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曲直瀬道三『薬性能毒』の研究
1野口大輔、2遠藤次郎、2遠藤輝子、3真柳誠
1.千葉大学柏の葉診療所
2.東京理科大学薬学部
3.茨城大学人文学部
『薬性能毒』について
• 初代曲直瀬道三(1507~1594)の薬物書
として知られる 。
• 薬物ごとに「能」と「毒」が記載されている。
→道三の医術の実際を知る上で、重要な
書。
『薬性能毒』の諸版本について
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『注能毒』
『能毒図鈔』
慶長13年古活字版 『薬性能毒』
『霊宝薬性能毒備考大成』など
→すべて養嗣子・玄朔をはじめとする後
人の増補改訂をうけている。
研究方法
• 道三原著の旧態に近いと思われる写本3
種に注目
① 『能毒』(龍谷大学大宮図書館)
② 『本草能毒』(杏雨書屋、乾5324)
③ 『日用薬性能毒』(杏雨書屋、乾5323)
• 上記3種の内容を比較し、相互関係につ
いて検討した。
① 『能毒』龍谷大学大宮図書館蔵、成立年不明
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① 『能毒』龍谷大学大宮図書館蔵、成立年不明
注と図が付された刊本『能毒図鈔』(京都大学
富士川文庫蔵)の注には原本の特徴がいくつ
か記載されている。
• 2巻本である。
• 71種の常用薬物と、甘草からはじまるその他
55種を記載する。
→『能毒』はこの特徴を満たす。
→『能毒』は『薬性能毒』諸版の原本に相当
するとみられる。
② 『本草能毒』杏雨書屋蔵、永禄8(1565)年成立
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③ 『日用薬性能毒』杏雨書屋蔵、永禄9(1566)年成立
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中国本草書との比較
• 『証類本草』『湯液本草』『本草衍義』
『本草集要』と比較した。
• 『本草能毒』『日用薬性能毒』は上記
中国本草書からの引用が多く、『能
毒』には少ない。
→『本草能毒』『日用薬性能毒』は中国
本草書に基づく学問的内容
田代三喜『三帰廻翁医書』との比較
• 『三帰廻翁医書』巻4は道三の『薬性能
毒』と同様、各薬物の「能」と「毒」を記載
しており、中国本草書と乖離した口伝的
内容となっている。
• 『三帰廻翁医書』と類似する内容は『能
毒』、『日用薬性能毒』、『本草能毒』の順
に多い。
→『能毒』は三喜もしくは道三自身による
口伝的内容
写本3種の内容
以下の2タイプに分類した。
• 学問的「能毒書」
『本草能毒』『日用薬性能毒』
刊行されていない。
• 口伝的「能毒書」
『能毒』
後世諸版の原本に相当する。
2タイプの「能毒書」の関係
• 宗田一「曲直瀬道三の『薬性能毒』につ
いて」
成立年・収録薬数・書名からみて『本草
能毒』(1565 成、210種)、『日用薬性能
毒』(1566成、173種)、後世諸版の原本
(『能毒』に相当、成立年未詳、126種)
に変遷したと考えている。
• 口伝的「能毒書」 はいつごろ成立したの
であろうか。
口伝的「能毒書」成立年代
• 『救急本草』(杏雨書屋、杏1838)
天文18(1549)年の年記あり。
『能毒』と内容が類似
• 『翠竹庵答問書』(京都大学富士川文庫)
永禄年間(1558-1570)ごろの師弟問答
を収めたとみられる。
「能毒」からの引用があるが、『本草能
毒』『日用薬性能毒』とは一致せず、『能
毒』と一致する。
口伝的「能毒書」成立年代
• 『薬性能毒』(杏雨書屋、乾5329)
元亀2(1571)年、玄朔校訂
内容は口伝的「能毒書」
→口伝的「能毒書」推定成立年
は1571年を下限とすることができ
る。
結論
• 『本草能毒』、『日用薬性能毒』、『能毒』の順に学問
的「能毒書」から口伝的「能毒書」に変遷していった
とは考えにくく、両者が併存していた可能性が高い。
口
伝 1549?
行後
1558-1570?
1571
的
世
能 救急本草
諸
翠竹庵答問書
玄朔校訂
毒
版
所引「能毒」
『薬性能毒』
書
学
問
的
能
毒
書
1565 1566
本草能毒 日用薬性能毒
未
刊