みる、つなぐ、動かすために

街で暮らすこと、ホームで暮らすこと
~精神障害者の居住支援を考える~
2011年10月18日
(NPO) 全国精神障害者地域生活支援協議会 代表理事
社会福祉法人はらからの家福祉会
総合施設長
伊澤 雄一
はじめに~自分史を(ほんの)少々~
◆都内国分寺にて1981年4月活動開始
◆アパート部分活用による「福祉的共同住居」
◆多様な利用メンバー/精神への偏り
◆「地域ニーズの体現」という基本姿勢
◆法改正と現場運営の変化
◆「都ホーム連」結成の経緯
◆漏電火災事故遭遇と復興/再興
◆居住・通所・在宅メンバー160名との日々..
◆「ami」結成と、運動の経緯
◆内閣府「総合福祉部会」構成員として
2
はらからの家福祉会
(Since 1981)
【法人の理念】
・障害を持つ人も住みやすい地域社会の創造
・地域社会で生活する力を育む援助実践
・支えあう人間関係が生まれる場の創造
aging in place
(馴染み(親しみ)の場所で歳を重ねる)
社会福祉法人はらからの家福祉会 組織図(平成23年度)
理事長
評議員会
理事会
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施設長
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(ピア国分寺302号室)
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関わりの視点、支援の要点(総論:原理的把握)
◆「対人支援」がもっている“侵襲性”への畏怖の念をもつ者として…。
→価値観の衝突、生活文化のせめぎ合いの現場
◆生活課題への取り組みにおける「(情緒的)伴走者」として…。
→距離感や間合いの大切さ
※「探索行動のパートナー」として...、
...そして怖い「感不全」(エモーションブラインド)
◆言語を支援ツールとする「語り部」と して…。
→ソーシャルワークの唯一の武器である言語
◆街での暮らしに大切な「3つの関係性」樹立のコーディネーターとして…。
治療関係
支援関係
仲間関係
医師や医療機関への信頼度、服用している薬など治療への信用度
の高低が生活の安定に大きく関係している。よって良好な関係が築
けるような支援は大事
社会資源の円滑な活用が生活の維持や安定をもたらす。支援者・
支援機関との関係は大事
ピアな人間関係が暮らしの安定度を高める上で極めて重要な要素
という自明性
ami要望
1.「応益負担制度」の即時廃止
2.居場所機能の強化と日中活動の再編
3.福祉サービス費の単価アップと「月額制」
4.所得保障政策の推進
5.権利条約の批准に向けた国内法の整備
6.新制度検討への当事者等の参加
7.精神科病床削減と財政配分
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今後の施策展開における留意
~視点:街での暮らし支援(住・日中・訪問)~
◆ 住宅政策の拡充で脱病院を大きく推進
○ GH/CHの制度拡充、機能強化
○ …そしてGH/CHが全てではない
○ 国民的課題としてのハウジング問題という認識
○ 共感性の高揚から共生社会へ
◆ 日中活動系事業に欠けた要素の確保
○ 「居場所機能」の回復
◆ 訪問系支援の新展開
○規格型訪問支援のアレンジ版も念頭に...
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大切な居住支援施策
~精神障害者GHのこと~
◆ 「脱病院」の急先鋒として
全国1,600の病院(民間優位)に72,000名の社会的入院
者の存在
地域生活支援(居宅生活場面保障・継続安定居住支援)
◆ 「脱家族」の有効な支援ツールとして
一定の年齢に達したら、親からの巣立ちを織り込み
たいという人生の選択に寄与
自立促進支援
GH施策の展開~理念/萌芽~
◆「国際障害者年」(1981年から10年)での「ノーマライ
ゼーション」の高揚は大きな契機であった。人権保護
の観点から「脱施設」化の高揚
◆「完全参加と平等」という一大スローガンのもと、障害
を持つ人たちの社会進出をシステムとして保障して
いこうという機運が高まった。
◆「ノーマライゼーション」のそもそもとはデンマークの
バンク・ミッケルセン(元反ナチズムのレジスタンスで
収容所経験あり、戦後社会保障関係の役人になって
障害者の施設収容の悲惨さから、反収容主義のス
イッチが点火し、権利保障と行政の責任制における
生活環境確保を中心とした「ノーマライゼーション」を
提唱)の宣言が出発点。
言葉の響きは優しいが、権利主張と責任制
を強調した、覚悟の(魂の)宣言である。
ノーマライゼーションの真髄
ノーマライゼーションは「やさしさ」「おもいや
り」というふわふわとした、あいまいで、気分的
なものではなく、人はどんなに重い障害を負っ
ていようがノーマルライフを送る「権利」を有し、
社会はそれを保障する「責任」をもつという、
権利と社会的責任に裏打ちされた「思想」で
ある。
知的障害を負った子供たちのための
スウェーデン政策
◆政策の基本は、普通の生活ができるように環境条件を整えていく
ことである。ノーマライゼーションはこの目標の達成を方向として
持たなければならない。これを生活環境にあてはめると......
・ 少人数のグループで、個室で日常生活を送れるようにする。
・ 男女両性の世界での生活を確保する。
・ 普通の日常生活のリズムを経験できるようにする。
・ 生活しているところと別な所で働けるようにする。
・ 食事や飲み物を家族同様の小グループで楽しめるようにする。
・ 自由時間を過ごす方法は自由に選べるようにする。
・ 余暇は一人一人に合わせて設計され、四季によって変化がな
ければならない。
・ 環境は年齢によって調整すべきである。
・ 青年たちは親から独立できるようにする。
グループホームの設置条件に関する指針
◆街のなかの普通の環境条件に置く(普通の設
置ロケーション)。
◆社会に同化できないほど大きくしない(規模要
件)。
◆トイレ・風呂・寝室なども極力集団的にしない
(個別性/個人の生活)。
◆週末や休日には別な場所で過ごせるように
する(独自性/生活のなかの変化保障)。
GHの施策展開(歴史認識)
◆GHは知的障害者の「脱施設化」で大きく展開した
◆1987年、わが国グループホームの生みの親 浅野障害者福祉課長登場
(前宮城県知事)、その前2年間を北海道庁の障害福祉担当を勤め、主に知
的障害者の福祉の実情を見聞しながら新しい施策を多様に打ち出した。そ
の実績を引っさげて中央行政の障害者福祉課長に着任。2年という与えられ
た時間的猶予の中、すでにいくつかの自治体で取り組まれていた「共同住
居」「生活寮」を全国版「グループホーム」として制度化した。
◆わが国の社会福祉の歴史における大規模施設への収容主義に対する大き
な反省と、地域生活確保、ノーマライゼーション、インテグレーションの具体
化のための施策
◆あくまでも「施設」ではなく“普通の住居に近い支援システム”で施策化された。
借り物家屋でオーケーという、今までに無いハード条件の提示(従来の「施設
福祉概念」にはなかったコペルニクス的発想の転換)
◆1989年度より全国展開している。
◆知的障害者分野ではグループホームがノーマライゼーション
の決め手というのは定説となっている(特別支援学校教諭談)。
精神分野では「社会的入院」是正の急先鋒という捉えが大きい
◆国際障害者年10年の取り組みの中で、精神は丁度中間年あ
たりから「社会的入院」の実態や、その処遇の劣悪さ、社会援
助システムの無さが大きく取り上げられ、おりしも「宇都宮病院
事件」を契機に、WHOからの視察団の来日、もっと開放化せよ
との勧告もあり、外圧に弱いわが国行政は、精神医療の改革、
開放化に着手した。
◆そして1987年の「精神保健法」の制定は時代のエポックをなす
出来事となった。
◆社会的に受け皿の整備が急がれるが(しかし当事者団体から
は開放病棟の地域設置という批判強し)、思ったより「社会復
帰施設」が伸びない。施設の作りにくさ、制度のハードルが高
いことがその理由にある。
◆その社会復帰施設の伸びの限界を突破する方策、「急先鋒」と
してのGH。
◆1992年に制度化1993年よりスタート。しかし知的障
害者のGHのまったくの模倣で、精神特有の工夫や
知恵、技を感じない。
GHの拡充を求めて(1)
【現状】
GH(約9,000名分)/ CH(約3,500名分)という配備状況
◆量的な確保を推し進めるとともに、低劣な報酬基準によ
り十分な事業費が確保できず、運営体制のぜい弱体質が
あり、それからの脱却が課題
マンパワー増強の論旨として…,「職員専断と王国化防止」
「支援の在り方検索・検証」「多彩な業務への対応」「防災
対策の人的対策」などの観点からの追求
【参考】グループホーム先進国スウェーデンのストックホルムでは…
知的GH(5名定員)に対して、4人のフルタイムスタッフ(37時間/W勤務) 、2名
のパートスタッフ(27時間/W勤務)、加えて6名のリザーブスタッフ
(代替要員)、さらにパーソナルアシスタントという予備スタッフの配置
も行われている。
GHの拡充を求めて(2)
◆ 国基準運営とそれをベースとしながら都市
部においては独自の上乗せを実施しており、
格差は広がる一方という現状がある。
同じ制度のもとにおける不平等の拡大懸念
◆ 「消防法」「建築基準法」における設備要件の厳
正化による設置の困難性
「災害弱者との共生」への一般社会の
反応が心配
制度改革の中のGH
「総合福祉部会」のWGにおける議論を経て、本年8月
に新法の骨格提言がまとめられた。
【要点】
◆名称の統一 ⇒ GHに一本化
◆規模要件の再構築 ⇒ 小規模性の強調
◆報酬の見直し ⇒ 基本報酬と利用状況見合
◆社会資源として増設
⇒ (仮称)地域基盤整備10カ年戦略
あえてGHへのオブジェクション
◆ 集まって暮らすって!?
○ 大人の集団生活の無理
・不適正な距離における人間関係や、そこでの協調を強いる可能性の過酷
・共同設備の利用や管理をめぐるトラブル多発
○ 先進諸国では、気のあった仲間作りが先行、結果におけるGH入居
GHはあくまでもひとつの選択肢
◆ 「擬似家族」という幻想
○ 行政官の美意識や価値観、机上の想いが影響している感強し
○ でも・しか利用の実情(ご本人希望と周囲の評価とのズレ)
「ひとりぼっちではない一人
暮らし」の確立
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GHの「責任」ふたつの側面
◆利用メンバーの生活の安定を図り「安心・安全の暮らしづくり」を実現する
という個別生活を守りつつ、その個別的な生活が集積している場や支援事
業を守るという責任
⇒ 入居要件というハードルの設定と、周辺関係者からの冷やかな目
線
◆社会的ニーズに沿うことが求められる「公益的事業」のもつ社会的責任
⇒ 高齢/軽度認知症/他科診療/ターゲット外(想定外診断・触法
の経過)
現場運営体制の増強と多職種による
多角的・総合的支援体制の構築
居住支援施策、新たな視点
◆ 公営住宅の利用拡大
○ 保証人設定が緩やかであり、設備構造も民間物件に比して充実
している(遮音性は大事)。
○ 単身入居への道は拓かれたが優先入居については未実施である。
◆ メニュー開発や留意
○ 民間賃貸確保策推進(公的保証人制度)
○ 「モバイル型GH」と地活アウトリーチとのセットでカバー
~居住サポート~
○ SHP(シルバー・ハウジング・プロジェクト)に倣う。
○ ナーシングケアの視点からの新たなホーム
○ 民間賃貸物件確保策として(仮称)トライアル入居
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何をするにも財政措置の必要あり
~施策の大本の理不尽な構造の要改革~
◆わが国の国家財政の枠組みの中で、精神医療福 祉の
総枠は1兆9,300億円
◆そのうち1兆8,800億円は精神科医療に配分され、う
ち1兆4,000億円は入院医療に注がれているという
「入院医療超肥大化」の現状あり。
◆地域活動や福祉的支援にはわずか500億円という驚
愕の事実
97:3という配分構造
の見直しは急務
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精神科入院医療体制という
巨大ダムの決壊を!
◆ 精神科医療暗黒の歴史に総括
◆ 「病院から地域へ」の総合的展開
◆ 「地域を拠点とする共生社会の実現」という
新たなスローガンの実現
精神医療保健福祉における
「脱ダム宣言」を!
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現場のリアリティーを反映させよう!
◆精神分野の居住支援を深め、研ぎ澄まし、制度に
反映させるソーシャルアクションが必要です。
◆amiを「運動媒体」「制度への投げかけのツール」と
して活用すべきです。
◆多くの居住支援関係者の議論や運動への参加に
より「居住福祉」(早川理論)を追求しよう!
皆さんの参加を呼びかけます。