既達成の目標が果たす機能 Ryosuke SAKURAI University of Tokyo/ KLab M2 Contact: [email protected] JJ2 14/05/15 1 目的 • 自己制御の動機づけが低い状況では、 現在追求すべき目標(焦点目標)に対する自己制御 の発揮をめぐって個人内の葛藤が生じると想定 – 自己制御を発揮したくない vs. 自己制御を発揮すべき • この葛藤はセルフ・ライセンシングにより解消される – セルフ・ライセンシング:先行の自己制御の発揮が、 後続の自己制御の不全を正当化すること 2 目的 • 本研究では、既達成の目標を 「過去に自己制御を発揮したシグナル」として捉える • 既達成の目標が自己制御の不全を正当化する 「ライセンス」として機能すると予測 仮説 • 自我枯渇時において既達成の目標を想起すると、 自己制御の不全を正当化を通じて、 自己制御の遂行が低下する 3 既達成の目標が果たす機能 Model High Motivation to Self-Regulate Access to Fulfilled Goal SelfRegulation Justification to Indulge + ー Low Motivation to Self-Regulate 4 仮説 自我枯渇時に既達成の目標を想起すると、 後続の自己制御の遂行が低下する(セルフ・ライセンシング) 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 5 仮説 自我枯渇時に既達成の目標を想起すると、 後続の自己制御の遂行が低下する(セルフ・ライセンシング) 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 自我枯渇効果 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 > 習慣 自我枯渇なし 6 仮説 自我枯渇時に既達成の目標を想起すると、 後続の自己制御の遂行が低下する(セルフ・ライセンシング) 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 セルフ・ライセンシング 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 7 方法 • 参加者 – 東京大学の学生60名(男性39名・女性21名) – 年齢(M = 20.49, SD = 1.01) • デザイン – 自我枯渇(あり vs. なし)× 想起対象(既達成の 目標 vs. 過去に行った習慣) *いずれも参加者間要因 枯渇あり 枯渇なし 目標 n = 16 n = 17 習慣 n = 17 n = 10 8 方法 • 手続き 1. 自我枯渇操作 2. 想起対象操作 3. ストループ課題 *防音室内のPCを用いた実験室実験 *質問項目は全て5件法で測定 9 方法 1. 自我枯渇操作 • Number Letter Task(練習試行:16試行/本試行:128試行*3ブロック) 四分割の画面に呈示される英数字をルールに従い できるだけ素早くかつ正確に分類する課題 – ルールによって自我枯渇の有無を操作 あり条件 – 画面の上半分に呈示⇒偶数 or 奇数に分類 分類基準の切り替えにおいて 制御資源を消費すると想定 – 画面の下半分に呈示⇒母音 or 子音に分類 なし条件 – 呈示位置にかかわらず、偶数 or 奇数に分類 • 課題終了後、自我枯渇の認知(5項目;α = .67)を測定 – 疲れた、簡単だった*、神経を使った、努力を要した、頭を使った 10 方法 Number-Letter Task 11 方法 2. 想起対象操作 • 大学生の日常生活のアンケート – アンケートの内容により想起対象を操作 目標条件 – ここ数日で達成した「目標」を1つ記述 習慣条件 – ここ数日で行った「習慣」を1つ記述 • 回答終了後、目標/習慣の自己制御の必要性 (5項目;α = .92)を測定 – 疲れそうだ、簡単そうだ*、神経を使いそうだ、 努力を要しそうだ、頭を使いそうだ 12 方法 3. ストループ課題(練習試行:16試行/本試行:64試行*2ブロック) • 文字の「意味」を無視して、文字の「色」を できるだけ素早くかつ正確に答える課題 – 一致試行:意味と色が一致(e.g., 赤色の赤) – 不一致試行:意味と色が不一致(e.g., 青色の赤) *意味(赤・青・緑・黄)×色(赤・青・緑・黄)の16種類 *一致試行・不一致試行をそれぞれ半分ずつ実施 13 方法 • ストループ課題の前に、下記の項目を測定 – 自己制御を発揮しないことへの罪悪感(3項目; α = .65) • 頑張らなかったら罪悪感を感じる、頑張らなかったら後悔する、頑張らないことは悪いことである – 自己制御発揮への義務感(1項目) • 頑張るべきである – 自己制御発揮への動機づけ(1項目) 媒介過程の検討 • 頑張りたい – 自己制御の不全の正当化(1項目) • 頑張らなくてよい • ストループ課題の後に、下記の項目を測定 – 侵入思考の認知(2項目; r = .63) • 他のことで気がそれた、関係ないことが頭に浮かんだ – 制御資源の節約の認知(2項目; r = .77) • エネルギーを節約した、力を温存した 別解釈の可能性の排除 14 結果 操作チェック 操作は概ね妥当と判断 • 自我枯渇の認知 枯渇あり(M = 3.99, SD = 0.55)>枯渇なし(M = 3.54, SD = 0.71) t (58) = 2.74, p = .008 • 自己制御の必要性の認知 * 5 自 己 4 制 御 の 必 3 要 性 の 2 認 知 *** 想起対象の主効果 F (1, 56) = 19.00, p < .001 > 習慣 目標 + 自我枯渇の主効果 F (1, 56) = 3.62, p = .06 < 交互作用 F (1, 56) = 3.45, p = .07 1 あり なし 自我枯渇 15 結果 対数変換した反応時間について 三要因分散分析 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 二次の交互作用 有意傾向 F (1, 56) = 3.50, p = .067 800 700 600 自我枯渇の主効果 有意傾向 F (1, 56) = 3.90, p = .053 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり > 目標 習慣 自我枯渇なし 16 結果 *** *** *** *** 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 17 結果 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 一致 不一致 + 800 + 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 18 結果 * 900 一致 不一致 ** ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 800 700 600 500 400 目標 習慣 自我枯渇あり 目標 習慣 自我枯渇なし 19 結果 * 900 ス ト ル ー プ 課 題 の 反 応 時 間 ( ミ リ 秒 ) 二次の交互作用 有意傾向 F (1, 56) =** 3.50, p = .067 一致 不一致 + 800 + 700 600 500 自我枯渇時に既達成の目標を想起すると、 後続の自己制御の遂行が低下 400 目標 習慣 目標 仮説を部分的に支持 自我枯渇あり 習慣 自我枯渇なし 20 結果 • 自己制御の不全への罪悪感(3項目; α = .65) – 頑張らなかったら罪悪感を感じる、頑張らなかったら後悔する、頑張らないことは悪いことである 5 目標 習慣 + 自 己 4 制 御 の 不 全 3 へ の 罪 悪 感 2 交互作用 有意傾向 F (1, 56) = 3.83, p = .056 1 あり 自我枯渇 なし 21 結果 • 自己制御発揮への義務感(1項目) – 頑張るべきである 5 + + 目標 + 習慣 + 自 己 4 制 御 発 揮 へ 3 の 義 務 感 2 交互作用 有意 F (1, 56) = 6.80, p = .01 1 あり 自我枯渇 なし 22 結果 • 自己制御発揮への動機づけ(1項目) – 頑張りたい 5 目標 習慣 n.s. 自 己 4 制 御 発 揮 へ 3 の 動 機 づ け 2 交互作用 非有意 F (1, 56) = 2.16, p = .16 1 あり 自我枯渇 なし 23 結果 • 自己制御の不全の正当化(1項目) – 頑張らなくてよい 5 目標 自 己 4 制 御 の 不 全 の 3 正 当 化 習慣 ** * 2 交互作用 有意 F (1, 56) = 6.96, p = .01 1 あり 自我枯渇 なし 24 結果 • 侵入思考の認知(2項目) – 別解釈の可能性 の排除 他のことで気がそれた、関係ないことが頭に浮かんだ 5 目標 習慣 n.s. 4 侵 入 思 考 3 の 認 知 2 交互作用 非有意 F (1, 56) = 0.02, n.s. 1 あり 自我枯渇 なし 25 結果 • 制御資源の節約の認知(2項目) – 別解釈の可能性 の排除 エネルギーを節約した、力を温存した 5 目標 習慣 n.s. 制 4 御 資 源 の 節 3 約 の 認 知 2 交互作用 非有意 F (1, 56) = 0.27, n.s. 1 あり 自我枯渇 なし 26 考察 ストループ課題の遂行 • 自我枯渇なし条件:目標条件≒習慣条件 – セルフ・ライセンシングは生起せず(⇒先行研究と整合) • 自我枯渇あり条件:目標条件<習慣条件 – セルフ・ライセンシングが生起した(⇒仮説を支持) 自我枯渇時に既達成の目標を想起すると、 後続の自己制御の遂行が低下することが確認された さらに、上記結果が侵入思考と制御資源の節約の認知の上昇により生じた という別解釈の可能性が排除された • • ただし、習慣条件において自我枯渇効果がみられず(⇒先行研究と不整合) また、罪悪感、動機づけ、義務感、正当化については予測通りの結果得られず *セルフ・ライセンシングは非意識的な側面(Kivetz & Zheng, 2006) 27 考察 Model High Motivation to Self-Regulate Access to Fulfilled Goal Justification to Indulge SelfRegulation ー Low Motivation to Self-Regulate 28 JJ2の目的 • 既達成の目標の想起による自己制御の遂行の低下が セルフ・ライセンシングによるものであることを明確化 – 罪悪感を調整変数として測定 – 罪悪感が高いときのみ、ライセンシングが生じる *罪悪感が低い場合、ライセンシングの必要はない • 既達成の目標が果たすライセンス機能の一般化可能性を検討 – 自己制御の動機づけを低下させる操作として、 「自我枯渇」ではなく、「社会的排斥」を用いる *先の研究は自我枯渇の程度を操作していた可能性 • 自己制御の動機づけが高いとき、 既達成の目標の想起が、自らの自己制御能力の認知の上昇を 介して後続の自己制御の遂行を高める可能性を検討 – Schwarz et al.(1991):想起しやすい経験はより自己記述的だと認知 (e.g., 2個 vs. 8個) 29 Research Proposal 手続き 1. 一般的な罪悪感の測定(調整変数) – 達成すべき目標に向かって、 頑張らなかったら罪悪感を感じる、頑張らなかったら後悔する、頑張らないことは悪いことである 2. 社会的排斥操作(あり vs. なし) 3. 想起対象操作(目標 vs. 習慣/自身の目標 vs. 他者の目標) 4. 特定的な罪悪感の測定(媒介変数) 自己制御課題において、 頑張らなかったら罪悪感を感じる、頑張らなかったら後悔する、頑張らないことは悪いことである 5. 自己制御能力の認知 6. 自己制御課題 *エフォートフル・コントロール尺度 7. 侵入思考・制御資源の節約の認知(別解釈の可能性の排除) 30 Research Proposal • 予測される結果(1) 目標 High score = High performance 習慣 自 己 制 御 の 遂 行 あり 社会的排斥 なし 31 Research Proposal • 予測される結果(2) 目標 High score = High performance 習慣 自 己 制 御 の 遂 行 社会的排斥あり 社会的排斥なし 高罪悪感 社会的排斥あり 社会的排斥なし 低罪悪感 32
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