馬インフルエンザ 届出伝染病: 馬。 (Equine influenza) 動物衛生研究所 「家畜の監視伝染病」 病原体: オルソミクソウイルス科A型インフルエンザウイルスの2つの血清亜型、 1型( H7N7 )と2型( H3N8 )による。 疫学: 年齢や季節に関係なく、世界中で発生している。咳などで排泄されたウイル スを含む飛沫によって伝播する。日本では、1型は1980年まで発生が確認されたが 以降報告がなく、近年流行しているのは2型だけである。 発病率 東京競馬場での発生状況 抗体陰性馬群: ほぼ100%。 在厩馬963頭中956頭(99.3%) 1971年12月4日から翌年1月 JRA 11日の僅か 39日間で、日本 国内で 6,782頭が発症。 抗体保有馬群: 1979年のス ウェーデンでは、定期的ワクチ ン接種群 37%、ワクチン接種 歴がある群 77%、ワクチン接 種歴がない群 98%。 臨床症状: 感染初期には動作が鈍く、眼 結膜は紅潮し、眼は湿潤で涙を認めること もある。感染後、およそ24時間以内に体温 は39℃前後に上昇し、発咳、食欲不振とな るが、鼻汁はそれほど目立たない。2-3日 経過する頃から体温は40-41℃となり、多量 の水様性鼻汁を流出する。 クビを前下方に伸ばし、 激しい乾性の咳 黄白色で粘稠な 膿性鼻汁 典型的な症例としては激しい乾性の咳と粘稠性の強 い喀痰の排出がみられる。解熱に伴い鼻汁は白濁ないし 膿様となり、湿性の努力性発咳を示す。安静療法を施す と、軽症例で1週間、重症例でも約3週間で回復する。 伝播力が強く、一旦発生すると急速に拡大するので、 類似疾患と区別し、病馬を早く隔離することが重要。馬イ ンフルエンザでは発症の早期に激しい乾性の努力性の 咳を頻発することが特徴的。腺疫、馬鼻肺炎、馬ウイル ス性動脈炎では下顎リンパ節の腫大が認められるが、馬 インフルエンザでは軽度か、ほとんど認められない。 日本における2007~2008年の流行 府県 戸数 頭数 8月 9月 10月 11月 12月 1月 総計 16 44 486 20 18 302 29 24 133 30 10 124 30 2 16 30 1 1 99 1062 発熱症例のインフルエンザ検査成績(JRA) :陰性 :陽性 2008年7月の取り纏めでは、通算 33都道府県2,245頭が陽性であった。 ワクチン接種しているJRA全体での 発症率は12.8 %であり、健康馬の不 顕性感染率は19.4%であった。 8月 9月 2007年8月15日、 35年ぶりに発生したフ ロリダ亜系統株 (H3N8)による馬イン フルエンザは8月中に 16都道府県に広まり、 中央競馬、地方競馬 が相次いで中止に なった。また、10月5 日から開催された国 民体育大会で参加馬 170頭中37頭の感染 が確認され、競技中 止に追込まれた。 インフルエンザウイ ルス検出キット、ある いはRT-PCR検査に よって陽性が確認され たのは年内に30都道 府県にまで増えた。 遺伝学的および血清学的に、アメリカ系統およびヨーロッパ系統の2つの系統に 分岐・進化していたウマインフルエンザウイルス(EIV H3N8)は、1997年以降、ア メリカ系統から新しくフロリダ亜系統と呼ばれるグループができた。2003年以降は、 フロリダ亜系統のEIVが世界中で支配的に流行しており、世界獣疫事務局はフロリ ダ亜系統のEIV株をワクチンに含めるよう2005年以降度々勧告している。 日本でも、ワクチンにフロリダ亜系統のEIV株を導入すべきか否かの検討を行う ため、「馬防疫検討会」馬インフルエンザワクチンに関する専門会議が設置された。 2007年5月に第1回会議が開催され、海外から輸入したフロリダ亜系統のEIVを解 析したところ、日本の現行ワクチンはフロリダ亜系統のEIVに対して、ある程度の防 御効果を期待できることから、さらにデータを収集してワクチン株の変更の必要性 について検討することとなった。そして、皮肉にも、第1回会議の約3ヵ月後に(2007 年8月)、フロリダ亜系統のEIVの流行が日本で発生したのである。 2007年8月の規模を超える流行はないものの、2008年以降も小規模な散発的発 生は引き続き報告されている。したがって、この散発的流行を抑制するためには、 現行ワクチンで馬に賦与できる流行株に対する抗体レベルよりも、さらに高いレベ ルの抗体を賦与する必要がある。検討の結果、1980年以降流行の見られないウ マインフルエンザA1型ウイルス(H7N7)のA/equine/Newmarket/77の代わりに 今回の流行株A/equine/Ibraki/1/07を加え、従来のA/equine/Avesta/93 と A/equine/La Plata/93(いずれもH3N8)の3株を含む新しいワクチンの製品開発 が進められることとなった。 2008 2005 2007 20051-6 7-12 2006 2007 2006 2008 7-12 2007年10月に中国新疆自治区で発生した(1994年以来初めて)H3N8型馬インフ ルエンザは、モンゴルに侵入し11月16日段階で8,000頭以上と確認された。 2008年6月から8月にかけてTirkuta山脈のふもとに位置するインド最北部の州で人 や荷物の輸送に使われているラバ、ポニー、ウマの間で馬インフルエンザが流行し た。本病の発生はインドでは約20年振りのことであり、中国からの越境による可能 性を除外することはできない。
© Copyright 2025 ExpyDoc