韓国の高校における 日本語教育のシラバスの問題点 -学習者のニーズ・関心に配慮した

0.シラバス/カリキュラムとは
●シラバス・デザイン:
教育の内容(語彙、文法、概念、機能)の
選択、編成
●カリキュラム開発の過程
ニーズ分析、目標の設定、
シラバス・デザイン、教授法、評価の過程
Johnson, R.K (Ed). 1989. The Second Language Curriculum. Cambridge:
Cambridge University Press.24-28.
1.はじめに
カリキュラム・・・教育課程 (現在は第7次)
新しい教育課程(2011年~)
일본어1 성격
“한일 교류에 능동적으로 대처할 수 있는
인재를 양성하기 위해 개설된 기초 과목”
コミュニケーション能力の育成
異文化理解・態度の育成
2.コミュニケーション能力と
教育課程のシラバス
 第7次教育課程のシラバスの特徴
「目標や学習内容の全てがファンクション中心
に構成されていること」(李2004:13)
コミュニケーション機能を重視する方向性
→新教育課程でも大きく変わらない。
コミュニケーション機能
(新教育課程)
 あいさつ機能
10項目
 紹介機能 3項目
 思いやりと態度の機能 12項目
 情報交換の機能 10項目
 行為要求の機能 7項目
 対話進行の機能 4項目
例:紹介機能
가. 자기
소개
こんにちは。/はじめまして。
キム・ヒョジンです。/キム・ヒョジンともうします。
韓国からきました。/韓国からまいりました。
よろしく。/よろしくおねがいします。
こちらこそ よろしく。/こちらこそ よろしくおねがいしま
す。
나.가족
소개
母です。
父は会社員です。
妹は中学2年生です。
다.타인
소개
こちらは佐藤さんです。
友だちの鈴木(さん)です。
3.韓国の高校における日本語教育と
シラバス・デザイン
カリキュラムの3つのレベル
*諏訪部(1997)を参考に作成。
Ⅰ.基準カリキュラム
教育課程
Ⅱ.具体的カリキュラム
検定教科書
Ⅲ.実践的
カリキュラム
教育部が作成
出版社が作成
各学校が作成
目の前にいる学習者のニーズ・関心に配慮した、
学校独自のシラバスの編成
教育現場では・・・
研究の中心・・・教育課程の内容理解
実際の授業への適用の仕方
“教授法の実践”
強調
教科書=
拘束されたもの
シラバス=
与えられるもの
伝統的な文法シラバス
→潜在的に存在
自由な発想を妨げる原因
授業技術に
大きな関心
本田(2004:8)
4.学習者のニーズ・関心に配慮した
シラバス・デザインの試み
河先(2006)
高校の日本語教科書(第7次教育課程)調査
→主に韓日高校生間の交流が描かれている
→登場する日本人は韓国語に習熟、韓国通
→日本あるいは韓国の高校に留学している設定
実際の交流場面ではどうか?
必要とされている日本語は?
韓日高校生間の
交流場面のデータ分析
・手紙による交流
・ホームステイ先での交流
4.1 手紙による交流
 話題に関する分析結果
カテゴリー
1.好きなもの/人
(21.8%)
2.あいさつ
(21.4%)
3.交流
(19.4%)
4.属性/家族
(11.2%)
5.勉強/学校生活
( 8.3%)
6.季節/天候
( 3.6%)
7.伝統
( 3.0%)
8.手紙の装飾
( 1.9%)
9.相手国との関わり ( 1.9%)
10.学校外での生活 ( 1.6%)
11.ニュース
( 0.8%)
12.健康
( 0.5%)
13.将来の夢
( 0.4%)
14.流行
( 0.3%)
言及されている内容
好きな芸能人や食べ物、趣味など。
定型表現によるあいさつ。
文通という交流活動自体。
家族構成や所属高校、学年など。
学校での勉強や授業、行事など。
気温や天気。
年中行事や伝統文化。
手紙に描かれた絵や写真。
相手の国への旅行経験や旅行に関する希望。
学校外での過ごし方(アルバイト、塾など)。
地域社会でのニュース。
相手や自分の健康。
将来の仕事に対する希望。
自分の国や相手の国で流行っていること。
 語彙に関する分析結果
■名詞
好きなものや人に関して述べるときに必要となる固有
名詞。その他、「興味」「楽しみ」など。
■形容詞
複数の話題において、「すき」 「うれしい」「つらい」
「さみしい」 など感情を表す語彙の使用。(形容詞
使用全体の56%)
■動詞
「待つ」「ある」「見る」「食べる」などの基本的な動詞
の使用の他、「感動する」「愛する」などの感情を表現
するための動詞の使用。
 機能の分析結果 (単位%)
5.行為要求, 4.4
6.対話進行, 0.1
2.紹介, 14.3
3.思いやりと態度
伝達, 15.3
1.あいさつ, 17.3
4.情報交換,
48.6
情報交換 499(48.6%)
300
269
250
200
150
100
77
46
50
42
18
17
16
9
3
2
択
選
比
較
・対
測
比
判
断
・推
説
明
理
況
状
由
説
明
認
確
告
報
提
示
意
見
要
求
報
情
情
報
提
供
0
あいさつ 177(17.3%)
81
77
0
0
0
0
0
0
帰
宅
訪
問
食
事
年
末
新
年
祝
賀
外
出
安
否
19
別
れ
出
会
い
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
思いやりと態度伝達 157(15.3%)
60
54
50
40
30
25 24
21
16
歩
り
断
念
残
0
・譲
諾
・同
意
罪
承
・慰
励
激
謝
労
志
意
望
希
賛
賞
感
謝
0
0
0
正
0
訂
1
遜
6
慮
10
謙
10
遠
20
紹介 147(14.3%)
160
140
138
120
100
80
60
40
20
7
2
他人紹介
家族紹介
0
自己紹介
行為要求 45(4.4%)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
40
0
0
警
告
0
義
務
0
禁
止
1
助
言
許
可
要
求
勧
誘
・提
案
依
頼
4
 使用文型の分析結果
文型
1.Nが好きです
2.Vている
3.Vてください
4.Vたいです
5.Vること
6.Vにくる・いく
7.Vている
8.~て(理由)
9.Nになる
10.Vない
(上位10の項目)
文例
僕はスポーツが好きです
お返事を待っています
おすすめの歌とか映画、教えてください
わたしも韓国行きたいです
わたしも本を読むことが好きです
韓国へ遊びに来てください
週末には何をしていますか
字もきれいでとても読みやすいです
今回でお手紙が最後になります
私も忘れないよ
JK合計
80
48
38
28
23
17
16
14
11
10
「手紙による交流」の中で
韓日の高校生がしていたこと
 情報交換
特に自分や相手の好きなものや人について
共通の話題を見つける。
 感情、気持ちを伝え合う
交流ができて「うれしい」、「楽しい」
テストが近づいて「つらい」、 友だちとの別れが
「さみしい」など、日々の生活の中で感じていることを
伝える。
情報交換の機能に関して
「情報提供」の例文(新教育課程)
 出発は4時です。
天気よほうによると、明日は寒くなるそうです。
 そこの角を右へ曲がると、コンビニがあります。
 電車がまいります。
 300円のお返しです。

自分に関する情報ではない
感情の伝達に関して
 第7次教育課程
「3.意思・態度伝達の機能」の下位項目として
「喜怒哀楽」がある。
 新教育課程
「3.思いやりと態度表現」の下位項目として
「残念」しかない。
4.2 ホームステイ先での交流

コミュニケーションに使った言語とコミュニケーション
の方法について (韓国人高校生8名、日本人高校
生4名にアンケート)
日本語と韓国語,
1
日本語だけ, 2
日本語と英語, 3
韓国語ができて、韓国通である
日本人高校生はごく少数
韓国の高校生が日本語で
日本語と英語と韓
コミュニケーション
国語, 6
親密体、コミュニケーション・
ストラテジーの使用

生徒同士が交わした話題
韓国と日本
町
学校
家族・友人
自分
5.まとめ
 教育課程が提示するコミュニケーション機能
(意思疎通基本表現)リスト
→韓日高校生間の交流場面で必要とされる
ものを想定?
手紙やメールによる交流は想定されている?
身近で関心のある話題に関する情報交換を重視?
コミュニケーション・ストラテジー、親密体の使用を考慮?
 シラバス=与えられるもの
↓
学習者の状況を考慮し、作られるもの
変容性を帯びたもの
 韓国の高校の日本語教育
生徒のニーズ・関心に配慮した実践的シラバス
/カリキュラムに関する研究の蓄積が求められ
る。
 本研究は、平成19年度日本学術振興会科学
研究費補助金若手研究(スタートアップ)
「日本語教育と韓国語教育の協働による日韓
交流授業に関する研究」
(課題番号19830054, 研究代表者:澤邉裕子)
による研究成果の一部である。
参考文献は、予稿集をご覧ください。