水田魚道とビオトープ水田が生態系に与える影響 ー谷汲地区生態系保全モデル圃場事例ー 灌漑排水学分野 野久 智也 1 背景 1 背景・目的 わが国の農村の水域 用水路 河川 ネットワーク 排水路 水田 ・適切な流速,水深,水温を有する産卵場 ・プランクトンの発生による稚魚の餌場 ↓ 圃場整備により 排水路と水田に大きな落差 ↓ 魚類の生息環境を悪化 魚類等 が利用 河川 用水路 ネットワーク 水田 排水路 魚道 水田魚道とビオトープ水田の可能性を検討 ・水田魚道における魚類の遡上行動の解明 ・ビオトープ水田が生態系に与える影響の解明 2 調査地域概要 2 調査地概要 岐阜県揖斐郡揖斐川町 谷汲地区 準内陸性の山間地気候 平平均気温 12.7℃ K降雨量 年間2,500mm 休耕田 <水田(休耕田)> 水の供給はポンプを使用 植生区 河 川 水田(休耕田) 管 瀬 川 農 給水ポンプ 道 給水ポンプ 排水路 排水路 <魚道> 計13段・落差約10cm・傾斜約15°の斜板 魚道 3 調査方法 3 調査方法 3 調査方法 ①ビデオ調査(調査期間:5~8月) ・赤外線LEDカメラ(魚道最上部に設置)→遡上個体数の把握 ・環境条件(水温,気温,湿度,越流量,水位,降雨量)→遡上条件の把握 赤外線LEDカメラ カメラ映像 ②捕獲調査(調査期間:5~9月) ・そで付き胴網による遡上魚類捕獲調査→遡上魚種の把握 魚道出口において 降雨前に設置,降雨後に回収 そで付き胴網 ・カゴ網,サデ網による魚類捕獲調査→生息・繁殖状況の把握 カゴ網 サデ網 今年 昨年 ポンプの稼動時間を制限 ポンプを24時間常時稼動 ↓ ↓ 魚道内の越流は降雨があった時のみ発生 河川など速い流れを好むオイカワが遡上 ↓ ↓ オイカワの遡上を減少 オイカワのひれに付着した二枚貝が繁殖 ↓ ↓ タイリクバラタナゴの繁殖を抑制 二枚貝に産卵する外来種の タイリクバラタナゴが大量繁殖 月に1回ポンプを24時間稼動 ・生態系のバランスの悪化 ↓ ・生息環境の減少 ポンプと降雨越流時における ・餌や産卵場の減少 etc 魚類の遡上行動の違いに注目 4 結果・考察 4 結果・考察 ①ビデオ調 査 EDカメラ→遡上個体数の把握 ・赤外線L ・環境条件(水温,温度,湿度,流量,水位,降雨量)→遡上条件の把握 ②捕獲調査 ・そで付き胴網による遡上魚類捕獲調査→遡上魚種の把握 ・カゴ網,サデ網による魚類捕獲調査→生息・繁殖状況の把握 遡上数 遡上成功数 ポンプ 降雨 ①時期 越流時間 30分あたりの遡上数 匹 h 匹/30min 851 94.0 4.5 <ポンプと降雨の違い> 270 40.5 3.3 ②越流量 ③連続越流時間 <ポンプ>24時間連続して安定的かつ定期的に越流量が確保 < 降 雨 >不定期で越流量が変動 <ポンプと降雨の違い> ①時期 ポンプ 60 遡上数(匹/30 min) 遡上数(匹/30 min) 60 50 40 30 20 50 降雨 降雨量 90mm/d 40 30 20 10 <降雨> 10 0 0 産卵期に降雨量が少ない場合、 5/1 6/1 降雨量 126mm/d 7/1 8/1 5/1 6/1 7/1 8/1 時期(月) 時期(月) 人為的に越流を発生させることで遡上数が増加する ー:最大値・最小値 ◆:平均値 ー:最大値・最小値 ◆:平均値 <ポンプ>調査地周辺に生息する魚類の産卵期と重なる6月に多く遡上 < 降 雨 >1日の降雨量が多くみられた5月・7月に多く遡上し、 降雨量が少なかった6月・8月には遡上がほとんどみられない ポンプ 60 遡上数(匹/30 min) 遡上数(匹/30min) <ポンプと降雨の違い> ②越流量 50 40 30 20 10 降雨 60 50 40 30 20 10 <ポンプ>0 0 0 1 2 3 4 5 6 0 1 2 ポンプの越流量を変化させて検討 -3 3 越流量(×10 m /s) 3 4 5 6 越流量(×10-3m 3/s) ※30分ごとの遡上数をプロット <ポンプ>安定越流量約4×10-3m3/s < 降 雨 >ポンプと比べて越流は少量 →少量の越流=遡上はほとんどみられない →多量の越流=遡上が多くみられた 越流量の違いで 遡上数に差 <ポンプと降雨の違い> ③連続越流時間 遡上数(匹/30min) 60 ポンプ・降雨 ポンプ ー:最大値・最小値 50 ◆:平均値 40 30 20 <降雨> 降雨 越流時間が短い=13段もある魚道を遡上することが困難 10 ー:最大値・最小値 越流時間が長い=降雨量が多い=排水路水位が上昇 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 ◆:平均値 =排水路と水田の落差が減少=容易に遡上 連続越流時間( h) <ポンプ>連続越流時間=24時間に設定 < 降 雨 >短時間の越流=ポンプと比べて遡上数は少ない 長時間の越流=ポンプと比べて遡上数は多い <ポンプと降雨の違い>水位 降雨 60 50 40 30 20 遡上数(匹/30min) 遡上数(匹/30min) ポンプ 60 50 40 30 20 10 <降雨>10 0 0 水位の影響を受けているが今後も継続的な調査が必要 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 水位(段) 水位(段) 低水位← →高水位 低水位← →高水位 ー:最大値・最小値 ◆:平均値 ー:最大値・最小値 ◆:平均値 ※1 水位=排水路の水位が達している魚道の段数を示す ※2 魚道の上段から1段目とする (値が小さいほど高水位) < 降 雨 >水位が1段の時など高水位の状況において、 遡上数の増加がみられた ①ビデオ調 査 EDカメラ→遡上個体数の把握 ・赤外線L ・環境条件(水温,温度,湿度,流量,水位,降雨量)→遡上条件の把握 ②捕獲調査 ・そで付き胴網による遡上魚類捕獲調査→遡上魚種の把握 ・カゴ網,サデ網による魚類捕獲調査→生息・繁殖状況の把握 降雨の場合ポンプと比べて越流量が少ない ↓ 速い流れを好むオイカワの遡上が減少 ↓しかし ・調査地を対象としたカゴ網による全魚類の捕獲数2200匹のうち タイリクバラタナゴは依然として水田内で大量繁殖 1631匹(約75%)をタイリクバラタナゴが占める ・水田内のタイリクバラタナゴの稚魚の割合が高い オイカワ タイリク バラタナゴ 今後・・・ ・定期的な池干しの実施 ・ポンプの稼動時間の調整 ・植生区の拡張etc… ビオトープ水田の管理方法の検討 ↓ ・タイリクバラタナゴの遡上と繁殖を抑制 ・在来種の遡上と繁殖を促進 ビオトープ水田の管理方法の検討 池干し(2005年4月21~22日) Rimg4584.j pg 調査地周辺に生息している魚類とその繁殖期 魚種 ギンブナ タイリクバラタナゴ オイカワ ヌマムツ モツゴ タモロコ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ↑ この期間に多くの魚類が遡上 時間帯別 降雨 960 60 8 50 7 50 遡上数(匹/30min) 割合(%) 遡上数(匹/30min) ポンプ 640 5 30 4 20 3 210 40 30 20 10 1 0 0 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 時間帯(h) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 時間帯(h) <多降雨日> 観測日 連続越流 時間 降雨量 平均水位 5月1日 9.5h 90mm/d 失測 7月4日 5.5h 126mm/d 1.9段 5月 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10日 11日 12日 13日 14日 15日 16日 17日 18日 19日 20日 21日 22日 23日 24日 25日 26日 27日 28日 29日 30日 31日 合計 90 0 0 0 0 65 36 0 0 0 0 7 0 0 0 0 0 24 1 0 0 15 4 0 0 0 0 0 0 0 0 242 6月 7月 0 8 0 0 0 0 0 0 0 0 13 0 0 0 4 16 1 0 0 0 0 14 1 0 0 0 0 0 32 22 111 52 0 39 126 1 0 0 0 70 1 0 18 14 19 0 0 1 0 0 0 0 0 1 5 0 3 0 0 0 0 14 364 8月 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 14 0 0 2 12 8 26 11 19 15 7 1 1 0 0 0 0 0 29 0 146 単位:mm 測定期間中(5~8月)降雨量 2005: 863mm 2004:1263mm 2003:1442mm 2002:1105mm 2001:1052mm
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