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サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト 2010
事前学習
遺伝子異常、生活習慣と病気
福井大学ライフサイエンス支援センター
生物資源部門
小泉 勤
学習目標



母乳で子供を育てることは哺乳類の特徴であるが、離乳期以降は乳を摂取す
ることはない。人類は例外的に酪農業を発達させ、大人も乳製品を摂取するが、
日本人など大多数の人々は量を多く摂ると、乳糖を分解できないため下痢な
どをおこす(乳糖不耐)。この講座では乳児期とおとなのマウスで乳糖分解酵
素(ラクターゼ)の活性を発色性基質(ONPG)を用いて違いがあるかを検討す
る。この過程で、乳糖の消化・吸収、酵素と基質について学習する。
一部の欧米人は大人になってもラクターゼを産生するため(ラクターゼ存続)、
牛乳を多量に飲んでも乳糖不耐をおこすことはない。この能力は約1万年前に
カフカス地方でひとりの人間に遺伝子突然変異によってもたらされたものであ
り、ヨーロッパ北部の寒冷な気候では、ラクターゼ存続の遺伝子と酪農業が生
存に有利に働き、その結果、この遺伝子を受け継ぐ人々の割合が90%を越え
たとされる。ラクターゼ存続を通じて遺伝子突然変異と進化について学習する。
大部分の遺伝子突然変異は表現型の変化として直接検知されることはないが、
遺伝子突然変異はときにガンや遺伝病を引き起こし、また進化の牽引ともなる。
この講座では遺伝子突然変異による表現型の変化をobese マウスで観察する。
その過程でマウスを解剖し小腸については肉眼、実体顕微鏡、電子顕微鏡で
観察し、動物の身体の階層性(個体、器官系、器官、組織、細胞)について学
習する。
②
5月29日の日程

テーマの説明(講義室)

実験実習




Lactaseの検出
Obeseマウスの観察
小腸の観察


実習室(医学部実習棟2階)



光学顕微鏡
電子顕微鏡


電子顕微鏡室(研究棟1階)


マウスの解剖
発色性基質によるラクター
ゼの検出
小腸の光学顕微鏡観察
 実体顕微鏡
各器官の観察
グループごとに移動し、小腸
の電子顕微鏡観察
まとめ
③
炭水化物の消化と吸収
乳児期
乳糖
ラクターゼ
ぶどう糖
ガラクトース
離乳後
スクラーゼ、マルターゼ
④
単糖類の吸収

グルコースの吸収:能動輸送(active transport)





細胞膜のキャリアー分子 (ナトリウム依存性グ
ルコーストランスポーター) が関わる。
 ナトリウムとグルコースを細胞内に取り込む。
取り込まれたグルコースとナトリウムは血液中に
排出される。
グルコースは濃度勾配によって絨毛の毛細血管
に促進拡散(Facilitated diffusion)
Na+ はナトリウム-カリウム ポンプ (ATPが必要)
を介して血中に拡散。
他の単糖類(例えば、フルクトース)の吸収:能
動輸送ではなく単に促進拡散。
Biology Mad. com
⑤
乳糖 Lactose

人と乳糖の関わり




哺乳類は、母乳で育つ。
乳糖は、ラクターゼによって分解される。
離乳後は、乳糖は摂取しない(酪農以前)。
 離乳後はラクターゼは不要
摂取する糖分の区分


内因性の糖:
 細胞に含まれるもの (フルーツ)
 乳糖: 乳製品に含まれるもの
外因性の糖: 食物に添加した糖分 (加工食品)
 清涼飲料水には多量の糖分
 糖の過剰摂取→肥満(生活習慣)
⑥
遺伝、環境、病気、自然選択

遺伝子突然変異
 ラクターゼ(Lactase)遺伝子


変化…欠損:重大な発育障害
変化…持続発現:生存に有利(自然選択)表現型
の変化



北欧:気候、カロリー、ミネラル(骨)→適応→選択

牛乳が多量に飲める大人(ラクターゼ存続)

適応(自然選択、進化)
南欧:気候(乳以外の栄養源が利用できる)
変化なし:Lactase遺伝子は乳児期に働く

おとなでは牛乳を飲めない(本来の姿)(乳糖不耐症)
⑦
乳糖不耐症 lactose intolerance



ラクターゼ(Lactase)は ラクトース
(lactose;乳糖) を グルコース(glucose)
と ガラクトース(galactose) に分解する。
ラクターゼを欠損する
→ ラクトースは消化,吸収されない。

乳児 → 重大な発育障害
ラクターゼの産生低下

大人


→ ラクトースが消化管内にとどまる。
腸内細菌の栄養源/ (発酵) / ガス産
生)。
水ポテンシヤルはさらにネガティブになる
/ 水が小腸に流れ込む / 吸収されない /
(下痢)。
⑧
酵素(1)






すべての酵素は球形の蛋白 → 球形の形状
細胞内の化学反応を制御する
英語では末尾に "-ase"
細胞内酵素は細胞の中にあり、そこで働く
細胞外酵素は細胞の外で働く (例えば、消化
酵素)
酵素は触媒作用 → 化学反応を促進




反応開始に必要な活性化エネルギーを引き下
げる
基質 (反応物質) は産物に変換される
酵素がなければ反応がおこらない (各酵素は
特定の触媒作用を有する)
酵素は最適条件で反応が最大限になるように
促進する
⑨
酵素(2)

鍵と鍵穴説



E
一つの基質(key)だけが 酵素の活性中
心 (lock)にかみ合う。
両者の構造は特異的である。
ES
誘導適合説





S
基質は酵素の活性中心に結合する。
 活性中心の形状は変化し、基質は酵
素に接近する。
 アミノ酸は正確な形状に鋳造される。
 酵素は基質を包み適合するように変
形される。
活性化エネルギーを低下させる。
酵素-基質複合体 → 反応促進
E + S → ES → P + E
P
P
ES
酵素は反応で使い果たされることはない
(この点、基質と異なる)
⑩
乳糖および類似体(X-Gal、ONPG)の
ラクターゼによる分解
ガラクトース
グルコース
Lactase
Lactase
無色
無色
乳糖(Lactose)
黄色
O-Nitrophenol:水溶性
ガラクトース
5-ブロモ-4-クロロ-3-インドール:不溶性
Lactase
無色
酸化
X-gal: 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシド
無色
5,5‘-ジブロモ-4,4’-ジクロロ-インディゴ:不溶性
青色
⑪
腸管のラクターゼ検出
12指腸 直腸
対照
ONPG溶液中に
腸片を加え、37℃
で加温(20ー60分)。
ONPGはLactaseによ
りガラクトースと
O-Nitrophenolに分解。
参考
ラクターゼ(緑:蛍光抗体法) 、
絨毛(柔毛)赤:対比染色
O-Nitrophenolは水溶
性で、黄色。定量性
O-Nitrophenolは水溶性
参考
X-Gal
ラクターゼの in situ (その場で) 検出
Lactaseの存在する部位で発色(定性)
小腸にX-gal液を入
れ、両端を糸で結紮
し、37℃で加温(90120分)
X-galはLactaseによ
りガラクトースと5-ブロ
モ-4-クロロ-3-インドー
ル(不溶性) に分解。
⑫
遺伝子突然変異と表現型の変化
Obese マウス
Obese マウス


Leptin 蛋白を欠損する

過食による肥満


脂肪の蓄積:これ自体は病気ではない。



レプチン(体重増加抑制ホルモン)を欠く → 食欲亢進、エネ
ルギー消費減少 → 肥満(脂肪細胞の数と体積の増加)。
脂肪は、断熱と内臓保護の働き
脂肪はエネルギー源
過剰な脂肪貯蔵(肥満)は、さまざまな病気を誘発(メタボリック
症候群)

肥大化した脂肪細胞 →アディポサイトカイン類を産生、分泌→近
傍の脂肪細胞及び/又は筋細胞に作用して、インスリン抵抗性を
惹起。
⑬
エネルギーバランス

エネルギーは食物から得る



炭水化物 と脂質は主要なエネルギー源
タンパク質は 成長と修復に使われ、過剰なタンパク質は
エネルギーに変換される
バランスのくずれ

必要以上のエネルギーを摂取する → 肥満 obesity



意志の不足など精神的な問題ではない
肥満の寄与因子
 遺伝
 年齢:代謝率は、年齢と共に低下
 食べ物選択:脂肪分の高い食べ物
 活動量:活動で消費するより、多くのカロリー摂取
 薬物:食欲の増加、代謝率の低下
必要なエネルギーが摂取できない → 飢餓 starvation
⑭
肥満→メタボリック症候群






BMI (Body mass index 肥満度指数) ≧ 30
BMI = 体重 (kg) / 身長² (m²)
必要以上のエネルギー/食物の摂取

運動不足

不健康な食品
2型糖尿病のリスクファクター
肥満と糖尿病 → 心臓病、脳卒中、高血圧の高いリスクファクター
ガンのリスク

肥満の人はそうでない人より炎症を患う機会が多い

炎症は細胞の代謝回転を促進する
 がんを引き起こす突然変異が起きる確率が高くなる
脂肪肝のリスク



肝臓への脂肪蓄積 – 可逆的
1%は肝臓の炎症を引き起こす (肝臓がんのリスク!)
変形性関節症や関節リウマチを引き起こす

体重増加が長期→関節や骨にダメージ
⑮
事前学習の課題1-2
Obese マウス


遺伝子の変異 (CがTに置換) → 肥満(表現型)
TGA
マウスのLeptin 遺伝子のエクソンの塩基配列の一部 (361-420) です(下はアミノ酸)。
正常な遺伝子は、373番目の塩基がCですが、obeseマウスでは、Tに変化している。
•
課題1. CGAはどんなアミノ酸をコードしますか?
CGAがTGAに変わった場合は、どうなりますか?
•
課題2.大部分の突然変異は表現型の変化として直接検知されること
はない。なぜでしようか?
⑯
事前学習の課題 3-7
3.乳糖不耐症とは?
原因は生まれ (遺伝) それとも 育ち (環境要因)?
4.なぜ乳糖不耐症は乳製品の摂取量と関係があるのか?
5.人はなぜおならをするのか?
6.乳製品に含まれる必須栄養素とミネラルはなにか?
7.乳糖を減少させた乳製品(例えば、アカディミルク)は、どのよ
うにして製造されるか?
⑰
小腸の観察(肉眼、光学顕微鏡、電子顕微鏡)
電子顕微鏡
微絨 (柔)毛 Microvilli
内視鏡(実体顕微鏡)
絨毛 (柔毛) villi
⑱
階層性
個体
器官系
外皮系
骨格系
筋系
消化器官系
循環器官系
呼吸器官系
泌尿器官系
神経系
内分泌系
生殖器官系
器官(小腸)
器官
上皮組織
結合組織
筋組織
神経組織
組織
上皮細胞
細胞
消化器官系
⑲
5月29日の実験
1.発色性基質ONPG によるラクターゼの検出
–
活性部位、乳児とおとなの比較
2.Leptin欠損マウスの観察(解剖)
3.動物の身体の階層性の観察(解剖)
–
個体~電子顕微鏡
注意事項
1.特に危険はないが、実験中は、手袋、マスク、実験衣を着用する。
2.参加者は5班に分かれ、TA(医学部4年生)の指導のもとグループで
行うが、できるだけ主体的に参加する。
⑳
グループでの実験-1:ラクターゼの検出(1)
• 準備
– 10ml試験管9本。各試験管にマーカーでグループ名とサンプル番号
(A1, A3, A7, A9, B1, B3, B7, B9, C )を記入
– ONPG溶液:ONPG 50mgに10ml の1/15M リン酸緩衝液 pH7.0
を加え溶解 (調整済み)
– マウス(成体(3-4ヶ月齢)と乳児(13-16日齢)、各1匹)
• 腸の採取
1)マウスを安楽死させ、
2)開腹し、全腸を摘出する。
3)マウスやラットでは小腸を幽門から回盲交差点まで水平軸に連続的
に8等分すると、 大雑把に、区画1が十二指腸(duodenum) 、区画24(5)が空腸(jejunum)、区画5(6)-8が回腸(ileum)である。
区分1(十二指腸),3(空腸),7(回腸)と結腸を上端から5mm 採取
する。 (採取部位に内容物があれば、軽くピンセットで軽く腸管をし
ごき、移動させる)
ラクターゼの検出(2)
• ラクターゼ活性の検出
4)番号の対応する試験管に、採取した腸片を縦軸に切開して入れ、
ONPG溶液を1ml加え、腸片をONPG液中に漬ける。
試験管 A1 は成体の十二指腸
B1
A3 は成体の空腸
B3
A7 は成体の回腸
B7
A9 は成体の結腸
B9
試験管 CはONPG溶液のみ(対照)
は乳児の十二指腸
は乳児の空腸
は乳児の回腸
は乳児の結腸
5)試験管を37℃の恒温水槽で振とうさせ反応させる。30分-60分後に溶
液の色を観察し、写真記録。
ラクターゼの検出(3)
• ONPGはラクターゼにより、ONP(黄色、水溶性、最大吸光度
が420nm)とガラクトースに加水分解される。
• 生成されるONPの量は、基質(ONPG)の量、ラクターゼの活
性、それに反応条件(温度、pH、反応時間)による。
• 試験管A1,A3,A7,A10,B1,B3,B7, B10の色を比べ、腸管の部
位やおとなと乳児で活性に違いがあるか調べよう。
グループでの実験-2:Leptin遺伝子の変異と表
現型
• Obeseマウスでは偶発突然変異により、 Leptin
遺伝子に異常がみられ、ホモ個体のObeseマウ
スではLeptinが欠損する。
• LeptinがないとどうなるかをObeseマウスと通常
マウスの比較で学習する。