バランス・スコアカードと業績測定:多元的測定 は じ め に EVA (economic value added) 株主価値を意識, マネジメントへの適切な動機付け RI (residual income) 基幹測定システムの 選択が業績測定には重要 ABC (activity based costing) 財務偏重,Top-down偏重 BSC (balanced scorecard) 1.バランス・スコアカードと経済的利益 業績を改善するキーファクターをブレークダウン 会計数値以外の具体的指標 (苦情処理時間・新製品の投入サイクルなど) 3M : 新製品比率が最重要指標(30%が至上命題) 複数の非財務指標を利用して業績測定を行う理由 ① 財務指標のみでは行動指標とならないこと ② 財務指標では,ローカルな情報を表現できない ③ 財務指標では,組織のコア競争力がどの程度あり, どのように強化されているのかは明らかに出来ない ④ 最も重要な顧客からのフィードバックを適切に経営上 考慮する指標としては,財務情報では不可能である 非財務指標の重要性を考えると,5つの要素が考慮されるべきである ① 会計指標による統合機能(EVAは統合機能として優れている) ブランドの拡大は⇔企業価値:Coca Cola の例では,ROEが低下しても企業価値は、上昇 ② 競争優位性の確立方法 (コア・コンピタンス) 自社のコア・コンピタンスが維持・強化されているかの点検として組織的学習と革新性の測定が 必要である ③ 顧客満足の測定 (EVA高めるためにも必要である) 顧客との関係が良好に維持・強化されているのかを測定する評価指標が必要 ④内部の効率化の測定 (例,継続的なサイクルタイムの消滅) Innovation process,Operation process,Customer relationship process が継続的に改 善されているのかの検証・強化が必要 ⑤環境経営の測定 (例,環境報告書、3Rへの取り組み) 業績測定指標と経営活動における変化 業績測定指標 経営活動 伝統的な財務的指標(EVAも) 製造・販売による付加価値 ①経営者の関心が利益目標 ②経営を判断するうえで,分かりやすさ 従業員の技術や知識の創造なり 既存知識の違った結合が必要 他社と違う知識や技術に よる差別化した製品生成 現代経営における業績指標 が必要になる (BSC) 社会・自然環境からの制約 の増大 経営 活動 に影 響を 与え る 利害 関係 者の 拡大 現在の企業が、競争力を維持するには 2.業績測定指標の重要性 従業員、ステイクホルダーを引き付ける魅力あるヴィジョン、ミッショ ンを設定することが必要である。 製造規模・販売力 アイデアを持ちよること シナジー 事業戦略とマネジ メントの一体化 業績指標は、この動きを加速するためのものであり, マネジメントする上で必須のものである 業績測定のための指標の意義 ①測定されないものはマネジメントできない ②競争優位の獲得・維持の方法が変化 ③資本市場の圧力の高まりと経営目標の重要性の変化 ④競争スピードの極的な変化への対応力が必要(IT革命) ⑤指令・命令によるマネジメントからコミュニケーション・ マネジメントへとマネジメントの原則が変化 ⑥結果のマネジメントよりプロセスのマネジメントを必要 ⑦知識・無形資産のコア競争力が重要 (持続的競争優位,ノウハウ) 3.業績測定指標の3つの特徴 1.伝統的財務指標 ①古典的会計システムに基礎 ②財務尺度中心 ③上位マネジャーへの情報提供 ④遅いフィードバック ⑤改善効果を無視 ⑥事後情報中心 ⑦内容が固定的で現場の状況を無視 2.非財務指標(現場の改善活動;TQC・TQM・6σ) ①企業戦略に基礎 ③すべての従業員に情報提供 ⑤改善効果を折り込む ②非財務尺度(品質・デリバリー) ④正確・単純・素早く伝達 ⑥固定的でないフォーマット 3.バランスと・スコアカード 方針管理のような機能別管理による非財務的指標のシステムとして活用 されたものを統合する枠組みとして構想されたのがBSCの最大の意義 バランス・スコアカード 企業の戦略や方針を目標や指標に展開するには,4つの視点が必要 ①財務的視点 ②顧客視点 ‐顧客への価値提案(購買コストを上回る価値の実現を提起)を重視‐ 製品・サービスの属性,顧客との関係付け,イメージ・評判を測定 ③内部事業プロセスの視点 -組織に顧客への価値提案を伝える側面,株主期待を満足すること -革新プロセス,オペレーションプロセス,販売後サービスプロセス ④学習と成長の視点 ‐組織の中核能力(core capabilities)を継続的に改善することと関連 ‐個人的な能力の向上を促す仕組みとともに的確な成果の測定が必要 ‐GE, HP社:そのための仕組みを作っている Innovationとoperationにかかわるノウハウの保存と共有を促すシステムつくりが,知識マ ネジメントのために必要とされている 環境経営の視点は、②に入れるか、すべてに関連するので、分ける必要がない 議論が分かれている。 4.伝統的測定とバランス・スコアカードの違い 伝統的な測定 現行の事業プロセスの監視と維持のため バランス・スコアカード 3つの追加的課題 新たな戦略からみて,必要な属性を測定すること イノベーションのための必要プロセスを測定する考え方 全員が、戦略に関わり、企業の使命・役割を共有する姿勢・価値 観 図表6-1 4つの目標指標とビジョン・戦略との関係 財務指標 財務的に成功するために,どうわれわれは株主に目標を表明できるか 顧客指標 ビジョンと戦略 われわれのビジョンを 満たすために, どう 顧客に対応するか 内部事業プロセス指標 株主・顧客を満足するために われわれはどう事業プロセスを 洗練させるべきか 学習・成長の指標 われわれのビジョンを達成するために 変化と改善に必要な能力をどのように維持するか Kaplan and Atkinson(1988) 4つのうちで,顧客指標を分解すると→階層的な関係 図表6-2 顧客指標 ― ユニークな価値提案をコア・アウトカム指標にリンクする 顧客の獲得 顧客の保持 顧客満足 製品サービス属性 イメージ ユニーク 機能性 品質 価格 時間 ブランド・ ネス エクイティ 顧客関係性 便利性 信頼 応答力 Kaplan and Atkinson(1988) 5.内部価値連鎖ー内部事業プロセス指標 同じ指標では,プロセスの強化なり現状が測定不可能 測定指標を区分する必要がある 革新プロセス・オペレーションプロセス・販売後サービスプロセス キャプランは,3つのサイクルに区分された価値連鎖を利用し,必要な競争力を 測る属性を抽出して,ターゲットとなる先行指標と業績測定指標を展開している 図表6-3 事業プロセス・サイクル Postsales Innovation Cycle Operation Cycle Service Cycle 顧客 ニーズ の確認 市場を 製品 製品 製品 顧客 確定 サービス サービス サービス への する の創造 の具体化 の提供 サービス Kaplan and Atkinson(1988) キャプランの3つのサイクル… イノベーション・サイクル 研究・開発に関連する指標 イノベーション・サイクルでは,市場を確定するプロセスと製品・サービスを創造する プロセスの指標を戦略に合わせて設計する必要がある ボーイング社のB777機の例 戦略: 顧客を巻き込んだ開発システム(DBT)をもとにした戦略 指標: 顧客のエンジニアや生産責任者を加え 業績指標に技術指標だけではなく,コスト・時間・品質指標を設定 オペレーション・サイクル 製造・販売に関連する指標 最も一般的な業績測定指標(コスト・サイクルタイム・品質・弾力性・製品の諸特性) 販売後サービス・サイクル 品質保証・修繕・返品などの指標 最も一般的な業績測定指標(コスト・サイクルタイム・品質、弾力性・製品の諸特性) 6.スパイラル・アップの考え方 人的・システム的・手続き的な 能力の必要水準 (内部視点) 顧客期待を実現するための 具体的指標・目標 (顧客視点) ギャップを埋めるには 3つの資源への投資 が必要 現 実 必要な財務指標レベル(財務視点) 投資は購入ではなく組織的に耐えざる学習と成長が必要 内部視点 内部視点 顧客視点 財務視点 顧客視点 学習・成長 の視点 学習・成長 の視点 財務視点 図表6-4 スパイラル・アップの考え方 ボーイング社777の開発プロジェクトの例 これまでの発想からの飛躍がエンジニアに要求された ①3次元CADを利用した製品設計 ②CAE利用:最適な素材や形態をシミュレーションする技術の開発 新素材の採用とそれの熱特性・耐圧特性の研究を刺激 学習・成長のために,大学との産学提携による学習機会を設けたり 単位取得を促す仕組みと評価制度を導入した これまでのパラダイムから解放された革新が生まれることも可能になる 他の例 ①HP社 ②デュポン社のR&D活動の測定指標 ③GE社の研究・開発プロセスの指標 ④GE社の事業レベルの測定指標 7.4つの視点と業績測定指標 4種類の指標は,目標間のバランスを生み出す 4 つ 目標間の の バランスを 指 生み出す 標 ①短期と長期目標 ③アウトカムと業績作用因 ②外部と内部目標 ④硬い目標測定指標と 柔らかな目標測定指標 BSCは,トレードオフをする目標間のバランスをとることで,経営者に よるスタッフのコントロールではなく,スタッフの間でのコミュニケーション, 情報伝達,学習を活性化するためのシステムである BSCは,1つの戦略を実行するために,必要な手段であるとみるべき であり,因果関係とアウトカム測定指標とのドライバーを含む 戦略的指標と診断的指標の区別が必要 図表6-5 4つの指標の階層関係 財 務 EVA,ROE 顧 客 顧客ロイヤリティ 適時の配送 内部プロセス 学習と成長 プロセス品質 プロセス・サイクルタイム 従業員のスキル 8.成功した業績測定の特徴と課題 業績測定指標に関する事例から得られた特徴 ①業務目標,目的,重要成功要因が首尾一貫し,それを支えるものであること ②できる限り少ない尺度で情報を伝達できること ③顧客のニーズや期待が効果的に満たされているかを明らかにできること ④構成メンバーの決定が事業全体にどう影響するかをメンバーが理解する 手段であること ⑤組織学習と継続的改善を支持すること ⑥事業からみた業績尺度 バランス・スコアカードの課題 ①Topdownで現場の状況に合った業績指標が作れるか ②業績測定指標と業績評価・報酬の微妙な関係 ③企業文化が事業環境に不適合なのに業績指標はなかなか変えられない (HP社では,ハイテクとローテクとに企業分割した) ④財務目標のインセンティブが強すぎる(個人競争の場となる可能性) ⑤実施局面でそのシステムはしばしば主観的になる(上司の視点が入り込む) ⑥本当に重要な要素はしばしば計量化困難である (チーム精神の維持,職場環境の安全性など、環境経営と財務経営の両立) 多元的な指標を必要としているはずのハイテク企業や成長企業ほど, PMのための業績指標と戦略との間に微妙な関係がある バランス・スコアカードの実施の必要要件 ①知識を行動に転換するための媒介になるために存在する ②組織的成功に必要な要因に注意を向けるものである時, 個人の業績とリンクすべきでない ③プロセスや手段・目的関係に注目する指標は,学習を促進し 決定・行為をよりよく誘導するものであるべきである ④指標が事業モデルや文化と結びつくものである場合,測定指標は個々の 企業の特性・文化によって異なり,財務的な画一的なものとは離れるべき ⑤指標が経験や実験などからの学習にかかわる時,指標は柔軟で完璧なもの であってはならない ⑥測定指標の数は,事業モデルや企業文化を支えるものであるほど,少数で あるべきである ⑦測定は,他の組織活動の査定・監査を埋めるものであり,直感と同じであるかを 確認するものである
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