自律学習と動機づけ 教育心理学の観点から 2011/2/19 上淵 寿 (東京学芸大学) 教育心理学における自律学習 • 主に2つの流れ 1. 自己決定理論(self-determination theory; Deci & Ryan, 2004) 2. 自己制御学習(self-regulated learning; Schunk & Zimmerman, 2007) 1 自己決定理論 • 内発的動機づけ研究から発展した大理論。 – 複数の小理論を含む。 – 基本的に「自己決定性」の向上が人の学習、運 動、健康等に肯定的に影響するとみる。 – ゆえに、自己決定性を高めるための支援を必要 とする。 研究例(Niemiec et al., 2006) 親からの 支援 自己決定 性 幸福感 自己決定性の発達 • 誰でもすべてのことを自己決定しているのではない。 他律から自律へ。 • 非動機づけ・・・「やらない」 • 外的・・・「やらされている」 • 取り入れ・・・「~をしなければならない」 • 同一視「~でありたい」 • 統合「~をしたい」(価値観から) • 内発「~をしたい」(興味から) 行動 自己決定的 非自己決定的 動機づけ 非動機づけ 外発的動機づけ 自己 制御段階 制御なし (スタイル) 外的 制御 義務(当為) 自己 理想自己 取り入 的制御 同一視 的制御 統合的 制御 内発的動機づけ 内発的 制御 認知され 非自己的 外的 外的より 内的より 内的 た因果律 の所在 図 自己決定性と動機づけの段階 (Ryan & Deci, 2000) 内的 2 自己制御学習 • 受身的な学習(行動主義的学習観) – 外部からの刺激への反応 – 指示待ち • 積極的な学習(認知的学習観) – 能動的に刺激を探索 – 自発的な学習 • 認知的学習観からみた学習を、 「自己制御学習」(self-regulated learning)とい う。 自己制御研究の考え方 • 自己制御研究は、多様だが、大別すると2つ の系譜 1. 自己強化(self-reinforcement) 2. メタ認知(metacognition) • ここではメタ認知を説明。 メタ認知 – 自らの認知プロセスを監視、修正する活動(メタ認知的活動) – 認知プロセスを効率化し、新しい知識獲得が柔軟に。 – 自らの知識にアクセスした結果としての、 知識についての知識(メタ認知的知識)も、活動には重要。 自己制御学習を捉える観点 • 3~4つの観点で考えるのが一般的 • 動機づけ – 自律性、学習目標 • 認知 – メタ認知活動による認知プロセスのモニタリング、プラン ニング、修正等 • 行動 – 時間管理 • 文脈 – 学習環境の選択、構築、援助要請等 動機づけ研究からみた 自己制御学習研究 • 従来の達成動機づけ、内発的動機づけ研究 – 行動の量(学習時間、成績)を強調 – 認知変数(期待、価値等)は重視。認知過程はみない • 自己制御学習と関わる動機づけ研究 – 行動の質(学習方略等)の強調 – 認知プロセス(学習観の影響、モニタリング、方略の選択 等)を強調 自己制御学習方略 • いわゆるメタ認知的方略とほぼ同じ – セルフ・モニタリング – ソース・モニタリング – プランニング – ノート・テイキング – 時間管理 – 援助要請 など。 自己制御学習を育てるには • 自分でもできるという感覚、楽しい、うれしいという気持ち • 自分に学習の決定権があることを自覚させる • 学習のよいやり方を身につけさせる • そのやり方を自分で考えて使っているかを反省したり、見 直す。 「自律学習」の問題点 1 • 独立した自分で「文脈に依存しない」ハイパーな 人間を作り出すこと ・・・ 近代的主体性の確立 の思想と何ら変わらない。 • 実際には、自己自体は社会文化的、歴史的文 脈抜きには語れない(古屋, 2008)。 自律学習の問題点 2 • 自律学習のみからでは、コミュニティの問題 は語れない(青山, 2008)。 • 学校学習は、教室の制度、認知、社会環境 への状況判断も包摂した教室における適応 的な行為(藤江, 2008) • 自律的と思われる学習や行動は、他者や環 境との関係が変化した状態と言い換えられ る。 自律学習の問題点 3 Deci & Ryanらの自律性獲得モデル の読み替え • 他律 → 自律へ (それを支えるものとして の関係性の重視) • 実は、ここで終わりではない! • 「自律した」学習者(人)が、自律とみられる自 己の状態によって、新たな他者との関係を作 り出しているか、がより重要! 16
© Copyright 2024 ExpyDoc