Cylinder

1
引張力を受ける腐食鋼板の
力学特性と残存強度
愛媛大学大学院
池田 裕幸
大賀 水田生
全 邦釘
研究背景-引張力を受ける腐食鋼板
2
既往の研究
有効板厚とは・・・
JIS試験片(試験片幅:25mm程度)
25mm
以下の式を用いた有効板厚 teff が定義されている.
P  teff  B  
(P:腐食鋼板の残存強度,σ:平滑仕上げ試験片の降伏/引張強度,B:板幅)
残存強度評価のための有効板厚
最小断面
写真-2. JIS試験片(破断前)
孔食の最大直径:40~50mm
最小平均板厚 tavg_min
(荷重軸直角方向における最小断面の平均板厚値)(松本ら.1992)
問題点 (試験片サイズ)
様々な腐食状況に対する残存強度を求める場合
↓
試験片幅が十分ではない
写真-3. JIS試験片(破断後)
腐食が力学特性(非線形挙動,残存強度・・・)に
及ぼす影響について十分に把握できない
実験結果と従来の提案式との比較
残存強度評価式:
P  teff  B  
降伏強度の比較結果
teff  tavg _ min
引張強度の比較結果
実験有効板厚 te_y [mm]
12.00
12.00
10.00
10.00
8.00
8.00
6.00
6.00
4.00
4.00
実験有効板厚 te_b [mm]
危険側
R2=0.988
2.00
R1² = 0.984
R2² = 0.983
0.00
3
R2=0.955
2.00
穴内川橋
R² = 0.968
R² = 0.951
船越運河橋
穴内川橋
船越運河橋
0.00
0.00
2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00
最小平均板厚 tavg_min [mm]
平均誤差-0.06%
0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
10.00 12.00
最小平均板厚 tavg_min[mm]
平均誤差5.31%
最小平均板厚には高い相関性が見られたが・・・
危険側に評価される供試体が存在している
研究目的・手法
4
異なる2つの橋梁から,板幅60~80mmの腐食供試体を作成して、腐食表面形状測定
及び引張強度実験を行い、腐食形態 と力学特性(非線形挙動)との関連性について
考察する
本研究で取り扱った供試体を対象としたFEM残存強度解析を行い、腐食が力学特性
(応力分布)に及ぼす影響について考察する
残存強度評価式の提案
① 引張強度実験
5
腐食形態とその特徴
全面腐食タイプ (AF-8)、標準偏差 σst = 0.24mm
穴内川橋
表面全体に小さな孔食が分布
腐食の程度としては軽微な供試体
孔食タイプ (FT-2) 、標準偏差 σst = 0.90 mm
船越運河橋
比較的大きな孔食が点在
孔食及び周辺のみで腐食
Z
X
局所腐食タイプ (AF-20) 、標準偏差 σst = 1.56 mm
Y
孔食が重なりあって、
広い領域で腐食が進展
3次元計測システム
① 引張強度実験
6
引張強度実験の概要
万能載荷試験機
最大載荷重
:
2940 kN
制御方法
:
定速度荷重制御
腐食大:150 N/sec
腐食小:200 N/sec
サンプリング間隔 :
測定項目
:
10 sec
載荷重,ひずみゲージの値
ストローク
(載荷試験機の変位)
写真-. 万能載荷試験機
写真-. 試験状況
東京試験機製作所
ひずみゲージの貼り付け位置
最小断面、最小板厚位置
↑
強度評価および破断位置特定に関係
写真-. ひずみゲージ貼り付け状況
※ 標点を設け、腐食が顕著な箇所に
おける破断伸びを測定した
① 引張強度実験
腐食形態と非線形挙動
定義
降伏強度: 荷重-変位曲線における弾性域からの直線挙動の傾きが変化している荷重
引張強度: 荷重-変位曲線における最高荷重
AF-8(全面腐食タイプ)
荷重 P [kN]
明確な降伏棚が確認でき,
350.0
供試体全体が一様に降伏に至る
300.0
↓
無腐食供試体とほぼ同様の力学挙動
FT-2(孔食タイプ)
弾性域での直線挙動が
降伏後に傾きを変えて
250.0
腐食による非線形挙動に
200.0
及ぼす影響が確認される
150.0
AF-8(全面腐食タイプ)
100.0
最高荷重まで線形的に増加
FT-2(孔食タイプ)
50.0
AF-20(局所腐食タイプ)
降伏棚は完全に消滅
降伏強度と引張強度の差が小さい
AF-20(局所腐食タイプ)
0.0
0.0
5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 55.0
変位 D [mm]
図-1. 荷重-変位曲線
7
実験結果と従来の提案式との比較
残存強度評価式:
P  teff  B  
降伏強度の比較結果
teff  tavg _ min
引張強度の比較結果
実験有効板厚 te_y [mm]
12.00
12.00
10.00
10.00
8.00
8.00
6.00
6.00
4.00
4.00
実験有効板厚 te_b [mm]
危険側
R2=0.988
2.00
R1² = 0.984
R2² = 0.983
0.00
8
R2=0.955
2.00
穴内川橋
R² = 0.968
R² = 0.951
船越運河橋
穴内川橋
船越運河橋
0.00
0.00
2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00
最小平均板厚 tavg_min [mm]
平均誤差-0.06%
0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
10.00 12.00
最小平均板厚 tavg_min[mm]
平均誤差5.31%
最小平均板厚には高い相関性が見られたが・・・
危険側に評価される供試体が存在している
② FEM残存強度解析
9
FEM残存強度解析の概要
腐食供試体(FT-2)
解析条件
(MSC.MARC)
要素モデル :
3次元8節点ソリッドモデル
境界条件 :
一端:完全固定
一端:y,z 軸方向のみ固定
腐食供試体部分のみを解析対象
節点数:20475点
x軸は等分布強制変位
y
要素数:15776点
x
Δu
図-7. 境界条件
材料特性 :
z
穴内川橋
船越運河橋
y
(荷重軸直角方向)
x
(荷重方向)
ヤング係数 [GPa]
ポアソン比
197.40
207.95
0.2720
0.2795
降伏条件 :
フォン・ミーゼスの降伏条件
破壊条件 :
図-6. 解析モデル図(FT-2)
限界相当塑性ひずみを導入した破壊基準
② FEM残存強度解析
10
FEM残存強度解析の概要
腐食供試体(FT-2)
実験値 Py
[kN]
350
腐食供試体部分のみを解析対象
300
250
節点数:20475点
要素数:15776点
200
150
R2=0.999
100
z
50
y
R² = 0.996
穴内川橋
R² = 0.996
船越運河橋
0
(荷重軸直角方向)
0
50
100 150 200 250 300 350
解析値 Py_f [kN]
x
(荷重方向)
図-6. 解析モデル図(FT-2)
② FEM解析
11
破断位置
(a). AF-8(σst= 0.237mm)
(b). FT-2(σst= 0.907mm)
(c). AF-20(σst= 1.864mm)
写真-10. 破断位置
き裂発生位置
(a). AF-8(σst= 0.237mm)
き裂発生位置
(b). FT-2(σst= 0.907mm)
き裂発生位置
(c). AF-20(σst= 1.864mm)
図-12. 破壊時におけるひずみ分布図
腐食程度に関わらず、実験と解析のき裂(クラック)発生位置は一致
最小板厚位置からき裂が発生している(全面腐食タイプ5体を除く)
→ 引張強度を推定する統計量:
標準偏差、最小板厚、最大腐食深(腐食程度に起因する統計量)
③ 残存強度評価
応力 [N/mm2]
700.0
12
応力分布-荷重初期
応力分布(荷重初期)
y
650.0
600.0
550.0
500.0
450.0
大
400.0
350.0
降伏強度(無腐食)
300.0
250.0
荷重初期(腐食)
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
0
4
8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68
断面距離 [mm]
板厚 [mm]
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
小
断面形状
0
4
8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68
断面距離 [mm]
図-11. 応力分布(P = 20.98kN)
図-10. 断面応力分布(FT-2)
荷重初期段階では、腐食の激しい箇所に応力が集中
(断面の凹凸と応力の大きさが対応)
③ 残存強度評価
応力 [N/mm2]
700.0
13
応力分布-降伏強度
応力分布(降伏強度)
X
650.0
600.0
550.0
500.0
450.0
大
400.0
降伏強度(無腐食)
350.0
300.0
降伏強度(腐食)
250.0
荷重初期(腐食)
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
0
4
8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68
断面距離 [mm]
板厚 [mm]
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
小
断面形状
0
4
8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68
断面距離 [mm]
図-10. 断面応力分布(FT-2)
図-11. 応力分布(P = 113.04kN)
降伏強度では、応力がほぼ一定の状態となる
(激しい箇所:変形が急激に増加し、応力が増加しなくなる)←降伏
↓
降伏強度を評価する統計量: 最小断面(最小平均板厚)は妥当
③ 残存強度評価
応力 [N/mm2]
700.0
14
応力分布-引張強度
応力分布(引張強度)
X
650.0
600.0
550.0
500.0
450.0
大
400.0
引張強度(無腐食)
350.0
300.0
引張強度(腐食)
250.0
降伏強度(腐食)
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
0
4
8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68
断面距離 [mm]
板厚 [mm]
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
小
断面形状
0
4
8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68
断面距離 [mm]
図-10. 断面応力分布(FT-2)
図-11. 応力分布(P = 165.71kN)
引張強度では、破断位置に最も応力が集中
(激しい箇所と健全な箇所との応力差が最大)
↓
引張強度を評価する統計量: 腐食の程度を表現できる統計量
① 引張強度実験
15
腐食形態とその特徴
全面腐食タイプ (AF-8)、標準偏差 σst = 0.24mm
穴内川橋
表面全体に小さな孔食が分布
腐食の程度としては軽微な供試体
孔食タイプ (FT-2) 、標準偏差 σst = 0.90 mm
船越運河橋
比較的大きな孔食が点在
孔食及び周辺のみで腐食
Z
X
局所腐食タイプ (AF-20) 、標準偏差 σst = 1.56 mm
Y
孔食が重なりあって、
広い領域で腐食が進展
3次元計測システム
16
提案式の適用結果
Py  teff _ y  B   y
Pb  teff _ b  B   b
実験有効板厚 te_y [mm]
12.0
実験有効板厚 te_y [mm]
12.0
実験有効板厚 te_b [mm]
12.0
実験有効板厚 te_b [mm]
12.0
10.0
10.0
10.0
10.0
8.0
8.0
8.0
8.0
6.0
6.0
6.0
6.0
4.0
4.0
4.0
4.0
2.0
R1² = 0.984
R2² = 0.983
2.0
0.0
0.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
有効板厚推定式 teff_y=tavg_min [mm]
12.0
(a). 穴内川橋
0.0
R2² = 0.926
2.0
穴内川橋
船越運河橋
穴内川橋
0.0
R1² = 0.980
2.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0 12.0
有効板厚推定式 teff_y=tavg_min [mm]
船越運河橋
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
有効板厚 teff _b= t0-3.2σst [mm]
12.0
0.0
2.0
(a). 穴内川橋
(b). 船越運河橋
図-11. 降伏強度 (提案式:teff_y= tavg_min)
4.0
6.0
8.0
10.0
有効板厚 teff _b= t0-3.2σst [mm]
(b). 船越運河橋
図-12. 引張強度(提案式:teff_b= t0-3.2σst)
表-4. 適用結果
有効板厚評価式
相関係数
平均誤差(%)
降伏強度
teff_y = tavg_min
0.991
-0.060
引張強度
teff_b = t0-3.2×σst
0.980
-0.720
備考
tavg_min:最小平均板厚 [mm]
t0:初期板厚[mm]
σst:標準偏差[mm]
穴内川橋及び船越運河橋に対する降伏強度評価及び引張強度評価とも,
比較的精度の良い結果が得られている
12.0
結論
腐食の激しい供試体は,腐食表面凹凸に起因する応力集中のために,降伏強度
(降伏棚)が明確に現れない場合がある.また,その応力集中が及ぼす影響は荷重
の初期段階からは確認できないが,荷重が降伏荷重付近に達すると,急激に現れる
ことが実験的に確認できた.
引張力を受ける腐食鋼板の残存強度評価
腐食鋼板の降伏強度は,最小平均板厚tavg_minを有効板厚として用いることにより,
精度の良い強度評価が可能となった.
降伏強度評価のための有効板厚推定式: teff_y = tavg_min
腐食鋼板の引張強度に関しては,腐食表面凹凸を表現する標準偏差σstを導入する
ことにより,引張強度を評価することが可能となった.
引張強度評価のための有効板厚推定式: teff_b = t0 - 3.2σst
≪今後の課題≫
本研究で提案した評価式を他の橋梁に適用し,その有用性を検討
17
現在進行中の研究紹介
様々な板幅を持つ供試体への適用が可能な座屈試験設備
18
現在進行中の研究紹介
様々な板幅を持つ供試体への適用が可能な座屈試験設備
19
現在進行中の研究紹介
画像解析による簡便な三次元形状復元手法の開発
画像中の定規を復元した結果,長さの誤差は1%程度
20
現在進行中の研究紹介
• 画像処理による,鋼板の健全性評価
→構造物・部材の耐荷力評価への活用
21
22
現在進行中の研究紹介
• 画像処理による,鋼板の健全性評価
評点
外観評価区分
処置の目安
見本写真
板厚減少度
5
さび量が少なく、比較的
明るい色調を呈する
不要
?
4
さびの大きさは1mm程
度で細かく均一
不要
?
3
さびの大きさは1~5mm
程度で細かく均一
不要
?
2
さびの大きさは5~
25mm程度でうろこ状
要経過観察
?
1
さびに層状の剥離
が見られる
板厚測定
?
• 耐候性鋼板の補修手法の開発・評価
23
ご静聴ありがとうございました