ロジスティクス工学 第3章 鞭効果 サプライ・チェインの設計と管理 第4章 情報の価値 バリラ・スパの事例を読んでおくこと! 東京海洋大学 久保幹雄 鞭効果,牛追い鞭効果 (whiplash effect, bullwhip effect) • サプライ・チェイン・マネジメントを理解するため の鍵となる概念 • 使い捨てオムツの代表的メーカーとして知られる P & G 社は, 顧客需要のばらつきだけでは説明 しきれないほど小売店からの注文がばらついて いることに気づいていた. • Hewlett--Packard 社では,顧客需要のばらつき を大きく上回る注文のばらつきを経験していた. さらに,その部品の注文のばらつきは,コン ピュータ本体の注文のばらつきを大きく上回って いた なぜ鞭効果が起きるのか? 1.需要予測 • ある小売店で,たまたまその日(期)の売り上げ (需要)が多かった. • 小売店の店主は,将来需要が今日と同じように 売れると予測して,前日までの在庫レベルを少し 引き上げるように調整する. • 卸売り業者からみた需要の見かけ上の増大につ ながる. • 同じようなことが卸売り業者の予測のために, メーカーに対しても起こる. なぜ鞭効果が起きるのか? 2.リード時間 • 品切れは,発注をしてから商品が到着するまで の時間(リード時間)が長いほど発生しやすい. • 目標とする在庫レベルはリード時間に応じて大き めに設定される. • 在庫量が大きいときには発注量も大きくなる. • リード時間が長いほど鞭効果が増大される. なぜ鞭効果が起きるのか? 3.バッチ発注 • ある程度の量をまとめて(バッチ処理で)発 注(数量割引のため) • 大きな発注の後に,発注がまったくない期 が続く,きわめてばらつきの大きい発注に なる. • 鞭効果が増大. なぜ鞭効果が起きるのか? 4.価格の変動 • • • • 値引きをする. 商品の売れ行きも良い. その分大量の発注する. しかし,値引きセールが終わって,通常の 価格に戻す. • 商品の売れ行きは通常の場合以下に落ち 込む鞭効果が増大. なぜ鞭効果が起きるのか? 5.供給不足と供給配分 • ある商品の売れ行きが大変良くて,将来の 品切れが予測される. • (必要以上に)大量の発注を出して,在庫 を増やす. • メーカーは品薄な商品を卸すときには,発 注量に基づいて配分を行う(供給配分). • より大量の発注をする. • 鞭効果増大. 1段階モデル 各期 t=1,2… において 発注量 q[t] 小売店 顧客 在庫量 I[t] 需要量 D[t] タイミング リード時間 L t期の期末に発注された商品は t+L+1期の期首に到着 2) 需要D[t] 発生 t期 t+1期 t+2期 1)t-L-1期に 3)需要予測 F[t+1] 発注した 4)発注 q[t] 商品到着 t+3期 t+4期 T+L+1期(L=3)に 商品到着 需要の確率過程 (前期と相関 ρ をもつ) • 定数項 d • 前期との相関を表すパラメータ (1 1) • t期における誤差を表すパラメータ (t 1,2,) 平均 0, 標準偏差σの独立な分布 t Dt d Dt 1 t t期の需要量 t-1期の需要量 需要過程 d=80,ρ=0.5,ε[t]=[-10,10] 一様分布 =80+0.5*B2+(RAND()*(-20)+10) 200 150 100 50 41 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 17 15 13 11 9 7 5 0 3 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 250 1 期 t 需要量 D(t)=d+ ρ*D(t-1)+ε 80 146.4349107 166.2490253 181.946823 200.6561255 210.0359644 202.0940006 200.3971697 193.985555 194.6002961 発注量 q[t] p • 需要予測 (移動平均法) dˆt D t j j 1 p 以下ではdˆtを F[t ], Dtを D[t ]と表記 • t期の期末に,t期の需要量 D[t]と次期との予測 値の差 F[t+1]-F[t]をリード時間(L)倍したもの和 を発注 q[t]=D[t]+L (F[t+1]-F[t]) ,t=1,2,… 期末在庫量 I[t] • 在庫量の保存式 期末在庫量= 前期の期末在庫量-需要量+到着した商品の量 I[0]=安全在庫量 I[t] =I[t-1] –D[t] +q[t-L-1],t=1,2,… Excelによるシミュレーション bull.xls =(B5+B4+B3+B2)/4 =C6*2 =E7-E6+B6 =D6+1 =G5-B6+F3 リードタイム中の 発注量 在庫量 需要量 D(t)=d+ 移動平均法による 需要量予測 目標在庫レベル q(t)=y(t)-y(t- I(t)=I(t-1)期 t ρ*D(t-1)+ε 予測 F(t):p=4 F(t)*:L, L=2 y(t)= F[t]*L+ z*σ 1)+D(t-1) D(t)+q(t-3) 1 80 80 0 2 127.81847 80 0 3 144.8770316 80 0 4 152.9420471 80 300 5 157.4258033 126.4093872 252.8187744 254.8187744 196.138705 222.5741967 6 151.3785902 145.765838 291.5316761 293.5316761 163.1586503 151.1956064 7 161.1899679 151.6558681 303.3117361 305.3117361 169.3464361 70.00563851 8 158.4760476 155.7341022 311.4682043 313.4682043 161.2430479 107.6682959 9 164.937867 157.1176023 314.2352046 316.2352046 168.6938988 105.8890792 10 156.4019926 158.9956182 317.9912364 319.9912364 158.9136938 118.8335227 需要,発注,在庫量の変化 350 300 250 需要量 D(t)=d+e*D(t1)+epsilon 発注量 q(t)=y(t)-y(t1)+D(t-1) 在庫量 I(t)=I(t-1)D(t)+q(t-3) 200 150 100 50 -100 41 37 33 29 25 21 17 9 13 -50 5 1 0 練習問題3-1 • パラメータ ρ を色々変えた場合の需要量, 発注量,在庫量のグラフをExcelで表示せ よ. 需要量の(漸近的な) 期待値(Expectation)と分散(Variance)と 共分散(Covariance) d E[D]=d+ρE[D]を解く! E ( D[t ]) 1 2 2 Var[D]+σ2を解く! Var[D]=ρ Var( D[t ]) 2 1 p 2 Cov( D[t ], D[t p]) 2 1 発注量の展開式 q[t ] D[t ] LF [t 1] LF [t ] p D[t ] L D[t 1 j ] j 1 p L L (1 ) D[t ] D[t p ] p p p L D[t j ] j 1 p 発注量の分散 L 2 L 2 Var( q[t ]) (1 ) Var( D[t ]) ( ) Var( D[t p ]) p p L L 2(1 )( )Cov( D[t ], D[t p ]) p p 2 L 2 L2 2 2 (1 ) Var( D[t ]) 1 p p 2 L 2 L2 Var( q[t ]) 2 1 2 (1 ) Var( D[t ]) p p 式から得られる観察 2L 2L Var (q[t ]) 1 2 Var ( D[t ]) p p 2 2 (1 ) • 移動平均のパラメータpを増やすと鞭効果は減少 • リード時間 Lを増やすと鞭効果は増大 • 相関 ρ が正のときには鞭効果は減少 練習問題3-2 • 2段階モデルのシミュレータをExcelで作成 せよ. • 予測に指数平滑法を用いた場合のシミュ レータをExcelで作成し,移動平均法を用 いた場合と指数平滑法を用いた場合の発 注量のばらつきを比較せよ. 平滑パラメータαを用いた指数平滑法の予 測式: dˆt Dt 1 (1 )dˆt 1 (t 2,3,) 対処策と処方箋 1.需要の不確実性 • 期ごとに予測値が大きく変動しないような予測 (移動平均のpを大きく,指数平滑のaを小さく) • サプライ・チェインの上流(メーカー側)に下流(顧 客側)の情報を直接伝える. POS(Point-Of-Sales) • 連続補充(continuous replenishment);詳細につ いては,「サプライ・チェインの設計と解析」 pp.154-164,6.4節小売り・納入提携を参照 • ベンダー管理在庫(Vender Managed Inventory: VMI)方式 対処策と処方箋 2.リード時間 • リード時間短縮 • EDI(Electric Data Interchange)やCAO (Computer Assisted Ordering)を用いた発 注業務の簡略化が有効である. • リード時間短縮の実践例としては,アパレ ル業界におけるQR(Quick Response) 対処策と処方箋 3.バッチ発注 • 発注固定費の削減->発注作業の簡略化 • EDI(Electric Data Interchange)やCAO (Computer Assisted Ordering) • 3PL(Third Party Logistics)業者による混載 輸送;3PLについては,「サプライ・チェイン の設計と解析」pp.147-154,6.3節 3PLを参 照 対処策と処方箋 4.価格の変動 • 毎日低価格(EDLP: Every Day Low Price) 戦略(P&G) • 一部の小売り業者から反発 • 日本では失敗(ダイエー) 対処策と処方箋 5.供給不足と供給配分 • 近々の発注量ではなく,過去の販売実績 (マーケットシェア)に応じて,供給配分 (General Motors社,Saturn 社やHewlettPackard 社) • 供給不足に対する懸念->メーカー側の生 産および在庫の情報を下流(小売店)に伝 える(Hewlett-Packard 社や Motorola社) Inventory Distribution Simulator • 在庫シミュレーションのソフトウェア(鞭効 果のシミュレータ)をダウンロード&インス トールして遊んでみよう! • 連続時間のシミュレーション=システム・ダ イナミクス 事象の因果関係を用いてシミュレーション (地球の未来の予測などに適用された.) Inventory Distribution Simulator の因果図(風が吹けば桶屋が儲か る!) Wholesaler Distributor Factory Retail Facing Fill Rate Distributor Inventory Coverage Factory Shipments Distributor Inventory Wholesaler Inventory Coverage Retail Inventory Coverage Retail Wholesaler Inventory Distributor Shipments Inventory Wholesaler Shipments Distributor Orders Wholesaler Orders Distributor Sales Forecast Desired Distributor Inventory Retail Orders Wholesaler Sales Forecast Desired Wholesaler Inventory Retail Sales Retail Sales Forecast Desired Retail Inventory Inventory Distribution Simulator Run Simulation: Complex Case(標準) Run Simulation: Complex Case VMI(Vender Managed Inventory)に設定 Run Simulation: Complex Case 需要(=注文:order)をランダムに設定 Run Simulation: Complex Case 需要ランダム,VMIに設定 練習問題3-3 • Inventory Distribution Simulatorのパラメータを色々と変 えて遊んでみよう. • Computerized Beer Gameで遊んでみよう.
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