数理模型の有効性 - 横浜国立大学 益永・中井

数理模型の有効性
現実の生態系を説明する
<生態学者の思考経路を説明する
計算機も直感も鵜呑みにしない
=直感を鍛える道具
管理目標・評価基準
• どんな目的・目標が良いかは、
数理生態学ではわからない
• 数理模型を使うには、
– 現実のどこを抽象したか?
– 何を予測できるか?を明確に
• 定性的・定量的予測、数値目標
不確実性を考慮すること
• 区間推定、感度解析
• 環境変動
• リスク評価
adaptive management
順応的管理
• 状態変化を監視する
• 変化に応じて方策を変える
• 変え方を決めておく
–リスクを飛躍的に減らす
説明責任 accountability
• 管理計画を公表する
• 広く意見を求める
• 誰でも追試できるようにす
る(数理モデルを公開す
る)
• 論文・報告書を出す
反証可能性 falsifiability
• 何がおきたら失敗かを明らかに
する
• 反証不能な予測や報告書は説得
力がない
• 愛知万博=オオタカの巣
今日の献立
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•
•
ミナミマグロの絶滅リスク
環境省植物レッドリスト
愛知万博環境影響評価
エゾシカ保護管理計画
中池見LNG備蓄基地
山口県八代ツル飛来地
ミナミマグロは絶滅危惧Ia類
(Critically Endangered) か?
遠洋水研
魚住氏より提供
Population Ecology 97 8
絶滅危惧種の類別
(IUCN 2001)
絶滅(EX)
(
絶
滅
危
惧
種
の
段
階
分
け
)
野生絶滅(EW)
(
評
価
あ
り
)
(
適
切
な
情
報
あ
り
)
(
絶
滅
危
惧
)
絶滅危惧Ia類(CR)
絶滅危惧Ib類(EN)
絶滅危惧II類(VU)
準絶滅危惧(NT)
絶滅の恐れが少ない(LC)
保全依存(cd)
情報不足(DD)
評価せず(NE)
CITES ap.I
CITES ap.II
絶滅危惧生物の判定基準
IUCN(2001)
基準
A2,3,4個 体 数
減少率が
A1( 管 理 下 )
B1生 息 域 が
B2分 布 域 が
C (C1減 り 続 け
た )個 体 数 が
D1 個 体 数 が
D2 生 息 域 が
E 絶滅の恐れ
が
松田「環境生態学序説」
CR
>80%/10年 3世 代
EN
>50%/10年 3世 代
VU
>30%/10年 3世 代
>90%/10 年 3 世 代
>70%/10 年 3 世 代
>50%/10 年 3 世 代
<10km2
<100km2
<250(25%/3年 1世
代の減少)
<50
(規定無し)
10年 か 3世 代 後
(100 年 以 内 ) に
50%
[1] http://iucn.org/themes/ssc/siteindx.htm
<500km2
<2000km2
<5000km2
<20000km2
<2500(20%/5年 2世 <10000(10%/10年 3
代の減少)
世代の減少)
<250
<1000
(規定無し)
近 縁 種 の <10%
20年 か 5世 代 後
100年 後 に 10%
(100 年 以 内 ) に
20%
• どれか一つを満たせばよい(根拠の明示)
基準A(3世代で80%以上減
少)をみたしたミナミマグロ
基準E(絶滅リスク)を優先し
なかったIUCN
• IUCNの合意
• ほとんどの生物では
絶滅リスク評価不能
• 基準Eと他の基準が
食い違うときはどう
するか?(基準間の
平等)
• 基準A(減少率)も、
個体数情報不要
• 松田・矢原の主張
• 他の基準を使えばよ
い(予防原理)
• 絶滅リスクが少ない
と証明できれば、リ
ストに載せない
• 個体数不明なら基準
Aでよい。既知なら
ACD基準を使うべき
予防原則
precautionary principle
• 環境に対して深刻あるいは不可
逆的な打撃を与えるとき,科学
的に不確実だからという理由で
環境悪化を防ぐ措置を先延ばし
にしてはいけない
1992年リオデジャネイロ宣言第15原則
http://www.unep.org/
誤用される予防原則
◎証拠不十分なものでも対策をとる
○保守的な前提を使う
▽他の証拠がそろっても見ない
▽全ての発見されたリスクを避ける
基準Eを満たさないとわかったもの
は、絶滅危惧種ではないとすべき
未実証の保守的な前提
• 過去の減少傾向が今後も続く
– 減ったら盛り返す密度効果
– 群れ生活ができない(臨界非補償)
– 減少率にも時代の波(バブル経済)
– 将来は管理され、調査精度向上
• 捕獲数一定ならリスクは高い
保全依存cdを止めた理由
環境省RDBとIUCN2001
• 保護しないとCR,保護すればVUのとき
– IUCN=実際に保護するならVUでよい
– 環境省=CRと判定しないと保護に予算が
つかない
• 保護しないとEN、保護すればNTのとき
– IUCN1994=cdと判定する
– IUCN2001=NTと判定する
– 環境省=ENと判定する
絶滅リスク評価
• 減少率が
– 対数正規分布
– モンテカルロ実験
• 出生死亡過程
– 拡散方程式近似
• Leslie(齢構成)行列モデル
Population Ecology 97 17
ミナミマグロは73年後まで絶
滅リスク<0.1%
Population Ecology 97 18
100年後の個体数予測
Population Ecology 97 19
Leslie Matrix Model
0  wa 1mt
 N t 1,1   0

 
0
 N t 1, 2   pt ,1 0 
      


 
0 
0
 N t 1,a 1  0
 N
  0
0  pt ,a 1
 t 1,a  
mt=m+Zt,
wa mt   N t ,1 


0   N t ,2 
   


0   N t ,a 1



pt ,a   N t ,a 
pt,a=p+zt,a
Population Ecology 97 20
ミナミマグロは回復するか?
Mori et al. Pop.Ecol. 2001