2013年7月9日(火)-10日(水) 木曽シュミット・シンポジウム2013@木曽福島 ① 東京学芸大学 自然科学系 宇宙地球科学分野 西浦慎悟 中西裕之(鹿児島大・理) 樽沢賢一、三戸洋之(東大・理・天文センター・木曽) 森 由貴(東大・理)、宮田隆志(東大・理・天文センター) 原 正(埼玉県立豊岡高校) 伊藤信成(三重大・教育・理科) 東大木曽観測所・銀河学校2003 ・ C班の皆さん 埼玉県立豊岡高校・天文部の皆さん 1.背景~銀河団とハッブルの法則 ● 銀河団 数100から数1000個の銀河から なる巨大な銀河集団。ただし、単 なる銀河の集合体では無い。 ・形態・密度関係 (Dressler 1980, ApJ, 236, 351) ・光度関数 (Binggeli et al. 1988, ARA&A, 26, 509) ・数1000万Kもの高温プラズマ (Schwarz et al. 1992, A&A, 256, L11) ・ダークマター (White et al. 1993, Nature, 366, 429) 他にも重力レンズや大規模構造 など天文学的に重要かつ興味深 い天体。 ② ● ハッブルの法則とハッブル定数 1929年 ハッブルとヒューメーソンが 見出した、銀河までの距離と後退速度 の間の比例関係。膨張宇宙という概念 が確立する、大きな切欠を与えた。 V = H0 × d V :系外銀河の後退速度(km/s) d :系外銀河までの距離(Mpc) H0 :ハッブル定数(km/s/Mpc) 比例定数 H0 はハッブル定数と言い、 膨張宇宙概念の下では、その膨張速 度を、また、逆数 1/H0 はハッブル時 間と呼ばれて宇宙年齢の目安となる。 ● 高等学校学習指導要領における取り扱い ・ 旧・高等学校学習指導要領 ③ ・ 新・高等学校学習指導要領 地学Ⅰ:宇宙の膨張について は定量的な扱いはしない。 地学Ⅱ:宇宙の膨張を扱い、 ハッブルの法則に触れること。 現行の地学Ⅰ・Ⅱの全ての 教科書で、ハッブルの法則が 取り上げられている。 動機 : 銀河団とハッブルの法則の両 方を取り込んだ教材を作成すれば、 宇宙の広がりと現代の宇宙像を同時 に学べるのではないか? 地学基礎:銀河系を含む銀河群、 銀河団の存在を取り上げ、大規 模構造にも触れる。 地学:宇宙の様々な銀河の存在 や銀河の後退速度を理解するこ と。現代の宇宙像を理解するこ と。「銀河の後退運動」について は、ハッブルの法則も扱うこと。 現行の地学基礎の全ての 教科書で、銀河団が取り上 げられている。 ● 教材の先行研究例 ・ 銀河団をテーマにした教材・演習 高校生対象は事実上皆無 大学初学者向けとして、 ④ 横尾(1993)「銀河団」 in 横尾武夫編「新・宇宙を解く」, pp. 205-207, 恒星社厚生閣. ・ ハッブルの法則をテーマにした教材・演習 地学分野の教科書など 大学初学者向けには、 福江(1993)「ハッブルの法則」 in 横尾武夫編「新・宇宙を解く」, pp. 189-191, 恒星社厚生閣. 戎崎(1995)「宇宙論と膨張宇宙」 in 「ゼミナール宇宙科学」, pp. 128-138, 東京大学出版会. 体験教室などでも頻繁に取り上げられ、オリジナル教材も多く、実践例も 豊富なはず、だが・・・ 査読論文として発表されることは殆ど無い。 V = H0 × d V :系外銀河の後退速度(km/s) d :系外銀河までの距離(Mpc) H0 :ハッブル定数(km/s/Mpc) 距離が既知の系外銀河サンプルに対して、 分光データから後退速度を求める。(原ほか, 2009, 地学教育, 62, 151) 後退速度が既知の系外銀河サンプルに 対して、その銀河までの距離を求める。(西 浦ほか, 2007, 地学教育, 60, 53) 2.本教材の基本原理 銀河の実サイズを仮定し、見かけのサイズ(視角)からその銀河 までの距離を算出する(西浦 2007)、方法を踏襲する。 実サイズD(kpc) 見かけの広がり [視角]p(度) d ( Mpc) D(kpc) ⑤ 1 180 1 103 π p (度) p 数学Ⅰ(高1後半で学習する?) 銀河までの距離d(Mpc) 理屈としては中学生でも理解できる のでは?(要実践) [長所] 必要な物理的・数学的背景が比較的少ない方法で銀河までの距離 を算出できる。 [短所] 仮定する「実サイズ」の影響が大きく、誤差が大きい。 「本教材」 銀河団銀河の見かけのサイズ分布から、銀河を3種に 分類し、実サイズを巨大銀河(50kpc)、通常銀河(30kpc)、 矮小銀河(10kpc)と仮定する。 3.本教材の銀河団サンプル ⑥ 今までの観測実習などにおいて、Kiso105cmシュミット+2kCCDで観測された 7銀河団をサンプルとして選出。実習実績のある銀河団を優先した。 銀河団名 赤経 赤緯 後退速度 (J2000.0) (J2000.0) (km/s) Abell 154 01h 10m 58s +17d 39m 56s 19067 BM分類 II Abell 160 01h 12m 51s +15d 30m 54s 13401 III Abell 1656 12h 59m 49s +27d 58m 50s 6925 II Abell 2151 16h 05m 15s +17d 44m 55s 10972 III Abell 2199 16h 28m 39s +39d 33m 06s 9032 I Abell 2443 22h 26m 07s +17d 20m 17s 32378 II Abell 2666 23h 50m 56s +27d 08m 41s 8042 I 注) 赤経、赤緯、後退速度はNED(NASA Extragalactic Database)より 注) BM分類は Abell et al. (1989) ApJS, 70, 1-138. より ● 銀河団サンプルの観測データ 銀河団名 観測日 ⑦ 観測バンド(露光時間×枚数) Abell 154 2011年8月30日 B:300s×3、V : 300s×3、Rc : 210s×3 2011年8月31日 Abell 160 2004年8月12日 B:180s×1、V : 180s×1、Rc : 120s×1、Ic : 90s×1 Abell 1656 2003年3月09日 B:300s×1、V : 300s×1、Rc : 180s×1、Ic : 180s×1 Abell 2151 2003年2月11日 B:300s×1、V : 180s×1、Rc : 180s×1 Abell 2199 2003年2月11日 B:300s×3、V : 300s×3、Rc : 180s×3 Abell 2443 2004年8月12日 B:300s×3、V : 300s×3、Rc : 180s×3、Ic : 180s×3 Abell 2666 2011年8月01日 B:300s×3、V : 300s×3、Rc : 180s×3 ● 画像解析 IRAFを用いて、典型的な手法でBiasの合成、Biasの差し引き、フラットの合成、 フラット・フィールディングを行った。本教材では、銀河の見かけサイズの測定が 主であるため、フラックス較正は行っていない。 ● 教材の銀河団画像例(Vバンド) Abell 1656, v = 6925 km/s 後退速度の小さい方から ⑧ Abell 2666, v = 8042 km/s ⑨ Abell 2199, v = 9032 km/s Abell 2151, v = 10972 km/s ⑩ Abell 160, v = 13401 km/s Abell 154, v = 19067 km/s ⑪ ● 本教材の有効性の検証 ① 銀河団銀河の見かけサイズ 分布から銀河団までの距離を 求め、ハッブル定数(宇宙年齢) を導出するまでに、どのくらいの 時間が必要か? ② 本教材から導かれるハッブ ル定数(宇宙年齢)は、妥当な 値になっているか? 本教材による実践が必要。 Abell 2443, v = 32378 km/s 4.本教材による実践 ● 銀河学校2003・C班 ・ 2003年3月28~30日 ・ 高校1・2年生12名 ・ ステライメージ3(アストロアーツ 社製)を使用 ・ サンプルはAbell 1656, 2151, 2199の3銀河団 ・ 整約とカラー画像作成に 約120分 実践 結果 ・ 30-40個の銀河検出から見か けサイズの分布導出に約180分 ・ ハッブル定数・宇宙年 齢の算出に約60分 ● 東京学芸大学・ 天文学特別演習 ⑫ ・ 2013年3月 ・ 東京学芸大学・教育学部・天文 学研究室3年生3名 観測実習にて画像整約の経験は あるが、銀河の検出などについての 経験は事実上皆無(高校生と同じ)。 ・ マカリ(国立天文台とアストロ アーツ社の共同開発)を使用 ・ サンプルはAbell 154, 160, 2443, 2666の4銀河団 ・ 整約済V画像を使用 実践 ・ 50個の銀河検出と 結果 見かけサイズの分布 導出に約120分 ● 教材実践で得られた銀河団銀河の見かけサイズ分布 ・ 銀河の検出は1銀河団50個を 目標としたが、銀河学校2003では 達成できなかった。 ・ 1銀河団あたり巨大銀河1-2個、 残り半分づつを通常銀河と矮小 銀河とすることを目安とした。 ⑬ 銀河数 = 40 距離 = 191±67 Mpc ■巨大銀河、■通常銀河、□矮小銀河 銀河数 = 29 距離 = 134±44 Mpc 銀河数 = 30 距離 = 122±38 Mpc (銀河学校2003で得られた三つの銀河団銀河の見かけサイズ分布) ⑭ ■巨大銀河、■通常銀河、□矮小銀河 銀河数 = 50 距離 = 247±79 Mpc 銀河数 = 50 距離 = 172±59 Mpc 銀河数 = 50 距離 = 240±93 Mpc 銀河数 = 50 距離 = 155±55 Mpc (天文学特別演習で得られた四つの銀河団銀河の見かけサイズ分布) ● 教材実践で得られた結果 対象 a. 高校1・2年 ハッブル定数 (km/s/Mpc) 宇宙年齢 (億年) 59.5 ± 5.6 164 b. B3 93.1±17.8 105 c. B3 (A2443除く) 72.1±7.4 135 d. 全部 83.5±12.4 117 e. 全部 (A2443除く) 67.3±5.1 145 科学研究費補助金(22300269[PI 長谷川], 23501014[PI 伊藤], 24654046[PI 西浦])に 感謝いたします。 ● 高校1・2年生 ○ 学部3年生 ⑮ Abell 2443 bd c e a ・ A2443 の距離を大きく過小評価? ・ HST, WMAP, SPITZER, PLANCKによる近年 の成果 H0 = 69 – 75 km/s/Mpc (個々の誤差は±0.8-2.1程度) 5.まとめ ① 銀河の検出・サイズ分布の作製に120-180分が必要なため、 正規の授業・演習向きではない 課外授業や自習向き。 ② 誤差は大きい(約40%)が、得られるハッブル定数は妥当な値。 (終)
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