教養の化学

教養の化学
第6週:2013年10月28日
担当
杉本昭子
前回の復習:原子の電子配置(1)
1.電子は量子化された軌道に存在しその軌道エネルギーを持つ。
2.原子軌道は1組(4種)の量子数により支配されている。
主量子数(n)方位量子数(l)磁気量子数(ml)
スピン量子数(S)
3.任意の 原子の電子配置は,原子軌道の概念に基づき、ルー
ルに従い簡単に書くことができる。
Pauli principle, Hund’s rule
4. 電子配置の特性から,イオンになり易い原子、イオン結合を
作り易い原子を元素の周期表から見つけることができる。
イオン化エネルギー、電子親和力
演習の解答と解説
1. 次の原子のうちから、(第1)イオン化エネルギーの最も小さいも
のと、最も大きいものを選び、それぞれ元素記号で書きなさい。
(3X2=6点)
Si, Cl, Al, Na, P, Mg, Ar, S
イオン化エネルギーの最も小さいもの
イオン化エネルギーの最も大きいもの
Na
Ar
イオン化エネルギー(イオン化電位)
原子から電子1個を取去ってカチオンにするのに要するエネルギーをイ
オン化エネルギーという。一般に原子核から遠いほど取去り易く、イオ
ン化エネルギーが小さい。
演習の解答と解説
イオン化エネルギー(イオン化電位)とは
イオン化エネルギー(イオン化電位)
気体状態の単原子(または分子の基底状態)
の中性原子から取り去る電子が1個目の場合
を第1イオン化エネルギー(IE1)、2個目の電子
を取り去る場合を第2イオン化エネルギー
(IE2)、3個目の電子を取り去る場合を第3イオ
ン化エネルギー(IE3)・・・(以下続く)と言う。単
にイオン化エネルギーといった場合、第1イオ
ン化エネルギーのことを指すことがある。
同周期では、原子番号が大きい程イオン化エ
ネルギーが大きい。
同族元素では、原子番号が大きい程イオン化
エネルギーが小さい。
演習の解答と解説
イオン化エネルギー(イオン化電位)
Si, Cl, Al, Na, P, Mg, Ar, S
黒数字:イオン化電位
赤数字:電子親和力
単位:eV
演習の解答と解説
ついでに!
マイナスイオン(アニオン)になりやすさ:電子親和力
電子1個が原子に付加して負電荷を持つアニオンを生成す
る時に放出されるエネルギーをその原子の電子親和力
(electron affinity)という。電子の付加で希ガスと同じ
電子配置になるような原子は大きな電子親和力を持つ。
最後に各元素の名前を言ってみましょう!
Si, Cl, Al, Na, P, Mg, Ar, S
英語ではどうでしょう?
Si=Silicon, Cl=Chlorine, Al=Aluminum, Na=Sodium, P=Phosphorus
Mg=Magnesium, Ar=Argon, S=Sulfur
演習の解答と解説
2. 周期表で第3周期にあたる12Mgから18Arまでの電子配置を書き
(2X7=14点)
なさい。 書き方: 11Na
11Na
1s22s22p63s
12Mg
1s22s22p63s2
13Al
1s22s22p63s23p
14Si
1s22s22p63s23p2
15P
16S
17Cl
1s22s22p63s23p3
18Ar
1s22s22p63s23p4
1s22s22p63s23p5
1s22s22p63s23p6
電子配置と元素の周
期的性質(2)
パウリの排他原理、フントの
法則、原子の電子配置
第6週講義
再び原子軌道
原子軌道が難しい、
分からないという方のために、
もう一度整理してみましょう!
電子殻と軌道 まとめ
電子雲
電子殻(k殻、L殻・・)
•固有のエネルギーを持ち、原子核からの半径
(=距離)が量子化されている。距離:n2
•名前がついている。
•各電子殻に入る電子の数は限られている。2n2
電子殻
軌道(s,p,d,etc)
K殻は1s軌道、
L殻は2s軌道と2p軌道
M殻は3s、3p、3d軌道 か
各軌道の前の数字は殻の量子数を表わす
同じ電子殻に属する軌道でも軌道ごとにエネルギーが
異なり、s<p<dの順に高くなる。
原子軌道
 1つ1つの電子はエネルギーを持つ”軌道”に配置されている。
 電子はエネルギー(光子:photon)を吸収するか放出するかし
て1つの軌道から別の軌道に移動することができる。
 量子力学(波動関数)によって、各電子は4つの量子数で表され
る。
主量子数 (n)
方位量子数 (l)
電子の軌道の波動的性質を
決めている量子数
磁気量子数 (ml or m)
スピン量子数 (s or ms)
スピンの方向
原子軌道
主量子数(n)は、
• 電子の存在(確率)する電子殻の番号に相当する。
• 軌道の相対的な大きさを表す。
• 周期表の“周期”の番号と一致する。
• 電子の主なエネルギー準位を決めている。
• nの数が小さければ、軌道の大きさも小さい。
• nの数が小さければ、電子のエネルギーは低い。
• nの数はプラスの整数値(1,2,3, …∞)を取る。
(現在は7まで知られている)
原子軌道
方位量子数(l)は、
• 与えられた電子殻内で亜殻(=subshells)を規定し、主量子数
(n)の値に依存する。
l = n - 1 “亜殻(副殻ともいう)”
• (l )は0からn-1の数字を取り得る。
• (l )は電子配置のs、p、d、f に相当する。
l 値
亜殻(軌道)
0
s
1
2
3
p
d
f
原子軌道
磁気量子数(ml)は、
• 与えられた亜殻内の軌道の形と向きを規定している。
• ml は、方位量子数(l) に依存し、-l から+l の数字を取り得る。
ml = –l to +l
• 各軌道は、異なる形と向きを持つ(x、y、z)。
• 各軌道は方位量子数(l) が同じならエネルギーは同じである。
原子軌道
スピン量子数(s or ms)は、
• 与えられた軌道内の電子の自転方向を規定している。
• 全ての軌道は、最大2個の電子しか占有できない。
• 各電子には自転の方向がある。
• 2個の電子のスピン量子数は符号が反対である。
+1/2 and –1/2
H原子の光線は磁場
の中で反対に自転す
る2本のビームに分
けることができる。
原子軌道
スピンのイメージ
外部磁場の方向
外部磁石
原子軌道のまとめ
Name,
Symbol
Allowed Values
(Property)
主量子数:
Positive integer
Principal, n
(1, 2, 3, ...)
(size, energy)
方位量子数:
Angular
momentum, l
(shape)
磁気量子数:
Magnetic, ml
(orientation)
量子数:Quantum Numbers
n=2
n=1
n=3
l = 0  n -1
0(s), 1(p),
2(d), 3(f)
l=0
(1s)
l=0
(2s)
l=1
(2p)
-l,…,0,…,+l
0
0
-1 0 +1
l=0
(3s)
l=1
(3p)
l=2
(3d)
0 -1 0 +1
-2
-1
0 +1 +2
電子配置
水素原子(1電子)の軌道エネルギー
原子軌道と電子配置
再び水素原子のスペクトル
水素原子が励起されてn=2の状
態に遷移する時に放出される
光のスペクトル(バルマー系列
の線スペクトル)
n=1の基底状態に戻る時のスペク
トル(紫外領域なので見えない)
電子配置
多電子原子の軌道エネルギー準位
多電子原子の場合、2つの相反する力が作用しあう:
• 原子核では、+の陽子が-の電子を引き付ける。
• 一方電子は-の電子同士お互いに反発する。
• 原子核の+が多くなれば(Z+)、電子はより強く原子核に
引き付けられる。
• 電子の遮蔽作用が生じる。(電子同士の反作用が原子核
の“引き付ける効果”を遮蔽する→有効核電荷Zeff)
エネルギー準位を決めている主量子数(n)はさらに方位
量子数(l)に依存するエネルギー準位に分かれる。
s (l=0) < p(l=1) < d(l=2) < f(l=3)
原子軌道と電子配置
多電子原子の軌道エネルギー
主量子数が同じならエネルギー準位は同じだが、多電子の
場合は電子同士の反発のため、差が生じる。
電子配置
多電子原子の軌道エネルギー準位
3d
4s
Energy
3p
3s
2p
2s
1s
• 3d軌道と4s軌道はエネル
ギー準位が接近している。
• 電子は基底状態のエネル
ギー準位に従って軌道を
埋めて行くため、3d軌道よ
りも前に4s軌道を埋める。
• 同様に、4s、5s、6s、7s
軌道も、3d、4d、4f、5f、よ
り前に埋まる。
電子配置
構成原理(Aufbau Principle)
• 電子を最低エネルギーの軌道から順に軌道を満たして行くと、
任意の原子の基底状態の電子配置を書くことができる。
• パウリの原理(Pauli Principle)
• フントの規則(Hund’s rule)
原子の最低エネルギー状態を表した電子配置を
基底状態(ground state)
それ以外の電子配置を
励起状態(excited state) と呼ぶ。
パウリの排他原理
パウリの原理:Pauli principle
1つの軌道に2個電子が入るときには、スピンの向きを反対に
しなければならない。すなわち、どの2つの電子も4種の量子
数の全てが同じになることはない。
2px
2s
1s
2py
2pz
フントのルール
フントの規則:Hund’s rule
ある一つの電子配置に対しては、平行スピン数が最も多い
電子状態が最もエネルギーが低い。
(2個の電子が同一スピン(平行)であれば、同じ軌道を占め
ることができないから、互いに離れるため)
電子配置の書き方
1s orbital
Z = 1 Hydrogen 1s1
Z = 2 Helium
1s2
2s orbitals
Z=3
Lithium
1s22s1
or [He]2s1
Z=4
Beryllium
1s22s2
or [He]2s2
Z=5
Boron
1s22s22p1 or [He]2s22p1
Z=6
Carbon
1s22s22p2 or [He]2s22p2
Z=7
Nitrogen
1s22s22p3 or [He]2s22p3
Z=8
Oxygen
1s22s22p4 or [He]2s22p4
Z=9
Fluorine
1s22s22p5 or [He]2s22p5
Z=10
Neon
1s22s22p6 or [He]2s22p6
2p orbitals
電子配置の書き方
原子番号11のナトリムから3s軌道がはじまる。
Z=11 Sodium
1s22s22p63s1 or [Ne]3s1
Z=12 Magnesium 1s22s22p63s2 or [Ne]3s2
原子番号13のアルミニウムから3p軌道がはじまる。
Z=13 Aluminum 1s22s22p63s23p1 or [Ne]3s23p1
Z=18
Argon 1s22s22p63s23p6
or [Ne]3s23p6
電子配置の書き方
希ガス型電子配置を利用して書く場合
Full Electronic Configuration
Condensed
Electronic
Configuration
Helium
1s2
[He] 2 e-
Neon
1s22s22p6
[Ne] 10 e-
Argon
1s22s22p63s23p6
[Ar] 18 e-
Krypton
1s22s22p63s23p63d104s24p6
[Kr] 36 e-
Xenon
1s22s22p63s23p63d104s24p64d105s25p6
[Xe] 54 e-
Beryllium
1s22s2
[He] 2s2 4 e-
Magnesium 1s22s22p63s2
Calcium
1s22s22p63s23p64s2
Sodium Ion (Na) 1s22s22p63s1  (Na+) 1s22s22p6 + 1e-
[Ne] 3s2 12 e[Ar] 4s2 20 e[Ne] + 1e-
遷移元素
これまでに学んだルールに従えば、任意の原
子の電子配置を簡単に書くことができるように
なる。但し、電子殻nが大きい値を取るとき、原
子軌道のエネルギー準位に注意が必要となる
。
原子の電子配置
それぞれの電子殻に入る電子の数は最大で2n2となる。
n=1
K殻
ちょっと疑問が・・・・
n=2
L殻
n=3
M殻
原子の電子配置
原子の性質と電子配置
原子番号: 1~20
内側の軌道から順
番通り 典型元素
原子番号: 21~29
外側の軌道(4s)から入
り、内側の軌道(3d)を埋
める
遷移元素
典型元素は価電子が最も
外側の軌道なので性質が
異なる。
遷移元素は価電子が内側
で、外側の電子配置は違
いが少ないため似た性質
を持つ。
原子の電子配置
遷移元素の誕生理由
エネルギー順位と軌道の関係
電子配置と元素の周期的性質
周期表を原子軌道でみてみると・・・
価電子数
遷移元素
電子配置と元素の周期的性質
元素 原子番号
電子配置
K殻(n=1) L殻(n=2) M殻(n=3) N殻(n=4) O殻(n=5) P殻(n=6)
He
2
2
Ne
10
2
8
Ar
18
2
8
8
Kr
36
2
8
18
8
Xe
54
2
8
18
18
8
Rn
86
2
8
18
32
18
8
原子、軌道の概念をイメージして
このスライドの動画は以下のURLアドレスにあります。
リンクがはってあるので、右クリックして、ハイパーリン
クを開けば見えるはずです。
http://www.youtube.com/watch?v=pV822HfqT44
原子、軌道の概念をイメージして
このスライドの動画は以下のURLアドレスにあります。
リンクがはってあるので、右クリックして、ハイパーリン
クを開けば見えるはずです。
http://www.youtube.com/watch?v=VfBcfYR1VQo
原子、軌道の概念をイメージして
このスライドの動画は以下のURLアドレスにあります。
リンクがはってあるので、右クリックして、ハイパーリン
クを開けば見えるはずです。
http://www.youtube.com/watch?v=HxWF_tiLAXE
質問に答えて
自由電子のエネルギーを0とした場合、プラスになる
時はどのような時か?
自由電子の定義から、基本的にはプラスになるこ
とは無い
質問に答えて
自由電子とは
ポテンシャルがゼロ、つまり何ら束縛を受けていない電子のこ
と
電子が電子軌道から飛び出して自由電子になるには、エネルギーバンドギャッ
プという壁を乗り越えなければならない。電子軌道が原子核に遠いほど壁は低く、
近いほど高い。
壁の部分
禁止帯(禁制帯)
電子がある部分
充満帯(=軌
道)
自由電子がいる所 伝導帯
軌道の間の部分で通常電子
は存在できない。
電子がそれまで存在しな
かった所、ここに入ると自
由に動き回ることがでる。