経営統計 <経営学総論:June 16 – July 7, 2005> 小島 平夫 経営統計学担当 経済学博士 (九州大学), M. B. A. (米国カーネギーメロン大学) http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/ 1 以下の順で,テキストに 沿って,話を進めます (クリックして,各スライドへ飛ぶことができます) 企業経営とビジネス予測の関わり合い 統計学エッセンス ビジネス時系列予測システム 製造業企業収益力予測への応用 予測システムの拡張 おわりに 2 企業経営とビジネス予測の 関わり合い ビジネス予測が組み込まれた,経営の流れ – テキスト第8章 p.108 の図1: • http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A1 • 上図では,経営を,以下の四つから成るシステム,とし て捉える: – インプット(投入) » 経営資源 – 経営プロセス(経営資源を処理する過程) » 詳細は,テキスト第2章以降で概説 – アウトプット(産出/成果) – フィードバック(修正のための経営コントロール) – 経営を,Plan えると: Do - See - Feedback として捉 • http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A2 3 統計学エッセンス (1) 経営データとは(テキスト pp.110-111) – 表1 海外進出日本企業の売上高データ:横断面 データ(2000年度実績) データを整理する<1>:データの中心を調べ る(テキスト pp.111-112) – 平均値(=算術平均),中央値,最頻値 データを整理する<2>:データのばらつきを 調べる(テキスト p.112) – 分散,標準偏差,範囲 4 統計学エッセンス (2) データを整理する<3>:データの度数 分布表,ヒストグラムを作り描く(テキ スト p.112) – データの分布の様子: • 左右対称? • 尖(とが)っている? • 歪(ゆが)んでいる? • 理想:Yes, No, No:正規(せいき)分布 – 分布の様子を目視観察する 5 統計学エッセンス (3) 時系列データを整理する<4>:中心を調べ る(テキスト pp.112-113) – 表2 日本企業(電気機械)のアジア現地法人 経常利益データ:時系列データ • Excelでグラフを描いてみよう: (百万円) 年度 1997 1998 1999 144,239 136,163 265,020 2000 310,661 – 幾何平均(前掲の算術平均とは違う!) • 年平均増加率,年平均成長率を求めるときに必要 • 算術平均では,正しい平均増加率は計算できない – 表2について,経常利益の年平均増加率を計算 6 統計学エッセンス (4) データを整理する<5>:二つのデータ間の 関係を,相関係数で調べる[=関係分析] (テキスト p.113) – 表1 海外進出日本企業の売上高データ:横断 面データ(2000年度実績) • 表1の(A)北米現地法人売上高 と (B)アジア現地法人売 上高を二つの異なるデータについて,それらの関係 を調べる – 相関係数は,直線関係の度合いを示す: • 曲線関係の度合いを調べることはできない!! • 表1(A)と(B)の関係が直線的なのか,曲線的なのか, を調べるには, (A)と(B)を縦軸,横軸に置いた相関 図(散布図)を描くことが肝要! 7 統計学エッセンス (5) 確率,確率変数,確率分布(テキスト pp.113-115) – ビジネス予測は , 結果が不確定な将来(=次期 ) を予測 する作業 – 一般に,結果が不確実な事象(例えば,次期売上高が上 昇する,という事象)は,確率を使ってその起こりやす さ,起こりにくさを考えることができる • 理論的には,いくつかの条件を満たす実数であれば , そ れ は確率と呼ぶことができる – 私たちが主観的に想定する数字でも,それらの条件さえ満た せば確率となる – 確率変数:将来の結果が不確定な変数 – 確率分布は,結果がどういう値で起こりやすい,起こり にくいのか,を目に見える形で示してくれる • 「確率変数の確率分布」 • 既述の正規分布は,確率分布のひとつ – 理論と実際の両面で,重要! • 注:データのヒストグラムは,既に生起したデータの起こ りやすさ,起こりにくさを示している 8 統計学エッセンス (6) 統計的推測(テキスト p.115) – 母集団 • 日本企業の海外現地法人すべて(世界各地域を網羅 )の売上高 • この売上高の平均=母平均:これは,未知 – この母集団の一部=標本 • 未知の母平均を推測,推定するために,母集団から 標本抽出(標本の無作為抽出) • この標本について計算される平均=標本平均 – 標本平均そのもの=母平均の点推定 – 標本平均を使って幅のある推定=母平均の区間推定 – 母平均について仮説検定 • 帰無仮説:母平均=2,000,000(百万円) • 対立仮説:母平均<2,000,000(百万円) • 仮説検定:標本平均を使って,帰無仮説を検定す る;帰無仮説は否定されるのか?否定されれば,対 立仮説が受け入れられる. 9 統計学エッセンス (7=最後) 回帰分析(テキスト pp.115-116) – 関係分析:日本企業北米子会社の売上高(表1の (A)欄)は,日本国内の本社売上(例えば表1の (C)欄)が増えるとき,どんな動きを見せている か? – 単回帰分析 • • • • 単回帰式:Yi = α + βXi + ai Yi:北米子会社の売上高 Xi :本社売上高 β:本社売上高Xiが1単位(表1では1単位=百万円)増 加した場合,北米子会社の売上高Yiがどのように変化 するのか,を表す – 重回帰分析 • Xiに加えて,Wi ,Zi(例えば「北米での広告宣伝費」 など)も考慮に入れる 10 • 重回帰式: Yi = α + βXi + γWi + δZi + ai ビジネス時系列予測システム ビジネス時系列:時間的に変化していく経 営データ(既出の表2のようなデータ) 予測システムの構成要素(テキスト pp.116-117) – 時系列モデルを予測モデルとして応用 • 時系列モデル=回帰式(前スライド)をベースにした モデル – 過去から現時点までの情報分析 • 予測モデルの識別 • 予測モデルの推定とより良いモデルを目指して診断 – 情報分析を踏まえた将来予測 • 予測モデルによる予測 • 予測精度の測定とモデル間比較 11 過去から現時点までの情報分析(1) 予測モデル:ありま(ARIMA)モデル(テキスト p.117) – Xt:ビジネス時系列(原系列):既出の表2のようなデータ – wt = (1-B)d Xt:原系列の d 次階差系列 • ここで BdXt = Xtーd – トレンドがなくなるように,通常 d=1 – 原系列 Xt の ARIMA モデル • Ap×[Xt の d 次階差] = Mq×at • ARIMA(p, d, q) • Ap に,AR (えいあーる:自己回帰)パラメータが p 個含 まれる;Mq に,MA (えむえい:移動平均)パラメータが q 個含まれる • at:「トレンドがみられない」「分散は時間を通じて一 定」「純粋にランダムな動きをする」などのいくつかの 特異な性質を持つ誤差項 – ホワイトノイズ(白色雑音)とも呼ばれる 12 過去から現時点までの情報分析(2) 予測モデル:あーま(ARMA)モデル(テキス ト p.118) – Xt:ビジネス時系列(原系列) – wt = (1-B)d Xt:原系列の d 次階差系列 • ここで BdXt = Xtーd – トレンドがなくなるように,通常 d=1 – 階差系列 wt の ARMA モデル • Ap×wt = Mq×at • ARMA(p,q) • 原系列の ARIMA モデル(前スライド)との違い に注意 13 過去から現時点までの情報分析(3) 予測モデル ARMA の識別(テキスト p.118) – トレンドがなくなるように,階差次数 d を決め る:wt = (1-B)d Xt – AR (えいあーる:自己回帰)パラメータ数 p と MA (えむえい:移動平均)パラメータ数 q,を決 める • 表3 次数p, qの決定:ACF(自己相関関数), PACF(偏 自己相関関数)と関連づけて • 図2 予測モデルのACFとPACFの特徴 – http://www.seinangu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A3 – 倹約の原理:次数 p, q は小さめに 予測モデルの推定(テキスト p.118) – p個のARパラメータとq個のMAパラメータを推定 • その手続は複雑,難解;詳細は小島(1994)を参照 14 過去から現時点までの情報分析(4=最後) 推定された予測モデルの診断によるモデル 改良(テキスト pp.118-120) – 推定されたパラメータは予測に有用か • 帰無仮説「パラメータ = 0(パラメータが予測に有用ではな い)」を検定する • 帰無仮説の真実度が高いようなパラメータは削除 – 残差のチェック:残差分析 • 特に,残差は正規分布に従っていて欲しい – SCCFチェック • SCCF = wtとatーlagsとの標本相互相関関数 • ラグ < 0 で突出:その突出を削除するために,そのラグに 等しい次数でARパラメータを追加 – 残差SACFチェック • 残差SACF = 残差の標本自己相関関数 • 特定のラグでSACFが突出:それを突出しないようにするため に,そのラグに等しい次数でMAパラメータを新たに導入 15 情報分析を踏まえた将来予測 (1) 将来予測(テキスト p.120) – 現時点までの(=標本期間内)データを 用いて推定された(おそらく複数の)予 測モデルを使って,ビジネス時系列の将 来(=標本期間外)予測をする 16 情報分析を踏まえた将来予測(2=最後) 現時点で(将来データの入手前に),予測 精度を測る(テキスト pp.120-121) – 予測値:「点」予測としての平均 – (将来の)現実値はおそらくこの点予測値の周 辺に落ち着く • この周辺の広さを示す指標は「予測誤差の標準誤差」 と呼ばれる • この標準誤差を使うと,広さ(幅)を持った「区間」 予測が可能となる: – 点予測値 ± 1.96×予測誤差の標準誤差 – ここで,1.96は,(将来の)現実の値がこの区間に入る 確率が95%であると想定 – つまり,この予測誤差の標準誤差が小さいほど 区間幅が狭くなり,したがって区間予測の精度 が良くなる • そのような予測モデルが特定できるよう,作業を進め 17 る 製造業企業収益力予測への応用(1) ビジネス時系列(原系列)= 企業収 益力 – 製造業企業の総合的収益力の指標=経常 利益 • 総合的=本業(ものつくり)+本業外(金融業など) – 表4 損益計算書(テキスト p.121) • http://www.seinangu.ac.jp/~kojima/hirao/course_busstats.html#A1 – ビジネス時系列 = 売上高経常利益率 • =経常利益÷売上高 18 製造業企業収益力予測への応用(2) ビジネス時系列(原系列)=四半期毎売上 高経常利益率 – 四半期=1月—3月(第1四半期),…,10月—12月(第4四半期) – 1977年から現時点(=1997年第4四半期 , と 想 定)までの21年間 • 表5 石油危機とその後の不況期(テキスト p.122) – 次スライドで図3をみよ – 時系列データ出所:財務省ウェブサイト • http://www.mof.go.jp/ssc/kihou.htm • 日本製造業全体の集計されたデータ(個別の企業デー タではなく)を用いる まず,1977 - 1997年期間の情報分析を企業 は行い,次に,収益力の将来(=1998年か ら1999年第3四半期までの)予測を行う 19 製造業企業収益力予測への応用(3) 現時点までの情報分析:予測モデルを識別, 続けて,推定と診断でモデルを改良 – 1977年から現時点(=1997年第4四半期)までの21年間 – テキストp.122で, <問: …>に答えながら,順に下の図 を詳しく観察しなさい • 図3 予測モデル識別:原系列(売上高経常利益率)そしてそ のSACFとSPACF – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A4 • 図4 予測モデル識別:1次階差系列そしてそのSACFとSPACF – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A5 • 図5 ARI[16;1;0]モデルの推定結果 – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A6 • 図6 ARI[3,16;1;0]モデルの推定結果 – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A7 • ARIMA[3,16;1;1] (図は掲載せず)は,図6のARIより良い モデルと判断される(あくまでもこの情報分析の段階では) – そこで次に,ありARI[3,16;1;0]とありまARIMA[3,16;1;1] の二 つを予測モデルとして将来分析に適用し,予測精度を比較する 20 製造業企業収益力予測への応用(4) 将来分析:予測の特徴と精度を調べ,経営 意思決定にもつ意味を考察する <1> – 以 上 の情報分析を基に,企業は,収益力の将来 (1998年から1999年第3四半期までの)予測を行 う: • 図7 ARI[16;1;0]モデル vs ARIMA[3,16;1;1]モデル:売 上高経常利益率の現実値MGと予測値MGFRCST,そして区間予 測の95%信頼限界UPPER, LOWER (テキスト p.127) – http://www.seinangu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A8 – この図7で,売上高経常利益率(企業収益力)の 将来予測値二つ,ARI[16;1;0]予測と ARIMA[3,16;1;1]予測,について吟味する -> 次 のスライド(予測精度は次の次のスライドで) – 更に,それらの予測が経営意思決定について何 を含意するか,考える -> 次のスライド 21 製造業企業収益力予測への応用(5) 将来分析:予測の特徴と精度を調べ,経営 意思決定にもつ意味を考察する <2> – 現時点でみた予測の特徴点(テキスト pp.122-123) • テキストp.123で,図7関する<問:…>に答え,予測の特徴 を調べなさい • 図7 – http://www.seinangu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html#A8 – 経営意思決定にもつ意味(テキスト pp.123-124) • この収益力予測を基に,企業は現時点で,将来の製品 生産計画(生産管理),製品の価格・マーケティング 政策(販売管理),賃金・配置転換政策(人的資源管 理)といった経営管理に関する重要な意思決定を下す • Plan - Do - See - Feedback で,経営計画,経営コ ントロールにも留意: – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/figs.html - A2 22 製造業企業収益力予測への応用(6) 将来分析:予測の特徴と精度を調べ,経営 意思決定にもつ意味を考察する <3> – 現時点でみた予測精度(テキスト pp.124-125) • 推定の段階:ARIMA[3,16;1;1]が,ARI[16;1;0]と比べ て , SCCFと残差SACFが改善されていた。果たして,こ の改善はARIMAの予測精度を向上させたのか • 図7: ARI[16;1;0]の方が,区間予測の幅(一点鎖線 UPPER, LOWERの幅)が狭い(正確には,1四半期先と いう極短期予測にはARIMAが狭いが,それを越える予 測にはARIの方が狭い) – この意味でARIの方が総じて予測精度が高く,結局企業 は(将来収益力の落ち込み程度がかなり楽観的な)ARI 予測を採用した経営意思決定をすべきだろう • 加えて,倹約の原理に従ったARI[16;1;0]の方が予測 精度がより高いというのは,望ましいこと 23 製造業企業収益力予測への応用(7=最後) 将来分析:予測の特徴と精度を調べ,経営 意思決定にもつ意味を考察する <4> – 図7の補足:1999年第3四半期時点で(つまり事後 的に)現実との比較でみた予測の特徴点 ( テ キ ス ト pp.125-126) • テキストp.126<問:図7で,… > に答え,以下のこと を確かめなさい: – ARI予測とARIMA予測ともに,製造業企業の売上高経常利 益率は1998年第4四半期を底に増加に転じるだろうとし ているが,現実はまさにこの予測に合致した動きをして いる • しかし,最終時点を除いて予測は終始過大予測: – 即ち,平成2次不況期にあって現実の売上高経常利益率 は,1997年第4四半期時点での予測以上に落ち込んでい る • また,点予測としてはARIMA予測の方が現実値により 近い動きをしているように見える 24 予測システムの拡張: 多変量へ,そして異なる予測の結合へ 予測精度を改善し,より適切な経営意志決 定を行うために: – これまでの一つのデータのみに絞った「一変量 」時系列予測システムを拡張して,複数のデー タを用いて,異なるデータが互いに及ぼし合う 影響などを取り込んだ「多変量」予測システム を作ることができる – 更に,複数の異なるモデル(例えば時系列モデ ルに加えて,第2.4節の回帰モデル)による予 測を,適切な形で結合するシステムを構築する – これらの拡張により: • 因果関係といった定性的な要因も加味した分析を可 能とする,精度のより高いビジネス予測システムが 構築でき,より望ましい経営意志決定が行われよう 25 おわりに この「経営統計」スライドは,以下で閲覧 できます: – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/ • こ の URL で ア ン ダ ー バ ー ( _ ) に 注 意 : /intro_business/ • このウェブページで,intro_b_stats.ppt をクリッ クして閲覧 閲覧できない,などの問い合わせは,小島 宛てにどうぞ:[email protected] ビジネス予測については,私の公開講座ス ライド(Friday,May 7,2004) も参考になり ます: – http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/Ext/ 26
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