豊饒の 海を持続的に利用するためのイノベーション In

豊饒の海を持続的に利用するため
のイノベーション
Innovation for sustainable use of
the sea of fertility
松田裕之(横浜国立大学)
Hiroyuki Matsuda (Yokohama National University)
14:00-14:30
Overview
• 日本は世界有数の豊饒の海(藤倉克則氏)
• 環境省「海洋生物多様性保全戦略」
• CREST「海の保全・再生に資する基盤技術の創出」
• 零細漁業は海の防人
• 統合的沿岸海洋管理
http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/cop10_report/pdf/fujikura.pdf
藤倉克則氏(JAMSTEC)
The total number of described species of all
taxa in Japanese waters is 33,629
 The total number of marine species described from
the global ocean was estimated at about 250,000 .
 The Japanese value of 33,629 approaches 13.5% of
all marine species.
 The total volume of Japanese EEZ is only 0.9% of
the global ocean.
©H. Kawai
High species richness in Japanese waters!!
© Katsuhiko Tanaka
© AORI
© Katsuhiko Tanaka
© JAMSTEC
http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/cop10_report/pdf/fujikura.pdf
藤倉克則氏(JAMSTEC)
なぜ日本の海は豊かなのか
The reason why such high diversity
The various ecosystems existing in Japanese waters
From drift ice to coral reef
From tidal to hadal zones
Oyashio (Cold current)
© Katsuhiko Tanaka
Tidal flat
© Ryo Minemizu
Ctenophore in drift ice
Tectonically active
Kuroshio (Warm
current)
© Yasuo Furushima
Corals
© JAMSTEC
Crinoids, 9100m deep
+よく研究され + 持続可能によく利用されてきた
Overview
• 日本は世界有数の豊饒の海(藤倉克則氏)
• 環境省「海洋生物多様性保全戦略」
– 世界中で危機を煽っているが・・・
– もう少し冷静に見てみたい
• CREST「海の保全・再生に資する基盤技術の創出」
• 零細漁業は海の防人
• 統合的沿岸海洋管理
「海洋生物多様性保全戦略」
(環境省2011年)
https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/index.html
海は死につつあるか
• FAOやミレニアム生態系評価や一般雑誌でも
同様の分析が見られる。
環境省favor/favor03.html
同じ著者が前提を変えて両極端の真逆の論文を・・・
Rebuilding Global Fisheries
(Worm et al. 2009)
Boris
Worm
8
野生水産(生物)資源は非定常(魚種交替)
• 10年後までの長期的利用が困難(釧路の魚粉工場)
9
漁獲量は持続可能に増産可能!
Source: 水研センター資料より
10
水産業は持続可能に増産可能
• 低栄養段階の資源を利用する
– サンマは毎週食べてよい(生産調整)
• できるだけ人間が直接食べる
• 減った資源は保護する
– 選択的漁獲技術の開発改良
• その時に豊富な資源を利用する(魚種交替)
• 漁獲量変動に耐える
– 市場、消費者、加工利用のInnovationが必要
海洋保護区の定義
(環境省海洋生物多様性保全戦略)
• 「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性
の保全および生態系サービスの持続可能な利用を目的
として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な
手法により管理される明確に特定された区域。」
参考)生物多様性条約(2010) 愛知目標11
2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、
また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態
系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管
理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護
地域システムやその他の効果的な地域をベースとする
手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観又は
海洋景観に統合される
IUCNの保護区カテゴリー(Dudley 2008)
保護区Category of protected areas
Ia 厳正自然保護区
Strict nature reserve
Ib 原生自然保護区
Wilderness area
II 国立公園
National park
III 天然記念物
Natural monument or feature
IV 生息地/種の管理区域 Habitat /
species management area
V 陸上/海洋景観保護区
Protected landscape / seascape
主な管理目的Areas managed mainly for
厳格な保護/主に科学的研究
Strict protection
厳格な保護/主に原生自然の保護
Strict protection
主に生態系の保全と保護
Ecosystem conservation and protection
主に特定の自然の特徴を保全
Conservation of natural features
主に人間の管理介入を通じた保全
Conservation through active management
主に陸上・海洋景観の保全及びレクリ
エーションLandscape / seascape
conservation and recreation
VI 持続的資源利用保護区 Protected 主に資源の持続可能な利用
Area with sustainable use of natural Sustainable use of natural resources
resources
日本にもMPAがたくさんある
(Yagi ら2010)
• 日本には海洋保護区が1161箇所以上ある
• そのうち1055は禁漁区である
• 3割以上が法的措置でなく漁協の自主管理
か
つ
て
日
本
は
M
P
A
を
先
導
し
た
加々美康彦氏
海洋保護区MPAが
広まった契機 田村剛
*「第1回世界国立公園会議」(62年・シアトル)
当時の沿岸域の急激な開発を背景に、
海洋・沿岸域の保護を討議、勧告
→ 日本の海中公園導入はこの流れをくむ
*「国際海中公園会議」(75年・東京)
海洋環境に保護区を設ける組織的アプローチ
の必要性を勧告
→ これがMPAに関する世界最初の国際会議!
今日のMPAは第二次大戦後、上記の会議を受けて世界的に
普及した。最初はサンゴ礁の保護、沿岸域の環境保護から出発
Overview
• 日本は世界有数の豊饒の海(藤倉克則氏)
• 環境省「海洋生物多様性保全戦略」
• CREST「海の保全・再生に資する基盤技術の創出」
• 零細漁業は海の防人
• 統合的沿岸海洋管理
CREST「海の生物多様性・生態系の把握に必要
な海洋生物多様性基盤技術」目的と趣旨
•
•
•
•
•
•
•
•
「計測技術」と「生態系モデル」の開発
「海洋生物多様性・生態系研究」の「ボトルネック」解消
開発した技術やモデルを実証するための観測調査
全栄養段階をつなぐ生態系モデル
高次生物の生物多様性を評価するモデル
多様な新規センサなど、観測の枠を広げる提案
その他全く新しいアイデアの挑戦的研究提案
工学系と生態学者が連携した革新的な技術発案
•
•
•
•
人的な汚染が進んだ沿岸域の生物群集の多様性の遷移、
海洋保護区における多様性維持のための条件設定
日本沿岸における有用魚類の生物量・生物組成の推移
亜寒帯太平洋の表層生物群集の多様性評価など
戦略的創造研究推進事業(CREST)文科省2011海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出
•海洋生物の遠隔的種判別技術の開発
赤松 友成
•センチメートル海底地形図と海底モザイク画像を基礎として生物
浦 環
サンプリングをおこなう自律型海中ロボット部隊の創出
•超高速遺伝子解析時代の海洋生態系評価手法の創出
木暮 一啓
五條堀 孝
•Digital DNA chipによる生物多様性評価と環境予測法の開発
•植物プランクトン群集の多様性に注目したナウキャスト技術開発 山中 康裕
•海洋生態学と機械学習法の融合によるデータ不足下の生態系評
岡村 寛
価手法の開発
•ハイパー・マルチスペクトル空海リモートセンシングによる藻場3次
小松 輝久
元マッピングシステムの開発
•北太平洋域における低次生態系の動的環境適応に基づいた新し Smith
い生態系モデルの開発
Sharwood
•シングルセルゲノム情報に基づいた海洋難培養微生物メタオミッ
竹山 春子
クス解析による環境リスク数理モデルの構築
•海洋生物群集の非線形応答解明のためのリアルタイム野外実験
仲岡 雅裕
システムの開発
•黒潮と内部波が影響する沿岸域における生物多様性および生物
山崎 秀勝
群集のマルチスケール変動に関する評価・予測技術の創出
生態系モデルの限界
• 単一資源管理は順応的管理で数学が大活躍
(ベイズ推計+確率力学制御モデル)
• 生態系アプローチには数学が登場しない
– Beyond mathematics (science!?)
• 生態系モデルには不確実性が考慮されない
三陸沖エコシム(Okamura2003)捕鯨しないとサバが減る?
単純さを求めよ。しかし、それを信じるな
ーーBegonら「生態学」序文
• 必要最低限の要因を考慮した数理モデルを
考える
• 観測誤差と過程誤差を考慮する
• Simple model with errors は反証可能(よく考
えてみれば成り立たないシナリオ,前提だけ
を排除する)
10/20/04
20
「単純で誤差を含むモデル」SMwE
の利点
SMwE
Complex models
• 直感的に説明しにくい
• 合理的な結果ならば直感的
•
に説明しやすい
• モデルの自由度(細工の余
地)が少ない
•
• 非現実的な前提だけを排除
する
• 多様な前提や予想を受け入 •
れる
• リスク分析に有効である
10/20/04
多くのパラメタの値を最
尤法などで推定
過去のデータを過適合
overfitting
将来を一意的に予想す
る
21
Overview
• 日本は世界有数の豊饒の海(藤倉克則氏)
• 環境省「海洋生物多様性保全戦略」
• CREST「海の保全・再生に資する基盤技術の創出」
• 零細漁業は海の防人
• 統合的沿岸海洋管理
漁業の構造(データは1997当時, FAO 1999)
国名
漁民数
漁船数
零細比率
アイスランド
6,300
826
0.63
ノルウェー
22,916
8,664
0.89
デンマーク
4,792
4,285
0.86
英国
19,044
9,562
0.82
フランス
26,113
6,586
0.78
カナダ
84,775
18,280
0.74
NZ
2,227
1,375
0.74
スペイン
75,434
15,243
0.76
米国
C.A. 290,000
27,200
0.53
韓国
180,649
50,398
0.9
日本
278,200
219,466
0.98
豪州
13,500
C.A. 5,000
N.A.
SSF < ISCFV 25 (the International Statistic Classification of fishery Vessels)
牧野光琢氏作成
零細漁船がほ
とんど(政府に
よるトップダウ
ンの監視はコス
ト高)
23
JC Castilla氏
チリの零細漁民優遇策
○企業体漁業
Landing (metric tons 1000)
*
9000
8000
A
1800
1600
FAL
Artisan & Industrial (includes algae)
7000
1400
Industrial
Artisan (includes algae)
6000
1200
5000
1000
4000
800
3000
600
2000
400
1000
200
0
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
Export Value ( US$ 1000)
5 miles
I
C
H
I
L
E
II
III
IV
V
RM
VI
VII
VIII
IX
X
XI
2005
▼零細漁業
XII
5 miles AEZ = Artisan Exclusive Zone (ca. 27.000 km2)
Territorial User Rights for
Fishers (TURFs) are
allocated to communities
with MEABRs.
•MEABRs =
Management and
Exploitation Areas for
Benthic Resources
24
松田の主張
• 沖合の漁業資源は膨大にある。ただし優占種が交
替する非定常系。これを持続的に利用する企業体
漁業の資源管理と加工流通技術が必要
• 沿岸「零細」漁業は地域の食糧安保、生態系機能
維持、多面的利用とともに考える(専有アクセス権)
• 河川を通じた陸域(集水域)と沿岸域の一体的な生
態系管理が必要
• 現在の河川管理・土地利用は沿岸生態系機能を大
幅に損なってきた。
• 自然エネルギーなどの海面利用と漁業は共存可能
25
日本の生態系サービス
• 日本は海外からの輸入と石油の恵みへの依存度を
高め、(衣食住燃料に)国内の自然の恵みを使わな
くなっている。(途上国では、自然の恵みの乱獲によ
る生物多様性の危機)
• にもかかわらず、おそらく、人間の福利は過去半世
紀の間に大幅に向上しているだろう。
• エネルギー資源としての石油依存度は減るだろう
が、化学繊維やプラスティックが減るとは限らない。
• 現在もなお、食料などの基本的な供給サービスは
生物に依存し、その持続可能性が問われる。
26
漁業占有アクセス権Territorial User
Rights in Fisheriesと共有地の悲劇
• 英米の漁業法
– 自由参入、乱獲を防ぐよう政府が管理
• 森林管理
– 所有者が管理(所有権=利用権)=入会権否定
• 日本の漁業法
– 漁協が占有し、管理する(≠所有権)
– 占有アクセス権(一種の入会権)
• どれが最適とはいえない
– 国立公園も、同様に国家間で異なる!