。」「就学の義務が父兄の子弟に対する義務なりや、 將又、国家に対するものなりや」「もちろん後者によ るべきもの」( 『教育大辞典』(明治41年) 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 17 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 ③教育勅語(1890(明治23)年) 1.日本は天照大神以来、その子孫である天皇が統治してきた国家である 2.国民は臣民として、忠と孝の道 にのっとって、心をひとつにしてきた が、このことこそ、日本の美徳であり、教育の根本精神もここにある 3.臣民は、父母に孝行し、兄弟仲良くし、夫婦は協力しあい、友人は互 いに信じ合い、慎み深く行動し、皆に博愛の手を広げ、学問を学び手に職 を付け、知能を啓発し徳と才能を磨き上げ、世のため人のため進んで尽く し、いつも憲法を重んじ法律に従いなさい 4.しかし、もし非常事態となったなら(いったん緩急あれば)、天皇の ために尽くしなさい。そうすることによって皇国の繁栄は保たれる 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30 18 第1章 (2) 日本の学校制度の概要 戦前日本の学校制度の特徴 ・国家主義的目的論に基づく教育制度の整備 ・国家にとって必要な人材とは、戦前においてはどのよう な人間であったか? ・国家に対して義務付けられた教育 ・中学は、男子のみ。女子は高等女学校。師範学校も男女 別。大学とは別組織。 ・高校や大学への進学を制度上保障されていたのは中学校 のみ(エリート養成と一般大衆教育の分離) ・複雑な教育体系=複線型 ・多くの国民は実業系教育、少数のみが普通教育を受ける ことを保障されていた 第1章 日本の学校制度の概要(2) 2015/9/30
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