野中・遠山・紺野 「知識ベース企業理論」 『一橋ビジネスレビュー 2004年

Critical Concept・戦略的コンセプト創出の
ダイナミック連鎖モデル
ダイナミック連鎖モデルの7つの構成概念
1.知識
ビジョン
2.
駆動目標
3.対話
4.実践
5.場
6.
知識資産
7.環境
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
1.知識
ビジョン
知識ビジョンとは、「我々は何のために存在するのか」と
いう問いかけから生まれる企業ビジョンのことである。
従来の競争戦略論における時間は、
1.未来に向かって刻まれる客観的な時計の時間であり、限定された時空間内
での資源配分の最適化を図るための尺度であった。
2.現時点から目標へのギャップを埋める、あるいは計画をプロットするための
無機的尺度でしかなかった。
知識ベースの企業理論における時間は、
「今ここで」(here and now)という未来も過去も共存する実存的
時間であり、知識ビジョンは未来から現在を見るという視点を提供
する。
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
2.
駆動目標
ビジョンに基づいて知が創造され正当化されるためには、
ビジョンと対話・実践の知識創造プロセスを連動させる
具体的な概念、数値目標、行動規範が必要である。
駆動目標は、それを追求するために組織成員に本質的な問いか
けを投げかけることによって、知を創発する。
◆ ホンダ「チョイノリ」の事例
◆ セブンイレブン「機会損失」の事例
◆ キヤノン「キャッシュフロー」の事例
目標の共有化
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
対話:思考の弁証法
3.対話
対話は、そのままでは言語化が困難な暗黙知を形式知に変換(表
出化)するための非常に強力な方法である。
対話により、深い思いや感情といった実存的文脈が共有され、
知識創造のベースとなる。
そのためには、自己主張と謙虚さを両立する、開かれた思考
が必要となる。自己は「間違う」ことがあることを自覚し、他社
との対立を媒介にして本質を追求することにより自己をより
高い次元に発展させる対話が、知識創造には必要である。
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
実践:行為の弁証法
4.実践
実践は、共通体験により暗黙知共有(共同化)のベー
スを作るとともに、文脈から切り離された形式知を再び
特定の文脈を再結合することにより暗黙知として血肉
化(内面化)する方法である。
そのためには、無意識に抱いている前提条件をいったん捨てて、
現実をあるがままに体験し、見るという姿勢が必要となる。
サントリー「DAKARA」の事例
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
5.場
対話と実践を通した知識創造には実存する人間の関
与が不可欠であり、そのため時間的・空間的なスペー
ス「場(Place)」が必要である。
場は「共有された動的文脈」であり、その本質は人と人との相互
作用である。
そうした相互作用を核として場は重層的につながっていく。「場」
が重層的に結びつくことで実質的な組織が形成される。
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
6.
知識資産
知識資産は、既に何らかの形で生み出された知識だけでな
く、それらを生み出すための知識の両方を含んでいる。
一般的には、ノウハウ、特許、著作権、ブランドなどが企業化価値や
ブランド価値に指標化されやすいために知識資産として見なされるが、
真に魅力的なのは、暗黙知を含み指標化されにくい「それらを生みだ
すための知識」である。
知識資産の中で最も重要なものの一つは、企業が持つ実践と対話の
固有の「型」である。
型とは、知識創造のダイナミズムを可能にする「クリエイティブ・ルー
ティン」である。
そしてそれは、マネジメントの効率性を保障する一方で、実践の中での
絶えざるフィードバックにより、成功体験への過剰適応を防ぐ。
3.「知の綜合企業」のダイナミック連鎖モデル
7.環境
環境:知の生態系としての組織・市場・産業のネットワーク
場の連結は、組織の内部だけで起こるわけではない。知識
は企業とその環境とのダイナミックな相互作用の中で生ま
れるのである。
環境は、組織にとって知の貯水池であり、そして生み出された知
は環境を変えていく。
知識ベースの企業論では、企業や産業の活動を市場構造に基
づいてのみ捉える立場を超えて、市場を組織内外に連なる組織
の生態系(エコシステム)として捉えるモデルである。
4.知識創造のリーダーシップ(1)
知識ベース企業論のリーダーシップは、固定化された管理統制型
リーダーシップではなく、その文脈ごとに臨機応変にリーダーシップが
決まる、より柔軟な「自律分散型リーダーシップ」が基本である。
それには特異点(ティッピング・ポイント)となる選ばれた個人が結
節点(ノード)となることにより、ネットワークのスモールワールド
化が触媒となり、「ミドルアップアンドダウン」のメカニズムが働くこ
とがカギとなる。
4.知識創造のリーダーシップ(2)
ビジョンと駆動目標の設定・共有化
1
リーダーの役割は、使命やビジョンを設定し、それを理解し一
貫性を持たせることである。
場の生成、連結、維持
2
3
リーダーは、場を積極的に活用して、個々の人の思いと組織
のビジョンを対応させ、部分最適から全体最適への変換を支
援していくことである。
矛盾を綜合する人間力
リーダーには、人間力に優れたリーダーシップが重要である。
異文化(多元的価値観)シナジーのメリット
Cross & Trans Cultural Management の重要性
多様な視点
新しいアイデア
多様な解釈
Cross & Trans Cultural Communication
[選択肢の拡大]
創造性の増大
柔軟性の増大
問題解決スキルの増大
Cross & Trans Cultural Communication
[多様性と創造性]
Vision
&
Mission
広い視野
多くの優れたアイデア
新たなコンセプト
Cross & Trans Cultural Communication
的確な問題提起
多くの代替案
効果的な解決策
優れた意思決定
新たな文化と新たな価値観
Surprise(新鮮な驚き) & Empathy(共感) のメカニズム
高い生産性と創造性・大きなイノベーション効果
文化的多様性のデメリット
暖味さ
不正確さ
複雑さ
混乱の増大
Cultural Communication Gap
Cultural Communication Gap
不信感の生成
ストレスの発生
同一文化圏同士の会話
一体感の欠如
*コミュニケーション・ミス
*意見の不一致
*合意形成の困難さ
*統一した行動が困難
低い生産性と創造性 ・ 小さなイノベーション効果