語順と句構造

世界の言語と日本語
第3回
語順と句構造
語順とは何か
• 修飾要素と被修飾要素の位置関係
– 修飾の方向性
– 位置の自由度(語順の自由さ)
• 被修飾要素を主要部と呼ぶことがある。
• 修飾要素を被修飾要素の依存部と呼ぶこ
とがある。
• 修飾要素をさらに分類することがある。
修飾関係
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赤い→靴
早く→走る
そばを→食べる
どこ→から(来た
の?)
• 君が撮った→写真
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•
形容詞が名詞を修飾
副詞が動詞を修飾
目的語が動詞を修飾
名詞が後置詞を修飾
– 後置詞=格助詞
• 連体修飾節が名詞を
修飾
日本語はどんな語順の
言語だろうか?
• 修飾の方向性
– 前から後ろへ(左から右へ)
– 若い→友人→から→借りた→金
• 語順の自由さ
修飾要素1 修飾要素2 被修飾要素
– 修飾部同士の間では比較的自由
• 急いでそばを食べた≒そばを急いで食べた
• 彼がそばを食べた≒そばを彼が食べた
– 修飾要素と被修飾要素の間は固定
• *食べた急いで
• *食べた彼が
入れ替え自由
英語の修飾関係
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形容詞→名詞(beautiful→flowers)
主語→動詞(a dog→runs)
動詞←目的語(chase←a cat)
動詞←副詞(run←fast)
前置詞←名詞(for←Sapporo)
名詞←形容詞句(a mountain←bigger
than Mt. Fuji)
日本語と英語の語順を
比べてみると
• 日本語は修飾の方向性が一貫しているこ
とがわかる。
• 英語は修飾の方向性が一貫していないこ
とがわかる。
• ただし、英語では後ろから前への修飾が
優位である。
日本語と英語の語順を
比べてみると
• おおざっぱな傾向としては、日本語と英語
の修飾の方向性は逆
• では、日本語の語順は特殊なのだろう
か?
日本語と英語の語順を
比べてみると
• 君たちが勉強する言語の語順は、韓国語
を除き、すべてSVO型
• では、日本語のようなSOV型は特殊なの
だろうか?
世界の言語の語順
• OV型:目的語が動詞の前に来る。
• VO型:目的語が動詞の後に来る。
• 可能な語順
(i) SVO (ii) SOV (iii) VSO
(iv) VOS (v) OSV (vi) OVS
世界の言語の語順
(i) SVO:35%;英語、ロマンス諸語、バンツー諸語、中国語な
ど
(ii) SOV:45%;日本語、韓国語、アムハラ語、ヒンディー語、ト
ルコ語、モンゴル語、ケチュア語など
(iii)
(iv)
(v)
(vi)
VSO:18%;アラビア語、ケルト語など
VOS:2%;マラガシ語、トンガ語など
OSV:柴谷他(1981)によるとない→しかしwals
OVS:ヒシカリャナ語(北部ブラジル)
柴谷方良・影山太郎・田守育啓 (1981) 『言語の
構造:意味・統語篇』くろしお出版
世界の言語の語順
• 質問
– では、日本語の語順は特殊だと言えるだろう
か?
品詞を超えた共通性
• OV型言語では、一般に修飾部が被修飾部の前
に来る。前から後ろへの修飾。
– 形容詞→名詞(赤い→花)、副詞→動詞(早く→走る)、
名詞→後置詞(札幌→まで)
• VO型言語では、一般に修飾部が被修飾部の後
ろに来る。後ろから前への修飾。
– 名詞←形容詞(something←good)、動詞←副詞
(run←fast)、前置詞←名詞(for Sapporo)
日本語とマレー語の例
柴谷他(1981)より
• 彼 を 打て = pukol sama dia
• 読 める = dapat bacha
• 急いで やってきた=datang tegopoh-gopoh
• 一軒の 家=rumah satu
• 犬 より 大きい=besar dari-pada anjing
英語の語順の方向性
• 動詞を修飾する要素を見るとOV型
study hard (一生懸命勉強しろ)
study linguistics(言語学を勉強しろ)
• 名詞を修飾する要素はOV型とVO型が混
ざっている。
a big mountain
a mountain bigger than Mt. Fuji
句構造
• ある品詞を中心としてその品詞を修飾す
る要素が集まった単位を「句」と呼ぶ。
• 句は主要部の品詞によって「名詞句」「形
容詞句」「動詞句」「副詞句」などがある。
• 句は[ ]で囲む。
• 靴:名詞
• [赤い→靴]:名詞句
句構造と形態論の並行性
日本語の一貫性
• 日本語では句構造でも形態論(語構成)で
も一貫して主要部が右側に来る。
句構造と形態論の並行性
日本語の一貫性
• 句構造の主要部はその
句の性質を決定する単
語。
• 形態論は、単語の構成を
研究する部門
• 単語は形態素に分かれ
る。
• 単語の性質を決定する
形態素が形態論的に見
た主要部
• [赤い 靴]が名詞句な
のは「靴」が名詞だか
ら
• [食べ-た]が過去形な
のは「た」が過去の形
態素だから。
句構造と形態論の並行性
日本語の一貫性
過去
名詞句
進行
使役
単語と単語の
形容詞
赤い
食べ させ てい た
句レベル
名詞
靴
←単語
動詞語根 使役形態素 進行相形態素 過去時制形態素
結合
句構造と形態論の食い違い
• 英語を含むヨーロッパの諸言語では句構
造と形態論では主要部の位置が異なるこ
とが多い。
• 句構造では主要部が修飾部よりも前に来
る。→VO型
• 形態論では、主要部が修飾部の後ろに来
る。→OV型
句構造と形態論の食い違い
• [will rain]: 助動詞が主要部、主要部が先
行
• しかし、単語の中では、
過去
rain-ed
「雨が降る」動詞語幹 過去時制形態素
OV型形態論とVO型句構造
• どうしてヨーロッパの言語ではこんな食い
違いがあるのか?
• 目的語代名詞の弱形と強形が一つの文
に共存する言語がこの問題に示唆的。
OV型形態論とVO型句構造
• ルーマニア語(ラテン語から派生した東
ヨーロッパで話されているロマンス語)
• Ana vă cheamă pe voi.
弱形直接目的語(君たち) 強形直接目的語(君たち)
強形代名詞は独立した単語。一方弱形代名詞は、常
に動詞や助動詞にくっつく独立性の低い要素。形態素
に近い位置づけ。
これは何を意味するのか。
今日の形態論は
昨日の統語論
• ルーマニア語は代名詞の位置に関して
– 句構造はVO型:cheamă pe voi
– 形態論はOV型:vă cheamă
• ルーマニア語の祖先であるラテン語はOV
型の統語論であった。
• Today’s morphology is yesterday’s
syntax. (Talmy Givon)
今日の形態論は
昨日の統語論
• 単語と文は別な単位である。
• そして、内部構成が食い違うことがある。
• しかし、語順という文や句のレベルの秩序
が形態素の順序として単語の中に結晶し
て残ることがある。
クリンゴン語の語順
• 阿佐ヶ谷村公民館「クリンゴン語講座(文
法)」
• OVS
• 補文も動詞の前に来る
• 所有者ー所有物
• 名前ー肩書き
クリンゴン語の形態論
• 代名詞接辞は動詞の前接
• その他の接辞は動詞や名詞に後接
• ということは、
– OVSという語順は有標といえるが、
– その他の語順や形態素の構成は典型的な
OV型であり、むしろ無標といってもいいだろう。