感染症(発熱患者)へのアプローチ

戦う研修医のための
カンファ
『熱い!』と戦う!
~「とりあえず抗菌薬」の思考パターンから抜け出そう~
発熱患者に出会った時の思考プロセス
Step1 詳細かつ必要十分な病歴と身体所見をとる
体系的かつ網羅的な鑑別診断を挙げる
Step2 感染症を疑えば、さらにこの段階で微生物学的な鑑別診
断を挙げる
微生物学的な確定診断をつけるための検査(培養、抗
Step3 原・抗体検査、PCRなど)を行う
Step4 初期治療(empirical therapy)を行う
Step5 検査結果を解釈し、培養結果と感受性を確認する
培養結果と感受性に基づき、抗菌薬を最適治療
Step6 (definitive therapy)に変更する(de-escalation)
感染部位と原因微生物により投与期間を決める
Step7 治療効果を判定する
(Step1:病歴&身体所見)
一般的な背景を聴取する
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幼児、高齢者、アルコール多飲者の髄膜炎→リステリア?
脳外科手術後の髄膜炎→ブドウ球菌?
インフルエンザ後の肺炎→肺炎球菌?ブドウ球菌?
COPDの肺炎→インフルエンザ桿菌?ブランハメラ?緑膿菌?
糖尿病、アルコール、肝疾患→肺炎桿菌?ブドウ球菌?
神経疾患、臥床、う歯の肺炎→嫌気性菌?
旅行、温泉、ジャグジー、土木作業の肺炎→レジオネラ?
若年男性の尿路感染→淋菌?クラミジア?
抗菌薬投与後の下痢→クロストリジウム・ディフィシル?
高齢者、医療従事者、マンガ喫茶、ホームレス→結核?
抗菌薬の投与、最近の入院歴→MRSA?緑膿菌?
(Step1:病歴&身体所見)
身体所見上注意すべきところ
結膜
点状出血(心内膜炎)の有無、黄疸(胆管炎)など
口腔粘膜 特に軟口蓋の出血性病変(心内膜炎)の有無
咽頭
咽頭痛・嚥下痛を訴えるときは深頸部感染症の可能性も考え、口
蓋垂の偏位や口蓋弓の左右差などを診る
頸部
咽頭の所見とともに血管沿いの圧痛があれば、敗血症性静脈炎
を示唆(深頸部感染症に合併)
呼吸音
もちろんcrackleの有無や呼吸音の低下の有無に注意(肺炎)
腹部
季肋部の叩打痛は同部近傍の被膜近くにある病変を示唆
皮膚
出血性の発疹(肺炎球菌や髄膜炎による全身性感染症を示唆)
圧痛・自発痛を伴う紅斑は蜂窩織炎を示唆
背部
脊柱の圧痛や叩打痛から、椎体椎間板炎を疑う
関節
化膿性関節炎など
会陰部
直腸診での前立腺圧痛の有無(前立腺炎)
陰嚢(精巣上体炎:前立腺炎に合併することあり)
(Step1:病歴&身体所見)
『発熱+皮疹』
化膿性髄膜炎(特に髄膜炎菌髄膜炎)
劇症型レンサ球菌感染症
Vibrio vulnifucus感染症
劇症型肺炎球菌感染症
壊死性筋膜炎
SSSS(Staphylococcal Scalded Skin Syndrome;ブドウ球
菌熱傷様皮膚症候群)
TEN(Toxic Epidermal Necrolysis;中毒性表皮壊死剥離症)
Stevens-Johnson症候群
TSS(Toxic Shock Syndrome;中毒性ショック症候群)
(Step2:鑑別診断を挙げる)
院内感染症のfocusを知る
【医療関連感染】
尿路
術創
呼吸器
血流
その他
34%
17%
13%
14%
21%
Emergency infection diseases Vol.4 No3. P416; July-September, 1998. より
• 頻度の高い感染部位は尿路・呼吸器・皮膚(血
流感染など)
• 最も見落としが許されないのは血流感染(最も
重篤化しやすく、かつmedical emergency!)
(Step2:鑑別診断を挙げる)
主な不明熱の原因疾患
比較的よくみられる疾患
比較的少ない疾患
・亜急性感染性心内膜炎
感染症
・結核
(21-35%)
(粟粒結核,肺外結核:腎結核,結核性髄膜炎,脊椎結
・腸チフス(Salmonella
核など)
・腹腔内膿瘍
(肝膿瘍,脾膿瘍,虫垂周囲膿瘍,大腸周囲膿瘍)
・腎膿瘍
・伝染性単核球症(EBV)
tyohi)
まれな疾患
・歯尖膿瘍
・脊椎骨骨髄炎
・慢性副鼻腔炎
・クラミジアの慢性咽頭炎
・CMV感染
・Toxoplasma感染
・急性HIV感染症
・Q熱(Coxiella burnetti)
・前立腺膿瘍
・感染性動脈瘤
・マラリア
悪性腫瘍
(5-19%)
・悪性リンパ腫
・転移性肝癌
・腎癌
・原発性肝癌
・膵癌
・結腸癌
・前白血病状態
・脳腫瘍
・心房粘液腫
・骨髄異形成症候群
膠原病
血管炎
(17-28%)
・成人型スティル病
・側頭動脈炎
・リウマチ性多発筋痛症
・偽痛風
・多発性動脈周囲炎
・関節リウマチ
・全身性エリテマトーデス
・高安動脈炎
・急性リウマチ熱
・シェーグレン症候群
・ベーチェット病
その他
(8-26%)
・薬剤熱
・肝硬変
・アルコール性肝炎
・肉芽腫性肝炎
・亜急性甲状腺炎
・甲状腺機能亢進症
・肺塞栓症
・クローン病
・サルコイドーシス
・ウェジェナー肉芽腫症
・潜在性血腫
・習慣性高体温
・虚偽性発熱
診断不能
(9-29%)
(Step2:鑑別診断を挙げる)
薬剤熱の原因になりやすいクスリ
•サイアザイド系利尿薬
•ペニシリン系抗菌薬
•セフェム系抗菌薬
•サルファ剤
•NSAIDS
•フェニトイン
•アロプリノール
•プロカインアミド
•硫酸アトロピン
•アンホテリシンB
•L-アスパラギナーゼ
•バービツレート
•ブレオマイシン
•アルファ・メチルドーパ
•インターフェロン製剤
•キニジン
(Step3:必要な検査を行う)
発熱基本検査セット(Fever work-up)
• 一般採血(必ず血液像も提出)
• 尿一般検査・尿培養
• 血液培養2セット(合計4本)
・1本10mlずつが理想的(最低5ml)
・動脈血・静脈血はどちらでもOK
・別の部位から1セットずつ
• 胸部X線
• その他(喀痰培養、髄液検査、CD抗原など)
(Step3:必要な検査を行う)
Fever work-upが必須な場合
• 特に、入院時に発熱のある場合や感染
症が想定される場合
• 入院後48時間以降に発熱した場合(感
染症を鑑別するため)
• 局所症状に応じ、喀痰(必要に応じてガフキー)、髄液検査を追加する
• 医療関連感染の場合、Clostridium difficile toxin A/Bなどを追加する
• 入院後3日以降に発生した下痢に対しては、便培養ではなくClostridium
difficile toxin A/Bを提出する(便培養の適応はサルモネラ、赤痢菌、カン
ピロバクター、病原性大腸菌など細菌性腸炎を想定する場合のみ)
(Step3:必要な検査を行う)
危険な熱
(severe high fever)
①shaking chill(悪寒戦慄)がある場合
②呼吸数>30回/分の場合
③SpO2の低下
④血液ガス検査で代謝性アシドーシス
⑤乏尿
⑥意識レベルの変化(たいていは低下)
(Step3:必要な検査を行う)
SIRSの定義を意識する
(Sytemic Inflammatory Response Syndrome)
a) 体温:>38℃、または<36℃
b) 心拍数:>90回/分
C) 呼吸数:>20回/分、またはPaCO2<32mmHg
d) 白血球数:>12,000/μL、<4,000/μLor幼弱白血球>10%
以上のうち、2項目以上を満たす場合
•敗血症=SIRS+感染症疑い
•熱がない=感染症じゃない
•WBC上昇なし=感染症否定
(Step3:必要な検査を行う)
血液培養の適応
①体温38.5℃以上でshaking chillを伴う場合
(陽性率33%)、もしくは低体温
②白血球数が12,000以上または4,000未満
の場合
③静脈注射で抗生物質を使う場合
④severe high feverの場合
⑤原因不明の病態(意識障害、低血圧など)
(Step4:初期治療を行う)
感染症診療の思考パターン
• どのような免疫状態の患者の
• どの部位の
• どんな微生物による感染症
だから
• どの抗菌薬を
• どれくらいの用量で
• どれくらいの期間
投与する
(Step4:初期治療を行う)
感染部位の想定
•中枢神経
(髄膜炎,脳炎,脳膿瘍)
•副鼻腔炎
•中耳炎・外耳炎
•咽頭炎・深頚部感染症
•急性喉頭蓋炎
•急性気管支炎・肺炎
•急性感染性心内膜炎
•急性細菌性下痢症
•腹腔内感染症
•尿路感染症・腎盂腎炎
•急性前立腺炎
•骨盤炎症性疾患
•肛門周囲膿瘍
•丹毒・蜂窩織炎・褥瘡感染
•化膿性関節炎
•末梢・中心ライン・IVHポート感染
(Step4:初期治療を行う)
原因微生物の想定
医療関連グラム陰性桿菌(SPACE)を意識する
S:Serratia
P:Pseudomonas
A:Acinetobacter
C:Citrobacter
E:Enterobacter
(Step4:初期治療を行う)
抗菌薬選択のポイント
最初は明らかな特定臓器の感染症状が
ある場合以外『広く・広く』カバーする!
• とは言え、何も考えずに『広く・広く』はペケ
(ある程度のデータは覚えておきましょう)
• とは言え、『broad spectrum=カルバペネ
ム系』と安易に考えるのはペケ
• とは言え、いつまでも『広い』抗菌薬をダラ
ダラ使い続けるのはペケ(日々評価して適
切なde-escalationをしましょう)
(Step5:検査結果の解釈をする)
培養結果を見る前のステップ
1. どこからの検体か確認する:無菌検体vs非
無菌検体
2. 培養に値する質の高い検体であったかどう
かを確認する
3. 培養結果を臨床背景に合わせて解釈する.
つまり、その検体が、何故、何の目的で、ど
の微生物を想定して採取されたのか.臨床
症状と培養結果が合致するのか確認する
(Step5:検査結果の解釈をする)
培養検体の解釈をする
• 無菌検体:血液、髄液、胸水、腹水、胆汁など
⇒菌がいたらすぐ『容疑者』扱い(決して『被告』
ではないことに注意!)
• 非無菌検体:喀痰、便、皮膚のスワブなど
⇒『その他大勢(常在菌)』がいるので、『検出菌
=原因菌』ではない!
(Step6:最適治療を行う)
初期治療から最適治療へ
De-escalation
De-escalation
<De-escalationの意義>
1. 最大の臨床効果を患者に提供する
2. 最小限の副作用にとどめる
3. 耐性菌発生の防止に努める
米国疾病対策センター(Centers for Disease Control; CDC)の提唱
(Step7:治療効果の判定をする)
抗菌薬評価のためのパラメーター
上がる~下がる
狭い~広い
低い~高い
(Step7:治療効果の判定をする)
感染症のNatural Courseを知ろう
• 肺炎球菌は菌壁の抗原性が強いため、治療
が奏効しても発熱が持続したり、一時的に胸
部XPの陰影が悪化することがある
• 脱水が改善すると、一時的に胸部XPの陰影
が増悪することがある
• 重症感染症や高齢者の感染症、解熱剤やス
テロイド投与下では発熱は当てにならない
• 好中球減少時は検査所見は当てにならない
• 抗菌薬による発熱もあり得る
(Step7:治療効果の判定をする)
腎盂腎炎の解熱までの時間
• 70人の急性単純性腎盂腎炎のスタディ
• 治療開始から解熱までの時間
- 平均34時間
- 48時間後に26%が発熱
- 72時間後でも13%が発熱
3日目に発熱してても、元気なら大丈夫
Am J Med. 1996 September: 101 (3); 277-80.より
発熱
詳細な病歴・身体診察
感染症疑い
非感染症疑い
Fever work-up + α
初期治療
2~3日後
臨床症状:
培養:
増悪
陽性
病歴聴取追加
身体診察追加
抗菌薬の追加・変更
(可能ならde-escalation)
他の部位の感染症
不明
評価
治療
不変
陰性
確定
陽性
改善
陰性
病歴聴取追加
培養再検
培養不能病原体
他の部位の感染症 身体診察追加
非感染症
抗菌薬の追加・変更
培養不能病原体
(可能ならde-escalation)
非感染症
他の部位の感染症
【発熱患者の診療アルゴリズム】
陽性
de-escalation
陰性
抗菌薬中止を
考慮