現代世界経済をとらえるVer.5第5章

現代世界経済をとらえる Ver.5
第5章 国際貿易の構造と基礎理論
グローバリゼーションと国際貿易
©東洋経済新報社
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5.1 国際貿易の構造
a 商品分類と貿易構造
財の貿易
一次産品
産業
工業製品
素材原料
商品分類
用途別
中間財
最終財
ハイテク製品
技術
ローテク製品
財の貿易構造は産業,用途別,技術という3つの
商品分類がある。
第一に産業分類。一次産品貿易と工業製品という
区別がある。一次産品の特徴は①自然条件に左
右され,②付加価値は小さく,③需要の所得弾力
性が低い。
第二に用途別分類として素材原料,中間財(部品
を含む),最終財(資本財,消費財などを含む)とい
う区分がある。
第三に商品に投入された技術の違いに注目して
ハイテク製品貿易とローテク製品貿易という区分
がある。
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サービス貿易
① 越境取引
サービス貿
易
② 国外消費
③ 拠点設置
④自然人移動
サービス貿易は,商品特性に基づいた取引の
特殊性から
① ある国のサービス事業者が,自国から外国
にいる顧客にサービスを提供する場合(越
境取引)
② ある国の人が,外国に行った際に現地の
サービス事業者からサービスを受ける場合
(国外消費)
③ ある国のサービス事業者が,外国に拠点を
設置してサービスの提供を行う場合(拠点
設置)
④ ある国のサービス事業者が,人材を外国に
派遣して,外国にいる顧客にサービスを提
供する場合(自然人移動)
の4つの区分がある。
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b 経済単位と貿易構造
国民経済,産業,企業の3つの経済単位から貿
易を考えると図5-1のように3つに分類される。
図5-1 経済単位と貿易の形
A.産業間貿易
A.産業間貿易
異なる産業化における貿易
B.産業内貿易
B.産業内貿易
特定の産業内部の貿易
C.企業内貿易
特定の企業内部の貿易
現代の貿易構造として
B.産業内貿易
に注目したい。
C.企業内貿易
(注)
は国民経済、
は企業で、
は産業を意味する。
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c グローバル化と国際貿易の動向
1.貿易の伸び
世界全体の財およびサービスの輸出の合計金額のGDPに占める割合が増加し、
貿易の伸び率が高い
1970年13.4%→2005年27.0%
表5-1 総貿易額と地域別割合
(注)*東アジア6カ国とは香港,マレーシア,韓国,シンガポール,台湾,タイのこと.
(出所)WTO, International Trade Statistics より作成.
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2.地域別の動向
・ アジア地域の貿易額の比重が高くなっている(表5-1)
・ 世界全体の貿易は域内貿易の動向に左右される(表5-2)
表5-2 国際貿易における地域構造
(出所)WTO, International Trade Statistics より作成.
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3.製品別の動向
・ ハイテク製品の割合の増加。特にアジア地域の割合が大きい
・ 内訳を見るとIT(情報通信技術)関連の占める割合が高くなっている
表5-3 ハイテク貿易の地域別構造
(注)北米はアメリカとカナダ.EU4はイギリス,ドイツ,フランス,イタリア.アジアは日本,NIEs4カ国,中国.
ハイテクITとは事務機・コンピュータ・通信機器を指す.
(出所)National Science Foundation, Science and Engineering Indicators-2006 より作成.
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5.2 貿易理論の基礎
a リカードの比較優位
① 労働投入係数
表5-4に示されているような自国,
外国が第1財,第2財を一単位生産
するときに必要な労働者数。
② 労働生産性
労働者1人当たりの生産量(1単位
の財÷労働投入係数)
③ 絶対優位
自国は外国よりも少ない労働者で
両財を生産できる。このような状況を
自国は絶対優位にあるという。
表5-4 自国と外国の労働投入係数
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表5-4 自国と外国の労働投入係数
絶対優位にある自国にとって貿易する理
由は比較優位にある。
労働投入係数の比較,つまり労働価値に
よる商品の交換比率(あるいは機会費用)
を国際間で比較することで比較優位が明
らかになる。これを発見したのがリカード
(D.Ricardo)である。
表5-4の数字を用いると表5-5のようになる。
自国の第1財,外国の第2財が比較優位を
持つ。
また,自国では第2財(外国は第1財)が比
較劣位であるという。
図5-5 比較優位の決定
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b 貿易の利益
両国の比較優位財が1対1(交易条件1[注])で貿易されると考え、
貿易の利益を説明しよう。
貿易前(両国が第1財,第2財それぞれ1単位を生産)
自国:第1財 1単位⇔第2財 0.5単位
労働投入量30人
外国:第1財 2/3単位⇔第2財 1単位
労働投入量100人
貿易後(自国が第1財を2単位,外国が第2財を2単位生産)
自国:第1財 1単位⇔第2財 1単位(第2財が0.5単位多い)
労働投入量20人(10人の労働費用節約)
外国:第1財 1単位⇔第2財 1単位(第1財が1/3単位多い)
労働投入量80人(20人の労働費用節約)
[注]交易条件・・・国際間で交換される財の比率
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c 交易条件の幅
貿易の利益が得られる交易条件(T)はどのようなものであるか
0.5<T<1.5
→両国に利益。どの生産者も比較優位財に完全特化する。
T<0.5, 1.5<T
→T<0.5ならば自国に利益がなく,1.5<Tならば外国に利益がないので貿易は成
立しない。
T=0.5, 1.5
→両国とも貿易してもしなくても利益はない。このような状態を不完全特化という
表5-6 生産者の行動と交易条件
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d 消費と生産の拡大効果
交易条件の決定,相対価格と相対数量の同時決定は次の
ような仮定のもとで展開される
① 国際市場は2つの国で構成され,それぞれの国で生産される商品は
2つ(2国2財モデル)である
② どの商品も労働要素のみで生産される(1生産要素モデル)
③ 労働投入係数は一定(規模に関する収穫一定)である
④ 2国間の間には生産性の格差(技術格差)がある
⑤ 労働は国内産業間での移動は自由であるが,国際間では移動しない
⑥ 労働は常に完全雇用される
⑦ 生産したものはすべて消費される(セーの法則)
⑧ 輸送費は無視する
⑨ 物々交換(貨幣はベール)である
このような仮定の中で,貿易の利益として消費拡大効果と需要量の
導入による交易条件の決定が説明される
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表5-7のように自国と外国の総労働量と消費性向を与えて考えてみよう
消費量を超えた自国の第1財200単位と外国の第2財150単位が
貿易される
このとき交易条件は4/3となり、0.5<T<1.5の間にある。交易条件
の決定は,国内の消費性向に依存する
さらに貿易によって自国は第2財50単位,外国は第1財100単位
を,消費量を拡大する。また,生産量は第1財が300から400に,
第2財は250から300に増加する
表5-7 貿易前と貿易後の消費量比較
まとめ
貿易とは「消費量・生産量を拡大させる効果」を持つ経済活動
課題として2国間の経済規模が異なれば,両国の輸出可能な財の数量が
異なってくることが残っている
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e もうひとつの比較優位の決定要因―H-O・モデル
H-O・モデル(ヘクシャー=オリーン・モデル)・・・
ヘクシャー(E.F.Heckscher)とオリーン(B.G.Ohlin)が考えた比較優位モデル
労働以外の「支払いを受ける生産要素」としての資本を考慮
特徴:資本・労働比率(要素集約度ともいう)は国際間で同じ
異なるのは賦存比率(国内総労働量Lと総資本量Kの割合)
相対要素価格ω=w/r(wは労働要素1単位当たりの報酬としての賃金
率,rは資本設備1単位当たりのレンタル価格としての資本レンタル)の
相違が貿易を規定
各国は,相対的に豊富に存在する生産要素を集約的に用いる産業に比
較優位を持つ
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5.3 グローバル生産システムと貿易
a グローバリゼーションと貿易構造
グローバル生産システムには、先進国内部のバリューチェーン(商品を生産する生産工程間の付加価値の連
鎖)が解体され国際的に分散したもの,あるいは,多国籍企業内部の国際バリューチェーンが解体・再編成さ
れ,外注化されたものがある
図5-2 バリューチェーンのグローバリゼーションと貿易構造
①単純形態・・・先進国の企業が海外組立施設を設立し、本国から中間財を輸出し子会社から完成財を輸入
②2国間多段階形態・・・単純な2国間完結型のリンケージ連鎖が複雑なバリューチェーン形態へと変化
③多国間多段階形態・・・外注化が進むなかで、複数の国で多段階の工程を分担する形態
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b 量的変化と形態変化
量的変化
バリューチェーンの
グローバリゼーショ
ン
(部品貿易の拡大)
一方向に貿易
形態変化
垂直的産業内貿易
(産業内貿易の拡大)
双方向に貿易
水平的産業内貿易
c 国民経済の要因と企業の要因
生産工程の国際的分散化を引き起こすのは企業行動
企業行動は,現状の比較優位に基づく貿易を行う場合もあるし,その比較優位を
変化させる技術移転を選択する場合もある
また、外注化(オフショア・アウトソーシング)により形成される貿易構造もある
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