日語誤用分析 (大学院) 5月23日(月・一)~ 担当 神作晋一 第9章 言語習得に及ぼす個人 差の影響(1) 1.言語適性 1.1 「語学のセンスがある」とは、どんなことか 1.2 言語適性とワーキング・メモリーの容量 1.3 言語適性とどうつきあっていけばいいのか 2.女性のほうが言語学習に向いているのか 3.学習スタイルの違い 3.1 3.2 3.3 3.4 学習スタイルは外国語学習に影響するか 学習スタイルに合った教育方法の必要性 学習スタイルを知ることの重要性 教師も自分の学習スタイルを知っておこう 第9章 言語習得に及ぼす個人 差の影響(1) 「言語(学習)適性」とは 早い(速い)人もいれば 遅い人もいます 語学の「センス」があるとは 学習の個人差(適性、スタイル)を考えてみる。 1.言語適性 1.1 「語学のセンスがある」とは、どんなことか 1.2 言語適性とワーキング・メモリーの容量 1.3 言語適性とどうつきあっていけばいいのか 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか What is “sence” ? 語学のセンスとは? 野球などスポーツ、ファッションのセンス 勉強(数学のセンス) モデル音に近い発音がすぐできる人 自己紹介がすぐできる人 一日で差が付くことも… 言語(学習)適性は存在する 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか MLAT(Modern Language Aptitude Test) ①新しく聞いた音を識別し記憶する能力 (文法的感受性) ②と③を合わせて 言語分析能力とも ③文法的規則を帰納的に推論できる能力 (音韻符号化能力) ②文法的機能を認識する能力 1950年代に開発された言語適性テスト (帰納的言語学習能力) ④音と意味の結びつきを暗記できる能力 記憶力 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか MLAT(Modern Language Aptitude Test) 言語学習の成否を予想できるとされるが、コミュニ ケーション重視の能力では、疑問がある。 どの要素が第二言語習得過程に関わるかに関心。 例:文法分析能力は、常に同じ影響 例:学習初期の段階では①音韻符号化能力がもっ とも重要 例:④記憶力:学習が進んだ段階でより重要(思春 期を過ぎて成功した学習者の例など) 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか 日本の日本語学校の学習者の調査 学習開始から長期間(15~21か月)、言語適性と学 習成果の関係を調査 当初は「音韻的短期記憶」が大きく影響、ある程度 進むと影響は少なくなる 学習者の言語適性は、一様に高い低いではなく、 強い点も弱い点もある学習者がいる 向山陽子(2009a、2009b) 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか 日本の日本語学校の学習者の調査(適性要素 のパターン) (1)言語分析能力が高い学習者は学習が進むのに 対して、低い学習者は学習成果を上げるのが難しい。 (2)音韻的短期記憶は学習の初期段階で影響 (3)音韻的短期記憶が劣っていても言語分析能力 で補うことができる ⇒言語分析能力が言語学習の成否にかかわる 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか アラビア語を学ぶ英語母語話者 A:言語分析能力が高いタイプ B:記憶の能力が高いタイプ 両方が高いタイプは少ない(一般的ではない) ⇒第2言語習得にはA、B、2通りのパターンが ある ⇒ただし、これは学習開始から100時間程度のもの なので、長期間での成功とはいえない 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか 音声の認識力と記憶力の影響 日本国内での状況にとって重要 「直接法」(さまざまな母語話者) ⇒目標言語の音声を処理する必要がある。 音声の認識能力の高低が(少なくとも初期では)影 響する ⇒板書を多くして目からの情報を増やす ⇒復習できる音声教材を与える 1.1 「語学のセンスがある」とは 、どんなことか 言語分析能力の高低 低い学生にはより明示的な説明 形式と意味の関係や規則に気づくための助けを与え ることが必要 インプットへの気づきを促すこと(インテイク) 向山陽子(2009a、2009b) 1.2 言語適性とワーキング・メモ リーの容量 ワーキング・メモリー(Working Memory作業記憶) 脳の記憶のシステムは覚えること以外にも使う 例:読むとき:一時的に記憶しながら文や文章の意 味をとる 例「山田さんは昨日、佐藤さんと京都へ行った」 ⇒記憶し、前後と関連付けながら進む 例「久しぶりに電車に乗って買い物に出かけてみる と、街中がクリスマスのイルミネーションでとてもき れいだった。」 1.2 言語適性とワーキング・メモ リーの容量 ワーキング・メモリー(Working Memory作業記憶) 例「久しぶりに電車に乗って買い物に出かけてみる と、街中がクリスマスのイルミネーションでとてもき れいだった。」 「(電車)ショッピング?」「東京、銀座や新宿、渋 谷?」、「クリスマスのイルミネーション⇒12月」「街 の人はみんなコートを着ている」 ⇒すでに持っている知識や経験と照らし合わせな がら理解する。スキーマschema 情報を処理しながら必要な情報を一時的に保持す るもの 1.2 言語適性とワーキング・メモ リーの容量 ワーキング・メモリー(Working Memory作業記憶) 外国語の場合、直前に読んだことも忘れてしまう。 ⇒よくあること。 外国語を処理するときは文字認識や単語処理で ワーキング・メモリーへの負担が大きくなる。 ワーキング・メモリーの容量は個人差がある。 第二言語習得と関係がある。 1.2 言語適性とワーキング・メモ リーの容量 ワーキング・メモリー(Working Memory作業記憶) ワーキング・メモリーを容量一杯まで使うと…気づき にくい ⇒インプットの過程で形式に気付く ⇒ギャップに気付く ⇒リキャストに気付く ワーキング・メモリーとの関係が言語学習に関 わる 1.3 言語適性とどうつきあって いけばよいか 「言語適性は変えられない?」 子どもの頃のまま? 教師(学習者も)の心得 (1)適性は連続的(高いか低いかではない) (2)適性は一枚岩ではなくさまざまな側面がある 1.3 言語適性とどうつきあって いけばよいか (1)「適性が低いから…」 「適性は学習が早いか遅いかに影響するだけ」 適性があまり高くなくても条件が整えば、第二言語 習得は可能。 世界はバイリンガル(二言語使用)、マルチリンガル (複数言語使用)が当たり前 1.3 言語適性とどうつきあって いけばよいか (2)「適性は一面的ではない」 「強い点もあれば弱い点もある」 「適性処遇交互作用」 ATI(Aptitude Treatment Interaction) 学習者の適性に合わせた教育方法が必要 例:音声認識に関する力が弱い学生への対策 例:カナダの例:適性に合った方法で学ばせること で学習も進み、満足度も上がった。 例:言語分析能力、記憶力 1.3 言語適性とどうつきあって いけばよいか 「明示的」か「暗示的」か 明示的の方が学習適性への影響が少ない 下位グループは明示的に教えたほうがいい 文法分析能力が高くない学生には明示的指導の方 が効果がある。 ⇒クラス全員の言語適性に合わせた授業というの は不可能。 理想と制約(現実) 1.3 言語適性とどうつきあって いけばよいか 同じように対応が原則× 例:「言語は音から学ぶのが大切」 例:「文法説明はしない方がいい」 ⇒言語適性の違いを切り捨てるようなもの 個別に対応したり、補充教材やコンピューターなど の利用などを考える ⇒適性に対応していく工夫がこれからの教育現場 に必要 1.3 言語適性とどうつきあって いけばよいか 「言語適性に合わせて」 経験として学習者に差が出ることは分かる ⇒なぜ起こるのか、学習者の習得にどう影響する かを考えることが大切 ⇒遅れの出る学生に対する対応を考える 第二言語習得研究の成果 ⇒教師の直感や経験を否定するものではない ⇒経験を積み重ねていくための「助け」となるもの 2.女性のほうが言語学習に向い ているのか 2.女性のほうが言語学習に向い ているのか 「女性の方が語学(外国語)に向いている」「女 性の方が語学が得意だ」 →女性の方が成績がいい? →女性はおしゃべり(生得的?遺伝子レベル?) →通訳者は女性が多い?(報酬や雇用形態) 結果は分かれる 女性の方が聴解力、記憶力がいい 男性の方が語彙の聞き取りがよかった 男性と女性に差はなかった 2.女性のほうが言語学習に向い ているのか 違いはない、ちょっと(女性の方が)向いてい るかもという程度 学習ストラテジーstrategy(方略、戦略) →女性の方がさまざまなストラテジーを使用。男 女に違いがある →女性の方が外国語学習への動機づけが高い。 →成果にも影響を与えている? 2.女性のほうが言語学習に向い ているのか 母語習得、母語での言語能力 →女性の方が優れている →違いはない (子どもの母語習得)女の子の方が早い その要因は? 女の子には長く複雑な会話、返答を促す( →社会や文化による差かも →性差は社会や文化で形成される 2.女性のほうが言語学習に向い ているのか 母語習得、母語での言語能力(環境以前) 人の顔とモービルmobile(同じ大きさ) 男はモービル(物に興味)を見る、 女は顔(人に興味)を見る →(環境の影響も0ではない) その要因は? 全体的な傾向だけであって、個人差はある。 →(男でも顔、女でもモービルを見ることも) 男女のステレオタイプを作ることは避ける必要 3.学習スタイルの違い 3.1 3.2 3.3 3.4 学習スタイルは外国語学習に影響するか 学習スタイルに合った教育方法の必要性 学習スタイルを知ることの重要性 教師も自分の学習スタイルを知っておこう 3.1 学習スタイルは外国語学習 に影響するか 認知や情報処理のスタイル 認知スタイル: 行先を覚える方法(方向、目印) 電気製品のマニュアル(やってみる、熟読) 人が情報を処理したり覚えたり考えたりするとき のスタイル 学習スタイル: 上記のうち学習に関するもの 3.1 学習スタイルは外国語学習 に影響するか 場独立(field independence) 細部を全体や背景から切り離して把握する傾向 の認知スタイル 分析的思考に優れている 場依存(field dependence) 細部よりも全体を見る傾向の認知スタイル 社会的スキルに優れている 3.1 学習スタイルは外国語学習 に影響するか 場独立か場依存か 隠し絵のようなテスト:見つけられれば場独立 場独立:教室での学習に有利(仮説) 場依存:自然な学習で有利(仮説) 場独立性⇒文法力を測るテストで高得点 場依存性⇒コミュニケーション能力と関係 →場独立性と関係ないという調査も 3.1 学習スタイルは外国語学習 に影響するか 場独立(細部)か場依存(全体)か どちらがいいというわけではない 「図形をみつけだせない」=「場依存が高い」? 能力や適性では? 学習スタイルとして適切に判断する方法など は確立しておらず、外国語学習に関係する かも不明。 3.1 学習スタイルは外国語学習 に影響するか その他、学習スタイル 熟慮型・衝動型:じっくり考えて判断するかどう か 音声型・視覚型:音声を好むか文字など視覚を 好むか →外国語学習の成果に関係するかは不明 →しかし、(学習スタイルとして)教師が知っ ておくこととして重要→次節以降で 3.2 学習スタイルに合った教育 方法の必要性 外国語学習への臨み方は個人個人で異なる 認知の仕方、分析の仕方、整理の仕方などが違う 教育方法が学習スタイルに合っているか、教育 効果は? 学習スタイルに合った教育方法によって教育の効果 が上がることが示されている ⇒「適性処遇交互作用」→学習スタイルも同様 3.2 学習スタイルに合った教育 方法の必要性 (逆に)各自のスタイルに合わない教育方法で 学ばせることも必要 →自分のスタイルによる限界を克服させる どんな学習スタイルが有効か、よりむしろ、「異 なる学習スタイルにどう対応するか」 学習スタイルと教育の関係を研究する 「教育方法と学習スタイルが合わないことが、多くの 外国語学習困難を引き起こす原因となる」 →例:会話授業のようなやり方がそもそも嫌である →どうやったらやり方に慣れてくれるか 3.2 学習スタイルに合った教育 方法の必要性 学習スタイル「音声型」「視覚型」、(「耳型」「目型」 とも)はっきりとした研究結果は出ていない 日本国内のやり方(直説法)は「音声型」の学習スタ イルに合っている →「視覚型」の学習者に学びやすいように目(視覚) からの情報も与えることが必要 どちらのスタイルにも慣れる 耳からの情報を拾えなくても困る 最初から自身と異なるスタイルでは困難 →ある程度の助けを出しながら、耳からの学習に 3.2 学習スタイルに合った教育 方法の必要性 学習スタイルと言語適性の見極め 慣れていない(例:音声中心の教育を受けてこな かった) 元から持っている学習スタイル(例:語学以外の勉強 でも視覚型を好む) 言語適性(例:適性として音の認識能力が低い) 学習者をよく観察し、根気よく手助けをする 3.2 学習スタイルに合った教育 方法の必要性 全員の学習スタイルに合わせることは不可能 特定のスタイルに合った方法ではなく、様々なスタイ ルの学習者が対応できるバランスのとれた教え方を する。 個々の学習者に自分のスタイルに合った学習方 法を取るよう促す 必要に応じて新しい学習スタイルを身につけさ せることも必要 3.3 学習スタイルを知ることの 重要性 学習者の学習スタイルを知ることが重要 教師:学習者のスタイルを考慮した教え方 学習者:より効果的な学習方法を(教師と)考える 学習者が学習スタイルを広げていく手助けを する 例:徐々に耳からの学習に慣れていく 例:分析しすぎず、チャンク(かたまり表現)にして 覚える手助け 3.3 学習スタイルを知ることの 重要性 例:イタリア人学習者の例 日本語は(イタリア語に)直訳できない言語だとわか ったので細かく分析したり直訳しないようにした。 コミュニケーション能力に長けたイラン人学習者の 例を見て⇒「いつどんな時に使うのか」「あいづちや イントネーションが上手い」 クラスメートと自分の学習スタイルの違いに気づき、 自分のスタイルとどちらもあれば理想的だと気付く →クラスでの学習が非常にいい方向に →台湾の学生はどうか 3.3 学習スタイルを知ることの 重要性 学習スタイルを知るための調査 インターネットでもダウンロードできる どんな傾向か調べることができる 例:Learning Style Surver 「どちらがいいか悪いかというものではない」 「自分が傾向的に使わない方法も必要」 学習者と一緒にこのような学習スタイル調査をして いくことも必要 3.4 教師も自分の学習スタイル を知っておこう 教師の学習スタイルが教授(教える)スタイ ルに影響する 人に教えるときも自身の学習スタイルに合った 方法を選びやすい 自分にとって良い方法、わかりやすい方法は、 他の人にとってもよいと考えやすい →すべての学習者にとっていいとは限らない 3.4 教師も自分の学習スタイル を知っておこう 自身の学習スタイルを知り、学習者のスタイ ルと異なっていることを知ることは重要 スタイルが異なると、教育方法と学習スタイルが 合わないことになる →学習者の心理的な不安や不満、動機づけの 低下に結びつき、学習を阻害。 “Style Wars”(スタイル戦争) 3.4 教師も自分の学習スタイル を知っておこう 学習スタイルの調査を教師自身が自分でや ってみることが役に立つ。 筆者も実際にやってみたところ、教師の間でも一 人ひとり違っていることがわかった。 教師同士(学生同士でも)認知の仕方や情報処 理の仕方の違いなどを話し合ってみてはどうか。 3.4 教師も自分の学習スタイル を知っておこう 学習スタイルはまだまだ研究が必要な分野 ロッド・エリス(1994):「学習スタイルの定見はな い。効果的なスタイルも不明。フレキシブルに学 べる学習者が有利かも」(要約) ゾルタン・ドルネイ(2005):「エリスと同じ」 ロッド・エリス(2008):「私の立場は変わりない」 学習スタイルはあまり研究が進んでいない。 未開拓といえる。 3.4 教師も自分の学習スタイル を知っておこう 教師が知っておくこと 学習者一人ひとりが異なるアプローチをしている こと スタイルに優劣はないこと 自分がよいと思っても、ある学習者には合わな いこと) →一律に「一つの答え」があるわけではない 3.4 教師も自分の学習スタイル を知っておこう 「学習者中心」とは 学習者主体の活動などを入れても、それだけの ことではない 学習者の個人差や学習スタイルなども考慮して 効果的な教育を行うことも含む →本来の「学習者中心」の授業を目指すた めに教師に求められるものは非常に大きい 役割である 第9章のまとめ まとめ 1.言語適性(第二言語習得にかかわる) 2.ワーキング・メモリー(作業記憶) ①音韻符号化能力②言語分析能力③記憶力があ る。学習の初期段階では①が大きくかかわるといわ れる 容量の違いが言語習得に影響を与える 3.学習者の適性と教育方法 学習者の適性に合わせた教育方法が必要。 まとめ 4.学習スタイルと第二言語学習 5.さまざまな学習スタイルへの対応 学習スタイルと第二言語学習の成果の関係ははっ きりしていない。各自の学習スタイルに合った教育 方法で効果が上がることは分かっている。 さまざまな学習者が対応できるようなバランスのと れた教え方にする必要。 6.学習スタイルの拡張への支援 学習者が学習スタイルを広げていくことに支援する ことも必要
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