情緒推定のための対話文の解析

情緒推定のための対話文の解析
鳥取大学工学部知能情報工学科
杉坂 岳志 吉村 英展 徳久雅人 村上 仁一 池原 悟
研究の背景
教育支援,医療説明における親和性のある対話処理
【Andre00】【Rosis00】
↓
言語理解による対話相手の情緒推定が必要
↓ 既存の情緒処理技術
対話相手の心的状態に基づく情緒推定機構の開発
↓
問題点
【徳久他01】
解析可能文が限定
研究の目的
解析可能文拡大のための文型パターンの作成
情緒生起の原理
基本情緒- 「喜び/悲しみ、好ましい/嫌だ、驚き、期待、恐れ、怒り」
生起特徴から下位分類すると全123種類【徳久,岡田98】
期待の下位分類表
期待
生理的
心理的
・・・
目標実現
情報収集
対人関係
計画
仲間意識
優劣関係
思惑通り
発見
判明
成算
:
:
(例) 期待ー成算
生起特徴「目標とプランがあり、プランの成功の可能性が高く評価された」
心的状態-「生理、欲求、情緒、目標、プラン、予測、評価、記憶、認識、行動、言語」
対話文からの情緒推定
対話文から情緒を推定する過程の注釈
情緒注釈付き対話コーパスで表現
勧誘者=かえる君,被勧誘者=がま君
初期状態:
<目標,手紙を所持,設定>
<プラン,手紙を受け取る,採用>
かえる君:「今日は誰かが君に手紙をくれるかもしれないよ。」
<信念-発話行為,予測の伝達>
<信念-予測,今日は誰かががま君に手紙をくれる>
<予測,今日は誰かががま君に手紙をくれる>
<評価,可能性(手紙を受け取る),高い>
<情緒,期待-成算,生起>
がま君:「馬鹿らしい事言うなよ。」
<発話行為,予測の否定>
<予測,今日は誰かががま君に手紙をくれる>
要因推定
ルールベース
【中野他01】
情緒生起
ルールベース
【徳久,岡田98】
発話文から発話行為と心的状態を抽出
対話文の構造
日本語文の命題情報と様相情報の構造に着目
(例)今日は誰かが君にお手紙くれる かもしれないよ。
命題情報
意味解析が必要
↓
結合価文法で解析
↓
用言意味属性【19所有的移動】
様相情報
【日本語文型辞典98】
で解析
「~かもしれない」=推量
総合的な判断→「予測の伝達」
格要素,用言,様相表現で構成される文型パターン
対話文文型パターンの作成
1.対話事例の収集,整理
◎収集
児童向けの寓話から勧誘の内容の対話を収集
「二人は友達」、「ムーミン」等から36対話528文を収集
<収集文の選考基準>
・話題が途中で変わらない
・会話が5ターン以上続く
・台詞に単文が多い
◎整理
対話文に発話行為、話し手、聞き手の情報を付与
「ああ」、「えーと」等の情緒推定に関わらない語の除去
2.対話文文型パターンの作成方法(1)
字面と変数で対話文文型パターンを記述
字面で記述
• 格助詞(例:~が、~を)
• 様相表現
• 発話行為の表層的特徴を表すキーワード
(例:~をよろしく、いや、だめ)
※事例を良く観察して判断
2.文型パターンの作成方法(2)
変数で記述
名詞句「NP」
動詞「V」、形容詞「AJ」、形容動詞「AJV」
話し手「SP」、聞き手「HR」
↓汎用性の向上
動詞句「VP」、形容詞句「AJP」
形容動詞句「AJVP」
名詞句、用言については意味属性を付与
2.文型パターンの作成方法
(3)
離散記号
• 離散記号を『/』と表記
• 文のうち任意の要素(文字列)に照合可能
• 文節の境界に配置
《例》「SP1が/V1てみよう」
「僕が先に登ってみよう」と照合
↓
下線部は離散記号と一致
3.文型パターンの作成過程
3タイプの文型パターンを作成
《例》『キリギリスくんのパーティはとっても楽しいわ。』
1.単語タイプ文型パターン
用言を単語レベルの変数に置換
HR1のNP1はとってもAJ1わ;NP1=1234,AJ1=11
2.離散型単語タイプ文型パターン
1から副詞を除去,離散記号を挿入
/HR1の/NP1は/AJ1わ; NP1=1234,AJ1=11
3.離散型句節タイプ文型パターン
2から格要素を吸収
/HR1の/AJP1わ;AJP1=11
4.抽出規則の記述
1つの文型パターンに発話行為と心的状態
を対応付けて記述
《例》「とっても楽しいわ。」 (評価の伝達)
文型パターン
意味属性制約
発話行為
心的状態
とってもAJ1わ
AJ1=11感情状態
評価の伝達
eval::[評価の種類(AJ1),イメージ値(AJ1),現在話
題になっている聞き手の持つプランの内容]
5.文型パターンの作成結果
文型パターン種別 種類 出現頻度
単語タイプ
離散型単語タイプ
離散型句節タイプ
先行研究
495
491
487
30
最大
11 (HR)
11 (HR)
11 (HR)
ー
平均頻度
1.05
1.06
1.06
ー
6.作成結果の考察
• 様相表現に関する考察
日本語文型辞典との比較
対話事例528文
↓
377文が日本語文型辞典に掲載される表現を使用
(71.4%)
• 命題表現に関する考察
発話行為ごとのSP,HRの特徴
発話行為の内容→「生理」、「情緒」、「目標」
発話行為の種類→「拒否」
↓
SPを使用、HRは無
実装
1.
2.
3.
4.
対話文文型パターンをDCG表現に変換
SICStusPrologを用いて実装
入力文はALT-JAWSにより形態素解析
一文ずつを本パターンに照合
・結合価パターンは【日本語語彙大系95】より引用
・形容詞・副詞及びその相当語句は
【飛田,浅田91】、 【飛田,浅田94】より引用
実験
1.発話行為の認識実験
1. 対話事例528文を形態素解析
2. 形態素解析失敗文は動作確認の対象外
3. 対話文文型パターンと照合,発話行為を認識
正解数 誤り数 前処理失敗数
対話文文型
パターン
465
9
54
• 正解率98.1%(前処理失敗を除く474文中465文)
• 前処理失敗文(54文)
2.心的状態抽出の動作確認
1. 対話文が文型パターンに適合
2. 変数に値がバインド
3. 心的状態の具体値を計算
《例》
キリギリス:「今日のパーティは楽しかったかい?」
蝶:「とっても楽しいわ」
「蝶」の発話→「評価の伝達」に適合→心的状態の抽出
evaluation::[嗜好性,+3,今日のパーティ]
寓話における勧誘の対話3対話36文について
クローズドテストを実施、期待通りの出力を確認
考察(1)
• ヒューリスティクス
認識実験における照合誤り文は
9文中6文が同じ単語の繰り返し
(例:何日も何日も、何時間も何時間も前だよ)
↓
繰り返しを吸収する
照合アルゴリズムの追加
考察(2)
• 発話行為の多義性の解消
《例》『VP1わよ』
1.「私、あなたの熊ちゃん買うわよ」 (プランの伝達)
2.「サンディって、私の組にいるわよ」 (記憶の伝達)
命題表現の用言意味属性により区別可能
1は『所有的移動』、2は『存在』という意味属性が対応
考察(3)
• オープンテスト
寓話に見られた勧誘の6対話94文について
発話行為の認識実験を実施
↓
認識率9%
↓
作成パターン数の不足
まとめ
• 寓話における勧誘の対話事例を対象に
発話行為を認識するための対話文文型
パターンを増量
• 心的状態の抽出
→ 3対話36文について確認
• 情緒推定のための対話文解析が可能
今後の課題
• 文型パターンの更なる追加・効率化
• 同一の物語でのデータ収集
発話行為
本研究では勧誘というタスク指向対話が題材
発話行為を定義【飯田,有田90】
行為の種類
質問
伝達
確認
肯定
否定
要求
受諾
拒否
その他
行為の内容(心的状態)
生理,欲求,情緒,
プラン,評価,予測,
記憶,認識
プラン,行動
始めの挨拶、お礼など
これらのラベルの組み合せで発話行為を形成