電気回路学講義資料

電気回路学Ⅱ
コミュニケーションネットワークコース
5セメ
山田 博仁
回路網関数
微積分方程式とラプラス変換
全ての初期条件を 0 (i(0) = 0, q(0) = 0)と置いてしまえば、励振 e(t) および応答 i(t)
は、それぞれのラプラス変換 E(s) および I(s) に(ほぼ)1対1対応する。従って、e(t)
および i(t) で考える代わりに E(s) および I(s) で考えて、これらラプラス変換したも
のも励振および応答と呼んでいる。
また、全ての初期条件を 0 としたとき、Z(s) = E(s)/I(s) をインピーダンス関数、Y(s)
= I(s)/E(s) をアドミタンス関数と呼んでいたが、より一般的には次のように定義する。
静止の状態にある(全ての初期条件を 0 とした)回路に励振を加えたとき、応答の
ラプラス変換と励振のラプラス変換との比を回路網関数という。
(応答のラプラス変換) = (回路網関数)×(励振のラプラス変換)
回路網関数(network function)の代わりにシステム関数(system function)、伝達関
数(transfer function)などと呼ぶこともある。
回路網関数は、対象としている回路網の構造を与えれば一意に定まる。
回路網関数
回路網関数には、(電圧)/(電流)を表すインピーダンス関数(impedance function)、
(電流)/(電圧)を表すアドミタンス関数(admittance function)、さらにまた励振と応
答が同じ節点対(端子対)で測られるとき駆動点関数(driving-point function)、異な
る節点対(端子対)で測られるとき伝達関数と呼ばれる。
例えば以下の回路網において、
V1(s)/I1(s), V2(s)/I2(s)は、駆動点インピーダンス関数
I1(s)/V1(s), I2(s)/V2(s)は、駆動点アドミタンス関数
V1(s)/I2(s), V2(s)/I1(s)は、伝達インピーダンス関数
である。
I1(s)/V2(s), I2(s)/V1(s)は、伝達アドミタンス関数
I1(s)
V1(s)
I2(s)
回路網
V2(s)
複素記号演算との関係
回路網関数を H(s) とすると、s を jω で置き換えた H(jω) は、複素記号演算で得ら
れるインピーダンスやアドミタンスと一致する。即ち、ラプラス変換による演算で定
義される回路網関数 H(s) は、複素記号演算で定義される回路網関数 H(jω) を拡
張したもので、s ↔ jω で相互に置き換わる。
A cos( t   ) 
Aˆ e jt
 j
 dt  1 j
d dt
Aˆ e st 

 s 
 1s 


線形電気回路の時間域解析
微分方程式またはラプラス変換による時間域解析のプロセスを下図に示す。
(微分方程式の標準的解法)
e(t)
i(t)
(ラプラス変換)
(初期条件の導入)
E(s)
(Y(s)E(s))
(代数演算)
周波数域解析
時間域解析
I(s)
(ラプラス逆変換)
時間域解析と周波数域解析
線形電気回路の解析にラプラス変換を用いれば、初期条件も導入しながら、多くの
関数のラプラス変換がラプラス変換表を用いて機械的に行える。その後、s 関数の
代数演算によって応答のラプラス変換を求め、ラプラス変換表を用いてラプラス逆
変換を行えば、時間応答が求められる。
ラプラス変換による演算法は、ヘビサイド(Oliver Heaviside)によって導入された
ヘビサイドの演算子法を数学的に明確にする過程で変形されたもの。
時間域解析と周波数域解析
時間 t の関数としての励振 e(t) に対する回路網の応答 i(t) を求めることを、時間
域解析 (time domain analysis)と呼んでいる。これに対し、e(t), i(t) のラプラス変
換 E(s) と I(s) の関係を求めることを周波数域解析 (frequency domain
analysis)と言う。周波数域解析では、一般的には初期条件を考慮しない。全ての
初期条件を 0 として扱う。
周波数域解析における重ねの理
周波数域解析における重ね合わせの理と初期条件
周波数域解析で初期条件を扱う必要のある場合には、初期条件に関連した項を
強制振動項と同格に扱い、強制振動の一成分であると考える。
RLC直列回路を例に見てみると、回路方程式のラプラス変換は、
E ( s)  RI ( s)  LsI ( s)  i (0)  
1
I (s)  q(0) で表されるから、
sC
1

) I1 ( s )  E ( s ) 
sC
1
q (0) 
( sL  R  ) I 2 ( s )  
 I1 (s)  I 2 (s)  I 3 (s)  I (s) が成り立つ。
sC
sC 
1
( sL  R  ) I 3 ( s )  Li(0) 

sC
q ( 0)
即ち、 E ( s ), 
, Li (0) を各々独立した励振と見なした場合の応答
sC
( sL  R 
I1 (s), I 2 (s), I 3 (s) に対して、重ね合わせの理が成り立つ。
RC微分回路
RC微分回路
C
e(t)
R
vR
この方形パルスを分解して、t = 0 に生起する大きさ
E0 のステップ関数と t = a に生起する大きさ −E0 の
ステップ関数を重ねたものとすれば、
(a)
E0
0
t
a
と表される。
 E0 q(0)  
i1 (t )   
e , t  0,   RC
R



t
t
0
– E0
e(t )  E0u1 (t )  E0u1 (t  a)
E0u1 (t ) を印加したとき R に流れる電流 i1(t) は、
E0
0
図(a)に示すRC直列回路を電圧源 e(t) で励振し、
応答として抵抗 R の両端の電圧 vR をとるものとす
る。また励振 e(t) は図(b)に示すような方形パルス
であり、時刻 t = 0 に生起し、t = a で消滅する大き
さ E0 の電圧であるものとする。
a
t
(b)
である。 −∞ < t < 0 の範囲で印加電圧 e(t) = 0 で
あれば、C に蓄えられている電荷は 0、即ち q(0) =
0 であるとしてよい。
RC微分回路
RC微分回路
一方、  E0u1 (t  a) を印加したときの電流 i2(t) は、時間を t → t − a に置き換えて、
かつ E0 に負号を付けて、
E 
i2 (t )   0 e
R
t a

, t 0
と表される。
よって、R の両端の電圧 vR(t) = Ri(t) は、
t



Ri1 (t )  E0 e , 0  t  a

a
t
vR (t )  



 Ri1 (t )  i2 (t )  E0 1  e  e  a  t



これを図示すると以下のようになる。
で与えられる。
RC微分回路
図において、正の部分の面積と負の部分の面積が等しく、
a
a
 

 t



0 E0e dt  a E0 1  e e dt  E0 1  e 
従って、vR(t) の平均値すなわち直流分は 0 である。つまり、C は直流分を遮断する。
a

t


電圧 vR(t) の波形は、時定数 τ = RC と印加パルスの時間幅 a との関係により、異なる
ものとなる。つまり、τ >> a ならば、入力形波にほぼ等しい波形となるが、逆に τ << a
ならば、入力波形を微分したような波形となる。従って、後者の場合を RC微分回路と
呼んでいる。
1
RC直列回路の式 Ri (t )   i (t )dt  e(t ) の両辺を t について微分し、両辺に C を
C
de (t )
i
(
t
)

C
乗じて、RC = τ が非常に小さいとすれば、
と近似できるから、
dt
de (t )
vR (t )  Ri (t )  RC
dt
即ち、入力電圧波形 e(t) の微分にほぼ比例した出力電圧波形 vR(t) が得られる。
微分回路は一般に、方形波から鋭いパルスを作るのにつかわれるので、ピーキング
回路(peaking circuit)とも呼ばれる。
RC積分回路
RC積分回路
RC直列回路において、方形波の入力電圧 e(t) に
対して、出力として C の両端の電圧 vC(t) をとるこ
とにする。このとき、0 < t < a に対しては、
R
e(t)
C
vC
 E0 q(0)  
i1 (t )   
e ,   RC
R



t
で q(0) = 0 としたものより、
vC1 
1
C
E0 
また一方 a < t に対しては、 i2 (t )   e
R
を vC1 に重ねることにより、
t
 
 
 E0 1  e  , 0  t  a


vC (t )   
a
t
 E 1  e  e  a  t

 0 


t
 i (t )dt
0
t a

1
として、
より得られる vC2 
と求められる。
1 t
i2 (t )dt

a
C
RC積分回路
RC積分回路
vC(t) を図示すると以下のようになる。 vC(t) が直流成分を含むことは明らかである。
vC(t) は、τ << a のときは図(c)のように入力波形 e(t) と殆ど同じ波形となり、逆に τ
>> a のときは図(a)のような波形となる。後者のような場合を RC積分回路と呼ぶ。
1
Ri
(
t
)

i (t )dt  e(t ) の両辺を各々 R で割ってから積分し、
RC直列回路の式

C
1
q(t ) 1
1
RC が非常に大きいとすれば、  i (t ) dt   e(t )dt vC (t ) 
  i (t )dt 
e(t )dt

R
C
C
CR
即ち、入力電圧波形 e(t) の積分にほぼ比例した出力電圧波形 vC(t) が得られる。
積分回路は検波や整流などに使われる。
(a)
(b)
(c)
伝達関数の周波数特性
伝達関数の周波数特性
RC微分および積分回路の励振 e(t) と応答 vR(t) あるいは vC(t) の間の関係は、
それらのラプラス変換 E(s), VR(s) あるいは VC(s) の間の関係で表現すれば、初
期条件 q(0) = 0 として、
1
V ( s)
V ( s)
R
H R ( s)  R

,
H C ( s)  C
 sC
E ( s) R  1
E ( s) R  1
sC
sC
これら伝達関数において、s → jω として振幅特性を調べてみると、
H R ( j ) 
R
1
R
jC

1
1
1
jCR
1

1
1
j

1
 1 
1 




1
1
1
1
jC
H C ( j ) 



2
1
1  jCR 1  j
1   
R
jC
2
となる。
高域通過回路と低域通過回路
これらの特性を ω に対して描くと、下図のようになる。
図(a)では、ω = 0 で |HR| = 0、 ω = 1/τ で |HR| = 1/√2、 ω = ∞ で |HR| = 1 となっている。
従って、0 < ω < 1/τ の周波数領域は減衰域(stop band)、 1/τ < ω < ∞ の周波数領域
は通過域(pass band)と呼ぶ。このように、低い周波数域が減衰域、高い周波数域が
通過域となる回路を、高域通過形回路と呼ぶ。一方図(b)では逆に、 ω = 0 で |HC| = 1、
ω = ∞ で |HC| = 0 となっているから、低域通過形回路である。
高域通過回路と低域通過回路
このような周波数特性をもつ回路に、広いスペクトル成分をもつ電気信号、例えば
方形波パルスのような信号波形を入力すれば、出力信号のスペクトルは入力信号
とは異なったものとなる。例えば高域通過形回路では、ゆっくり変化する振動成分
は除去され、出力波形は鋭い形となり、また逆に低域通過形回路では、速い変化
をする振動成分が除去されて、出力波形は鈍い形となる。
H R ( s) 
VR ( s)
R

において、時定数 τ = RC が非常に小さければ、
E ( s) R  1
sC
VR (s)  sE(s) となり、入力 E(s) に s を乗じた形となる。
vR (t )  RC
de (t )
de (t ) と比較するし分かるように、時間領域では(初期条件を

無視しての)時間微分に他ならない。
dt
dt
積分回路については、 H C ( s ) 
1
sC
VC ( s )

E ( s) R  1
sC
の τ = RC が非常に大きいとして、
VC (s)  E(s) / s となって、入力 E(s) を s で割る形となり、時間領域での積分に
他ならない。