What is Self-Regulation?: Unconsciousness, Conservation, and Licensing Ryosuke SAKURAI University of Tokyo, KLab M2 Contact: [email protected] 04/17/14 1 概要 • Research Program – Unconsciousness and Self-Regulation 無意識と自己制御 – Conservation of Regulatory Resources 制御資源の節約 – Fulfilled Goal as License to Indulge 既達成の目標が果たすライセンス機能 • Research Proposal 2 導入 • 日常、人は様々な目標を追求している – 試験で良い成績をとりたい、痩せたい、大会で勝ちたい、お金を貯めたい・・・ • 目標の追求はときに困難を伴い、 衝動や欲求を抑える必要に迫られることがある – 眠い、お菓子食べたい、練習をさぼりたい、散財したい・・・ • このような誘惑に抗い、目標達成に向けて自らの行 動や認知を制御することは「自己制御」と呼ばれる 3 定義 • 自己制御(Self-Regulation): 目標の達成に向けた自らの行動や認知の調整 *自己統制(Self-Control): 自動的・習慣的・内的な行動・衝動・感情・願望の抑制または克服 (自己制御の下位概念; Carver & Scheier, 2012) • 目標(Goal):望ましい行動やその結果の心的表象 4 主要な自己制御理論 1. 制御資源モデル(Limited Resource Model; Baumeister, Muraven, Tice) 自己制御は有限かつ共通の制御資源を消費 2. 制御焦点理論(Regulatory Focus Thoery; Higgins) 接近/回避において促進焦点と予防焦点の自己制御システムが存在 3. 目標システム理論(Goal system theory; Kruglanski, Shah) 目標と手段は階層的に表象 4. 自動動機理論(Auto-motive theory; Bargh, Aarts, Custers) 目標の非意識的な活性化はその達成に向けた行動を自動的に駆動 5. 実行意図(Implementation intentions; Gollwitzer, Oettingen) 状況と行動を結ぶif-then形式の意図が目標達成を促進 6. 空想実現化理論(Theory of fantasy realization; Oettingen, Gollwitzer) 目標を達成した将来と達成していない現在の思考(将来+現在 Mental Contrasting, 将来 Indulging, 現在 Dwelling)が成功期待から目標達成への効果を調整 7. 反作用的統制理論(Counteractive control theory; Fishbach, Trope) 状況と表象の変容という観点から誘惑の対処方略を記述 8. 動機づけ強度理論(Motivational intensity theory; Brehm, Self, Wright) 目標達成の難易度と潜在的な動機づけが資源投入を規定 5 Unconsciousness and Self-Regulation 無意識と自己制御 6 無意識と自己制御 自動動機理論(Bargh, 1990) • 非意識的に活性化された目標は、その達成に向 けた自己制御を自動的に駆動する – プライミングパラダイムを用いた研究 非意識的過程:下記の内少なくとも1つの特徴を持つ過程 – – – – 無意図性:実行に意識的な意図を必要としない 無自覚性:実行されていることが自覚されない 効率性:実行に必要とされる資源が極めて少ない 制御困難性:実行されている過程の制御が難しい 7 目標プライミング • プライムの種類 1. 文字(e.g., Bargh et al., 2001) – 達成目標に関連する語をプライミングすると、 後続の課題の成績が向上した 2. 画像(e.g., Aarts & Dijksterhuis, 2003) – 図書館の画像をプライミングすると、 後続の課題における声量が小さくなった 3. 匂い(e.g., Holland, Hendriks, & Aarts, 2005) – 万能洗剤の匂いをかがせると、 身の回りの掃除をより行った *参加者はこれらの効果に無自覚だった 8 実行機能と自己制御 実行機能(Executive Functions): 思考と行動を制御する認知的統制過程 • 実行機能は効率的な自己制御を可能にする 1. 目標に関連する情報の維持(updating) 2. 目標追求の進行のモニタリング(shifting) 3. 目標を阻害する情報の抑制(inhibition) 9 実行機能と自己制御 • これまで、非意識的な自己制御はその過程におい て実行機能を必要としないと想定 • 近年、このような効率性に対して疑義を呈する知見 が提出(e.g., Marien, Custers, Hassin, & Custers, 2012) Marien et al.(2012) • 目標の非意識的な活性化はその達成に向けた実行機能を自動的 に占有すると想定 – 結果、他の無関連な目標の追求が阻害されると予測 – 社交目標(1a/2/5)・個人の目標(1b/3)・学業目標(4)を用いて実証 10 実行機能と自己制御 Study 5 1. 閾下プライミング操作(社交目標) – 実験条件:socializing, partying, dancing, celebrating – 統制条件:beach, home, summer, smile 2. 文章校正課題 – 文中の誤植を指摘する課題 • 結果:文章校正課題の成績は実験条件<統制条件 – 社交目標の非意識的な活性化により実行機能が占有された 11 Sakurai, R., Karasawa, K., & Watanabe, T. (2014). "Unconscious goal activation occupies executive functions: Subliminal priming of the graphic stimulus" Proceedings of International Conference on Education, Psychology and Society, 167-174. 12 問題 本研究の目的 • Marien et al.(2012)の概念的追試 – 下記の場合でも追試されることを確認 1. 新規な目標を活性化させる 2. プライムとして画像を用いる 3. 課題の遂行中にプライミングを行う 仮説 • 目標の非意識的な活性化により、 他の無関連な目標の追求が阻害される 13 方法 • 実験参加者 – 東京大学の大学生44名(男性28名・女性16名) *測定の不備があった2名を分析から除外済み – 平均年齢21.25歳(SD = 1.86) • 実験デザイン – 閾下プライミングの有無 (あり n = 22 vs. なし n = 22; 参加者間) • 防音室内のPC(60Hz)を用いた実験室実験 14 方法 • 手続き 1. 実験の説明 – 2つの無関連な課題を行うと説明 2. アナグラム課題 – 閾下プライミング操作 3. ストーリー課題 15 方法 1. 実験の説明 • 言語能力と想像力を測定するため、 2つの無関連な課題を行うと教示 – アナグラム課題:10文字のひらがなからできるだ け多くの単語をつくる課題 – ストーリー課題:呈示された画像からできるだけ 独創的なストーリーを1つつくる課題 *ストーリー課題の説明時に本番で用いる画像を呈示することで、 その画像を目標として表象させることを意図 16 方法 17 方法 2. アナグラム課題(5試行) • 問題呈示前に閾下プライミング操作 – あり条件:ストーリー課題の画像 – なし条件:白色無地の画像 • 全試行終了後、アナグラム 課題で気がそれた程度を 5件法で測定(1項目) 3. ストーリー課題 18 結果 アナグラム課題の遂行 • 単位時間あたりの正答数 – あり条件(M = 5.12, SD = 1.38)<なし条件(M = 6.18, SD = 1.23) (t (42) = 2.69, p = .01) 閾下プライミングを受けるとアナグラム課題の遂行が低下 – 目標の非意識的な活性化による実行機能の占有が確認された *気がそれた程度は条件間で有意差なし(t (42) = 0.69, n.s.) 単 位 時 間 あ た り の 正 答 数 7 6 5 4 3 あり なし 閾下プライミング 19 考察 • 仮説を支持する結果が得られた – 追試の成功 • Marien et al.(2012)の知見の拡張 1. 新規な目標を活性化させる 2. プライムとして画像を用いる 3. 課題の遂行中にプライミングを行う – 上記の場合でも、目標の非意識的な活性化による 実行機能の占有が生じることが示された 20 考察 別解釈の可能性 • 統制プライムは白色無地の画像 • ストーリー課題の画像がディストラクターとして 機能した可能性 – 結果、アナグラム課題の遂行が低下 • ただし、気がそれた程度(自己報告)に有意差はみられず より厳密な別解釈の排除のために、目標と無関連 な画像を統制プライムとして用いる必要 – 今後の課題 21 考察 インプリケーション • 効率的な自己制御方略の呈示 1. プリコミットメント – 目標を活性化させうる物を排除 2. 目標の達成 – 短期的な目標は早めに達成 22 Conservation of Regulatory Resources 制御資源の節約 23 制御資源モデル • 制御資源モデル(Limited Resource Model; Muraven & Baumeister, 2000) 自己制御は有限かつ共通の制御資源を消費すると想定 • 先行の自己制御の発揮は後続の無関連な自己制御の遂行 を低下させることを繰り返し実証(=自我枯渇効果) Tice Baumeister Muraven 24 制御資源モデル Baumeister, Bratslavsky, Muraven, & Tice(1998)の実験 • 手続き 1. 2. 3. 4. 空腹の参加者を焼き立てのクッキーが充満した実験室へ招く クッキーが入ったボウルとラディッシュが入ったボウルが置いてある 味覚の実験と称していずれか一方を試食してもらう 自我枯渇操作(あり vs. なし;参加者間) – 自我枯渇あり:ラディッシュを試食 – 自我枯渇なし:クッキーを試食 *クッキーを食べたいという欲望を抑えてラディッシュ を食べることは制御資源を消費し、自我枯渇を引き起こすと想定 5. 試食後、パズルを解いてもらう – このパズルは解くことが不可能 – パズルに取り組んだ時間を自己制御の程度と定義 25 制御資源モデル Baumeister, Bratslavsky, Muraven, & Tice(1998)の実験 • 結果 • ラディッシュを食べた参加者は、クッキーを食べた参加者よりも パズルに取り組んだ時間が短かった – クッキーを食べるのを我慢してラディッシュを 食べるという自己制御により制御資源を消費した結果、 後続のパズル課題における自己制御の遂行が低下した • 自我枯渇効果は概ね頑健 (d+ = 0.62; Hagger et al., 2010 ) • 他方、なぜ自我枯渇効果が 生じるかについては未だ議論が続いている – 「できなくなる」派 vs. 「しなくなる」派 26 制御資源モデル 1. 自我枯渇効果は自己制御「できなくなる」から生じる! • 制御資源=血中のグルコース • 自己制御の発揮は血中のグルコース濃度を減少させる • 結果、後続の自己制御に十分なグルコースを消費できなくな るため、自己制御の遂行が低下すると想定 27 制御資源モデル Gailliot et al.(2007) • 手続き 1. 自我枯渇操作(あり vs. なし;参加者間) – あり条件:ビデオに映る文字を無視するよう教示 – なし条件:上記の教示なし 2. グルコース操作(あり vs. なし;参加者間) – あり条件:砂糖入りのレモネードを飲ませる – なし条件:人工甘味料入りのレモネードを飲ませる 3. ストループ課題 文字の意味を無視して文字の色を できるだけ素早くかつ正確に答える課題 28 制御資源モデル Gailliot et al.(2007) • 結果 砂糖入りレモネードを 飲むことで自我枯渇 効果が消失した 制御資源の生理学 的基盤がグルコース であることを示唆 29 制御資源モデル 2. 自我枯渇効果は自己制御「しなくなる」から生じる! • 自我枯渇効果の消失 – – – – – – – 意志力の暗黙理論(e.g., Job et al., 2010) インセンティブ(e.g., Muraven & Slessareva, 2003) 自我枯渇の認知(e.g., Clarkson et al., 2010) モニタリング(e.g., Wan & Sternthal, 2008) ポジティブ感情(e.g., Tice et al., 2007) 自己肯定(e.g., Schmeichel & Vohs, 2009) 糖分を含む飲み物で口をすすぐ(e.g., Molden et al., 2012) • 自我枯渇効果が自己制御への動機づけの低下によって 生じる可能性を示唆 – 自我枯渇により自己制御「しなくなる」 30 制御資源モデル Job et al.(2010) • 意志力の暗黙理論(有限 vs. 無限)が自我枯渇効果を調整 *意志力(willpower)=制御資源(regulatory resource) – 有限理論(limited-resource theory)を持つと、 自我枯渇効果が生じる – 無限理論(unlimited-resource theory)を持つと、 自我枯渇効果が生じない 31 制御資源モデル • • • 1. 参加者 46名の学生 デザイン 自我枯渇(あり・なし;参加者間)×暗黙理論(有限・無限;参加者間) 手続き 意志力の暗黙理論を操作 – 有限理論条件:意志力は有限であることを肯定する質問項目に回答 – 無限理論条件:意志力は無限であることを肯定する質問項目に回答 2. 自我枯渇操作(e消し課題) – – – – 前半は文章中の全ての“e”に×をつける 後半のルールの教示で自我枯渇操作 自我枯渇あり条件:母音と隣接/1文字空けて隣接した“e”は×をつけない 自我枯渇なし条件:前半と同様に全ての“e”に×をつける 3. ストループ課題:文字の色をできるだけ素早くかつ正確に答える課題 – 一致試行:文字の色と意味が一致(e.g., red) – 不一致試行:文字の色と意味が不一致(e.g., blue) 32 制御資源モデル • 結果 • 仮説検証 • • IV:自我枯渇×暗黙理論 DV:不一致試行のエラー率 *high score = low performance 自我枯渇あり:有限>無限 自我枯渇なし:有限≒無限 有限理論:あり>なし 無限理論:あり<なし • 有限理論を持った場合のみ自我枯渇効果が生じた 33 制御資源モデル Muraven & Slessareva(2003) • 自己制御への動機づけを高めることで、 自我枯渇効果が消失する – 自己制御の遂行 動機づけ高:自我枯渇あり≒自我枯渇なし 動機づけ低:自我枯渇あり<自我枯渇なし 34 制御資源モデル • • • 1. 2. 参加者 43名の学生 デザイン 自我枯渇(あり・なし;参加者間)×動機づけ(高・低;参加者間) 手続き 自我枯渇操作(シロクマ課題 Thought Suppression vs. 記憶課題 Memory) パズル課題:呈示された図形を一筆書きする課題 練習試行(1試行;解答可能)の後、本試行(2試行;解答不可能) *持続時間を自己制御の遂行と定義 課題の説明によって動機づけを操作 – 動機づけ高条件:パズル課題がアルツハイマー病の治療法開発に役立つ – 動機づけ低条件:上記の教示を行わない 35 制御資源モデル • 結果 • 仮説検証 • • IV:自我枯渇×動機づけ DV:パズル課題の持続時間 *high score = high performance 動機づけ高:枯渇あり≒枯渇なし 動機づけ低:枯渇あり<枯渇なし 枯渇あり:動機づけ高>動機づけ低 枯渇なし:動機づけ高≒動機づけ低 • 自己制御への動機づけを高めることで、自我枯渇効果が消失した 36 制御資源モデル Vohs et al.(2012) • 意志力の暗黙理論と自己制御への動機づけによる 自我枯渇効果の消失には限界がある – 中程度の自我枯渇時には自我枯渇効果を消失させるが、 高程度の自我枯渇時には自我枯渇効果を消失させない 37 制御資源モデル • • • 1. 2. 参加者 83名の学生 デザイン 自我枯渇(高・中・無;参加者間)×暗黙理論(有限・無限;参加者間) 手続き 意志力の暗黙理論を操作 自我枯渇操作 – 高条件:4つの自我枯渇課題(意思決定・ストループ・表情抑制・e消し) – 中条件:2つの自我枯渇課題(意思決定・ストループ) – 無条件:自我枯渇課題を実施しない 3. 自己制御課題:遅延報酬課題/Cognitive Estimation Test 38 制御資源モデル • 結果 • 仮説検証 • • IV:自我枯渇×暗黙理論 DV:遅延報酬課題の成績 *high score = high performance 自我枯渇高:有限≒無限 自我枯渇中:有限<無限 自我枯渇無:有限≒無限 *CETの成績も概ね同様 39 制御資源モデル • • • 1. 参加者 214名の学生 デザイン 自我枯渇(高・中・無;参加者間)×動機づけ(高・低;参加者間) 手続き 動機づけ操作 – 高条件:本実験が消費者の利益・幸福・健康増進に役立つと教示 – 低条件:上記の教示を行わない 2. 自我枯渇操作 – 高条件:3つの自我枯渇課題(e消し・意思決定・表情抑制) – 中条件:1つの自我枯渇課題(e消し) – 無条件:自我枯渇課題を実施しない 3. 自己制御課題:遅延報酬課題/Cognitive Estimation Test 40 制御資源モデル • 結果 • 仮説検証 • • IV:自我枯渇×動機づけ DV:遅延報酬課題の成績 *high score = high performance 自我枯渇高:動機づけ高≒低 自我枯渇中:動機づけ高>低 自我枯渇無:動機づけ高≒低 *CETの成績も概ね同様 41 まとめ • 「意志力暗黙理論」や「動機づけ」は自我枯渇効果 を消失させる • ただし、この消失効果には限界がある – 自我枯渇・中:消失できる – 自我枯渇・高:消失できない • 自己制御の遂行は「信念」や「動機づけ」のみならず 「制御資源の量」によっても規定される 42 目標競合時の自己制御 • 日常、人は複数の目標を同時に追求 – 平均して15の目標を追求(Little, 1989) • 人の物理的・心理的資源は有限 – 複数の目標は有限の資源をめぐって競合 (e.g., 論文を書く vs. 授業を聞く) 目標競合時において人は有限の資源をいか に配分しているのか? – 競合目標の達成可能性に焦点を当てて検討 • 焦点目標:現在追求している目標/競合目標:焦点目標以外の目標 43 制御資源の節約 制御資源の節約(e.g., Muraven et al., 2006) • 後続の課題における自己制御の必要性を高 く認知すると、先行の課題の遂行において制 御資源を節約する – 先行の課題の成績は低下 – 後続の課題の成績は上昇 44 制御資源の節約 Muraven et al.(2006, Study 4) • ストループ課題とアナグラム課題を行うと説明 – アナグラム課題の自己制御の必要性を操作(高・低) 高条件:自らの衝動を抑制する必要があると教示 低条件:上記の教示なし • ストループ課題、アナグラム課題の順に実施 • ストループ課題の成績:高条件<低条件 • アナグラム課題の成績:高条件>低条件 後続の課題の自己制御の必要性を高く認知した結果、 先行の課題の遂行において制御資源を節約した 45 Sakurai, R., Watanabe, T., & Karasawa, K. "The effect of competing goal attainability on focal goal pursuit" The 15th Annual Meeting of the Society of Personality and Social Psychology, Austin, Texas, February, 2014. 46 問題 • 後続の課題における自己制御の必要性の認 知と制御資源の節約度の間には単調な増加 関係が想定(Muraven et al., 2006 Study 3) – 自己制御の必要性を高く認知するほど、 より制御資源を節約 後続の課題の達成が不可能な場合でも同様 だろうか? 47 問題 期待理論(for review Carver & Scheier, 2012) – 成功の期待は資源の投入を促進する – 失敗の期待は資源の投入を抑制する 動機づけ強度理論(Motivational Intensity Theory; Brehm & Self, 1989; Wright, 2008; Richter, 2013) • 目標への資源の投入は節約原理に基づく – 目標達成が難しいほど、その目標に資源を投入する – 目標達成が不可能だと、その目標に資源を投入しな くなる 48 目標競合時における制御資源の配分も 節約原理に基づくと想定 49 問題 仮説 • 競合目標の達成が不可能だと認知すると、 その達成に向けて制御資源を節約しない – 焦点目標の遂行:統制<不可能 *統制=自己制御の必要性・達成可能性ともに高い 50 方法 • 実験参加者 – 東京大学の学部生35名 (男性20名・女性14名・不明1名) – 平均年齢20.9歳(SD = 0.7) • 実験デザイン – 競合目標の不可能さ (統制 n = 20・不可能 n = 15; 参加者間) *いずれの条件でも自己制御の必要性は高いと想定 51 方法 • 実験手続き 1. 実験1/2の説明 2. 操作チェック項目を測定 3. 実験1の実施 4. デブリーフィング 52 方法 1. 実験1/2の説明 • 2つの異なる実験を行うと教示 – 実験1:認知課題(焦点目標) – 実験2:数字暗記課題(競合目標) • 実験2の説明時に競合目標の達成可能性を操作 – 統制条件:10秒以内に10桁の数字を暗記 – 不可能条件:10秒以内に100桁の数字を暗記 • 実験終了後、各実験の成績を伝えると教示 – 良い成績をとることを目標として表象させるため 53 方法 2. 操作チェック項目(5件法) • 競合目標の自己制御の必要性(5項目) – 難しそうだ – 頭を使いそうだ – 疲れそうだ – 神経を使いそうだ – 努力を要しそうだ • 競合目標の達成可能性(1項目) – 不可能だ 54 方法 3. 実験1の実施 • ストループ課題 – 文字の意味を無視して文字の色をできるだけ素 早くかつ正確に回答する課題 • 全64試行(32試行ずつ) – 一致試行:色と意味が一致(e.g., “赤”) – 不一致試行:色と意味が不一致(e.g., “青”) 4. デブリーフィング 55 結果 操作チェック • 競合目標の自己制御の必要性(α = .89) – 統制条件(M = 4.11, SD = 0.88)・不可能条件(M = 4.40, SD = 0.80) ともに理論的中点(3)を上回る(ts > 5.66, ps < .001) • 競合目標の不可能さ – 統制条件(M = 2.70, SD = 1.03)<不可能条件(M = 4.60, SD = 1.06) (t (33) = 5.34, p < .001) 操作は妥当だったと判断 56 結果 焦点目標の遂行量 • 外れ値処理後、ストループ効果を算出し、 焦点目標の遂行量と定義 ストループ効果 = (不一致試行の平均反応時間) − (一致試行の平均反応時間) 両試行の反応時間をプールした標準偏差 *値が小さいほど、遂行量が高いことを表す 57 結果 • 統制条件(M = 0.42, SD = 0.29)>不可能条件(M = 0.07, SD = 0.26) – 不可能条件の方が、統制条件よりも焦点目標の遂行が高かった (t (33) = 3.76, p < .001) • 仮説支持 * Low Score = High Performance 0.5 ス 0.4 ト ル 0.3 ー プ 効 0.2 果 0.1 0 統制 不可能 58 考察 仮説 • 競合目標の達成が不可能だと認知すると、 その達成に向けて制御資源を節約しない – 焦点目標の遂行:統制<不可能 • 不可能条件の方が、統制条件よりも 焦点目標の遂行が高かった – 目標競合時における制御資源の節約が競合目標 の達成可能性に基づいて生起する可能性を示唆 59 考察 インプリケーション • 競合目標の達成可能性の認知を変化させること で、制御資源の節約の生起を制御できる可能性 – 達成可能性を高める⇒節約の促進 – 達成可能性を低める⇒節約の抑制 • 制御資源の節約は無意識に生じる可能性も示されている (Marien et al., 2012; Shah & Kruglanski, 2002) – 事前の意識的な目標の再解釈は目標競合時の効果 的な自己制御にとって重要 60 考察 本研究の限界 • 条件間の焦点目標の遂行量の差が、制御資源の節約に よるものであることが直接的には示されていない – 競合目標の課題を同一にし、その遂行量が “不可能条件<統制条件”であることを確認する必要 – 自己制御の必要性が低い条件を追加し、 不可能条件と同様のパターンをとることを確認す る必要 • 今後の検討課題 61 Fulfilled Goal as License to Indulge 既達成の目標が果たすライセンス機能 62 自己制御研究の問題点 Goal Goal Goal Goal Goal 未達成の目標は焦点目標の遂行を阻害する 実行機能の占有(e.g., Marien et al., 2012) 制御資源の節約(e.g., Muraven et al., 2006) Self-Regulation 63 自己制御研究の問題点 Goal Goal Goal Goal Goal Goal Fulfilment Goal Goal Goal Goal Goal Self-Regulation 64 自己制御研究の問題点 Goal Goal ? Goal 未達成の目標が焦点目標に与える影響について知見 が積み重ねられている一方、既達成の目標について は皆無(例外として、Masicampo & Baumeister, 2011) Goal Goal 目標の設定・追求・達成という一連のサイクルを繰り 返す人間の自己制御過程の包括的な理解にあたって は、既達成の目標を組み込んだモデル化が必要 Self-Regulation 65 既達成の目標が果たす機能 Kivetz & Zheng(2006) • 先行の資源投入は、後続の自己制御の不全 を正当化し、その遂行を低下させる • 既達成の目標は、過去に目標達成に向けて 自己制御を発揮を発揮したことをシグナル 既達成の目標が自己制御の不全を正当化する 「ライセンス」として機能する可能性 66 既達成の目標が果たす機能 Masicampo & Baumeister(2011) • 未達成の目標はその達成に向けて実行機能を占有する – 同様に実行機能を要する目標の遂行が阻害される • 実行意図の形成により、この阻害効果は消える *実行意図(Implementation Intentions):「ある状況Xに遭遇した とき、目標志向的行動Yをとろう」というif-then形式の意図 (Gollwitzer & Oettingen, 2010) 67 既達成の目標が果たす機能 • 参加者 73名の学生 • デザイン 3(未達成の目標・実行意図・統制) • 手続き 1. 日常的な課題と称して実験操作を行う – 未達成の目標条件:これから数日間で達成すべき課題・用事を2つ記述 – 実行意図条件:上記に加え、どうやって、いつ、どこで課題と用事を達成するかを記述 – 統制条件:これまで数日間で達成した課題・用事を2つ記述 2. 文章読解課題:3200wordsの文章を読んだ後、問題に解答 問題の正答数を自己制御の遂行と定義 *文章読解中に侵入思考の程度を測定(2択) “I was reading the text and was very much paying attention to the story”/ “I was reading the text, but my attention was elsewhere” 68 既達成の目標が果たす機能 • 結果 • 仮説検証 • • • IV: 3(未達成の目標・実行意図・統制) DV:正答数 未達成の目標<実行意図≒統制 DV:侵入思考の程度 未達成の目標>実行意図 統制はいずれの条件とも有意差なし • 媒介分析 *未達成の目標=1, 実行意図/統制=0 未達成の目標→(+)→侵入思考の程度→(-)→正答数 • • • 未達成の目標を記述すると、既達成の目標を記述したときと比べて自己制御の 遂行が阻害される この阻害効果は実行意図の形成によって消える この阻害効果は侵入思考によって媒介される 69 既達成の目標が果たす機能 • 結果 • 仮説検証 • • • 既達成の目標の想起 は焦点目標の遂行に 影響を与えない!? IV: 3(未達成の目標・実行意図・統制) DV:正答数 未達成の目標<実行意図≒統制 DV:侵入思考の程度 未達成の目標>実行意図 統制はいずれの条件とも有意差なし • 媒介分析 *未達成の目標=1, 実行意図/統制=0 自己制御を発揮すべきという義務感から、自己制御 未達成の目標→(+)→侵入思考の程度→(-)→正答数 の不全の正当化が生じなかった可能性 • 未達成の目標を記述すると、既達成の目標を記述したときと比べて自己制御の 遂行が阻害される • 自己制御への動機づけが低まり、義務自己との葛 この阻害効果は実行意図の形成によって消える • この阻害効果は侵入思考によって媒介される 藤が生じた場合にはライセンシングが生じると予測 70 Sakurai, R., Watanabe, T., & Karasawa, K. "Fulfilled Goal as License to Indulge: The Effects of Ego Depletion and Recalling Past Goal Achievement on Self-Regulation" UNPUBLISHED 71 方法 • 参加者 – 東京大学の学生60名(男性39名・女性21名) – 年齢(M = 20.49, SD = 1.01) • デザイン – 自我枯渇(あり vs. なし)× 想起対象(既達成の 目標 vs. 過去に行った習慣) *いずれも参加者間要因 72 方法 • 手続き 1. 自我枯渇操作 2. 想起対象操作 3. ストループ課題 *防音室内のPCを用いた実験室実験 *質問項目は全て5件法で測定 73 方法 1. 自我枯渇操作 • Number Letter Task(練習試行:16試行/本試行:128試行*3ブロック) 四分割の画面に呈示される英数字をルールに従い できるだけ素早くかつ正確に分類する課題 – ルールによって自我枯渇の有無を操作 あり条件 – 画面の上半分に呈示⇒偶数 or 奇数に分類 分類基準の切り替えにおいて – 画面の下半分に呈示⇒母音 or 子音に分類 制御資源を消費すると想定 なし条件 – 呈示位置にかかわらず、偶数 or 奇数に分類 • 課題終了後、自我枯渇の認知(5項目;α = .67)を測定 – 疲れた、簡単だった*、神経を使った、努力を要した、頭を使った 74 方法 自我枯渇あり 75 方法 自我枯渇あり 自我枯渇なし 76 方法 2. 想起対象操作 • 大学生の日常生活のアンケート – アンケートの内容により想起対象を操作 目標条件 – ここ数日で達成した「目標」を1つ記述 習慣条件 – ここ数日で行った「習慣」を1つ記述 • 回答終了後、目標/習慣の自己制御の必要性 (5項目;α = .92)を測定 – 疲れそうだ、簡単そうだ*、神経を使いそうだ、 努力を要しそうだ、頭を使いそうだ 77 方法 3. ストループ課題(練習試行:16試行/本試行:64試行*2ブロック) • 文字の「意味」を無視して、文字の「色」を できるだけ素早くかつ正確に答える課題 – 一致試行 :意味と色が一致 (e.g., 赤色の赤) – 不一致試行:意味と色が不一致(e.g., 青色の赤) *意味(赤・青・緑・黄)×色(赤・青・緑・黄)の16種類 *一致試行・不一致試行をそれぞれ半分ずつ実施 78 結果 • 操作チェック 操作は概ね妥当と判断 • 自我枯渇の認知 枯渇あり(M = 3.99, SD = 0.55)>枯渇なし(M = 3.54, SD = 0.71) t (58) = 2.74, p = .008 • 自己制御の必要性の認知 5 > 習慣 目標 自 己 4 制 御 の 必 3 要 性 の 2 認 知 < 1 あり なし 自我枯渇 79 結果 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 二次の交互作用 有意傾向 F (1, 56) = 3.50, p = .067 一致 不一致 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 80 結果 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 81 結果 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 82 結果 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 83 結果 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 500 自我枯渇時に既達成の目標を想起すると、 自己制御の遂行が低下 400 目標 習慣 目標 仮説支持 自我枯渇あり 習慣 自我枯渇なし 84 Research Proposal • 自己制御への動機づけを低下させる操作として、 「自我枯渇」ではなく、「社会的排斥」を用いる – 社会的排斥を受けると、自己制御への動機づけが低下 (Baumeister et al., 2005) • 既達成の目標が果たすライセンス機能の 一般化可能性を検討 • 手続き 1. 社会的排斥操作(あり vs. なし) 2. 想起対象操作(目標 vs. 習慣) 3. 自己制御課題 85
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