「星空の文化」をどう伝えるか? ― コメント&提起 ― 郡山市ふれあい科学館 安藤 享平 現在の「星空の文化に親しむ」 選択科目、講義科目 星空や宇宙に関する文化やその背景に関する基礎知識 拘束の程度: 各科目の講座において全体の70%程度の 時間を本要綱に準拠して実施し、残りの30%程度の時 間を講座講師のオリジナルの内容あるいは本要綱の内 容を丁寧に扱うために用いることとする。 1. 古代の世界観 (a) 神話とは本来はどういうものなのか、その起源と意義を 理解する。 (b) 世界各地に伝わる代表的な世界観と創世神話に触れ る。 2. 天空神としての太陽と月 (a) 運行経路の年変化からイメージされた太陽神の特質に ついて理解する。 (b) 満ち欠けを繰り返すことからイメージされた月神の特質 について理解する。 (c) 古代人の時間の概念について理解する。 3. 星座の起源と歴史 (a) 星座の起源について理解する。 (b) 星座にまつわるさまざまな神話について触れる。 (c) 現代の88星座に至る歴史を知る。 以下は選択的項目として2項目程度を選んで取り上げる。 4. 七惑星と占星術 (a) 占星術の起源について理解する。 (b) 黄道十二宮の定義と実際の星座との関係について理 解する。 5暦 (a) 太陰暦の起源について理解する。 (b) 太陰太陽暦の仕組みを理解する。 (c) 日本の旧暦について理解する。 6 七夕 (a) 七夕の伝説と習俗の起源を知る。 (b) 三種類の七夕の日とその意義を理解する。 (c) 七夕伝説のさまざまなバリエーションに触れる (d) 七夕の神話的意味を理解する。 7 お月見 (a) お月見の概要について理解する。 (b) 月の模様のさまざまな見方と、それにまつわる伝説に 触れる (c) 生命力の源としての月について理解する。 昨年の検討会議等で寄せられた課題 内容量について 他の講義科目でも。 選択と集中が必要? 内容の難易度について 担当できる講師について やれる人がいない? H19 安藤実施版「星空の文化~」 序章として、日本での星の見かたを追加 (和名・中国からの星座 etc) 「クリスマスの星」・・・ベツレヘムの星について、北十字の 話を追加 ・・・11月に講義を行ったため 七夕・十五夜は、「七夕伝承」「月の捉え方(月と不死)」に 絞って解説 ・・・確かに、“かなり”時間が厳しい 山形での受講者との議論から ー他にしてほしい話題ー 星座の神話などの具体的な話を 日本の星の見かたついてのより詳しい話題を 天文学史的な内容 ・・・概ね、「これまで触れることがない話題」という 感想 → 「天文学」「星座の表層」から先への アプローチは? 講義内容の検討 古代からの「星を見る」文化の根底 天体の運行と生活の身近な“暦”の関連 宇宙観発展の根底 講義内容の検討 結構プラネ関係者では「必須」の話題 七夕・十五夜・クリスマス の特別投影 一般の興味 →「私の(誕生日の)星座は?」 身近に氾濫する占星術・暦(六曜etc) 具体例にどこまで踏み込むか? ex:創生神話のパターンの理解 講座実施(3回)しての感想 時間不足 参加者の理解には、概念の詳細な紹介が必須 内容的には、プラネタリウムの解説+α (高校生以上の一般向け程度か?) 星空案内、と単純な割り切りで実践的内容なら、具体例 のアプローチも (参加者が本質に踏み込むだけの労力は増大) 方向性(安藤私案) 各大項目は基本的に維持 ストーリーから、要綱項目の精選も ・天地創造からの宇宙観 ・太陽と月 →暦 ・占星術 この3つにある“ストーリー”を中心に? 七夕・十五夜 といった日本の風習は、実践には必須 → 月の見かた(前述) +天の川の捉え方 で、理解の深化は可能 日本の星の見かた(和名)の紹介も重要(選択) 東洋占星術(二十八宿)、暦の変遷も ・・・欲は出てくる(汗) 基本に立ち返るという点では、 「原点」の紹介と現在との関連を紹介する 他所での「星空の文化~」 1. 古代の世界観 (a) 神話とは本来はどういうものなのか、その起源と意義を 理解する。 ・神話とは、誰も知らないはずの遠い原初の時代の出来事を語っ た聖なる物語であり、ある種の「真実」として人々に信じられてきた こと。 ・神話は、人々の根源的な疑問に答えるために、必然的に生み出 されたものであること。 (b) 世界各地に伝わる代表的な世界観と創世神話に触れ る。 ・創世神話にはいくつかの典型的なパターンが見られること。また、 それが人間に共通する思考の結果であること。 ・古くは荒唐無稽なものだった世界観が、次第に天球の概念を含む ようになってきたこと。 2. 天空神としての太陽と月 (a) 運行経路の年変化からイメージされた太陽神の特質に ついて理解する。 ・夏至のご来光が最も神聖視されたこと。 ・冬至には各地で太陽の復活祭が行われたこと。 (b) 満ち欠けを繰り返すことからイメージされた月神の特質 について理解する。 ・多くの民族が月神を「死と再生」のシンボルとしていたこと。 ・日を数えるのに好都合なことから、暦を司る神ともされたこと。 (c) 古代人の時間の概念について理解する。 ・古代人にとって、時間とは永劫回帰する円環構造をなすものだっ たこと。 3. 星座の起源と歴史 (a) 星座の起源について理解する。 ・最初の星座は、いまから5000 年ほど昔、古代メソポタミア文明を 築き上げたシュメール人によって作られたこと。 ・星座の多くは、農耕上のカレンダーとして、あるいは占星術を目的 として作られたこと。 ・プトレマイオスが古代の星座をまとめ、48星座を定めたこと。 ・中国では独自の星座が作られたこと。 (b) 星座にまつわるさまざまな神話について触れる。 ・メソポタミアで生まれた星座がギリシアに伝えられ、ギリシア神話 と結びついたこと。 ・一つの星座にいくつかの神話が伝えられている例があること。 (c) 現代の88星座に至る歴史を知る。 ・大航海時代に南天の星座が作られたこと。 ・近代以降、新しい星座を勝手に作る人があったこと。 ・1930 年のIAU総会で現在の88星座が定められ、境界も決めら れたこと。 以下は選択的項目として2項目程度を選んで取り上げる。 4. 七惑星と占星術 (a) 占星術の起源について理解する。 ・ 惑星の複雑な動きが神の兆候と考えられ、黄道上に12星座が 作られるきっかけとなったこと。 ・占星術では太陽と月も惑星とみなされ、七惑星の位置関係などか らさまざまな解釈を行っていること。 ・七惑星の通り道である黄道を中心とした帯状の部分を獣帯と呼ぶ こと。 (b) 黄道十二宮の定義と実際の星座との関係について理 解する。 ・「黄道十二宮」は春分点を出発点として獣帯を12等分したもので あり、実際の星座とは無関係に定められていること。 ・2000 年前にうまく対応していた黄道十二宮と12星座が、地球の 歳差運動による春分点の移動で、現在ではほぼ一星座分ずれて しまっていること。また、春分点は2万5800年で黄道上を一周する こと。 ・黄道上には実際には「へびつかい座」を含む13星座があり、太陽 がこの13 星座の中を移動していく期間の日数もまちまちであるこ と。また、このことから、最近では「13星座占い」なるものも現れた こと。 5暦 (a) 太陰暦の起源について理解する。 ・多くの民族が文明の黎明期から自然に太陰暦を使い始めたこと。 ・古くは、「新月」とは夕方の西の空に初めて見える細い月のことで、 新月が見えた時が新しい1か月の始まりとされたこと。 ・イスラム世界では、現代でも細い月を観測して月初を定めている こと。 ・太陰暦は暦と季節が毎年約11 日ずつずれてくること。 (b) 太陰太陽暦の仕組みを理解する。 ・太陰太陽暦では、19 年間に7回の閏年を設け、閏年は1年を13 か月として暦と季節を合わせていること。 ・天文学の進歩の結果、月初が朔の日に改められたこと。 ・中国では、かつての新月を、月が出ると書いて「朏」(ひ)と呼ぶよ うになり、これを日本では「みかつき」と訓読みしていること。 (c) 日本の旧暦について理解する。 ・明治5年まで使われていた「旧暦」は太陰太陽暦であること。 ・毎月月初を「ついたち」と言うのは、「月立ち」が訛ったものである こと。 ・旧暦は立春のころを正月としていること。 6 七夕 (a) 七夕の伝説と習俗の起源を知る。 ・七夕伝説の起源は2世紀ごろの中国であること。 ・6世紀ごろ、乞巧奠という七夕の習俗が行われるようになったこと。 ・日本には7世紀ごろ、奈良時代に伝えられたこと。 (b) 三種類の七夕の日とその意義を理解する。 ・新暦の7月7日は梅雨時で晴天率が悪く、星もまだ見ごろではな いこと。 ・旧暦の7月7日は新暦では8月上旬~中旬ごろとなり、星祭りを行 うのにふさわしい時期となること。 ・年中行事としての七夕は秋の行事であり、俳句でも「七夕」「天の 川」は秋の季語とされていること。 ・新暦8月7日に「月遅れ」で七夕祭りを行う地方があること。 (c) 七夕伝説のさまざまなバリエーションに触れる ・日本では古い時代のオーソドックスな形が残されていること。 ・現代の中国では民話の「天人女房」と合体した複雑な物語となり、 「天河配」という民間戯曲として各地で盛んに演じられていること。 ・東アジア各地に伝えられた七夕伝説にもさまざまなバリエーション があり、そこには神話・昔話によく見られるモチーフが組み入れら れていること。 (d) 七夕の神話的意味を理解する。 ・世界各地に伝わる天の川のイメージには「異界との境界」という概 念が含まれているものが多いこと。 ・天界、常世、根の国、黄泉の国など、世界中でさまざまな異界が 考え出されたこと。また、神話伝説や習俗の多くは、現世と異界と の交流を具現しようとするものであること。 ・旧暦七夕からお盆にかけては、異界との通行ができる特別な期 間と考えられていたこと。 ・七夕やお盆の習俗の多くは、異界からやって来る祖霊、まれびと 神、天の技巧などを迎えるための行事であること。 ・織姫は、古くは河の神に捧げられた犠牲の棚機女であり、牽牛も また犠牲の牛であると考えられること。 7 お月見 (a) お月見の概要について理解する。 ・旧暦8月15 日の月を「中秋の名月」(芋名月)と呼び、この日に十 五夜のお月見が行われること。 ・中秋の名月は必ずしも満月とは限らないこと。 ・旧暦9月13 日の月を「後の月」(栗名月)と呼び、この日に十三夜 のお月見が行われること。 ・「お盆のような月」が小指1本で隠されること。また、これを実際の 空で確かめること。 (b) 月の模様のさまざまな見方と、それにまつわる伝説に触 れる ・日本の月ウサギは餅をつくが、中国では不老不死の薬をつくこと。 ・片腕の蟹、月美人など、世界各地に伝わる代表的な見方を知るこ と。 ・月の模様には、不死再生の神話伝説が伴っている例が多いこと。 (c) 生命力の源としての月について理解する。 ・満月の夜に野ウサギが飛び跳ねるように、月の光は人間にも強く 作用すると考えられていたこと。 ・西洋では月の光が狂気の源とされ、狼男などの伝説が生まれた こと。 ・日本では月の生命力にあやかり、満月の夜に各地で綱引きや相 撲が行われていること。
© Copyright 2024 ExpyDoc