第1章 日本の学校制度の概要(3) (1)戦後教育改革の特徴 • ①権利としての教育の承認 – 日本国憲法26条 • 1.すべて国民は、法律の定めるところにより、その能 力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。 • 2.すべて国民は、法律の定めるところにより、その保 護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教 育は、これを無償とする。 • ②義務教育の意味の転換=子どもの教育をうける権利への義務, 普通教育の保障 • ③教育委員会制度の導入(住民自治の原則、教育の地方分権) • ④教育勅語の失効、教育基本法の成立=教育の機会均等 • ⑤単線型教育制度(学校教育法の成立、新制中学、新制高等学 校発足、教育への平等・機会均等の保障、男女平等) 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 1 第1章 日本の学校制度の概要(3) • (2)教育基本法(旧)における教育目的 • 第1条<教育の目的> – 「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家および社会の形成者 として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ 、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われ なければならない。」 • 第4条<義務教育> – 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を 負う。②国または地方公共団体の設置する学校における義務教育に ついては、授業料は、これを徴収しない • 第10条<教育行政> – 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を 持って行われるべきものである。 – 2.教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な 諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。 08.6.5 第4章(2) 2 第1章 日本の学校制度の概要(3) • • • • 戦後教育のキーワード ①人格の完成を目指す ・各個人の備えるあらゆる能力を可能な限り、かつ調和的に発展させる ・個人の価値と尊厳との認識に基づき、人間の具えるあらゆる能力を、 できる限り、しかも調和的に発展せしめること(「教育基本法制定の要旨 」昭和22年文部省訓令) • ②平和的な国家社会の形成者(としての資質) • ・「真理と正義を愛すること」「個人の価値をたつとぶこと」「勤労と責任を 重んじること」「自主的精神」 • ③普通教育の保障 • ・普通教育=すべての者が人間として生きていくために欠かせない共通 の教養、技術、能力等を身につけ、調和的な発達を遂げていくために求 められる教育、一般に、専門教育・職業教育に対置される 08.6.5 第4章(2) 3 第1章 日本の学校制度の概要(3) (3)権利としての教育の普遍性 ①世界人権宣言第26条(1948.12.10,第3回国連総会 ) • 1 すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初 等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教 育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に 利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、 すべての者にひとしく開放されていなければならない。 • 2 教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強 化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的若し くは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、 平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならな い。 • 3 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 4 第1章 日本の学校制度の概要(3) • ②「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約、89.11.20第44回国連総 会採択、94.4日本批准) • 第28条 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この 権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、 – 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする – 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨 励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、か つ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育 の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置を とる。 – すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教 育を利用する機会が与えられるものとする。 – すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能 であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。 – 定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 5 第1章 日本の学校制度の概要(3) • (3)教育が権利であることの意味 • ①「権利」とは何か – 課題:「権利」とは何か、子どもにもわかるように 、説明しなさい 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 6 第1章 日本の学校制度の概要(3) • 1.最も一般的な使い方 – 「ある事柄に関して、自由に行動したり、処理したりする自由 (資格)が認められている(与えられている)こと」 – ・自分の自由意志に従って、物事を処理できる 権利と自由 =権利が認められるということは、自分の自由な 意思にもとづいて行動できる、すなわち「自由」が認めら れるということ • 2.「権利」を成立させている条件 – ・その必要性が、社会的に認められている事柄(個人的、恣意 的主張とは異なる。ある個人が勝手に主張している事柄ではな い) • <権利>・<義務>関係=権利を認めた側には、それを保障する (守る)義務がある • 権利を有する側が、相手に対してそれを守る(保障する) ことを求めることができる 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 7 第1章 日本の学校制度の概要(3) ②教育が権利として認められていることの意味 – 教育の必要性が社会的に承認されている=国家・社会がそれを 認めている – それを認めている国家や社会の側に、それを保障する義務が生 じる – 義務教育=国家や社会(親)が、国民(子ども)に対して義務 付けられた教育 – 教育を受ける側が、誰かに命令されたり、要求されたり、義務 付けられているわけではない – 国民は、国家・社会(子どもから見れば直接的には保護者)に 対して、自分にとって必要な教育を要求することができる、保 護者は子どもの権利を子どもに代わって国家、社会に要求する 権利がある – 国民は、自分にとって必要な教育についての「自由」を持って いる 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 8 第1章 日本の学校制度の概要(3) • ③教育の権利の普遍性 • 1.基本的人権の一つとして承認されている – 諸権利の中で、人間が、人間であることのみを条件 に、全ての人間が生来的にもっているとされている 権利を基本的人権という – 基本的人権とは、人間が人間として存在する上で、 欠かすことのできないものとして、認められた諸権 利のこと – 教育が、すべての人間にとって、人間として生存・ 存在するための必要不可欠なものとして承認された 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 9 第1章 日本の学校制度の概要(3) • 2.基本的人権の拡大 • ・個人の尊厳の尊重=「個人として尊重される」 • ・「生存権」=健康で文化的な最低限度の生活を営む ための条件を国家に要求する権利 • ・「生命、自由及び幸福追求の権利」 • ・内面的・精神の自由(信教、思想・良心、学問 • ・内面の表現の自由(表現、集会・結社)、通信の秘 密 • ・経済活動の自由 • ・財産の保障 • ・教育を受ける権利 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 10 第1章 日本の学校制度の概要(3) • ④なぜ「教育」が国民の権利として承認される必要があ るのか━生存の権利、幸福追求の権利(日本国憲法13条 )の系としての教育の権利 • 1.成長・発達の権利 – ・基本的人権の最も基本的なものの一つ、生存の権 利、幸福追求の権利 – ・人間らしく生きていくためには、人間的諸能力を 獲得していかなければならない – ・子どもには、人間らしく成長・発達する必要性が ある。(成長・発達の権利) 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 11 第1章 日本の学校制度の概要(3) • 2.「学習」の権利 – 人間の成長・発達の過程(人間が、人間的諸力を獲 得していく過程)は、自然的、自動的に引き起こさ れるものではない – 人間は、人類の文化遺産の中から、さまざまなこと がらを選択的に学びとっていく、「学習」をとおし て発達する – ※「子どもの発達において主要な過程は、歴史的に 人類によって蓄積された文化遺産の習得の過程であ って、人間以外の動物では存在しない過程といえよ う。」(岩波・小辞典『教育』) – 成長・発達の権利を保障するためには、学習の権利 を認めなければならない 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 12 第1章 日本の学校制度の概要(3) • 3.教育の権利 • ・人間の発達と学習の必要は、それを実現するのにふさわしい 条件のもとでのふさわしい学習の指導(すなわち教育)の要請 を内に含んでいる。 • ・教育は、発達と学習の可能性を有効に実現するための条件と 、その組織的な手段である • ・こうして、人間的発達とそれを実現する学習の場の具体的保 障として、「教育への権利」が承認されることになる。 • ・人間にとっての教育の必要性=発達とそれを実現する学習の 必要性と、その具体的場の保障としての「教育」の必要性 • ・実現されるべき「教育」は、子どもたちの人間的発達とその ための学習を保障するものでなければならない 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 13 第1章 日本の学校制度の概要(3) • 戦後の教育の展開過程が、この理念の実現過程であった のか、改革の逆コース【国家主義的教育の復活】をたどった のか • 日本の教育の現状をどう評価するか – 教育への国民の主体性、自立性は保障されているか? – 教育の内容は、人格の完成を目指すものになっているか ?自立した個人の形成にとって必要なものになっている か? 2015/9/30 第1章日本の学校制度の概要(3) 14
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