表1 輻輳の程度の要因

風評被害の心理
災害の経済被害とジャーナリズム
関谷直也
東洋大学社会学部 講師
[email protected]
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
柏崎刈羽原子力発電所トラブル
• 2007年7月16日新潟県
中越沖地震
– M6.8、最大震度6強
– 死者11人、全壊家屋
約1000棟の被害
• 東京電力柏崎刈羽原子
力発電所トラブル
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
柏崎刈羽原子力発電所トラブル
• 「3号機変圧器における火災」と風評被害
• 原子力安全委員会 「今回の地震で発生した3号機の所内変
圧器火災においては、自衛消防組織が十分に機能しなかった
こと、消火に必要な設備が使えなかったこと、消防署への通
報に時間を要したこと等の要因により、消火に時間を要し、
国民に大きな不安を与えることとなった」
原子力安全委員会「新潟県中越沖地震による影響に関する原子力安全委員会の見解と今後の対応」(安委
決第17号)
• 篠田昭新潟市長「柏崎原発の火災と避難所の様子が海外でも
繰り返し流されたため」風評被害がひろまった。
篠田昭新潟市長「市民の皆さまへ ホームページ版ひこうき雲―吹き飛ばそう,地震の風評被害―」
2007年8月9日
他にも
– 民主党,民主党ニュース,2007年8月6日
– 読売新聞,「中越沖地震被災地の風評被害、首相が対策強化を約束」,2007年8
月17日
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
柏崎刈羽原子力発電所トラブル
(件)
0
中越沖 火災
100
200
300
400
500
中越沖 放射能漏れ 中越沖 原発 活断層 中越沖 原発 報告 遅れ
中越沖 原発トラブル 中越沖 原発 想定外 揺れ
•
•
•
日経記事検索システム。全国四紙(朝日、読売、毎日、産経)記事件数合計値。
報道では「原発」2文字で論じられることが多いのでこれをキーワードとした。
なお本地震における火災は3件であり、「火災」についての報道はほぼすべて
が3号機変圧器の火災についてのものである。
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
柏崎刈羽原子力発電所トラブルと
人々の意識 / 住民と報道のズレ
• 住民が問題視していること(と新聞報道)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
443
32.4
火災
450
43.6
火災の消火に手間取ったこと
38.2
火災を含め、様々なトラブルが想定外だったこと
177
56.4
海水への放射能漏れ
63.4
原子力発電所の下に活断層があること
108
66
62.2
東京電力の報告・情報伝達が遅すぎること
68
63.0
トラブルが多すぎること
52
54.2
原発の近くで「想定を超える地震」が発生したこと
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
90.0
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
柏崎刈羽原子力発電所トラブルと
情報伝達の課題
• 柏崎刈羽原子力発電所への地震への影響について
0.0
10.0
20.0
30.0
安全上重大なことなので、
このくらい取り上げるのは当然だ
50.0
45.0
安全上重大なことなので、
もっと大きく取り上げるべきだ
29.6
安全上重大なことではあるが
風評被害を考えると報道を控えるべきだ
安全上それほど重大なことでもないのに、
マスコミは騒ぎすぎだ
40.0
18.6
4.2
• 住民にとっては、この報道量増大については止むを得ないと
考えている人が多いのである。(「風評被害」は、、)
• 報道と人々の意識のずれ。
• 原子力のトラブルに関して、住民は情報を求めている。
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
問題意識
人為災害としての環境問題
• 原子力・環境問題の歴史
• テレビ朝日 所沢ダイオキシン報道
• 東海村JCО臨界事故
苦悩する人々
• 行政の災害対策の限界
• 二重の経済被害
• 金銭的な労苦
「命が救われればよい」か?
1
東洋大学・関谷直也
1
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害とジャーナリズム
センセーショナリズムと経済被害
センセーショナリズム
– 自然災害を社会における極めて重大な出来事として、
問題、被害の強烈さを強調し、大々的に報道を行う。
• 災害報道のプラス面(災害ジャーナリズム)
– 政治的インパクト e.x.原子力対策特別措置法、被災者生活再建支援
– 社会一般に災害への注意を呼びかけ
– 被災地域への支援の呼び水
• 災害報道のマイナス面(センセーショナリズム)
– 経済的インパクト e.x.風評被害、過集中
– 安全な地域、安全であることに興味はない。インパクトを弱め
る。
– 復旧・復興面は報道量が少ない。他の事件・事故がおきてい
2
東洋大学・関谷直也
1
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害とジャーナリズム
センセーショナリズムと経済被害
• 災害被害のステレオタイピング
– タイプキャスティング
• 被災者の悲惨さを強調する映像収集
大きな被害のある場所(鳥居、寺)、困っている老人、壊れた家、
避難所、救援、ヘリコプター、消防車・救急車、専門家
– 地域の固定化による過集中(Convergence)効果
• 義捐金や物資の偏在
• 医療搬送/救援物資/医療物資の移動困難
– 社会的論点形成機能
• 耐震偽装と耐震化
• ワンフレーズ・ジャーナリズム―「エコノミークラス症候群」
• 企業の経済被害、長期復興
• 高齢者の長期避難生活対策・「疲労死」、避難所のプライバシー
– 風評被害
3
東洋大学・関谷直也
1
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害とジャーナリズム
センセーショナリズムと経済被害
●
広報ー広告らしくない広告
• 報道の「広告効果」→「プラス」の広告 (何かのマーケティング広報)
• 事件や事故の報道→「マイナス」の広告 (何かを売れない商品にす
る)
広告ー「質」より「量」
• マスコミ報道を受け取る私たちの心理
– 「誤報道」ではなく「誤認知」 。長期間の大量の報道、イメージの増幅
– 報道に起因とした地域に対する悪いイメージ(悪評)
• 「メディア情報効果」
– 報道量が多いと「問題だ」「大変だ」。
• 「認知的けち」
– 安全に限らず、情報を細かくは理解していない。 ex.広告、ドラマ
– 科学を、事実を正確に認識していない。
ex.マイナスイオン 血液型占
4
い
東洋大学・関谷直也
1
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害とジャーナリズム
センセーショナリズムと経済被害
風評被害が阻害するもの
• 災害対策、環境対策の抑止力
– ハザードマップ(氾濫危険地図) 1960年代~
– 火山対策の消極化:雲仙普賢岳火砕流前の避難指示地域の
縮小
– 環境汚染の情報公開の抑止:所沢ダイオキシン、マグロ水銀
値
※ 自治体の風評被害への懸念は防災対策の阻害要因となる
• 災害報道、環境報道の抑止力
– テレビ朝日所沢ダイオキシン報道後の環境汚染報道の停滞
※ 風評被害は避けられないものとして、この対応策を防災対策
一環として考えておかなければならない。
5
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
2 風評被害の定義と実態
●
• 正確な風評被害の認識がなければ解決策は生まれな
い
• 風評被害とは、
①安全が関わる社会問題(事件・事故・環境汚染・災害)
が大々的に報道されることによって、
– 原因:うわさではない。実際に起こった、大変な問題の報道が原因
②本来『安全』とされる食品・商品・土地を
– 立場:誰かが「安全」との判断
③人々が危険視し、
– プロセス:観光業者・市場関係者の心理、人々の心理
④消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害
– 食品関係(農業・漁業・特産土産物・食品加工業の被害
– 「人の移動」に関する業種(旅行・観光産業)の被害
6
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
食品問題・環境問題ー食品業の経済的被害
• テレビ朝日「ニュースステーション」所沢ダイオキシン報道
2000年度版『Imidas』にはじめて掲載された
– 事実ではないのに、うわさによってそれが事実のように世
間にうけとられ、被害をこうむること。テレビ朝日
『ニュースステーション』が放送した所沢市の野菜に関す
る不正確なダイオキシン報道によって、埼玉県産の野菜が
全国的な不買運動に発展するなどしたことから、地元農家
がこれを風評被害としてテレビ朝日に訂正放送を要求した。
テレビ朝日側はこの報道による所沢産野菜の価格暴落を風
評被害にあたらないとしている。」
テレビ朝日の報道 青山氏の解説
– 「風評被害というのですけれども、風評被害というのは、
実際それほど(濃度が)高くない値にもかかわらず、マス
コミとか一部の専門家が騒ぐと住民が騒ぐ。それをもって
風評被害というわけです。しかし今回私達が数は限られて
いますけれども調査した結果を見ますと明かに高い。(中
7
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
食品問題・環境問題ー食品業の経済的被害
●
• ナホトカ号重油流出事故
– 1997年ナホトカ号重油流出事故において、事故直後に三
国町観光協会によって報道関係者に配られた「原油流出
事故に伴う報道、表現について(お願い)」という広報
文。
– 「このたびの事故に関する取材、報道、大変ご苦労さま
です。……私共としてさらに心配しているのは『風評被
害』です。『皆様方の報道あるいはその表現によりまし
ては、決定的な被害につながらないか』ということです。
…………何とぞ過大な表現等での報道
はくれぐれもご遠慮くださいますよう、
よろしくお願い申し上げます。」
8
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
うわさと風評被害
●
• JCO臨界事故
• うわさが流れる心理的背景: 「危険」とは思わないが不安
– 検診を受けても不安は消えない、はっきり安全であると認識できない
ことによる不安
– 放射能、主観的に分からない
– 漠然とした健康への・差別・遺伝的影響に対する「不安」
事件・事故
– 子供への影響など目に見えない不安
– 汚染された「危険」な土地とは思わない。
• コミュニケーションの活発化(流言・うわさ)
– 「旅行時の嫌がらせ(宿泊拒否、白眼視)」流言
– 「婚約破棄」うわさ話
※ 自分が被害者に含まれる。
不安!
関心強い!
コミュニケーション活発
9
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
うわさと風評被害
風評被害はうわさによる被害ではない
• うわさは関心の強い、不安を感じる人の間で流れ
る
• 風評被害は関心の低い人、危険視する人によって
引き起こされる
• 地元ではうわさが流れている・テレビでの街の声
事件・事故
から、うわさのせいだと思ってしまう。
地元でない人
関係者でない人
不安なし
「大変そう」「危ないかもよ」
関心弱い
コミュニケーション不活発
「そういや事故あったな」
不安!
関心強い!
コミュニケーション活発
地元・関係者 10
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
安全と判断されるパターン①地理的安全
●
• 「食品・商品・土地の安全」がそもそも問題
とされていない場合
• 報道の対象ともなっていない、汚染が全く考えられ
てない「近隣の土地」「関連する食品・商品」まで
汎化して忌避される
- Ripple effect(Kasperson et al,1992)
- 恐怖の同心円構造(藤竹,2000)
例:ナホトカ号事故後の日本海産魚介類の被害
JCO臨界事故の日本全体の観光客減少
有珠山噴火による北海道観光全体の観光客減少
11
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
原子力関連事故ー食品の経済的被害
1954年 第五福龍丸被爆事件
→マグロ(検査済)
1978年 原子力船「むつ」
→ホタテ他(海
上)
1981年 敦賀原発放射性物質漏出事故→魚介類・金沢産の魚介
類
1997年 東海村動燃火災
→ほしいも
1999年 東海村JCO臨界事故
→ほしいも、納豆、あ
んこう
2006年 新潟県中越沖地震
※
いずれも安全なもの
JCO臨界事故の海外メディア・外国人 日本全体の観光客
減少
→現場の転換試験棟の屋根が壊れたと海外メディアが報じ
た。
12
→米の歌手ポニー水戸公演を中止・静岡は日程変更
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
安全と判断されるパターン②科学的安全
• 食品・土地・商品が「科学的に危険性がほぼない
(低い)」とされている場合
①「ある立場の人(たとえば政府・自治体・関連企
業・科学者)」によって、ある食品・商品・土地に
関して人体に影響がないとされる
②安全性認知に関する不確定要素が残っている場合
– 安全宣言が信用されない、
– 情報が少ない、
– 安全性が理解されない、 など
例:JCO臨界事故後の付近の農海産物
むつ事故後、敦賀原発事故後の付近の海産物
13
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
食品問題・環境問題ー食品業の経済的被害
1960年代~ 水俣市(水銀)
→観光、農作物△
1974年 水銀パニック(10地域)
→マグロほか全国の
魚介類△
1995年 O157堺市食中毒事件 →かいわれ大根、イクラ
1997年 ナホトカ号重油流出事故
→かに、魚介類
1997年 能勢ダイオキシン問題 →栗、ほか
1999年 所沢ダイオキシン報道
→ほうれんそう、所
沢産野菜
1999年 狂牛病(BSE・プリオン)
→牛、焼肉屋
▲2000年 雪印食品 食中毒事件→牛乳(黄色ブドウ球菌)
△2002年 厚生省水銀汚染値発表→キンメダイ、メカジキ
△2003年 鳥インフルエンザ
→鳥肉、卵
△2004年 厚生省水銀汚染値発表→マグロ
14
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
自然災害とテロー観光業の経済的被害
1991年 雲仙普賢岳噴火
1998年 岩手山噴火群発地震
2000年 有珠山噴火
2000年 三宅島噴火
2002年 鳥取県西部地震
2004年 新潟県中越地震
2007年 能登半島沖地震
2001年 9.11テロ以降
2002年 バリ島のテロ以降
→島原温泉の観光客減少
→△ 観光客減少
→北海道全体の観光客減
→伊豆七島の観光客減少
→観光客減少
→観光客減少・スキー客?
→観光客減少
→海外、沖縄観光が激減
→観光客が激減
– 復興面が報道されないことにより、長期間続く
– 火山、海岸部は温泉地や観光地であることが多い。
15
東洋大学・関谷直也
2
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の定義と実態
安全と判断されるパターン③自粛・遠慮
• 危険性の有無というより、その観光地が被災地であ
ることを考え、「自粛」「遠慮」で観光地を訪れな
いことが「風評被害」とされる場合。
– 観光被害 : その観光地が本来「安全」とされており、そ
の観光地を避ける人も「安全」であることを了解してい
る。
– 「自粛」「遠慮」という文化 : 復興しきれてない地域に
観光に行くことをためらう
• 2004年
スマトラ沖地震
– 直後は風評被害とはいえない
:当然観光資源としての価値は下がる。
– 日本人だけ、観光客の戻りが遅い。
16
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
ビキニ第五福龍丸被爆事件 国会における「風評」被害
• 第五福龍丸ビキニ水爆被爆事件
– 1954年3月1日米国がマーシャル諸島で水爆実験
– 立入禁止区域内のビキニ海域で操業していたマグロ漁
船・第五福竜丸に放射性降下物が降りかかり乗組員が被
爆症状
• 第五福龍丸ビキニ水爆被曝後の放射能パニック
– 日本各地で放射性降下物が確認された。
– これらが大々的に報道され、マグロを始めとする魚介類
全般が売れなくなるという「放射能パニック」が発生し
た。
• 1956年3月外務・農林水産委員会連合審査会質疑
– 「間接損害」という風評被害を
国家予算として初めて認めた。
17
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
1982年原子力船「むつ」回航
• 1974年8月原子力船「むつ」放射線放出事故
– 青森県大湊港を出航した直後、尻屋崎沖で放射線放出事
故。
– ホタテで約100億の被害
– 人体に影響のある放射線・放射能の放出はなかったとさ
れる
• 1981年「むつ」回航に際した民事協定、申し入れ
– 青森県知事 科学技術庁長官への申し入れ 「漁価安定基
金」
– 「『むつ』の大湊港受け入れに際し、漁業者の間に不安
があるので、風評による魚価低落に備えた魚価安定対策
の充実及び漁業振興対策に格別の配慮を賜りたい。」
18
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
1982年原子力船「むつ」回航
• 原子力賠償補償法と風評被害
– 原賠法第二条二項「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料
物質等の放射線の作用若しくは核燃料物質によって汚染された物の毒
性的作用」
– 「むつ」事故後、放射線によらない食品・商品の損害が原賠法では補
償されない→漁業者、関係者にとって大問題。
– 放射性物質による汚染がない食品・商品が受ける経済的被害=「風
評」による被害。
• 原子力船事業団理事・堀純郎、1983年自民党「原子力船を考える会」発
言。
– 「ちょうど原子力船『むつ』の出力試験をやろうとして、反対を受け
て地元折衝をしているころの話ですが、最後に残った問題が原子力船
のために、事実無根の風説によって、魚価がさがったらどうしてくれ
るかということでした。
– これに対して原子力で損害をあたえれば、原子力損害賠償法がござい
まして、これによって救済できますが、事実無根の風説で魚価が下
がったとき、救済する方法はございませんので、
– 10億円くらいの金を見せ金すれば話がつきそうになったのでござい
19
ます。」(倉沢 1988)
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
風評被害の民事協定
• 民事協定・1986年2月北海道電力泊原子力発電所安全協定
「泊発電所周辺の安全確保及び環境保全に関する協定書」
(風評被害に係る措置)
第16条 丙(北海道電力)は、発電所の保守運営に起因す
る風評によって、生産者、加工業者、卸売業者、小売業者、
旅館業者等に対し、農林水産物の価格低下その他の経済的損
失(以下「風評被害」という。)を与えたときは、補償など
最善の措置を講ずるものとする。
• 「事実上の損害」と「風評による損害」は区別されている
• 第15条「発電所の保守運営に起因して地域住民の健康、農林
水産物その他の財産等に被害を与えたとき」と損害の賠償は
別。
20
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
1981年敦賀原発事故・事故隠し
• 敦賀原発事故・事故隠しと補償
– 1981年敦賀原発事故における微量の放射性物質漏出事故
における市場価格下落や買控えによる漁業者の経済的被
害
– 日本原子力発電㈱は、敦賀市の漁業者、水産業者に民事
補償として、1億9000万円余の賠償金を支払っている。
– だが、金沢産の魚の被害は認められなかった
(事故との相当因果関係は一定限度までしか認めない)。
• 敦賀原発事故・事故隠しと風評被害
– ①原賠法によって補償されない被害、②消費者心理によ
る被害として関係者の認識を高めた。
– (判例タイムス等)敦賀原発事故訴訟が「風評損害」と 21
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
風評被害の民事協定
• 1981年頃に青森・北海道の原子力絡みで「風評被害」が問
題に
– 1978年「女川原子力発電所周辺の安全確保に関する協定書」
– 1981年泊4漁協「補償契約書」案、1982年泊3農協、4漁協との「覚
書」
– 1986年「泊発電所周辺の安全確保及び環境保全に関する協定書」
– 1991年青森県六ヶ所村核廃棄物処理施設「風評による被害対策に関
する確認書」「原子燃料サイクル施設立地の協力に関する基本協定
書」
※民事賠償、民事訴訟による解決をさけるための明文化
①「風評被害」「風評」という語句の使用
②健康に危害、原子力損害との区別(実被害はない)
③認定委員会(誰かが決めなければならない)
22
東洋大学・関谷直也
3
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害と原子力
風評被害のもともとの意味
• 原子力に関する農業・漁業・観光の経済的被害
①1950年代ビキニ被災後の水爆パニック
②1981年敦賀原発事故
③1982年青森でのむつ回航に関わる問題、
④1978年女川原発、1980年前後泊原発立地、を前提に議論
• 放射能汚染がないのに、悪評で商品が売れなくなる
被害
– 原子力は(放射線の身体への影響ではなく)、環境中の
放射能汚染測定に関しては、「科学的」正確に測ること
ができることから「安全である」「身体に影響のある汚
染はない」といえる。
23
東洋大学・関谷直也
4
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の発生プロセスー立場
政治家・行政、事業関係者にとっての「風評被害」
• 「風評被害が怖い」
– 狂牛病 農水省の役人「風評被害が怖い」
– ダイオキシン報道 自民議員「風評被害が問題だ」
↓
• 「安全(人的被害・汚染はない)」主張の裏返し。
– 経済的被害の責任は自分達にはない
– 風評被害(人々の不安、土地・食品への忌避)をスケー
プゴート
• これら心理・消費行動は確認していない。
24
東洋大学・関谷直也
4
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の発生プロセスー立場
市場関係者が引き起こす初期の「風評被害」
• 「人々の消費行動を想定」してまず市場関係者が反応
「人々が安全か危険かの判断がつかない状態では、
うれなくなるだろう。値を下げよう、取り引きは遠慮しよ
う」
– 東海村臨界事故
翌日に東京で干し芋などが取引拒否、安全宣言後も取引拒
否
– 所沢ダイオキシン報道
2日後より拒否 (10分、視聴率14%、関係者間の情報伝
達)
※他の人は後づけ認知
– 狂牛病報道
直後のNHKスペシャルに対する畜産関係者の反応
25
東洋大学・関谷直也
4
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の発生プロセスー立場
評論家・科学者・識者にとっての風評被害
• 安全性が不明確
– 汚染状況が不明確、情報が信用できない
– 専門家は、自分の立場は別として、様々な立場の人の「汚染があっ
た」「なかった」という議論があることは事実として認知
• 「人々は安全側にたち、風評被害が生じる」と人々の心理を
代弁。
– 「人は本当に『安全でない』」から買わないのではなく『安全でなさ
そう』だから買わないのだ」(三輪,2000)
– 「消費者の立場では農産物の汚染情報が不明確な場合、安全側に立つ
のは道理です」(小泉,2000)
• この時点で『想像上の人々の心理・行動』に過ぎない。
→ 報道され、事実化する。
26
東洋大学・関谷直也
4
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の発生プロセスー立場
市場関係者が引き起こす初期の「風評被害」
[1]「人々は安全か危険かの判断つかない」「人々が不安に思
い商品を買わないだろう」と市場関係者・流通業者が想定し
た時点で、取引拒否・価格下落という経済的被害が成立する。
[2]「経済的被害」「人々は安全か危険かの判断つかない」
「人々の悪評」を政治家・事業関係者、科学者・評論家、市
場関係者が考える時点で「風評被害」が成立する。この時点
でいわば「『人々の心理・消費行動』を想像することによる
被害」である。
[3]①経済的被害、②事業関係者・科学者・評論家・市場関係
者の認識、③街頭インタビューの「人々の悪評」などが報道
され、社会的に認知された「風評被害」となる。
[4]報道量増大に伴い、多くの人々が「危険視」による「忌
避」する消費行動をとる。事業関係者・市場関係者・流通業
者の「想像上の『人々の心理・消費行動』」が実態に近づき、
27
「風評被害」が実体化。
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
5 風評被害の法政策
(1)事業者の事故、環境汚染などの不法行為が問題とされる場合
―相当因果関係の成立可否
• a) 1973年 富山湾水銀汚染損害賠償請求事件と8. 8億円民事補
償
• b) 1981年 敦賀原発損害賠償請求事件と1.9億円民事補償
• c) 1999年JCO臨界事故における住友金属鉱山の民事補償
(約160億円 非開示 10億円・原子力損害賠償制度)
(2)情報発信源の名誉毀損が不法行為として問題とされる場合
―事実の真否と真実であることの証明
• a)テレビ朝日ニュースステーション所沢ダイオキシン訴訟・和解
• b)O-157食中毒事件東京訴訟・大阪訴訟
(3)情報発信源の不法行為として「風説の流布」が問題となる場合
• 「虚偽の風説の流布」(刑法第233条信用毀損及び業務妨害罪)
– 1973年豊川信用金庫取付騒ぎ、2003年佐賀銀行取付騒ぎ
• 「風説の流布」(証券取引法158条)
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東洋大学・関谷直也
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風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
風評被害の法政策
(1)民事協定、条例、地域防災計画
・地域防災計画の「原子力災害編」 (「復旧・復興」 )
・基金制度―直島(県30億円 ※年間漁獲高50億円)と六ヶ所村
(100億円 むつ小川原地域・産業振興財団)。原資があることで、
速やかな補償を促す
(2)保険制度
a)加害者側の任意保険制度(損賠賠償補償)
・企業総合賠償(CGL:Commercial General Liability)保険
b)加害者側の強制保険制度
・国際油濁補償基金、原子力損害賠償制度
(3)行政の事後対処型の風評被害対策
a)公的補償策―第五福竜丸被爆後の200万ドル風評分を含めた漁業補
償
b)緊急融資制度―セーフティネット保証制度など
・各自治体の特別融資および利子助成(ないしは利子補給)
・厚労省・国民生活金融公庫「衛生環境激変対策特別貸付」(SARS、
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狂牛病)
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
結 風評被害を防ぐ方策はあるか?
防ぐのは無理
– 情報社会を前提にした事件・事故・災害・環境被害の一
形態
– 報道を止めるというのは現実的ではない。
– ジャーナリズムの停滞を招く(ダイオキシン報道)
– 情報公開、環境対策、安全対策、災害対策に逆行
リスク・コミュニケーション、人の心理の問題?
– 人々が「リスク」について正しい認識をすれば風評被害
は解決(当たり前)。解決策か?
「風評被害」という語をやたらに使わない
– 「風評被害」 は、実際は「事故」「汚染」のあるときの
みにしか生じていない。
(所沢ダイオキシン報道は、
「汚染」の報道は真実であり、「風評被害」ではないと30
東洋大学・関谷直也
風評被害の心理
東北大学・防災セミナー
結 風評被害を防ぐ方策はあるか?
部分的対応策-流通業者
• 流通業者の過剰反応を抑えるための教育・啓蒙活動
現実的対応策:セーフティネットの確立→報道促進の
ため
• 「事前」の制度化、「事前」の研究
• 被害に関する公平な認定
– 相当因果関係立証責任の回避、被害額、被害範囲立証
• 加害者側の強制保険・被災者の共済(業種ごと)の制度確立
– 直販、みやげ物食品関係(農業・漁業・特産土産物・食
品加工業の被害旅行・観光業者
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