高K血症と乳酸アシドーシス

2012.08.24
救急部カンファレンス
於 第一会議室
高K血症と乳酸アシドーシス
腎センター 岡 英明
一般的な高K血症の対応
(高K血症を見たら?)
①ECGモニター
②K値を下げる
(細胞内シフト)
③Kを体外へ捨てる
①ECGモニター
テント状T派 → QRS幅延長 → P派消失
(借り テントで長く暮らす 北京)
カルチコール® 1Aをゆっくりiv
数分で効果発現 → 効果不足or消失したら再投与
【注意】 K値は下がらない(不整脈予防のみ)
②K値を下げる
(細胞内シフト)
GI療法:Ⓐ50%TZ 40ml+ヒューマリン® 4~8U iv
Ⓑ5%TZ 500ml+ヒューマリン® 5~10U div
代謝性アシドーシス(+)なら、7%メイロン® 2Aをゆっくりiv
or Ⓑ+7%メイロン®2A div
(1A=NaCl 1g相当)
体内総K:約3000mEq
細胞内に98%分布
Kin : 25~60mEq/日
尿out:20~50mEq/日
便out:5~10mEq/日
B.H.スクリブナー 著・柴垣昌功 訳,
体液-電解質バランス 臨床教育のために.
中外医学社, 1971 より引用
メイロン®で本当にK値は下がるか?
無尿の透析患者を対象
一方、腎機能が保たれてる場合に
(NaCl,) NaHCO3を投与すると・・・
尿
前
NaCl
NaHCO3
pH
5.7
5.2*
5.8
2.1
1.4
1.7
0.4
1.6*
2.5*
0.8
1.9*
8.3*✝
尿量
(ml/分)
Na排泄
(mEq/h)
K排泄
(mEq/h)
Am J Med 1988; 85: 507-512
遠位尿細管・集合管に
達するNa, HCO3が増加
↓・・・アルドステロン
集合管からのK分泌が増加
(特に高Kでは近位尿細管での
Na, HCO3再吸収が抑制)
Am J Physiol 1997; 273: F796-800
③Kを体外へ捨てる
・腎臓から → ラシックス®iv;体液量と腎機能を評価して20~100mg iv
・腸管から → ケイキサレート®6~12包(15~30g) 3x po
+下剤(大黄甘草湯®, D-ソルビトール®, ラクツロース® etc.)
緊急なら ケイキサレート®15~30g+さ湯100~200ml注腸
・上記で駄目なら → 透析(カテ挿入を含め開始まで30分~1h必要)
ラシックス®のceiling dose
正常腎機能
ラシックス®(mg)
CKD(iv/po)
iv
po
GFR:20~50
GFR<20
40
80
120/200
200/400
柴垣有吾, 保存期腎不全の診かた. 中外医学社, 2006
本症例
#1.高K血症(K 7.4) #2.AKI(無尿;Cr 1.8→3.52)
#3.徐脈(HR 40前後) #4.慢性心不全(BNP 1404)
#5.乳酸アシドーシス(pH 7.179, HCO3- 9.0, Lac 12.9)
#6.貧血(Hb 5.1)
#7.高Mg血症(Mg 4.63)
#8.超高齢(101歳)
貧血
(GI bleeding?)
高K
AKI
徐脈
心不全
(low out-put synd.)
高Mg
乳酸
アシドーシス
治療方針(私見)
貧血④
(GI bleeding?)⑥
②
高K ③
⑤
①
徐脈
AKI
心不全 ⑤
高Mg
乳酸
アシドーシス
(low out-put synd.)
①カルチコール®iv
②GI療法開始
③メイロン®iv?・・・乳酸アシドーシスは循環不全の結果?心不全(+)のためやや躊躇。
しかし、pH<7.2と高度であり少量はOKか?2Aゆっくりiv後、divで。
④輸血+⑤ラシックス®iv ・・・K排泄+ボリューム負荷するスペース確保も兼ねたい。
⑥緊急内視鏡・・・急性出血が疑わしい。
*AKIの原因は?・・・腎後性・hypovolemiaは無さそう。Low out-put症候群か?
余談:RCC輸血でのK負荷量は?
• Ir-RCC-LR 2(約280ml)の血清K値は10~60mEq/l
• (Htは約52% → 血清は約130ml)
• K含有量は 1日目0.2mEq、7日目4.6mEq、
14日目6.2mEq、21日目7.1mEq
照射赤血球濃厚液-LR「日赤」 添付文書より
因みに、ラクテック・ソリューゲン 500ml → K 2mEq
ビーフリード・ソリタT3 500ml →K 10mEq
フルカリック1~3号 1袋
→ K 30mEq
経過
・上部消化管は正常。CTでも出血源不明
・ラシックス®40mg ivに無反応
・尿生化は腎前性パターン (FEUN=14%, FENa=1.2%, U-Na/U-K=48/48.1)
・胃管挿入しケイキサレート®+D-ソルビトール®+大黄甘草湯®投与…
…を試みるも挿入できず
・プロタノール®持注 → ドパミン®へ切り替え ⇒ HR 40~80, BP 120/50
・ラシックス®100mg iv x2回/dayで400ml/day程度と多少反応
・しかしCK, LDH, AST/ALT, BUN/Cr↑↑, K→持続
貧血
(GI bleeding?)
超高齢が無ければ・・・
一時的ペースメーカー
& 臨時透析
が早いのだが・・・
高K
AKI
徐脈
心不全
(low out-put synd.)
高Mg
乳酸
アシドーシス
本症例の血ガスの推移
A
A
V
V
V
7.129 7.217 6.986 7.263 7.429
pH
正常値
A
V
7.40±
0.03
7.35±
0.03
pO2
138.0
73.8
31.3
33.9
60.2
83~108
25~55
pCO2
25.1
26.7
39.4
45.3
45.2
37~43
42~48
HCO3
9.0
10.4
8.9
19.8
29.4
22~26
23~27
BE
-17.8
-15.8
-20.5
-6.1
5.1
-2~+3
tHb
5.2
4.6
6.1
6.4
7.5
12~17.5
同左
K+
6.9
6.2
6.4
6.8
4.8
3.4~4.5
同左
Lac
12.9
14.1
16.0
6.3
1.2
0.5~1.6
同左
測定
時刻
8/20
10:25
8/20
13:15
8/20
17:01
8/21
8:56
8/23
9:57
輸血
少量メイロン®
少量メイロン®
カテコラミン
ようやく
利尿期 & K↓
乳酸アシドーシス
【主な原因】
①組織低酸素:ショック・敗血症・心不全・低酸素
②肝不全
③アルコール中毒
④Vit.B1欠乏 ⑤メトグルコ®
【治療の原則】 1) 心拍出量の改善(輸液・強心薬・昇圧薬)
2) 貧血の是正(輸血)
3) 低酸素血症の改善(O2投与、呼吸管理)
【メイロン®投与は?】
ⅰ) 原病の改善が直ぐに見込めない
ⅱ) pH<7.2の高度のアシデミア
ⅲ) 換気が十分に確保されている
ⅳ) 目標HCO3-は10mEq/l (pH=7.2で呼吸性代償が正常ならHCO3-=8~10mEq/l)
ⅴ) 必要量=(10-x)×BW×0.5(mEq) (0.5~2hかけて50~100mEq/回まで)
柴垣有吾, より理解を深める! 体液電解質異常と輸液 改訂3版. 中外医学社, 2007
乳酸アシドーシスへのメイロン®投与の議論
乳酸アシドーシスetc.の有機酸アシドーシスは有機酸(乳酸)自体が病態の改善により、アルカリを生み出すので、
アルカリ投与は原則としては適応になりません。
無機酸アシドーシス(尿細管アシドーシスや重症下痢症etc.)で、かつ腎不全のため重炭酸再生(腎で行っていま
す)が出来ない病態がアルカリ投与をする最も適した対象となります。
乳酸アシドーシスでもそれでもアルカリ投与が行われている背景は、ショックなどの状況において、しばらく原病の
改善が見込めず、組織低酸素状態(乳酸産生)が持続する場合に原病の治療が奏功するまでの一時しのぎや、あ
るいは、アシデミア自体によるカテコラミン不応性の循環不全(心収縮力不全)が強く疑われる場合の心収縮力改
善目的で行われるものと考えます。
アシデミアのnegative inotropic effectはpHが7.15-7.20未満で顕著になると言われていますので、その値が1つの
アルカリ(メイロン®)投与の域値となっていると思います。
しかしながら、臨床でショックの患者における重炭酸Naの有用性はRCTなどのエビデンスレベルの高い研究では
証明されていません。CPRの状況においても同様に有用性に疑問が呈されています。
Cooper DJ et al. Ann Intern Med 1990; 112: 492-498
Mathieu D et al. Crit Care Med. 1991; 19: 1352-1356
そもそもアルカリ(重炭酸イオン)投与で期待されるのは末梢組織におけるバッファー能の改善にあるはずですが、
バッファーが有効に作用するにはアルカリが酸と結合してできるCO2が末梢組織の毛細血管に取り込まれ、更にそ
れが肺まで送られることが前提です。
この前提に必要な条件が動脈血のPCO2が低いこと、すなわち十分な換気がなされていること、更に、静脈血の
PCO2が低いこと、すなわち末梢循環が維持されていることです。
つまり、換気と循環が適切でない限り、理論的にはいくらバッファーを投与しても有効に機能しないことになります。
Letter from 柴垣有吾先生
心肺蘇生時の同時採血
動脈血
混合静脈血
pH
PCO2
7.41
32↓
20
7.15↓
74↑
24
HCO3-
循環不全時 には末梢血流が低下しCO2が組織に蓄積
⇒結果、動脈血と静脈血のPCO2に大きな乖離が生じる
黒川清 監訳, 体液異常と腎臓の病態生理 第2版.
メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2007
最後に、、、心不全に伴うAKI
HR↓+拡張期BP↓
(=MAP)
別名
『うっ血性腎不全』
心不全
心拍出量低下
静脈うっ滞
腎血流量低下
腎内血流うっ滞
RASの賦活化
エンドセリン-Ⅰの活性化
AKI
腎静脈圧上昇
輸入細動脈の収縮
・腎前性パターン
・尿潜血(+) を呈することも