現代世界経済をとらえる Ver.5 第3章 アメリカ経済 ニューディール体制の解体から アメリカン・グローバリズムの展開へ ©東洋経済新報社 1 3.1 ニューディール経済体制の揺らぎ a ドル危機から金=ドル交換停止へ 第2次世界大戦後: パクス・アメリカーナ(Pax Americana : アメリカ主導による平和的秩序) 1960年代:「ドル危機」頻発 1971年8月15日 R.M.ニクソン大統領「新経済政策」発表 ①金=ドル交換停止 ②10%の輸入課徴金 ③賃金・物価の90日間凍結 金ドル交換停止によって,アメリカ企業の対外活動や 政府の政策にとっての国際収支の制約をなくす 経常収支赤字:国内景気対策優先することが可能に 資本収支赤字:多国籍企業・銀行の対外進出を促進 アメリカン・グローバリズムの起点に 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 2 b スタグフレーションとSSEの台頭 スタグフレーション:インフレーションと不況(スタグネーション)の並存 ケインズ主義政策の見直しが図られ,SSEが台頭した •需要重視の経済学 •不況と失業は有効需要の不足に起因 •財政政策と金融政策で総需要創出を行う サプライ・サイド・エコノミクス: •経済の供給面を重視する経済学 •労働供給,資本供給,技術,資源などの供給 を増加 ニューディール経済体制(ケインズ主義連合)の崩壊 • • • ケインズ主義財政策⇒スタグフレーションによって効力を失う 寡占企業,労働組合,政府のトライアングル構造⇒崩れる 経済理論では,反ケインズ経済学としてSSE,新自由主義が台頭 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 3 3.2 レーガノミクスと国際競争力問題への取組み a レーガノミクス レーガノミクス:歳出削減,大幅減税,規制緩和による「小さな政府」で国 民や企業の供給側面を刺激,労働供給,生産能力を高めることが目的。 SSEを基礎にした政策 成果 ① 財政赤字の拡大によって,政府規模が大きくなり,「小さな政府」は失敗 ② マクロ経済成長は好成績だが,拡大する内需に国内の供給能力が対応 しきれず、財の貿易収支赤字は増加し,供給面の強化も失敗 →アメリカ製造業の国際競争力の低下が問題に 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 4 表3-1 戦後アメリカの景気循環 (出所)NBER(全米経済研究所)の景気循環データ. 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 5 b 国際競争力強化と貿易摩擦の頻発 1985年 ヤング・レポート(産業競争力委員会) 1989年 Made in America(MIT産業生産性委員会) 国際競争力の意味 国民の生活水準と輸出とを結ぶ能力 アメリカの国際競争力低下の基本的要因 ① 企業レベルの問題 ② 政府の政策 製造業の国際競争力強化のための企業の行動 日本的経営の導入 :協調主義的労使関係、ジャスト・イン・タイム方式の導入 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 6 b 国際競争力強化と貿易摩擦の頻発 製造業の国際競争力強化のための国内経済政策 ① 独占禁止法の緩和 ② 1984年国家共同研究法で企業間の共同の研究開発促進 製造業の国際競争力強化のための対外経済政策 1. プラザ合意 ⇒ドル安による貿易赤字削減 2. 新通商政策 ⇒大統領が外国の不公正貿易を提訴 3. 1988年包括通商・競争力法 ⇒「不公正貿易」を摘発し制裁措置を発動 ⇒貿易摩擦の頻発 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 7 3.3 IT革命・グローバリゼーションとバブル経済 a ITバブルから不動産バブルへ 1990年代:「ニューエコノミー」 (IT化によるインフレなき持続的な経済成長) ・ IT消費とIT投資増加⇒IT財関連の製造業とIT関連サービス業の急成長 ・ IT利用による生産性の上昇 1990年代後半以降ITバブル化→2000年代初頭 ITバブル崩壊 1990年代繁栄期:クリントン政権の経済実績 • • • インフレなき成長と低失業率 小さな政府化と堅調な個人消費 まれにみる黒字達成 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 8 表3-2 大統領政権期ごとのマクロ経済指標 (出所)U.S. Dept. of Commerce, NIPA tables; U.S. Dept of Labor, BLS, Databases, より作成. 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 9 1990年代の経済成長の構図 ① 雇用増大の裏側 ・ 雇用保障がもろくなったからこそ,(インフレ要因になる)賃金上昇を抑制しな がら、雇用を拡大することができた ② 個人消費増大の裏側 ・ 資産効果を引き当てに,貯蓄を取り崩すか借金を増加させながら消費拡大 資産効果: キャピタルゲインの増加を引当てに,過去の貯蓄を取り崩したり, 新たに債務を拡大することによって消費を拡大 逆資産効果: 資産減価により消費者信用や住宅金融の債務負担が過重となり消費が急減 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 10 図3-1 家計部門の資産の値上がり益と実質個人消費伸び率の推移 (1975年-2008年) (注)実質個人消費支出(2000年ドル表示)伸び率は対前年比.家計部門のデータには非営利団体も含まれる. 金融資産とは,株式,ミューチュアルファンド,非株式会社出資金,生命保険・年金資産の合計を指す. (出所) Flow of Funds Accounts in the United States, various issues; NIPA tables より作成. 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 11 図3-2 資産価格上昇による資産効果の例 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 12 金融自由化 「1933年銀行法」(グラス=スティーガル法)の撤廃と 1999年金融近代化法(グラム=リーチ=ブライリー法)の成立 金融持株会社による 銀行・証券・保険の相互参入を認可 21世紀不動産バブル 1. サブプライム・ローンの拡大とその重層的証券化 2. FRBによる低金利政策(図3-3) 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 13 図3-3 金利と株価・住宅価格 (注) NY ダウ工業株指数平均は,ニューヨーク証券取引所のダウ・ジョーンズ工業株30銘 柄の平均.住宅価格指数(S&P/Case-Shiller(r)Home Price Index: 季節調整済み)は, Composite-10(CSXR-SA)を使用. (出所)FRB, S&P Standard & Poor’s, CEAのデータより作成 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 14 b アメリカン・グローバリズムの展開と挫折 アメリカン・グローバリズム 1.貿易・投資・金融の三位一体的自由化 2.株主資本主義(Stockholder Capitalism) 1993年 NAFTAの議会における批准,アメリカによるAPEC首脳会議の開催 1995年WTO成立 2001年中国のWTO加盟認可 しかし 21世紀にはいり,アメリカングローバリズムは厳しい批判の対象に 1. 2. 3. 「ワシントン・コンセンサス」に対する批判 NAFTAの南方拡大頓挫 WTO体制の軋轢 2008年9月,アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとする世界金融 危機と世界不況のなかで批判はさらに高まった. 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 15 付録図1 アメリカの貿易と貿易依存率の推移(1980~2008年) (10億ドル) (%) 3000 18 輸出額(左目盛り) 16 輸入額(左目盛り) 2500 輸出依存率(右目盛り) 14 輸入依存率(右目盛り) 2000 12 10 1500 8 1000 6 4 500 2 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983 1982 1981 0 1980 0 (年) 注)輸出依存率=輸出/名目GDP、輸入依存率=輸入/名目GDP 出所)U.S. Dept. of Commerce, Bureau of Economic Analysis, NIPA tables より作成。 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 16 付録図2 失業率と物価上昇率 % 16 14 民間企業の失業率 消費者物価変化率 12 10 8 6 4 2 2005 2002 1999 1996 1993 1990 1987 1984 1981 1978 1975 1972 1969 1966 1963 1960 0 年 現代世界経済をとらえる Ver.5 ©東洋経済新報社 17
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