日語誤用分析 (大学院) 3月21日(月・一)~ 担当 神作晋一 第4章 習得には決まった順序 があるのか 1.「習得順序」の発見 2.「習得順序」とは、何がどうなる順序か 3.本当に母語に影響きれない普遍的順序があるのか 4.どんな文法項目にも決まった習得順序があるのか 5.「発達順序」と「習得順序」 6.発達段階は飛び越えられないという考え方 7.習得の順序どおりに教えたほうがいいのか 第4章 習得には決まった順序 があるのか 「習得順序」 変えられない習得順序 習得順序の通りの文法項目 母語に関わりなく 動かしがたいもの? 学習者の習得順序と第二言語習得 1.「習得順序」の発見 1.「習得順序」の発見 1970年代、普遍性を求める時代へ 母語と目標言語の違いを分析し、習得困難点 を予測。 チョムスキーChomsky生成文法 母語によるものだけではないことがわかる。 (1980年以降) 習得順序:第二言語習得に普遍性が求め られていた時代の発見。 1.「習得順序」の発見 習得順序:さまざまな文法項目が習得され る順序 1970年代、英語の形態素習得順序研究 例:過去形、三単現の-s、進行形(-ing)など 異なる形態素の習得順序 早い:進行形、複数形、be動詞 遅い:規則動詞の過去形、三単現の-s、所有 格の-s 1.「習得順序」の発見 進行形(ing)、複数形、be動詞 助動詞、冠詞 不規則動詞の過去形 規則動詞の過去形、三人称単数の-s、所有格の’s 図1 クラシェンの「自然な順序」 1.「習得順序」の発見 習得順序:さまざまな文法項目が習得される 順序 学習者の母語にかかわらずかなり似た結果に なった。 「母語に関わらない決まった習得順序がある」と いう仮説。 クラシェン「モニターモデル」 →「文法の習得には決まった順序があり、それ は教える順序によっても変わらない」 (自然な順序の仮説) 1.「習得順序」の発見 進行形(ing)、複数形、be動詞 助動詞、冠詞 不規則動詞の過去形 規則動詞の過去形、三人称単数の-s、所有格の’s 図1 クラシェンの「自然な順序」 1.「習得順序」の発見 本当に変わらない習得順序があるのか? 「一人歩き」の状態 習得順序とは何がどうなる順序なのか 本当に母語に関わらない順序があるのか 何にでも習得順序があるのか あるとすれば、その通りに教えたほうがいいの か。 問題提起 2.「習得順序」とは、何がどうなる 順序か 2.「習得順序」とは、何がどうなる 順序か 習得:何をもって、どの時点か。 使い始められるようになる。 間違えずに完璧に使える。 研究者でも意見が分かれる。 使い始める時点。Pienemann(1989,1998) 正用順序:正しく使っているものほど習得が早い →使わなければならないところで、より使えている もの>使えていないもの。 >習得の速さ 2.「習得順序」とは、何がどうなる 順序か 習得の調べ方 学習者に話をさせて、使うべきところで(形態素)を 使っているか。 何か意味を伝えようとしているとき、(文法や形の ことをあまり考えなくても、)使うべき時に正確に (形態素が)使えるというもの。 「筆記テストでできる」と「会話でできる」は別の能 力。 例:会話の授業で筆記テストが必要か。 2.「習得順序」とは、何がどうなる 順序か 作文と会話での違い 例:三単現の-s 知識としてはある。 作文でもゆっくり考えればわかるかも。 会話ではどうか。⇒途中で落ちてしまうかも。 習得されていないことになる。 My father gets up at 7 and eats breakfast and,leave home at 8 and… 2.「習得順序」とは、何がどうなる 順序か 自然な順序 教室でどんな順序で教えても、習得する順序は変 わらない? 習得が遅いものは、時間がかかる。 (習得の遅いとされているものは)気長に構えれば いい。 教師が知っておくことで、心配や苦労を減らせる。 3.本当に母語に影響きれない普 遍的順序があるのか 1.「習得順序」の発見 進行形(ing)、複数形、be動詞 助動詞、冠詞 不規則動詞の過去形 規則動詞の過去形、三人称単数の-s、所有格の’s 図1 クラシェンの「自然な順序」 3.本当に母語に影響きれない普 遍的順序があるのか 普遍的な習得順序 英語の形態素習得 日本人、台湾人(中国人)→疑問? 早い:複数の-sと冠詞 遅い:所有格の-s 日中韓→クラシェンの理論に反する 所有格の-sが早い John’s penジョンのペン ~的原子筆 母語の影響→普遍的なものに疑問 4.どんな文法項目にも決まった 習得順序があるのか 4.どんな文法項目にも決まった 習得順序があるのか 日本語の場合 まだわかっていない 英語(の形態素)の場合、使わなければいけない ところがはっきりしている。 日本語の場合(例:「たら」「ば」「なら」「と」)、内容、 場面、スタイルなどの要因がある。一概に言えな い。 →「は」→「を」→「が」になりそうだという研究はあ る。 5.「発達順序」と「習得順序」 5.「発達順序developmental sequence」 と「習得順序acquisition order」 発達順序:ひとつの構造がどう発達するか。 発達の道筋 英語の場合 He works today? → What he is saying (What he saying) → 倒置させる(cf.Do you know where is it.) → 目標言語通り 日本語の場合 ~か 今日、図書館へ行きます? 朝、ご飯を食べました? 5.「発達順序developmental sequence」 と「習得順序acquisition order」 発達順序:ひとつの構造がどう発達するか。 英語の場合 No very good.(not very good) 日本語の場合 イ形容詞の否定形は遅く習得 「~くない」「~くなかった」 「難しいじゃありません」「難しいじゃない」 →習得の過程にいる →自然な流れの中でフィードバックを返す 5.「発達順序developmental sequence」 と「習得順序acquisition order」 逆行(back sliding):初期段階の形式が再び出て しまうこと。 例:You can eat sushi? 難しい話題、学習者のプレッシャーなどが原因 ある程度自然なことだと考える ⇔定着化 6.発達段階は飛び越えられない という考え方 6.発達段階は飛び越えられない という考え方 「発達段階」:ピネマンなど、ドイツ語 第1段階 第2段階 第3段階 第4段階 第5段階 語彙、I don’t know.のような決まり文句だけに限 られる 基本的な語順が使える 文末の語を文頭に移動したり、文頭の語を文末に 移動したりできる 文中の語を文頭や文末に移動することができる 単文の中で、様々な要素を認識でき、自由に動か すことができる 第6段階 複文構造の中で、自由に要素を操作できる 6.発達段階は飛び越えられない という考え方 第2段階:イントネーションだけ 日本語: Can you~? などは第4段階 発達段階にしたがってという研究結果 教授可能性仮説 例:第2段階の学習者に第4段階のことを教え ても習得されない 準備ができたときに習得が促進 単文レベルの処理ができないのに接続表現 はできない 7.習得の順序どおりに教えたほ うがいいのか 7.1「習得が早い」「習得が遅い」とは、どんなことか 7.2「自然な順序」は「教えるべき順序か 7.3 発達段階をどう考えるか 7.4 教える順序についてのまとめ 7.1「習得が早い」「習得が遅い」 とは、どんなことか 習得が早い、遅いとは A.先に使い始めるという場合 B.正確に使っている場合 「出現順序」「正用順序」の方が適切か ⇒先に使っていても正確になるのに時間がか かるもの ⇒出現が遅くても、正確になるのは早いもの 7.1「習得が早い」「習得が遅い」 とは、どんなことか 日本語の例 例:「春になると、桜が咲きます」 ⇒日本で学習している場合、早い段階で ×「寒いと、窓を開けてください」 ⇒後件で依頼や許可は使えない 中級程度以上の学生でも使ってしまう。 ⇒先に使っていても正確になるのに時間がか かるもの 7.1「習得が早い」「習得が遅い」 とは、どんなことか 日本語の例 例:「~んです」 ⇒難しいといわれる(実際導入も遅い) 例:「行きますか」と「行くんですか」 自然談話では「~んです」がたくさん出てくる。 ⇒個人的には(台湾の環境では)少ないと思うが… どうか。 例:「ば」「なら」は、早い段階ではほとんど出現がな い⇒「習得が遅い」項目 7.1「習得が早い」「習得が遅い」 とは、どんなことか 習得の「早い」と「遅い」は一概に言えない。 あるデータだけで決められない。 どのような習得プロセスを辿っているかを観察、分 析、考慮する。 背景を考えてみる。 7.2「自然な順序」は「教えるべき 順序か 「自然な習得順序があり、その順序は教室 での指導によっても変わらない」仮説 ⇒「どんな順序で教えても習得順序は変わら ないのだから、教える順序など関係ない」(クラ ッシェン) ×「その順序で教えたほうがいい」 「注意を向けなくても正確に使える」 ⇒正確に使えるまでに時間がかかる 7.2「自然な順序」は「教えるべき 順序か 「自然な習得順序があり、その順序は教室 での指導によっても変わらない」仮説 A⇒Bとなるわけではない あとで教えても習得できるわけではない 遅く教えればさらに遅くなることも 「自然な順序」≒「教えるべき順序」 「自然な順序」≠「教えるべき順序」 7.3 発達段階をどう考えるか 段階はこえられないが… 「たら」→「と」→「なら」としてもその順番を変え られないわけではない ⇒段階というのはもう少し大きなもの まだまだ仮説の段階 細かいところは分からない 関係ないものも 発達段階≠シラバスではない シラバスは教え方の便宜を図るもの 7.3 発達段階をどう考えるか 大きな枠組みで… 単純なものから複雑に 授業で 例:「~を食べます」「~へ行きます」 もう少し複雑にしたい欲求 「忙しい時は/忙しかったら」If whenなど 複文を扱えないレベルであれば「~たら」「~ とき」は使えないが、決まり文句(フレーズ phrase)として定着する可能性もある。 7.3 発達段階をどう考えるか 授業で 段階が目安に 例:動詞文だけなので「~たら」などは無理かも コミュニケーションに必要な表現だけは導入させる (フレーズとして覚えてもらう) 例:「~と呼んでください」「開いてください」 7.4 教える順序についてのまとめ (1)様々な項目間の「習得順序」というの は「自然な順序」があるかどうかもはっきり しない。あったとしても、その順序で教える かどうかは別問題。 (2)「発達段階」は大きく考える 7.4 教える順序についてのまとめ 習得の難易度は、複数の要因がある。 例:初級で使役を教えても使えないようだから (初級で)教える必要はない。」 ⇒それはわからない。 ⇒例:休んでいただく/休ませていただく ⇒使役が分からないと間違いになる 教える順序にも議論がある 習得のプロセス、教え方(何を、いつ、どう) まとめ 1.「習得順序」は形式の習得、「発達順序」は 一つの構造の発達するプロセス 2.英語の形態素には「習得順序」があり、どう 教えても順序は変わらないといわれる。母語 の影響があり、どれにもあてはまるかどうかは 分からない。 3.学習者は単純なものから複雑な処理がで きるようになり、発達の段階は飛び越えられな いといわれている。 4.習得順序=教える順序ではない。「発達段 階」は考慮すべき
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